86話
転移塔までティナ、サミュエル様、カティ様、アンドリュー様の4人が見送りに来てくれた。
「リリ、寂しくなるわ・・・」
「3年も一緒だったものね。私も寂しいわ」
「王都に来る時は絶対教えてね!」
「ええ。仮縫いに来る時は連絡をするわ。ティナも夫人教育頑張ってね」
「ええ。結婚までに合格点を貰える様に頑張るわ」
「リリ様、少しだけ先輩ですから、悩んだらいつでも相談してね」
「ありがとうございます。カティ様は年明けですか?」
「ええ。領地で会いましょうね」
ティナとカティ様と抱擁をして別れを惜しむ。
「少し早いが俺達4人から結婚祝いを送ったから、サロンにでも置いてくれ」
サミュエル様がそう言ってニヤリと笑った。
「サミュエルがそういう風に笑うと不安だなぁ」
リュドの言葉に頷く。笑顔が胡散臭くて何か企んでいそうな気がするのよね・・・。
「リュドも頑張って」
「アンドリューも大変だろうけど頑張れよ」
リュドとアンドリュー様はとても仲が良くなったのよね。
リュドは私と婚約して急に教育が始まったし、アンドリュー様はご両親のせいで家督を早く継ぐ事になり、共感する部分があるのかしら?
皆と挨拶をして馬車に乗り込み、3年間住んだ王都から領地へと転移した。
*****
久しぶりに見る領地の街並みはとても懐かしいわ。
「まぁ、花壇がとても増えたわね」
「これ評判良いんだよ」
「冬でも色々な花が咲くのね」
私に気づいて手を振ってくれる皆に手を振り返す。
「リリは領地で人気があるから皆喜んでいるね」
「そうなの?」
「そうだよ。視察で回ると「お嬢様はお元気ですか」「お嬢様にありがとうと伝えて下さい」なんて何度聞いたかわからないよ」
「ふふ、とても嬉しいわ。入学後は全然帰れなかったのに」
門を潜ると邸が見えてくる。久しぶりに見たら・・・物凄く城感があるわね。記憶より大きい気がするわ・・・。
馬車を降りると昔から仕えてくれている、家令のグレゴリー、執事のフィリップ、家政婦長のアネットが出迎えてくれる。
「皆ただいま」
「「「お帰りなさいませ、お嬢様」」」
「元気そうね。今日からまた宜しくね。まずは改装した部屋を見に行っても良いかしら?」
「もちろんで御座います」
「ありがとう」
リュドのエスコートで私達の区画へ向かう。
「懐かしいわ。全然変わっていないのね・・・」
王都のタウンハウスは人を招くから適度に華やかだけれど、カントリーハウスは落ち着いた雰囲気でほっとする。
1階は執務室や応接室など仕事に関わる部屋が並ぶ。飴色の家具は美しい装飾が施され、飾られている絵や置物も素敵な物ばかり。ファブリックも上品でどの部屋も落ち着くわ。
1階の奥は仕事中に食事や休憩で使うサロン。ダイニングテーブルに応接セットが置かれ、窓際には1人掛けのソファがいくつか置かれている。
2階も装飾の美しい飴色の家具で統一されている。リュドの部屋はブルーと黒でまとめられ、落ち着いた男の人の部屋って感じだったわ。
ダイニングとサロンはクリームイエローのカーテン等、明るくそれでいて温かみのある落ち着いた印象を受ける。螺旋階段で1階のサロンに繋がっている。
バルコニーが増築されていたのにはビックリしたわ。
「図面では無かったのに・・・」
「リリと外で気軽にお茶が出来たらと思ってお願いしたんだ」
「素敵ね。ありがとう」
「喜んでもらえて良かった。最後はリリの部屋だね」
ドアを開けるとアイボリーにブルーとイエローのお花が刺繍されたカーテン、それより控えめに刺繍の施されたお揃いの天蓋。壁紙は淡いイエローに白い蔓薔薇が描かれている。
華やかなだけれど落ち着いた部屋になっている。ちなみにバルコニーはリュドの部屋まで繋がっているけれど・・・今は通れないようになっていたわ。
「どう?気に入った?」
「とっても!どこも素敵ね」
嬉しくてリュドに抱きつくと、耳元で「夫婦の寝室は2人で決めようね」と囁かれて顔が熱かったわ・・・。
夫婦の寝室も見せてもらったけれど・・・ベッドが大きすぎないかしら?結婚するまでは続き扉も鍵を閉められ、使用人も換気や清掃でしか入らないそうよ。
*****
1階のサロンに戻り、そこで皆でお茶を飲みながらタウンハウスから連れて来た私とリュドの専属や補佐の挨拶、カントリーハウスの事を家令のグレッグ達に説明してもらう。
「タウンハウスしか知らない皆は慣れるまで少し大変だと思うけれど、何かあれば相談してね。嫌な事を我慢するのは良くないもの」
メルの恋人が誰なのか気になったけれど、私は教えて貰ってないから、わからなかったわ・・・。
晩餐まで皆に自由に過ごしてもらった。
サロンにリュドと2人になると膝に乗せられた。何故かしら・・・リュドが何となく不機嫌な気がするわ・・・。
「リュド?どうかしたの?」
「リリ、どうして他の男を見るのかな?」
あら?これはもしかしてヤキモチかしら?ちょっと嬉しいわね。
「メルの恋人が気になって・・・」
「メルの恋人?あぁ・・・リリ知らないの?」
「だって教えてくれないのよ」
「見ていたらわかると思うけれど・・・」
「私はリュドの補佐の方達とは、あまり交流が無いもの・・・」
「あぁ、そういえば・・・そうだったね」
嬉しそうに頬を撫でているけれど・・・リュドがわざと会わせない様にしているのは知っているのよ。いつの間にか私の補佐も全員女性になっていたし。
信用されていないのかしら?これは怒っても良い気がするわ。
「頬が膨らんでるよ?拗ねてるの?」
「怒っているのよ!」
「怒った顔も可愛いね、リリ」
怒った顔が可愛いとかリュドは変じゃないかしら?もしかして私の怒った顔に迫力が無いの?
「リリ、顔が面白くなってきてるよ・・・くくっ」
「もう!」
リュドの胸を叩くけれど・・・ノーダメージね。何故腕力がつかないのよ!
「補佐に男の人が居ても・・・浮気なんてしないわよ?」
「わかってる。俺が嫌なだけだから。心が狭くてごめんね」
リュドに嫌だと言われると駄目と言えないわ・・・。
その夜は歓迎会も兼ねて、ホールで立食形式の晩餐にしてもらった。
邸の使用人達も交代で参加してもらい、初めて領地に来た皆とも楽しそうにお喋りをしていたわ。仲良くなるにはやっぱり美味しいご飯とお酒よね。
私だけジュースなのが納得いかないわ・・・1杯は飲んでも良いはずなのに・・・。




