04話
今日はここまでの予定でしたが、あと1話更新します。
やっと解放されたわ。ティナを見つけ空いているテーブルに着く。
「同じような事の繰り返しで全然覚えられないわ・・・」
「ティナ、大丈夫?」
アイスティーとお菓子を頂きながら、テーブルに突っ伏すのを踏みとどまるティナに声をかける。
「大丈夫に見える?」
「見えないわね。でも忘れても初日で緊張してたって誤魔化せば良いわ。どうせ皆同じようなものよ」
「それもそうね。リリはどうだった?」
「婿の売り込みばかりよ。遠回しに有能な人以外お断りって言っておいたわ。素行調査も匂わせたから強引には来ないわね」
「お兄様が同じような事言ってたわ」
「サミュエルお兄様は見目も良いし優秀な嫡男。爵位も狙いやすいわよね。優良物件だからご令嬢が群がるでしょ?」
サミュエルお兄様は今年学園1年生。ティナと同じミルクティー色の髪にグリーンの瞳。タレ目なのが男性なのに色気を感じさせる。優男風に見えるけど・・・結構お口が悪く将来はお腹が真っ黒ね。そこが良いって方もいるみたいだけど。
「そうね。紹介して欲しいってご令嬢が何人か居たわ」
「あら?初対面でティナに紹介しろと・・・サミュエルお兄様の嫌いなタイプね」
「多分、馬鹿は会うだけ時間の無駄だって言いそうね」
「サミュエルお兄様とは馬鹿が嫌いな所と時間を大事にする所はとても気が合うのよね」
「お兄様とリリの会話は狸と狐だってお父様が言ってたわよ」
「あら、おじ様ったら。まだそこまでじゃないわ。でもサミュエルお兄様と話すのは良い練習になるの」
「私はそういう会話苦手だわ・・・」
狸のティナを想像する・・・無いわ。私の可愛いティナがサミュエルお兄様みたいになるなんて駄目よ!
「ティナは今のままで良いのよ。私の癒しだもの」
「でも少しは2人みたいに立ち回れるようにならないとデビュタントした後に苦労しそうだわ」
「大丈夫よ。可愛いティナの為なら、そんな輩はサミュエルお兄様が地獄までエスコートされるわ」
「それもどうなの?」
「仕方ないわよ。意外とシスコンだもの。サミュエルお兄様・・・時々私にも回してくれないかしら?」
「リリ・・・何だか物騒な気配がするわ・・・」
「気のせいよ。とりあえずティナに近づく男の身辺調査は念入りにするようお願いしておくわ。私は絡んでくるご令嬢を調査するから完璧よ!」
「私・・・2人のせいで婚期逃しそう・・・」
だって大事なティナをお嫁さんにあげるのよ?小姑の母姉妹が居たら困るし、幸せにしてくれる人じゃなきゃ絶対駄目よ!
*****
お喋りをしているとティナが不意に扇で口元を隠す。
「ねぇ、さっきからこっちを見ている方が居るんだけど・・・」
私も扇ぐふりをしながら口元を隠し。振り向かずに後ろに控えるサラに声を掛ける。
「サラ、こっちを見てる人が誰だかわかるかしら?」
「セギュール伯爵家のエマニュエル様かと」
「ありがとう」
2年前に見た顔を何とか思い出す。
「リリ、エマニュエル様と知り合いなの?」
「2年前に1度会ったわ。セギュール伯爵夫人から婿にどうかって」
「それ断ったの?」
「元々断る前提の顔合わせだったのよ。社交デビューして調子に乗った馬鹿に鞭打つ役目だったかしら・・・本当に面倒くさかったわ」
思い出して思わず眉根を寄せる。
「でもエマニュエル様ってご令嬢に人気があるのは本当よ」
「人気があっても社交デビューしてもマナーの身につかない人よ?今だって不躾にこちらを見ているなんて成長していないのね」
「そう言われると・・・よく社交デビューの許可が出たわね・・・」
「セギュール伯爵夫妻はデビューしてからまずい事に気付いたみたいよ。次男だから本人の考えが甘いのかしら?再教育は失敗したみたいだし協力して損したわ」
「顔合わせの時そんなに酷かったの?」
「そうねぇ。まず挨拶から顔が作りきれていなくて、態度も感情が出過ぎね。顔と名前しか知らずマナーがなってないから断るとハッキリ言ったわ」
「うわぁ・・・・・・」
ドン引きしたティナも可愛いわね。
「お花畑な方は遠回しだと気づかないでしょ?今日もデビューしたご令嬢狙いかしら?婿入り先は見つかっていないのね。さっさと諦めて騎士か文官を目指されるべきよ」
「リリ、まだ学園入学前よ?卒業後をもう考えるの?」
「あの方は来年入学でしょ?学園に通う3年なんてあっという間よ。王宮の騎士も文官も試験は簡単じゃないわ。魔術師団を目指そうと思ったらもっと大変よ。学園から推薦が貰えるよう励むべきね。自領で補佐や騎士になるのなら今のままでも良いけど・・・伯爵様が許すのかしら?私なら放り出すわね」
「リリ、厳しいわね。ギルドとか働ける所は沢山あるけど平民になるって事よね?」
「そうよ。上がるのも落ちるのも自分次第ね。サミュエルお兄様ならもっとキツイ事言うわよ?」
12歳のご令嬢がする会話では無いのでは?と侍女達は遠い目をしながら、自分達のお嬢様はおかしな男には絶対引っかからないだろう事に安堵した。
少なくとも傍目には着飾ったご令嬢が楽しく談笑しているようにしか見えないのだから。