89話
2月に入り、ウェディングドレスの仮縫いの為に王都へ来たわ。
執務漬けの毎日だから、運動不足が気になって毎朝厩舎へ行き30分程走らせてもらっているから・・・太ってはいないと思いたい。
ルームランナーの魔道具とか発売されないかしら?
タウンハウスに着くと執事のクリスと並んで、何故かティナが居たわ。澄ました顔で並んでいるのが面白いわ。
「お帰りなさいませ、リリ」
「ふふ、ビックリしたけれど嬉しいわ」
「仮縫いの時間までお喋りをしましょう」
「ええ。もちろんよ」
お茶とお菓子を摘みながら。
「私もこの前、初めて仮縫いをしたわ」
「どうだった?」
「凄く実感したわ・・・」
「わかるわ。本当に結婚するのねって・・・不思議な気持ちよね」
「ええ。アンディー様は当日まで見られないのをとても残念がっていたわ」
「リュドは楽しみにしてくれているわ。でもね・・・実はマーメイドドレスなのよね・・・」
「それは・・・リュド様の招待客への嫉妬が凄そうだわ・・・」
「ふふ、でもリュドは大人でしょう?釣り合うなら大人っぽいドレスが良いかと思ったの・・・」
「リリ、年の差を気にしていたの?」
「少しは気になるわ。リュドは私が10歳の時からうちで働き始めたのよ?」
「そう言われると・・・8年の差は大きいわね」
サラがマダムの来訪を告げに来るまで話は尽きなかったわ。
*****
部屋へ入るとマダムと一緒に夫人も来ていた。
「「リリアンヌ様、ご機嫌麗しく」」
「夫人も来てくれたのね」
「ドレスとのバランスを見させて頂きに来ましたわ」
「どちらも楽しみだわ」
衝立の中で着替え、鏡の前までゆっくり歩く。縫い付けられたパールや石で思ったよりドレスが重い。
「刺繍がとても綺麗ね」
ライトブラウンと金糸の刺繍は胸元、くびれを強調するように腰の辺り、膝下からのシフォン部分にはたっぷりと施されて、ボディ部分は光沢のある白い刺繍だけでシンプルだけれど上品に仕上がっている。
そこに同色の石やパールが縫い付けられて、キラキラと煌めいて美しい。
軽く髪を結い上げられ、ディアデムとパリュールを着けてもらう。ブラウンダイヤモンドとイエローダイヤモンドが、絶妙に配置され地味過ぎず派手過ぎないデザイン。
「お嬢様とてもお美しいですわ」
「ありがとう。とても素敵ね」
夫人がパリュールの説明をしてくれる。
「少々華美なデザインですが、石が落ち着いた色味なので、お持ちのドレスとも合うと思いますわ」
「結婚式の物も長く使えるのね。ありがとう、夫人」
「付け替え用にピンクもご用意致しました。ブラウンダイアモンドが優しい色味なので、こちらにすると少し可愛らしい感じですね」
「そうね」
マダムからドレスと同じ様な刺繍の施されたシフォンを渡される。
「こちらはベールで御座います」
「まぁ・・・とても綺麗ね」
サラがベールを留めてくれる。ディアデムからふわりと流れ、1mほど引きずる長さだ。
この世界では引きずる程長いベールは珍しい。
「素敵ですわ。やはり通常より長くてして良かったですわね」
サラ達やお針子が物凄く頷いている。
「まぁ・・・これは少しディアデムを手直ししなければ。お式には間に合わせますのでご安心下さいね」
夫人のやる気に何故か火がついたわ・・・。
「ブーケは如何されますか?」
「ドレスとパリュールの色味がシンプルなので、華やかなブーケでも清楚なブーケでも合いますわねぇ」
何でも合うって1番悩むわね・・・白とグリーンか落ち着いた色味かしら。
「お嬢様。ブーケはリュドヴィック様が贈りたいそうで、ご希望が無ければ任せても宜しいでしょうか?」
「ドレスに合うのなら構わないわ」
「私が確認を致しますので」
「サラが許可を出すなら安心ね。当日が楽しみだわ」
着替えている間、サラとマダムと夫人の3人が何か話し合っていたわ。
*****
仮縫いを終え待たせていたティナの所に戻る。
「遅くなってごめんなさい」
「どうだった?」
「凄く素敵だったわ。ブーケはリュドが用意してくれるそうなの」
「素敵ね!リリの結婚式が楽しみだわ」
「私も楽しみよ。領地に帰ってリュドと暮らすのにも慣れてきたし」
「一緒に暮らすってどんな感じなの?」
「毎日顔を合わせるから最初は恥ずかしかったわ・・・リュドが視察で居ない時以外は、「おはよう」も「おやすみ」も毎日言うのよ」
「それは・・・少し照れるわね・・・」
なかなか慣れなくて、毎日朝晩照れていたわね・・・。
「でも忙しいから今はその時間が嬉しいわ。お互いお休みなら庭を乗馬したり」
「いいなぁ・・・。私もアンディー様とそういう風になれるかしら?」
「ティナ達は結婚式の後、アンドリュー様の領地へ行くのよね」
「ええ。しばらくは私達もハイシーズンだけ王都に来る事になるわ。ご両親には家令を監視につけるそうよ」
「アンドリュー様の目が無くなると、夫人は弟と接触しそうだものね・・・」
「ええ。ご両親も悪い方達では無いのだけれど・・・私達が結婚したらあの方への、伯爵家からの監視も無くなるから」
「乳母だった方が平民の生活を1年近く一緒に住んで教えて、1人暮らしになったのよね?正直いまだに監視が必要な時点で駄目じゃないかしら?」
「私達もそう思っているわ・・・あまり領民に迷惑をかけないで欲しいわ」
「扱いに困ったら教えて。私の鉱山で引き取るわ。働き手は大歓迎よ」
「ありがたいけれど・・・リリに言われると何故か不安だわ・・・」
「失礼ね。ちゃんと人として扱うわよ・・・問題を起こさなければ」
「ふふ、問題を起こす前提で話してるじゃない」
「だって馬鹿だもの仕方がないわ」
その夜は久しぶりに両親とティナの4人で晩餐の席に着いた。
両親にはティナも我が子みたいなものだから「ティナが嫁ぐなんて・・・」と涙ぐんでいたわ。
翌日領地へ帰る慌ただしいスケジュールだったけれど、とても楽しかったわ。




