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新大陸王ジルベールは捨て置けない  作者: 五月雨きょうすけ
第一章 新世界の隅で愛を紡ぐ
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第六話 脱出

 盛り上がり過ぎたまま夜を明かした二人が目を覚まして活動し始めた頃にはすでに太陽が頭上にあった。


 巣の中央でディナリスは自慢の長剣を抜刀し大上段に構える。


「本当に大丈夫なのか?」

「まあ、この巣が空中に浮かぶ類の物なら、一巻の終わりだろうが……祈ってくれ」


 そう言うと、ディナリスは剣を振り下ろし自分の足元を切りつけた。

 全膂力を込めた強力な一閃は刃の当たったところだけでなく、その衝撃の伝わったところにも切断現象が広がる。

 雲海にポツンと浮かぶ怪鳥の巣。

 それが薄氷のように割れて、ガラガラと崩れ落ちていく。


「っ! ディナ————」

「捕まっていろ」


 ディナリスはジルベールを抱き寄せて崩れゆく足場と共に落下する。

 雲の海に落ちた二人だったが、数秒も立たず、落下は治った。


「……やっぱりな」


 ディナリスは足元を見下ろして呟く。

 二人が連れてこられた怪鳥の巣は切り立った山の頂に作られたものだった。

 草は生えず剥き出しの青黒い岩盤の急斜面が広がっている。

 そして麓からは鬱蒼と茂った大森林が地平線まで続いていた。


「空中浮遊しているようなものでなくて良かったが、これはまた難儀だな。

 平原なら徒歩二日程度の距離と踏んでいたが、森林地帯となるとな……」


 ディナリスは苦笑する。

 彼女はジルベールと同じく洋上から怪鳥に掴まれてここまで運ばれた。

 その際に見えた海岸線までの最短距離をそう踏んでいたのだ。


「レプラ達はこの陸地に着いているのか?」

「そのはずだ。アイツが言うには、ここが目的地らしいからな」


 知らされていなかった目的地に辿り着いてしまっていたことに驚くジルベール。

 次いでここがどこなのか知りたいと願った。


「ここはどこなのだ?

 見た限り孤島というには大き過ぎる。

 どこの国の領地だ?」


 ジルベールの問いに対してディナリスは受け売りの知識を伝える。


「どこの国でもない。

 ここは地図に存在しない、未発見の大陸だ」

「未発見の大陸? バカな!?

 国教会が天地解明の詔を出したのは百年以上昔のことだぞ!

 今更、新大陸なんて」

「さすがジル様。学があるな。

 シウネと同じ反応をされている。

 あえて苦言を洩らすならば、歴史を信じすぎだな。

 聖職者とて人の子だよ。

 情報なんてのはいくらでも人の意志で操作できるって、国で思い知ったんじゃなかったのか?」


 皮肉めいたことを言われてジルベールは閉口した。

 ディナリスは意地悪く笑って続ける。


「ただ、この地には得体の知れない加護があるらしくてな。

 そのせいで外界から船で立ち入るのは普通は無理らしい。

 私たちみたいに鳥にさらわれて入ってくるのはお目溢しされるみたいだ」

「そんな話……俺は聞いた事もないぞ」

「私だってそうだった。今も信じがたいよ。

 ハッ、あなたのねえ様は随分、物知りでいらっしゃるようだ」


 感心の声を上げたディナリスだったが、少なからず棘を含んだ発言だった。


「何にせよ、ここで乳繰り合っているのも非生産的な話だ。

 海岸に向かおう。

 だけど気長に楽しんで、な。

 食糧はそこそこあるんだ」


 怪鳥の干し肉を背嚢に詰めるだけ詰め込んでジルベールが背負っている。

 それだけで四、五日分は保つ量だ。

 さらには巣の上で見つけた卵も持ち出してきていた。

 ちょっとやそっと叩いた程度ではびくともしない頑丈な殻をしたそれは子供の頭くらいの大きさである。

 ジルベールは好奇心と慈愛を持って大切に荷物の一番上に来るようにしているが、ディナリスは呆れ気味だ。


「言っておくが、その卵なら食わない方がいい。

 王宮御用達の管理された鶏どころかあの化け物の卵だぞ」

「とはいえ捨て置くわけにもいかないだろう。

 俺たちがこれの親を殺して巣も壊してしまったんだから」

「まったく、お優しいこと。

 かえったら育てるのか?」

「親代わりというわけにはいかないだろうが、そのつもりだ。

 人間を襲わないように躾けておけば共存も可能だろう。

 あの怪鳥だって不運なものさ。

 そなたを捕まえさせしなければ……」

「同情するのは助かってからにしよう。

 私たちは今、遭難状態なんだから」


 ディナリスはそう言うがジルベールは不安に思ってはいなかった。


 彼女がいればなんとかなる。


 そう思えるだけの信頼を寄せていたし、同時に彼女と離れ離れになることはないという確信めいたものも感じている。


 一方、ディナリスもジルベールを独占できる今の状況を悪くないと思っていて、しばらくこの時間を堪能しようとしていた。

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