55話
椅子やテーブルも全て土魔法で作られ布が掛けられている。焚き火のお陰で暖かい、バーベキュー会場。
「この串焼きにかぶりついて食べろよ!」
「クリスティナ達のは肉や野菜も小さくしてあるから大丈夫だよ」
食べ方をレクチャーしてくれるけれど知っているわ・・・お肉が小さすぎて焼鳥に見えるわね・・・。
「そして・・・コレだ!ビエール!」
ドン!と目の前のテーブルに置かれた木のジョッキ・・・ビールとエールが混ざった感じの名前ね。これ冷えてなくない?常温で飲むタイプかしら?
「これはアルコールが弱いからリリアンヌ嬢でも大丈夫だよ。でも炭酸が強いからね」
「アンドリュー様、お気遣いありがとうございます」
ビエールに口を付ける。前世飲んでいた物より味が濃いわね・・・そして温い!!
前世ビールはキンキンに冷えた国産派だったのよね・・・。串焼きは普通に美味しいわ。前世のせいかしら?躊躇なくかぶりつけるわ・・・。
「リリ、どう?」
「美味しいわよ。飲み物は冷えていたら良いかもしれないわ」
恐る恐るかぶりつくティナが可愛いわ。
「っ!美味しい!」
「お行儀は悪いけれど、こういう食べ方も楽しいわね」
「ええ!」
水魔法の練習をしていたら氷を出せる様になったのよね。カップ自体を少し冷やし、手をかざし氷を作り出す。
「リリ、何をしているの?」
「冷えていたら美味しかと思って氷を入れてみたの」
うん。やっぱり冷えている方が美味しい。
「どう?」
「私は冷えた方が好きね」
「私のも入れてくれる?」
ティナのカップも冷やし氷を作る。
「どうかしら?」
「本当ね!冷えた方が美味しいわ!」
サミュエルお兄様達も冷やしているわね。
「リリ!最高の飲み方だな!」
「夏に知りたかったね」
来年の夏には冷えたビエールが流行るのかしら?
*****
日が暮れてきて夕日がとても美しい。
「リリ、景色がどんどん変わって綺麗ね」
「ええ。美味しい食事に美しい景色・・・とっても贅沢ね」
「2人共、気に入って貰えたかな?」
「ええ。とっても楽しいわ」
「良かった。日が暮れたら星が凄いんだよ」
この世界は前世ほど夜明るく無いから王都でも星は綺麗に見えるけれど、ここは周りに何も無いから凄いでしょうね。
そっとサミュエルお兄様の方に移動する。
「あの2人には素敵なデートになっていますわね」
「そうだな。ティナは学園があるし、アンドリューも早めに家督を継ぐ為に忙しいから、たまには良いだろ?」
「サミュエルお兄様もそろそろ真剣に考えませんとね」
「まぁな・・・リリはどうするんだ?」
「私もそろそろ真剣に考えますわ・・・」
「自分の幸せも考えて相手を選べよ」
私の幸せ・・・それは選べないわ。
日が落ちると降るような星空が広がっていた。婚約者を決めてしまえば、この気持ちも消えるのかしら・・・。
「そろそろ帰るか」
「そうだね。思ったよりゆっくりしたから日付が変わるまでに帰れると良いけど・・・」
「サミュエルお兄様、アンドリュー様、今日はとても楽しかったですわ」
「本当に素敵なお出かけだったわ。また皆でこんな食事をしたいわ」
それぞれの馬車に乗り込み王都に向けて出発する。
山を下りた辺りで雨が降ってきた。窓の外を見るがそこまで雨足は強くないわね。悪路にならないと良いけれど・・・。
ビエールを飲んだせいか少し眠くなってきたわ・・・揺れが心地よくて自覚をすると瞼が重い・・・・・・。
*****
サミュエルお兄様の声が聞こえる・・・。
「使える部屋が1つでもあって助かったな」
「サミュエル、やっぱり変わってよ。僕ちょっと無理・・・クリスティナを抱えてなんて・・・」
「お前・・・リュドを見習え。顔色1つ変えないんだぞ!」
「見習いたいけど無理だよ・・・」
「情けないなぁ」
「アンドリュー様はまだまだですね」
リュドの声・・・安心する・・・。
「いや、そんなに擦り寄られて普通にして居られるって凄いよ」
「アンドリュー様も頑張って下さい」
「しかし、リリがそんなに甘えるなんてなぁ」
リュドの香りはよく眠れるの・・・。
「んん~・・・」
「おっ、ティナ起きたか?」
「おにーさま?ここは・・・」
「汚れるからこのまま乗って居ろ。雨風が強くてこの空き家に避難した」
「リリは?」
「リュドの上で寝てる」
「なっ!?」
サミュエルの上で飛び起きると、リュドの首に抱き着き眠るリリアンヌに声にならない悲鳴を上げた。
「リリが物凄く甘えてるわ・・・」
「馬車を降りる時からだ」
「リュドってやっぱり・・・男の人が・・・」
「クリスティナ様、違いますからね」
「だって・・・」
「クリスティナ様も先程まではアンドリュー様の上に居らしたんですよ?」
「ちょっと、リュド!言わないでよ!」
「なっ!!」
真っ赤になり毛布の中にクリスティナは隠れた。
「お兄様!」
「俺は使える部屋があるか調べてたんだよ。この部屋だけは大丈夫だが、汚くて下ろせないんだから仕方ないだろ?」
「~っ!!仕方ないので許してあげますわ。それにしても・・・リリが甘えるなんて・・・」
クリスティナは毛布から半分ほど顔を出しリリアンヌの寝顔を見つめる。リリは無意識な時が1番素直ね・・・。
「あっ・・・起きたのかしら?」
薄らと目を開け瞬きをするが今にも寝そうだ。
「あれは寝惚けてるな」
「お嬢様、目が覚めましたか?」
ぼんやりとリュドを見つめ、リュドの頭に抱き着き再び目を閉じた。
「「「・・・・・・・・・」」」
「リュドの顔半分・・・リリの胸に埋まってますわ・・・」
リュドは抱き抱えたまま、ソファに座り直すとスルスルとリリアンヌは胸元に収まる。毛布をかけ直すと少しもぞもぞと動き、落ち着くポジションを見つけたのか大人しくなった。
「ふふ、リュドはリリの扱いに慣れているわね」
「寝惚けられるのも慣れましたので」
仕える令嬢の寝惚ける姿に慣れるほど遭遇するのもどうなんだ?とサミュエルとアンドリューは思った。
「ねぇ・・・リュドはリリのお婿さんにって言われたらどうするの?」
「旦那様から請われたら真剣に考えますよ」
「考えてくれるって事は可能性はあるわね!」
「そうかもしれませんね」
リュドはリリアンヌに好意と呼べるものがある事を自覚しつつあった。だからこそ自制出来るうちに専属は辞さなければならない。
この危なかしい主人を誰かに譲るのか・・・。




