48話
お医者様とお父様が話し合って1週間学園も仕事もお休みする事になったわ。
自分では大丈夫だと思うのに皆から見たら様子がおかしいらしい。グリーズの無事な姿にほっとしたけれど、ちょっとリュドの姿が見えない事に不安になったせいで皆が過保護よ。
2日でそれも落ち着いたのだけれど前世で言うPTSDかしら?
あんな事があって何ともない方が問題だと思うから、ちゃんと先生の言う通りに薬を飲んでゆっくり過ごしているわ。
「お嬢様、少し離れますが大丈夫ですか?」
「ええ。大丈夫よ」
「では、少し失礼致します」
リュドは次の日には顔を見せに来てくれたわ。私が不安になったせいで傍で仕事をして、離れる時はこうして確認されるのよ。もう大丈夫だって言ったのに誰も信じてくれないわ。
リュドは良くて何故私は仕事をしちゃ駄目なのかしら?
*****
「そろそろ、私も勉強か仕事がしたいわ」
「真面目なのは良いですが先生の許可が出るまでは駄目ですよ」
笑顔でサラに却下される。だから仕方なく読書をしているわ。サラに渡された恋愛小説よ。
どのヒーローも現実味が無いわ。バルコニーへの不法侵入はヒーローは皆やるのね・・・邸の防犯はどうなっているの?あとヒロインの行く先々で現れるとかストーカーじゃない!
この人は暇なの?仕事をしていないのかしら?無職のストーカーに何故惚れるのかわからないわ・・・。
数冊読んでみたけれどヒーローが全員犯罪者予備軍に見えてくるわ・・・。変な顔をしていたのか戻ってきたリュドが心配そうに聞いてくる。
「お嬢様、どうかされましたか?」
「簡単にバルコニーへ侵入される邸って大丈夫なの?それと行く先々に現れる、つきまとい男を好きになる理由がわからないの・・・どう考えても真面な人じゃないのに何故かしら?」
あら?何故リュドとサラは微妙な顔になるの?
「お嬢様、バルコニーへは会いに来てくれた事にトキメクのです。そして偶然の再会に運命を感じているんですよ」
「サラ。また会ったねって社交以外で4回もされたら私なら尾行を疑うわ。あと彼は仕事はどうしているのかしら?」
「そうですね・・・」
サラ、何故遠い目をするの?
「ちょっと、リュド笑ったわね」
「いや・・・お嬢様らしいなと思っただけですよ」
「もう!・・・次は推理小説がいいわ・・・」
「わかりました。お持ちしますね。リュドお願いね」
「はい」
この絶対1人にしないのも何かしら?何かあるの?お行儀が悪いけれどテーブルに頬杖をつく。
「私、本当にもう大丈夫よ?過保護すぎると思うの」
「あと数日は我慢して下さいね」
そういえば、あの次の日からリュドを見るとドキドキするの。
これが「吊り橋効果」というやつね。一緒に危機を乗り越えて、そのドキドキと恋のドキドキを勘違いするあれよ。
初めてなったけれど・・・何時になったら元に戻るのかしら?
*****
その後は大人くし推理小説を読み、相関図や気になるポイントを紙に書き出しトリックを解くのを頑張ったわ。犯人が最後迷った2人のうち私が選ばなかった方で悔しかったの!
晩餐後、湯浴みを済ませベッドに入る。時間も早いし何もしていないから眠くならないけれど、先生の薬を飲むと朝まで眠れちゃうから不思議よ。何の薬なのかしら?
「サラ、メル、おやすみなさい」
「「おやすみなさいませ」」
リリアンヌが眠って1時間ほど経ってリュドが部屋に入ってくる。
「お嬢様の様子はどうですか?」
「今日はまだね」
本人は知らないがリリアンヌは翌日から眠ると魘されるようになった。最初はうたた寝をしている時だった。リュドが手を握り声をかけると落ち着くので毎晩様子を見ている。
枕元の椅子に座り、リリアンヌの細く小さな手を包み込むように優しく握る。今日こそは魘されずに眠り続けてくれると良いが・・・。
「んっ・・・・・・うぅ・・・」
「お嬢様、大丈夫ですよ」
「ぅん・・・・・・」
今日は酷くなさそうだな。
「・・・りゅど・・・」
「ちゃんと居ますよ」
「うん・・・・・・」
繋いでいる手にスリスリと頬を擦り寄せてくる。これは魘されているんじゃなくて甘えているのか・・・?
「あらあら。この状態は久しぶりね」
「魘されていないなら、サラさん交代して下さい」
「無理よ。絶対離さないから」
「あの酔って寝てた時の感じですか?」
クリスティナ様の婚約パーティから連れ帰った後、離してくれず大変だった。
「そう。5歳までのリリアンヌ様ね。ふふ、お気に入りは離さないのよ」
サラはリュドの膝にクッションを置き大判のストールを広げて待つ。
「何の準備ですか?」
「すぐにわかるわ」
突然リリアンヌが起き上がる。寝惚けているのか瞳は閉じたままフラフラしている。
「・・・りゅど・・・だっこ・・・」
「はい?」
サラはリリアンヌに手早くストールを巻きつける。
「ほら!ご指名よ!早く抱っこして」
「はぁ・・・」
仕方なく言われるまま横抱きで膝のクッションの上に乗せるとジャケットの襟をリリアンヌに両手で掴まれる。
「これは・・・いつまでこうして居たら良いんですか?」
「下ろそうとして愚図らなくなるまでよ」
それは完全に子供では無いのか?サミュエル様から話は聞いていたが・・・。
「5歳までのリリアンヌ様は結構甘えん坊だったのよ。旦那様達と離れて暮らしていて寂しかったんだと思うわ。でも教育が始まったら今のリリアンヌ様よ」
「いくら教育が始まったとはいえ5歳ですよね?」
「ええ。使用人に気安く接しはしても、いきなり大人になったみたいにね。勉強は好きな様だったけれど・・・乳母が居なくなって甘えないし泣かなくなったわ」
「それも凄いですね・・・」
自分の教育が始まった頃はまだまだクソガキだった。
「でも、最近少し甘えるのよね。私はリリアンヌ様にそういう感情が戻って良かったと思っているわ」
「いや、5歳の甘え方なんですよね?」
「ふふ、そうよ。無意識なのがまた可愛いでしょう?1時間程で落ち着くはずだから私は食事をしてくるわ。よろしくね」
サラは手を振ると部屋を出て行った。




