47話
邸に着くと馬車の中にあった薄い毛布で包まれ、リュドに抱き抱えられて降りた。
お父様も邸に戻っていて両親が抱きしめて出迎えてくれた。使用人の皆も集まっていて心配をかけてしまったわね。
「リリアンヌ、よく頑張ったね。でも無茶をしないでくれ」
「無事で良かったわ・・・本当に良かった・・・」
お母様を泣かせてしまったわ・・・。
「お父様、お母様、ご心配をお掛けして申し訳ありません。まだ未熟なのはわかっていたのですが・・・領地の事を思い出したら何もせずには居られなくて・・・。リュドが守ってくれていたから冷静でいられたし帰って来られましたわ」
「そうか・・・。リュドもご苦労だった」
「いえ・・・」
「さあ、2人共湯浴みをして着替えたら先生の診察を受けるんだ。その後はゆっくり休みなさい」
リュドはクリスが付き添って行ってしまったわ。
「お嬢様、歩けますか?」
「大丈夫よ」
ゆっくり部屋まで歩いた。湯浴みの為に毛布を脱いだらメルが真っ青になっていて、よく見たらドレスは血が滲み思った以上にボロボロだったわ。
回復魔法で傷は治したと言ったのにサラとメルに隅から隅まで調べられたわ・・・。裸なんて見られ慣れているけれど、さすがに恥ずかしかったわ・・・。
香油を馴染ませ髪を梳いてもらい、切れてしまった所を整えられる。こういう日常の事をしていると帰ってきた事を実感するわね。
「そういえば、髪を乾かしてくれる混合魔法は役に立ったわ。魔物が・・・ドロドロと溶けて・・・気持ち悪かったけれど・・・」
「そもそも、お嬢様は虫が苦手ではありませんか・・・」
「透けていたから何とかなったわ・・・サミュエルお兄様はぼんやり見ろって言っていたわね・・・」
あぁ・・・思い出したら鳥肌が立つわ・・・。
その後、医師の診察を受けたけれど問題は無かったわ。でも「気が昂っていると休めませんから薬を出しておきますね」と鎮静剤か睡眠薬かしら?渡されたわ。
ベッドに横になったけれど時間も早いし寝れなかった。ずっとサラが付き添って居てくれるのは安心するわ。
「ねぇ、リュドも大丈夫?」
「ええ。問題無いそうです。何度聞かれも答えは同じですよ」
「そうよね・・・」
「お嬢様、眠れないのなら温かいものを飲みますか?」
「少しお腹がすいたわ」
「畏まりました」
サラがブレスレットでメルに指示を出す。
「ブレスレット・・・本当に緊急事態で使う事になったわね」
「お嬢様が魔道具をお持ちで本当に良かったですわ。私は騎士団に報告に行き、そのまま本部に居ました。お嬢様からの情報は役に立ったと副団長様からお礼を言われましたわ」
「役に立てたのなら良かったわ。魔物の情報はサミュエルお兄様のお陰でわかった事もあるから、無事討伐出来ると良いのだけれど・・・」
「きっと大丈夫ですわ。クリスティナ様はアンドリュー様が邸に送り届けて無事ですわ」
「ティナが怖い思いをしなくて良かった」
メルがミルク粥を持ってきてくれた。胃に負担の無い様にかしら?皆、過保護ね。食後に先生がくれた薬を飲むとすぐに眠くなってしまったわ。
*****
旦那様に呼ばれメルとお嬢様の付き添いを交代する。
「旦那様、お呼びでしょうか?」
「入ってくれ」
「失礼致します」
執務室の中には執事のクリスさんも居た。
「リリアンヌの様子はどうだ?」
「比較的、落ち着いているかと。話をしている方が落ち着くのか眠るまではずっと話されていました。今は薬を飲み眠っておられますが・・・リュドは大丈夫かと何度も聞かれました」
「あぁ、森から出た時に傷だらけだったようだ」
クリスさんがリュドから聞いた状況を説明してくれる。
「リュドはお嬢様を抱えて走るため魔法は使えず、防御はお嬢様が担当されました。
全員ずっと何かしらの魔法を使っていた為に魔力切れの恐れがあり、リュドは走る速度を優先して枝や防ぎきれなかった攻撃をかなり受けたと。
お嬢様は多少の切り傷で済んだ様ですが・・・リュドは森から出た時は傷だらけで血まみれだったそうです。幸い殺傷能力は低く見た目の割に傷は浅かったそうです」
「リリアンヌが回復魔法で治せる程度だから事実なのだろうが・・・その姿が忘れられないのだろう。しばらくは様子に気をつけてやってくれ」
「畏まりました」
その後もいくつか確認し合い執務室を出てリュドの元へ向かう。
「リュド、起きているかしら?」
「大丈夫ですよ」
部屋に入るとリュドはベッドに座っていた。
「貴方も眠れないの?」
「まだ時間も早いので、もう少ししたら薬を飲んで休みますよ」
デスクの椅子に座りリュドに頭を下げる。
「リュド、リリアンヌ様を守ってくれてありがとう」
「いえ・・・怪我をさせてしまいました。アンドリュー様と行かせていれば・・・俺が判断を間違えたんです」
「それは私も同じよ。確認などさせずに離脱を優先させるべきだったわ。クリスさんから状況を聞いたけれどリュドは出来る最善を尽くしたのよ。あまり気に病まないの・・・お嬢様も思い出すのか何度もあなたは大丈夫かと聞くの」
「心配させてしまっていますね・・・」
「自分を守るために血まみれになられたら心配するのは当たり前よ。早く休んで元気な顔を見せてあげなさいね」
「はい・・・」
「ゆっくり休んで。おやすみなさい」
リュドの部屋を出てお嬢様の部屋へ戻ろうとしていると、グリーズが戻ったと連絡を受けた。
騎士団の方にお礼を言い厩舎に様子を見に行く。お嬢様は逃がしたと言っていたが騎士団が着いた時、街道から森の方を見て動かなかったらしい。言う事を聞かないので荷馬車で邸まで戻されたそうだ。
「グリーズはどうかしら?」
「普段より落ち着きがありませんね」
グリーズの首を撫でながら。
「グリーズ、リリアンヌ様は無事に帰って今は眠っているわ。元気になったら会いに来るから貴女もゆっくり休みなさい。グリーズに何かあったらリリアンヌ様が悲しむわ。わかるわね?」
こちらを見つめていたが、しばらくすると干し草の上に落ち着いた。
楽しいはずの休日が、多くの者にとってとても長い1日となった。




