75話
以前話していた旅の一座が王都に来ると知り、リュドとデートに行く事になったわ。
さすがにドレスでは駄目みたいで、サラとメルが用意してくれた平民の服に着替える。
初めてのお忍びよ!
白い長袖のシャツを着せられるけれど・・・胸元が開きすぎじゃないかしら?裾にフリルのついたアンダースカートを履き、その上から白と水色のチェックの膝下丈のスカートを履かされる。水色に白い花の刺繍が施された小さなベストの様な物を胸下で紐で締められる。
膝上の靴下を履きバレエシューズみたいなヒールの低い靴を履く。
「この服が平民の間では流行っているの?」
「動きやすいのに可愛いと人気ですね」
メルが言うのならそうなのかしら?髪は2つわけられ耳下まで編み込まれ白いリボンが結ばれる。
「今日は日傘は使えませんから、こちらの帽子をかぶって下さいね」
サラに女優帽の麦わらバージョンをかぶせられる。鏡で全身を見ると、前世のどこかの国の民族衣装みたい・・・エプロンをつけたらオクトーバーフェストのお姉さんみたいよ。
ちょっと胸を強調しすぎじゃないかしら・・・?
白いポシェットに今日はお金も入れているわ。サラから使い方を教えられている時は「初めてのお使い」の気分になったわ・・・。
エントランスまでの間、使用人の皆から「可愛らしいですね」と言われて、ちょっと照れるけれど嬉しかったわ。
「リュド、お待たせ」
「こういう格好も可愛いね、リリ」
リュドはシャツにパンツとシンプルよ。
「街までは馬車で行くけど、そこからは辻馬車に乗るからね」
「辻馬車も初めてだわ」
今日は初めての事がたくさんね。
*****
辻馬車に乗り換えると、揺れにビックリしたわ。
「リリ、舌を噛むといけないから喋らないで。そんなに遠くないから。向こうには屋台が出ているから始まるまで何か食べようね」
屋台!お祭りみたいで楽しみね。
10分程で会場に着く。人も多いし屋台もいっぱい出ていて本当にお祭りみたい。リュドと手を繋いで屋台を見て回る。
「甘い物は中に入る時に買って行こう」
「食べ物を持って行っても良いの?」
「うん。俺達の席は決まっているけど立ち見も居るからね。リリには凄く騒がしいと思うよ」
「でも、今も凄く楽しいわ。観劇よりもこちらの雰囲気の方が好きよ」
リュドと軽食をいくつか買って、飲食スペースに行く。簡素な木のテーブルと椅子に座る
「ちゃんとお金払えたね・・・くくっ」
「もう、初めてだから仕方ないでしょう?」
買う時に私がお金を払ったのだけれど・・・何故かリュドとお店の人が心配そうに見てくるのよ。合っていると凄く褒められて子供扱いされていると気づいたわ・・・完全に「初めてのお使い」よ。
「向こうも貴族のお嬢様が、初めてお忍びで来たってわかってたからね」
「え?何故わかったのかしら?」
「え?何でわからないと思ったの?」
「ちゃんと平民の格好をしているわ」
「うん・・・服はね。生地が上質過ぎるから商売人はすぐ気付くよ」
「まぁ、お店をしている方は凄いのね」
「くくっ・・・そうだね。じゃあ、食べようか。こぼれるかもしれないからかぶりつける?」
「わかったわ」
普段しないからお行儀が悪い気がするけれど、前世があるから気にならないのよね。
小ぶりな肉まんのような物にかぶりつくと中はトマトとチーズに鶏肉かしら?見た目は中華なのに中はイタリアン・・・ピザまんみたいで美味しいわ。
「美味しいわ」
「口に合って良かったよ」
「私は好き嫌いは無いわよ?」
「リリが普段行くカフェも貴族向けだからね、平民の料理は初めてだろ?」
「そうかも・・・でも、とても美味しいわ」
小腹を満たす程度に食べ、リュドに水魔法で濡らした紙ナプキンで手や口元を拭かれる。
「そろそろ中へ行こうか」
「ええ。楽しみだわ」
*****
大きな天幕の中は真ん中に円形のステージがあり、その周りに階段上に座席がある。物珍しそうにキョロキョロと辺りを見回すリリの手を引き、ステージ前に居る案内人にチケットを見せ教えて貰った席に着く。
「ここなの?」
ステージに沿って椅子と小さなテーブルが何組も置かれている。
「ここは貴族席だよ。慣れている人は一般席で見たりもするけど、リリに一般席の許可が出ないからね」
「お忍びにならないわ・・・」
隣に座ると肩にもたれ掛かって、お忍びだと喜んでいた分やはり拗ねている。
「まぁ、忍べてもいないんだけどね・・・」
手入れの行き届いた肌や髪に、平民服とはいえ上質な生地は普通の平民から見ても貴族だとわかる。そもそも、まったく日に焼けていない平民など居ない。
「リリ、ほら食べよ?」
レモンのジャムがかかった小さなドーナツを口元に近づけると素直に口を開く。気に入ったのか少し機嫌が直ってほっとする。
今回は魔法で色々な物を見せる一座で、初級魔法の組み合わせなのに初めて魔法を見た様にリリは驚いていた。ウサギがシャボン玉の上を飛び跳ねて回るのを気に入ったのか、何度も可愛いと言って瞳をキラキラさせていてウサギよりも可愛い。
なかなか会えない分、約束をした訳ではないが話していた事を1つ守れて良かったと思った。
手を繋ぎ外に出ると、帰る人で来た時よりも人混みが酷い。人混みに慣れていないリリには無理そうだと。
「危ないから少し待とうか」
「ええ」
少し離れた所にある木陰のベンチに座る。
「一座はどうだった?」
「とっても面白かったわ。それにとても幻想的で美しかったわ」
「またタイミングが合えば、一座を見に来ようね」
「ええ。次は何が見られるかしら?」
また一緒に来られるのは嬉しいが、この服はよろしくない。
「でも今度来る時はその服は・・・可愛いけれどやめようね」
「メルが可愛いから人気があると言っていたのに?似たような服を着ている人も多かったわ」
「平民は貴族と違って肌を出すことにあまり抵抗が無いからね。これはちょっと見せすぎかな・・・」
ちょっとした出来心で胸元を指先で突く。思ったより指先が胸に沈む。
「確かにマシュマロ・・・リリ、真っ赤だね」
「リュドのせいよ・・・」
「魅力的だからついね」
膝に乗せて抱き寄せると素直にもたれ掛かってくる。
「でも、他の人にこんなにも見せちゃ駄目だよ。せめてブラウスは別の物にしようね?」
余程恥ずかしかったのか、真っ赤な顔で涙目で頷いているリリは可愛かった。
リリと婚約してから自分でも知らなかった自分の一面に戸惑う事もある。恋愛にはもっとドライだった筈なんだけどなぁ・・・。




