03話
早いもので私も12歳になりましたわ。今年の社交シーズンから、お茶会やパーティに出席するので少し緊張しますわね。
そういえば学園に入るのに必要なお勉強が終わりましたわ。同年代の子と比べてかなり早いようです。やはり前世が優位に働いているようでズルをした気分ですわ。
これからは領地の勉強と学園で習う事を入学までゆっくり学びます。そうそう、魔法は実践授業になってとても楽しいわ。
初めて水魔法を使った時は、はしゃぎ過ぎてびしょ濡れになってしまいサラに怒られてしまいましたわ。
「お嬢様も子供らしい所があって安心致しました」と言われたのは何だか納得いかないけれど・・・。
明日は初めてのガーデンパーティ。伯爵家だけが集められるので爵位の上下が無いのは気が楽だわ。序列はあるけれどね。
*****
社交に出るからと沢山のアフタヌーンドレスを仕立てたの。私は寒色が好きなのだけど、お母様とサラがピンクやイエローのドレスも作ったからドレスルームはカラフルよ。毎回違うドレスで行けそうだわ。
今日は4月にしては少し気温が高い。柔らかなピンクのドレスを着せられる。首まで詰まっているけど、そこまで暑くないわ。
所々につけられた白いレースやフリルに合わせて編み込んだ髪にも白い髪飾りが着けられる。手袋に指を通し鏡の前でくるりと回る。
ピンクと白・・・前世が全力で拒否してくるけど、今の私の容姿には似合いますわね・・・。
「とてもお似合いですよ」
「ありがとう、サラ」
エントランスに下りると両親が待っていた。
「お父様、お母様、お待たせ致しました」
「私達も今来た所だよ。リリアンヌ、とても綺麗だよ」
「ありがとうございます、お父様」
「今日は暑いから辛くなったら我慢せずに言うのよ?」
「はい、お母様」
「では、行こうか」
馬車でガーデンパーティの会場となる王城の庭園へと向かう。時間が合えば王族の方も顔を出されるらしいけど興味は無いわ。久しぶりに友達と会える方が嬉しいの。
初めて来る王城は前世にあったルーヴル美術館のよう。白亜の宮殿とでもいうような豪華絢爛なのを勝手に想像していたわ。
サラから日傘を受け取り両親の後を着いて歩くと会場となる庭園に着いた。少し早いようで人は少ない。1つのテーブルに友人のクリスティナを見つけ小さく手を振る。
「お父様、お母様、あちらにエノー伯爵家が居らっしゃるわ。ティナの所に行っても良いかしら?」
「一緒にご挨拶に行こうか」
エノー伯爵家とは太い川を挟んで領地がお隣同士。昔から何かと親交があるの。クリスティナとは親友よ。ミルクティー色の髪にグリーンの瞳。ちょっとタレ目なのが可愛いのよ。
互いの領地や家で会っていた時は軽い挨拶だったけれど、社交場ではきちんとした挨拶をしなきゃ駄目なのよ。社交場は貴族にとっての職場だもの。
挨拶を済ませ同じテーブルに着く。クリスティナの隣に座りサラに飲み物とお菓子をお願いする。
「リリ、お久しぶりね」
「ティナも元気だった?」
「もちろん。社交は大変そうだけど今年からはたくさん会えるから嬉しいわ」
「私もよ。今日はサミュエルお兄様は欠席?」
「学園があるから来ないわ。このパーティーはデビューの為にある様なものだし」
4月の初めに王城で開催されるこの爵位別のガーデンパーティは社交デビューの12歳~14歳の子供達へのお祝いと雰囲気を体験する為に開催されるの。
子供が出席出来るパーティの中でも規模が大きいし、爵位が同じだからトラブルも滅多に無いから丁度いいデビュー戦よ。
公爵家と侯爵家は人数が少ないから5つある公爵家が持ち回りでパーティを開催しているの。騎士爵は一代限りや平民に近い家もあるから社交をするかは各家に任されているわ。
「両親について挨拶に回るのよね・・・面倒だわ。どうせ婿の売り込みばかりよ」
「リリ・・・少しは夢を見ましょう?」
「見ないわよ。私は学園に入ってから婚約者を決めるもの」
「そうなの?」
「ええ。だって顔と家柄だけ良くて馬鹿だったらどうするの?」
「ふふ、リリったらハッキリ言い過ぎよ」
「そういうティナは婚約者はどうするの?」
「私もまだいいかな。従姉妹が学園に入ってから婚約者の態度が変わったとか言ってたし」
「親の目のない所に同年代の男女を集めたら本性が出るのね。参考になるわ」
「もう、リリったら!」
クリスティナとのお喋りを楽しんでいると人がかなり増えた。伯爵家だけとはいえ思ったより人が多い。学園入学前の令息令嬢も結構来ているのかしら?
そろそろ挨拶に回ると言う両親達と共に席を立つ。
淑女の仮面をかぶり婿の売り込みを当たり障りなくかわしつつ挨拶をして回る。ティナとお喋りしている方が楽しいわ・・・暑さで気分が悪い事にして帰っちゃおうかしら?