32話
お父様達に続きリュドのエスコートでホールに足を踏み入れる。期待を裏切らない豪華絢爛さね。さすが王宮だわ。
夜会って思っていたより人が多いのね。お父様達と離れたらわからなくなりそうだわ。ティナを見つけられるかしら?
それにしてもリュドはエスコートが上手いわね。歩く速度も丁度良くて安心して任せられるわ。
でも本来なら添えるだけの手を指先でキュッと握ってしまう。ピカピカに磨かれた床と人の多さで転びそうで怖いのよね・・・リュドと目が合うと苦笑いをされたわ。
「お嬢様、必ず支えますので少し体の力を抜きましょう。疲れてしまいますよ」
「ありがとう。ダンスを踊れたのだから大丈夫だと思うのよ。でも人も多いし高いヒールは慣れなくて・・・でもそうね。リュドなら安心だもの」
「足が疲れた時もすぐに教えて下さいね」
「ええ。リュドがエスコートで本当に良かったわ」
ホールの中では爵位順に何となく立ち位置が決まっている。この後は王族の方が入場して、デビュタントは順番に名前を読み上げられ両陛下にご挨拶をする。その後、デビュタントのダンスになる。
*****
無事にご挨拶まで終わったわ。後はダンスだけね。
「リリ!リリ!」
前からサミュエルお兄様にエスコートされたティナが声をかけてきた。エスコートというより手を繋いでいるような・・・。
「ティナ会えて良かったわ。人が多くて会えないかと思ったの」
「私もよ。リリとっても綺麗・・・精霊様みたいよ」
「ありがとう。ティナはやっぱり白薔薇の妖精さんね。とっても可愛いわ」
「2人共とりあえず歩け。ここだと通行の邪魔になる。父上達も合流したみたいだから行こう」
「お兄様、邪魔は酷いわ!」
普段通りのサミュエルお兄様に緊張がほぐれるわね。お父様達の方に歩きながらもティナの手が気になるわ。
「ティナ、その手はエスコートというより繋いでいるに近いわよ?」
「だってヒールが怖いんだもの・・・」
「気持ちはわかるわ。でもサミュエルお兄様ならティナを転ばせたりしないわよ」
「そうだぞ。ダンスの心配だけしてろ」
ティナが明らかに落ち込んだわ。間に合わなかったのね・・・。
「ティナ、きっとドレスで見えないから大丈夫よ」
「そうだと良いけど・・・他の人に誘われたらどうしたら良いの・・・」
「慣れないヒールで足を痛めたしか無いわね」
「やっぱり?定番すぎてバレバレよね・・・」
「仕方ないわ。でも踊りたいのなら頑張るしかないわね」
お父様達の所に戻るとそれぞれ祝いの言葉を頂いた。皆で談笑しているとデビュタントのダンスの時間になった。
「ほら、ティナ行くぞ」
「はい・・・・・・」
「ティナ、頑張ってね!」
あぁ・・・ティナが心配だわ。
「お嬢様、私達も行きましょう」
「ええ。リードお願いね」
空いている場所に立つとしばらくして音楽が流れ始める。やっぱり、リュドのリードは踊りやすいわ。
「練習よりとっても楽しいわ」
「夜会の雰囲気もありますからね」
会話を楽しみながら踊っていると人とぶつかりそうになってリュドの方に引き寄せられる。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。あちらの方は大丈夫かしら?」
「大丈夫です。大勢で踊るのに慣れてないのか上手くリードが出来なかったようですね」
「練習は他の人が居ないものね」
元のホールド位置に戻らないのかしら?練習でもこんなに近くなかったから恥ずかしいわね・・・近いから耳の近くで話されると背中がそわそわするわ。
「何度か踊れば慣れますよ」
「そうなのね」
忘れていたけれど・・・リュドって微笑むと色気が増すイケメンだったわ・・・。見慣れたと思っていたのに普段と違うからかしら?
何だか凄くドキドキするわね・・・ぶつかりそうになったせいよね?うぅ・・・顔が熱いわ・・・赤くなっていないと良いけれど・・・。
*****
*その頃のエノー伯爵兄妹*
「お兄様!お兄様!」
「お前はよそ見せずに踊れ!足を踏んだぞ・・・」
「だってリリが!あのリリが頬を染めるなんて初めて見ましたわ!」
「いって!また踏んだぞ・・・わかったから集中しろ!」
サミュエルは今夜エスコートがリュドになった経緯を事前に聞いている。
「下手にどこかの令息にエスコートさせる訳にもいかないが・・・娘に恋愛感情のれの字でも芽生えさせたい。リュドなら専属で心を開いているし見目も良い。普段と違えば何か変化があるかもしれないだろ?」とおじさん達は言っていた。
リュドの衣装は青と金の刺繍って周りに勘違いされそうだな・・・。あれリリは気づいてないな。おじさん達の思惑通りにいくのか?リリは自分の事に物凄く鈍いからなぁ・・・。
実の妹は鈍臭いから目が離せず心配だが、もう1人の妹的存在は、同じ後継としては優秀でしっかりしていて安心出来るが・・・何故だか不安だ・・・。
「お兄様リリが見える位置に行ってくださいませ!」
「お前・・・アンドリューの事で沈んでたくせに」
「それはそれ!これはこれですわ!」
「転びたくなきゃ大人しく踊れ!」
「あら?リュドの衣装・・・リリの色ですわ!」
「今気づいたのか!?」
エノー伯爵夫妻は子供達の賑やかなダンスに苦笑いし、アルトワ伯爵夫妻は娘の微かな変化に微笑んで見守った。
サミュエルは足を踏まれ過ぎて今夜はもう踊れなくなった・・・。
*****
曲が終わり礼をとり、リュドにエスコートされて両親の元へ戻る。
まだドキドキしているわ・・・。簡単なワルツだけれど初めての夜会で緊張しているのかしら?
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。初めてのダンスは少し緊張したわ」
「とても上手に踊られていましたよ」
「ありがとう。リュドのリードのお陰よ」
ティナ達も戻ってきた。そういえば、ティナが踊っている所を見られなかったわ。
「ティナ、上手く踊れた?」
「いや、子供の時くらい足を踏みやがった」
「あら?緊張してしまったのかしら?」
余計なことは言ってはいけないと無言を貫くクリスティナを、リリアンヌは失敗して落ち込んでいると勘違いして慰めた。
そして、リリアンヌに気を取られすぎてダンスは二の次だった事は、誰もリリアンヌに教えなかった。




