02話
エントランスで両親と並ぶと、程なくセギュール伯爵家の馬車が到着されました。
伯爵様はブラウンの髪にグリーンの瞳。奥様は金色の髪にグリーン瞳。お二人共とても優しそうな雰囲気です。ご子息は夫人に色彩も顔立ちも似ていらっしゃいますね。将来は美青年になりそうですわ。
大人達が挨拶をしている後ろで微笑みながら「何か怪しい」と思うと失礼にならない程度に観察してしまいますわね。
「娘のリリアンヌだ。リリアンヌご挨拶を」
「お初にお目にかかります。アルトワ伯爵が長女リリアンヌでございます。お会いできて嬉しく存じます」
お父様に促されカーテシーをして気持ち丁寧にご挨拶します。
「リリアンヌ嬢、僕と妻のオリヴィアは君の父上と同級生でね。こっちは息子のエマニュエル。エマニュエルご挨拶を」
「セギュール伯爵が次男エマニュエルと申します。以後お見知りおきを」
微笑まれていますが表情が作り切れていませんわ。態度にもありありと出ていますわね・・・この顔合わせは「ご不満」という事でしょうね。
伯爵ご夫妻は好感が持てそうですが・・・嫌なのはこちらも同じですから、そこだけは気が合いますわね。
*****
庭へ移動し淑女の仮面をかぶり皆でお茶をいただきます。大人達の会話に耳を傾けますが、昔話から近況報告まで様々。
お話を聞く限り、お父様とセギュール伯爵は卒業以来あまり交流は無く、事業提携や借金等での政略の申し込みでも無さそう・・・断れますわね。
エマニュエル様は今年から社交に出られているようですわ。挨拶から今まで観察してみましたが駄目ですわね。教育はどうなっているのかしら?よく社交デビューを許可しましたわね。
見目は整っていらっしゃるから社交デビューして、ご令嬢にちやほやされ調子に乗っている馬鹿ボン(馬鹿なぼんぼん育ち)の次男という所かしら?
1番嫌な顔と家柄だけですわ。何となく自分の役割がわかった辺りで夫人に話しかけられました。
「リリアンヌ嬢はとても落ち着いているのね。息子とは大違いだわ」
「セギュール伯爵夫人、お褒め頂きありがとうございます」
「オリヴィアでいいわ」
「では、オリヴィア様と呼ばせていただきますわ」
「ふふ、娘も欲しくなっちゃうわね。リリアンヌ嬢はうちのエマニュエルの事どう思うかしら?」
「どう・・・とは?」
質問の意味が分からないふりをして、こてりと首を傾げる。
「もう、リリアンヌ嬢のお婿さんにどうかしらって事よ」
ストレートに返ってきましたわ。溜息を飲み込み微笑みながらオリヴィア様に答える。
「オリヴィア様、わたくしの婿にという事ですがエマニュエル様の事は今日初めて知りましたわ。短い時間ではお名前とお姿しかわかりませんが・・・失礼ながら振る舞いを見る限り、どうしても政略で必要な場合でない限りお断りさせて頂きますわ」
あら?静まり返ってしまいましたわね。ハッキリ言い過ぎたかしら?でも馬鹿ボンですよ。遠回しでは理解しませんわ。
エマニュエル様はポカンとされているわね。断られると思っていなかったのね・・・。
正直、婚約者は学園に入ってから決めたいわ。子爵や男爵でも有能なら構わないもの。人柄も良ければ最高ね。
何か言った方が良いかと思案しているとお母様が笑い出す。
「ふふ、確かに名前と顔だけじゃ婿には出来ないわね。オリヴィア、ごめんなさいね」
「いいのよ。しっかりしていてエレーヌが本当に羨ましいわ」
やはり断わられる前提でしたのね。甘えた馬鹿ボンに鞭を打つ役目なんて二度としたくないわ。
セギュール伯爵家を見送ると両親にサロンに呼ばれたわ。
*****
お気に入りのハーブティーを入れてもらい肩の力が抜ける。お父様は複雑そうな顔をして、お母様はとても嬉しそうね。
「リリアンヌ、エマニュエル殿はお気に召さなかったかい?ご令嬢方に人気があるんだよ」
「お父様は私が顔と家柄で決めると?心外ですわ。お父様の友人のご子息で人気があろうと社交デビューしている事が不思議なマナーの方など論外ですのに」
「それは・・・まぁ、そうだね・・・」
お父様、目を逸らしましたわね。
「それと婚約者は学園に入ってから決めたいと思っておりますの」
「学園に入ってからかい?」
「ええ。能力と人柄で決めたいと思います。今回の事でわかりましたわ。領地の為に尽力して下さる方が望ましいですね」
「そうか・・・。リリアンヌの意志を出来るだけ尊重しよう」
「お父様ありがとうございます。今後この様な役回りはご遠慮したいですわね」
「あらあら、リリアンヌには全部バレちゃっているのね」
お母様は悪戯が見つかったように笑っていますわね。
「あの方は早々に騎士か文官を目指されるべきですわ」
「再教育も無理かしら?その為に場を設けたのよ?」
「明日以降ご令嬢に囲まれたら今日の事などすぐに忘れますわよ。甘ったれた勘違い馬鹿が1日で治るとかどんな奇跡ですの」
「リリアンヌ、お父様達が悪かったから・・・もう少し抑えようか?」
あら?お口が滑りましたわね。ストレスが溜まっていますもの、このくらいは許して欲しいですわ。