68話
自然公園に着くとケープを羽織らされ日傘を受け取る。
「私は馬車で待機していますから、ゆっくり楽しんで来て下さいませ」
「リリ、行こうか」
「ええ。何かあれば魔道具で連絡するわ」
「はい。行ってらっしゃいませ」
メルと御者に見送られ、リュドに手を引かれて歩き出す。
「王都とは思えないくらい自然豊かね」
「そうだね」
のんびりと緑の中を温室に向かって歩く。
「リリと2人きりなのも久しぶりだね」
「そうね。いつも誰かが控えているから少し照れるわ」
「ゆっくり楽しもう」
指を絡めた繋ぎ方をされ顔が熱くなる。
*****
温室までは季節の花が咲いて綺麗だったけれど、温室の中は色鮮やかな花が咲いていて季節を忘れてしまいそう。
「とても華やかね」
「温室の中だと暑いよね?」
ケープを脱がされ日傘と一緒にリュドが持ってくれる。
「ありがとう」
「どういたしまして。この花の中にカフェがあるなんて、女の子は好きそうだね」
「お花を使ったメニューらしいの楽しみだわ」
お喋りをしながらゆっくり歩いていくと、テーブルと椅子の置かれた場所に出た。
「いらっしゃいませ。2名様でしょうか?」
「ああ。空いているかな?」
「どうぞこちらへ」
給仕に案内されたのは、クリームイエローのモッコウバラの衝立で仕切られた席だった。
「良い香りね。この季節にモッコウバラを見られるなんて素敵なお席ね」
「リリの好きな花で良かったね」
「知っていたの?」
「タウンハウスの庭師が教えてくれたんだ。リリの部屋のバルコニーにもあるんでしょう?」
「ええ。咲くのを楽しみにしていたらバルコニーの手すりにも咲くようにしてくれたの。ハイシーズンの楽しみの1つよ」
「じゃあ、楽しみにしていたお花のメニューを見てみようか?」
「ええ」
クリームで薔薇の花を作っているものから、ゼリーの中に花びらの入っているものまであってお花尽くし。飲み物は普通の物もあるけれどジャスミンティー等お花のお茶も多い。
「花びらって食べられるのかしら?」
「味が想像できないな・・・」
迷ったけれど私は花びらの散らされたババロアとジャスミンティー。リュドは薔薇のケーキとコーヒーを注文したわ。
前世も食用花を見たことはあるけれど、食べる気にならなかったから味が気になるわね。
「お待たせ致しました」
注文した品が揃うとテーブルが華やかだ。
「まぁ・・・綺麗ね」
「凄いね。食べるのが勿体ないよ」
ババロアは上に花びらが綺麗に貼られたドーナツ型。真ん中にはカットされたフルーツが入っている。リュドの薔薇のケーキはクリームで7色の薔薇が作られて花束みたい。
花びらと一緒にババロアをスプーンですくい口に入れる。
「花びらの味はする?」
「よくわからないわ・・・」
「俺にも食べさせて?」
リュドが口を開けて待つ・・・これは「あーん」をするのかしら・・・。そっとババロアを乗せたスプーンを差し出すとパクリと食べられる。
「味は・・・しないね。でも見た目が華やかで良いね。こっちも食べてみる?」
薔薇のケーキをフォークで差し出される。恥ずかしいけれど口を開くと、そっと差し入れられる。
仄かに薔薇の香りが口の中に広がる。
「ちゃんと薔薇の香りがするわ・・・」
「驚くよね。見た目だけじゃなくて味も良いね」
「ええ。とても美味しいわ」
リュドにお願いされて、食べさせたり食べさせられたりしたわ・・・。味も香りも、わからなくなりそうなくらい恥ずかしかったわ・・・。
「リリ、真っ赤だね」
「リュド様は・・・恥ずかしくないの?」
「恥ずかしくないよ。照れているリリも可愛い・・・色んな事に慣れようね」
膝に乗せられ更にドキドキしてくるわ・・・。
「リリ、素敵なデートに誘ってくれてありがとう」
頬や目尻に口付けられる。
「恥ずかしいわ・・・」
「そういう顔は駄目だよ?」
自分がどんな顔をしているかなんてわからないわ・・・真っ赤なのはわかるけれど。こんな事に慣れる日なんて来ない気がする・・・。
私が落ち着くまでカフェでゆっくり過ごし、温室を後にした。
*****
お土産などを売っているお店で綺麗な押し花の栞を見ていたらリュドが突然笑いだしたわ。
「どうしたの?」
「サミュエルが・・・リリから「絶望」という押し花の栞を貰ったと言っていたのを思い出して・・・くくっ」
「サミュエルお兄様に栞・・・マリーゴールドかしら?綺麗なお花だから栞にしてあげた気がするわ」
マリーゴールドってそんな花言葉なのね。あんなにも可愛らしいのに何故かしら?
「皆よく花言葉を覚えているわね。お花と意味が全然一致しないから覚えられなかったわ・・・」
「そうだね。サラさんが唯一リリが納められなかったのが花言葉の授業だって言っていたよ」
「今はちゃんと、意味を指定して準備してもらうから大丈夫よ」
「勘違いさせる様な花は他の男に送らないでね・・・クローバーみたいに」
リュドに初めて送ったハンカチを思い出し頬が熱くなる・・・。
「あの時は・・・本当に偶然なのよ・・・」
「うん。でも俺はドキッとしたよ。現実になったから今も大切にしてる」
確かに現実になったけれど・・・。
「そういえば、リリはいつまでサミュエルを「お兄様」と呼ぶのかな?」
「子供の時からそう呼んでいるから・・・ずっとかしら?」
「そろそろ「お兄様」はやめようか?」
何がいけないのかしら?こてりと小首を傾げる。
リュドに手を引かれて、お店を出て木陰のベンチに座る。
「リリ、これからはサミュエル様と呼ぼうか?」
「お兄様の何がいけないの?」
「何となく特別な感じがして嫌なんだ。駄目?」
特別?そうなのかしら・・・。
「愛称でもないけれどリュド様が嫌なら。でも、ずっと呼んでいるから慣れるまでは許してね」
「ありがとう、リリ」
抱きしめられ、額に口付けられるけれど・・・ここは木陰なだけで人通りはあるのよ・・・。恥ずかしくて顔が上げられないわ・・・。
リュドはどこに羞恥心を置き忘れてきたのかしら?
なかなか顔の熱が引かないまま馬車に戻ったら、メルが物凄くいい笑顔で迎えてくれたわ・・・。
こうして出かけるのは初めてだけれど、とても楽しいデートだったわ。ここもお気に入りのカフェになりそうね。




