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新大陸王ジルベールは捨て置けない  作者: 五月雨きょうすけ
第一章 新世界の隅で愛を紡ぐ
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第五話表 ピロートーク〜ディナリスは語る〜

事後♡のお話。

ディナリス視点です。

 随分、暖まったな。

 そりゃあそうか。

 もうすぐ夜明けだもんな。


 フフ……そりゃあ私の方が体力あるからな。

 でも、ヘトヘトだよ。

 こんなにサカったのはいつ以来だろうな。


 ……ん? どうした? むくれて……ああ、なるほど。

 私が他の男に抱かれたことがあるのが悔しいんだ。

 こっちとしては悪くない気分だが、昔の男を妬むのはみっともないぞ。

「今は俺がディナリスの男だ」って胸を張る。

 いい男ってのはそういうものさ。


 え? 男のことはともかく、私の昔の話を聞きたいって?

 まあ……あなたに今更隠す事もないしな。

 いいよ。寝物語程度に語ろうか。

 英雄呼ばわりされる前の、私自身が語らないと誰も知らない物語だ。




 サランド国の北部にアーマーン族という少数民族がいてな、私の父親はその部族の男だった。

 アーマーン族は戦闘民族って呼ばれるぐらいに血の気が濃くて、何事も争いで解決しようとし法や権力に縛られるのを嫌う……いわゆる蛮族だな。


 …………笑うなよ。

 言っておくが私はマシな方なんだぞ。

 本来のアーマーン族は狩猟と異民族からの略奪を生業にしていてな。

 そんなんだから基本的に他人に思いやりがなく、自己中心的だ。


 そんなふうには見えない?


 だから言ったろ。

 私はマシな方……というより、同胞を毛嫌いしていたよ。

 多分、母親の影響なんだろうな。


 私の母親は近隣を治める貴族家の娘らしくてな。

 領地を荒らされたくなかった父親によってアーマーン族に嫁がされたらしい。

 もっとも、血の気の荒いアーマーン族の男に他人の嫁に手を出さないなんて行儀の良い真似できるわけない。

 異民族が仲間に加わるための儀式と称して、集落の広場で三日三晩代わる代わる好き勝手ヤられたんだと。

 その時に授かったのが私という話さ。


 ……可哀想だ、って目をするな。

 生まれる前の事なんて知った事じゃない。

 だが、母親はそれでおかしくなっちまってね。

 自分の実家を滅ぼすよう男達をけしかけて、家族を皆殺しにしたらしいが、それで気が晴れることもなく、ずっと自分の人生を後悔していた。

 当然、娘の私のことも汚いものを見るようにして、近づけたがらず、私が8歳の時に病で死んだ。

 死ぬ間際、鬼のような形相で言ったんだ。


『近いうちにあなたも女になる。

 そうなれば男達はあなたのことを犯しにくるわ。

 泣いたって心が裂かれたってやめてくれはしない。

 弱い女には同情を乞うしかできない。

 だけど、そんなもので止まってくれるような優しい男はいない。少なくともここには。

 尊厳を踏み躙られ、そんなことをした奴らを悦ばせ、その子供を孕まされるなんて地獄だったわ……

 だから、あなたは誰よりも強くなりなさい。

 あなたを好き勝手しようとする男の手を砕き、邪魔しようとする男の脚を折り、気に食わない男の首をねなさい。

 ……私のようにはならないで』


 って。


 生きている間はずっと何かを憎んでいたんだろう。

 弱くて悲しい女だった。

 だけど、その遺言はしっかりと胸に刻み込んだ。


 アーマーン族の女は子を増やすための孕み袋。

 より強い子が生まれるように鍛錬は男児と同じようにさせられるが基本的に男達の所有物だ。

 それが当たり前だと受け入れかけていた私にとって、母親の遺言は天啓だったわけだ。

 強くなれば自由になれる。

 母親のような惨めな最期を迎えなくても良くなる。


 そこからは死に物狂いの猛特訓さ。

 部族の風習で12歳になれば女扱いをされてしまうからな。


 幸い、才能はそこそこあったみたいでな。

 9歳の時には同い年の男児には負けなくなった。

 10歳の時には大人相手でも殴り倒せるようになった。

 11歳の時には一番強かった男の頭をかち割って、血反吐を吐かせた。

 その瞬間、私は部族の中で最強になった。

 誰も私に喧嘩をふっかけなくなったし、事実敵う奴はいなかった。


 これで平和に暮らせるようなら私はあの集落に残っていたかもしれないが、そこのところ蛮族なんだよな。

 一人では勝てないからと徒党を組むことを考えやがった。

 12歳になる夜、母親と同じように集団で取り押さえて事を遂げようって大の大人たちが真面目に企んでやがったんだ……



 ……ぷっ! 何を心配そうな顔をしているんだ?

 まさか、私が袋叩きにされて輪姦されたとでも思った?

 心外だな。

 不意を突かれたのならともかく、やってくると分かっていれば負けるわけないさ。

 襲いかかってきた男どもを全員なぎ倒して、使い物にならないようにツブしてやった。

 男どもの情けない呻き声に紛れて、死んだ母親の笑い声が聞こえたような気がしたよ。



 スッキリした気分で私は集落を後にした。

 何も不安なんてなかった。

 自分に力があるのは知っていたから。


 街に出て冒険者登録をしてモンスターを狩ったり、悪党どもを狩ったりしていれば金は稼げるし、名も上がる。

 名が上がれば当然、すり寄ってくる奴も妬む奴も出てくるが全部無視していた。

 孤高を気取り、気の向くまま刃の向くまま戦っていた。

 今思えば自分の強さに酔っていたんだろうな。

 あのままの私だったら、今ほど強くもなれなかったし、それに人生もつまらないものになっていたと思う。



 寝物語のつもりだったのに、目を爛々とさせるなよ……

 ワクワクする?

 ハッ、英雄譚を喜ぶ子供みたいだな。

 じゃあ、子供が引っ込むような話をしようか。

 たとえばそうだな……私の初めての男の話とか————んっ!


 もう……分かったよ。

 イジメたりしないから、やめてって。

 アハっ、覚えたての男って本当にガツガツしてくるんだなぁ……

 カワイイやつめ。


 ん……イヤじゃないよ。

 噂に聴くような下手くそでも、粗末なモノでもなかったしね。

 あなたの妻が悦べなかったのは、そこに愛が無かったからさ。


 私たちのあいだにはあるだろう?

 大きくて強い愛が。

 ねぇ、ジルベール…………

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