54話
あれから数ヶ月経つけれど吊り橋効果は消えないわ。
リュドとはなるべく事務的に会話を済ませ、あの時みたいに変な事を言わない様に気を付けているわ。
恋愛偏差値マイナスは今世も変わらない。前世なんて全然役に立たない・・・。
だからリュドにどういう態度を取るべきなのかわからないわ。今の避ける様な態度が良くない事はわかっているのだけれど・・・気持ちに蓋をしているのが1番楽なのよね。
「リリ、明日は予定はあるかしら?」
「大丈夫よ」
「お兄様とアンドリュー様もお休みだから出かけないかって。試験前に一緒にどうかしら?」
「良いわよ。どこに行くの?」
「秘密なんですって。でも絶対楽しいって言っていたわ。帰りが遅くなるからおじ様の許可を取ってね」
「ふふ、わかったわ。楽しみにしておくわ」
邸に帰り出迎えてくれた執事のクリスにお父様の帰宅時間を確認する。
「旦那様は来週まで領地の方にお戻りです」
「あら?困ったわね。明日サミュエルお兄様達と出掛けるのだけれど、行き先が秘密で帰りが遅くなるそうなの。お父様の許可を頂きたかったのだけれど・・・」
「大丈夫で御座いますよ。先程エノー家より日程を頂きましたので」
「クリスは秘密の行き先を知っているのね?」
「はい。ですから明日は楽しんできて下さいね」
「わかったわ」
翌朝、サラ達も行き先を知っているのかテキパキと支度をされる。
アフタヌーンドレスも胸元が開いたデザインに変わったけれど随分慣れたわね。でも・・・谷間が見えるのはどうにかならないのかしら?
「必要な物は馬車に積んでありますから」
「ありがとう、サラ。どこに行くのかしら?楽しみだわ」
「着いてからのお楽しみだそうですわ。今日はリュドが護衛として同行致します」
「そう。リュド宜しくね」
「畏まりました」
リュドと出かけられる事を嬉しいと思ってしまう。でも素直に喜べなくて・・・何だかとても複雑だわ。気持ちに蓋を閉め続けるのは難しいのね。
「行ってくるわね」
「「行ってらっしゃいませ」」
リュドと共に馬車に乗り込み待ち合わせの王都を出る門に向かう。
*****
アンドリュー様の馬車を見つけ窓を開けて声をかける。
「アンドリュー様、ご機嫌よう。今日は秘密のお出かけ楽しみにしていますわ」
「リリアンヌ嬢。少し長旅だけどね。あぁ、2人も来たみたいだ」
「リリ、アンドリュー様、お待たせしてしまいごめんなさい」
「ティナ、私も来た所だから大丈夫よ」
「遠いから行くぞー」
ティナがアンドリュー様の馬車へ移ると出発した。
それにしてもサミュエルお兄様の馬車・・・あの荷物は何かしら?私とアンドリュー様の馬車にも大きな荷物は積まれているけれど。
「どこへ行くのかしら?リュドは聞いている?」
「はい。お答えは出来ませんが」
「私とティナ以外は知っているのね」
「お2人を驚かせる為ですから」
リュドはあの後も態度が変わる事は無く、いつも通りに接してくれている。私だけが気にしているのよね・・・。
これ以上お喋りを続けたら余計な事を言いそう・・・。馬車の中でずっと黙っているのも感じ悪いわよね・・・寝たふりかしら?
「朝早かったから少し眠るわ」
「畏まりました」
寝たふりのはずが本当に眠ってしまったわ・・・。
途中休憩を挟みながら2時間くらいは走ったかしら?山が近づいてくるというより既に山道に入っていないかしら。
「リュド、目的地は山の中なの?」
「まぁ・・・そうですね」
それから1時間程、山道を進むと開けた場所に出た。
「到着した様です」
リュドのエスコートで馬車から降りるとストールを羽織らさせる。
「王都より気温が低いので」
「ありがとう、リュド」
草原の様に草が茂り、山に沿ってここだけ切り取られた様に拓けているわね。
「リリ!こっちよ!」
ティナに呼ばれて歩を進めると、視界を遮る物のない素晴らしい景色が見える。
「これは凄いわね・・・素晴らしい景色だわ」
「とっても綺麗ね・・・」
「仕事でサミュエルと来て見つけたんだ。夕暮れはもっと美しいよ」
2人の仕事ってあれよね・・・この山に変な曰くとか犯罪者が潜んでいるとか無いわよね・・・。
私達が景色に魅入っている間に天幕が張られ、中には絨毯が敷かれクッションも置かれて休める様になっていた。
「あの大荷物はこれでしたのね」
「まぁ、日暮れまで居るからな。ゆっくり出来た方が良いだろ?」
「今日は食事もちょっと変わっているからね」
「リリ、楽しみね!」
「ふふ、そうね」
私達が天幕の中で休んでいる間、サミュエルお兄様達は土魔法で何かを作っている。リュドも風魔法で薪を作っているわね。
リュドが魔法を使う所なんて、あまり見ないから新鮮だわ・・・。
「ねぇ、リリ・・・少しは元気が出たかしら?」
「どうしたの?私は元気よ?」
「だって・・・ずっと変だもの」
「そうね・・・心配させてごめんなさい。きっと時間が経てば大丈夫よ」
「リリ、私はいつでもリリの味方よ」
「ふふ、最強の味方だわ」
*****
しばらく来週から始まる試験の話をして、のんびりとしていたらティナが眠ってしまったわ。朝早かったものね。
少し散策をしようと天幕の入口に居る護衛に声をかける。
「ここから見える所までしか行かないから護衛は大丈夫よ」
「畏まりました」
来週から12月。山は少し冷えるわね。
「ストールがあって良かったわ」
ぼんやりしていると良い香りが鼻をくすぐる。準備をしているサミュエルお兄様達の方を見ると・・・・・・焚き火をしながら長方形の物の上で何かを焼いているわ。
見覚えのある串に刺された肉と野菜・・・あれはバーベキュー?確かに貴族が食べるには変わっているけれど・・・。
「何だか懐かしいわ・・・ビールが飲みたくなるわね」
今世の私はアルコールに弱いけれど、ビールくらいなら飲めそうじゃないかしら?アルコール度数は覚えていないけれど。
邸では基本ワインとシャンパン。お父様がブランデーとかウィスキーを飲むけれど・・・ビールってこの世界に無いのかしら?
「考えると余計飲みたくなるわ・・・でも寒くなってきたから、これからの季節はホットワインかしら?」
ホットワインはあるわよね?
私がお酒に弱いから晩餐にはぶどうジュースで割ったワインとか、決まった物しか出てこないから詳しくないのよね・・・。




