59話
今年も今日で最後。
前世のように年末年始だからといって何もしないから、いまだに少し寂しいわ。使用人の皆に「今年もよろしくね」と言うのが唯一、年が明けた感じがするかしら?
でも・・・年末にこんなにも毎日考え事をするなんて思っていなかったわ。
物凄く良い意味で解釈しているとは思うの。でも1度そう思ってしまったら・・・そうであって欲しいとも思ってしまうのよね。
でも時間が経つと、やっぱりそんな訳ないって落ち込むの・・・物凄く情緒不安定だわ・・・。
でも、何度も何度も考えて・・・リュドの事は好きなんじゃないかと思うの。吊り橋効果が切っ掛けでも気持ちは本物なんじゃないかって気がするの・・・。
毎日考えているからそう思うだけなのかしら?
でもね、問題なのは答えが無いのよ。誰かが正解を教えてくれる訳でもないもの。どうしたら良いのかしら?
「お嬢様、旦那様がお呼びです」
「すぐに行くわ」
お父様に呼ばれるなんて久しぶりね。
*****
執務室のドアをノックする。
「お父様、リリアンヌです」
「入りなさい」
「失礼致します」
執務室の中にはお母様とクリスも居た。
「そこに掛けなさい」
「はい」
両親の向かい側のソファに座るとクリスが紅茶を入れてくれ、部屋の隅に静かに控えている。
両親と3人で話すのも久しぶりね。
「リリアンヌ、来年2年生になるね。そろそろ先の事を考えていかなければならないと思うんだ」
「はい。私もそう思っていました」
やはり婚約者の話なのね・・・。私も決めるつもりだったけれど、今は少し気が重いわ。
「まず婚約者候補はこの3人が有力だね。大体の人柄もわかっていると思う」
「ええ。ご挨拶でいつもお会いしますから」
見慣れた名前の3人の調査書が並ぶテーブルを見つめる。
「リリアンヌ、婚約者は必ずしも候補から選ばなければならない訳では無いからね」
「でも・・・その為に時間をかけてきたわ」
「そうだね。でも・・・私もエレーヌも娘の幸せが1番だと思っている。もちろん家の事も考えなければならないが、それだけで選んだ相手とリリアンヌは幸せになれるかい?」
私の幸せ・・・サミュエルお兄様にも言われたわね。幸せになる為に候補を絞ってきた訳じゃないのに。
「お父様。夫として尊重し共に過ごすうちに友情や家族としての情は湧くと思うのです。もちろん、お父様とお母様の様に愛情が1番良いとは思いますが」
「リリ?リリは候補とか関係なく好ましく思う方は居ないのかしら?」
お母様からの問いかけにリュドの顔が浮かんでしまうけれど・・・。
「もちろん、それだけでは決められないけれど・・・素行に問題も無く貴女の卒業か、遅くとも20歳までには婿としての教育が終わる方なら婚約者に出来るのよ?」
「私が好ましく思っていても相手の方もそうとは限らないわ・・・」
「ふふ、好ましく思う方は居るのね?」
お母様の言葉に顔が熱くなる・・・。
「リリ、好きな人がいるのに婚約者を持つのは辛い思いをするわよ?こちらが選ぶ立場とはいえ、1度結ばれた婚約は簡単には解消できないわ」
「それは・・・・・・」
確かにそうよね。好きな人の前で他の人の手を取るのは、どのくらい辛いのかしら・・・それに相手にも失礼よね。
「リリアンヌ、よく考えて決めなさい。もし候補から選ぶのなら、その思いは捨てなければいけないよ」
「はい・・・」
「調査も必要だし、相手の名前を教えてくれるかい?」
「・・・少し考えさせて下さい・・・」
リュドの名前を出したら・・・両親はどんな反応をするのかしら。
「わかった。では明日また話そう」
「明日ですか・・・」
考える時間が短いわ・・・。
「短いかい?でもね、この手の事はいくら考えても答えが出ないものだよ。断られない限り希望を持ってしまうからね。思いを捨てられるのか1晩考えてみなさい」
「はい・・・」
確かにそうね・・・。今だって何度も同じ事を考えて答えが出ないもの。リュドへのこの気持ちを私は捨てられるのかしら・・・。
*****
リリアンヌの居なくなった執務室で夫妻は新しく入れられた紅茶に口をつけながら。
「エレーヌはどちらを選ぶと思う?」
「もちろんリュドよ。自分から諦めるなんて余程の事がなければ難しいもの」
「そうだな・・・」
娘の悩む娘を思い出したのか妻が。
「私達からリュドの話を出していたら、きっとリリは頷いていたわ」
「エレーヌ。それはしないと決めただろう?本人に選ばせると」
「わかっているわ。リリは真面目すぎるわね・・・」
「そうだね。とても優秀に育ってくれて婿など・・・リリアンヌを愛し守ってくれる相手なら、余程問題のある人物でなければ反対などしないのだがね」
「サラからは自覚したようだと報告を受けたのに・・・」
昨夜、長年リリアンヌの専属を務めるサラからの報告もあり今日話をしたが・・・思った以上に頑なな娘に困った。
ジェイムズも考え方が思い1つで簡単に変わるとは思っていなかったが、つい1晩で決めるようにと無茶を言ってしまった。
「1晩考えて捨てられる程度の気持ちなら、本当にただの吊り橋効果だったという事だ」
「そうね。リュドの方はどうなのかしら?」
「実家のロアン子爵家とは話はついているよ」
「そう。後はリリ次第ね・・・」
ふと控えるクリスに目が向く。
「クリスはどう思う」
「私はどちらを選んでも、お嬢様が後悔されない事を願っております」
「そうだな」
「ただ・・・リュドヴィックは邸に来た時から教育して参りましたが、専属を辞める前に心を乱された点はいただけませんね」
「ははっ、リュドヴィックもまだ若い。クリスの様になるにはまだ数年かかるだろう?」
妻のエレーヌも気を揉んでいるが・・・邸の使用人達も最近のリリアンヌの様子に、静かに見守ってくれている。
リュドヴィックの調査はすでに終わり、クリスや領地の家令達にも相談したが合格と言われた。家令などは教育の準備をして領地で待っているほどだ・・・少し気が早いな。
皆からも愛されるあの子が、自分の気持ちに素直になれると良いが・・・。




