79話
兄のように思っていたサミュエル様が結婚し、来月には私のウェディングドレスの仮縫いもあるわ。
自分も来年結婚するんだと実感するわね。
実感すればするほど「スキル」と「前世」をどうするのか悩むわ。本当にどうしようかしら?そもそも、何て話したら良いのかしら?
この世界には魔法はあるけれど、スキルなんて存在しないわ。私のように転生特典で持っている人は居るかもしれないけれど・・・話を聞かないって事は隠しているのよね。
人はどんな世界でも、異質な者をきっと嫌がるわ。
人より優れている能力は賞賛されると思うけれど、未知の能力には恐れるのが普通ではないかしら・・・だから私も隠してきたのだけれど。
リュドに隠し事をするのが嫌だから、こんなにも悩むのよね・・・。
「隠し事も嫌だけれど、怖がられたりしたら嫌だわ・・・」
この事だけでも結構悩んでいるのに更に「おねだり」なんて・・・。
「おねだり」なんてどうしたらいいの?このハイシーズン、私は結構頑張ったのよ・・・あれ以上に恥ずかしい事を更に頑張るの?
今度こそ恥ずかしくて死ねるわ・・・。
絶対解決しない問題が、グルグルとくすぶっている気分よ。こういうのは考えても答えなんか出ないと、わかっているのに・・・。
*****
月末には試験があるから湯浴みの後は毎日勉強をしているけれど、あまり集中出来ないわ・・・。
これも「おねだり」のせいよ・・・。
そもそも、どんな時に言えばいいの?リュドが我慢してくれているのに言っても良いのかしら?言って拒否されたらどうしたらいいの・・・。
それにサミュエル様の結婚式がハイシーズン最後だったから、また会えるのは月に1、2回よ。会っている間ずっと考えちゃうじゃない!
ティナからの教本(恋愛小説)だと、ヒロインは結構サラッと出来ているのよ・・・私の女子力?恋愛力?そういうのが足りないせいなのかしら?
誰かで練習する訳にもいかないから・・・眠る前にヌイグルミで練習してみたけれど・・・もっと恥ずかしくなったわ・・・。
「おねだり」のハードルが高すぎるのよ・・・。
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ちょっと寝不足になりながらも試験は終わったわ。魔法の実技は良いストレス発散になったの!
邸だとあまり強い魔法は使えないもの。
「リリ、凄かったね!」
「今回の試験勉強はあまり上手く出来なくて、ストレスが溜まってたからついね」
「わかるわ。お兄様は剣で打ち合ったり街にお忍びとかしているけれど、私達ってあまりストレス発散出来る事無いものね」
「そうね・・・乗馬は気分転換って感じだし」
令嬢がやっても怒られない事って少ないのよね・・・。
だから家で癇癪を起こしたり、使用人に当たり散らしたりする人が居るのではないかしら?
「でも試験が終わると学生に戻ったって感じがするわね。ハイシーズン中はやっぱり勉強は後回しになっちゃうもの」
「ええ。でも学生もあと半年ね」
「たくさん楽しみましょうね、リリ」
「ふふ、そうね」
邸に帰りランチを食べた後は、久しぶりに仕事に手をつける。
ざっと見て優先順位をつけ、どんどん捌いてく。資料を持ってきたルゥに休憩するように言われたけれど、集中力が切れるまではやりたいわ。
「お嬢様、ティータイムですからいい加減休憩して下さい」
「わかったわ」
ソファに移動してお菓子を摘みながら、要望書に目を通す。これは領民達からの感謝から、ちょっとしたお願いまで様々。
「あら?もうリスの目撃が増えているのね」
「そろそろ、冬眠の準備でしょうか?」
「それにしては早いわね。今年は森の木の実があまり出来なかったのかしら?」
「街で見かけるならそうかもしれませんね」
「リスは庭や売り物の木の実を持って行くくらいだけれど、クマが降りてくると困るわね・・・」
「そうですね・・・」
「子供達からのこういう報告はありがたいわね。森を調査して対策を立てましょう。本格的に冬眠準備が始まるのは9月頃だから、人にも動物にも被害が出ないようにしましょう」
「組合に調査依頼を出して来ます」
「お願いね」
組合なら動物も森の状態も把握しているから問題なさそうね。増えすぎたりしたら間引いてはいるけれど、なるべく穏便に冬眠に入ってもらいたいわ。
「残りは頑張れば晩餐までに終わりそうね」
ルゥがいない間に机に戻り、残りの仕事に手をつける。
戻ってきたルゥに少し怒られたけれど、予定通り晩餐までに終わらせて夜はゆっくりできたわ。
考えてもどうにもならない3つの問題は、しばらく考えない事にしたわ。
そのうち解決しないかしら?
しばらく寝不足気味だったのと、試験と悩みに区切りが着いたからか、久しぶりに深い眠りに落ちていったわ。




