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新大陸王ジルベールは捨て置けない  作者: 五月雨きょうすけ
第二章 放蕩生活には程遠く
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第二十話 女、ふたり

 ディナリスは気絶したジルベールを担いで彼の自宅まで送って行った。

 家で待っていたレプラは何ともいえない顔で迎え入れる。

 彼をベッドに寝かせた後、警護をサリナスに任せてレプラはディナリスとともに夜の散歩に出かけた。

 しばらく無言で歩き、辿り着いた砂浜は少しだけ欠けた満月が昇っており、砂つぶが青白く煌めいていた。

 沈黙を破ったのはディナリスだった。


「てっきりアンタには怒られると思っていたよ。

 可愛いジルをこんな酷い目に! って」

「浮気した男を殴るのは悪いことではないでしょう。

 たしかに気絶するまではやりすぎだけど」

「……血を吐かなかっただけでも大したものさ。

 ちゃんと鍛え続けているんだな」


 ディナリスは空を仰いだ。

 考えていたのはジルベールの変化について。


「だいぶ、男になってきたよなぁ。

 身体も、心も、バカさ加減も。

 ハハっ。初めて会った時はもっと線も細くて柔らかくて、娘のような感じで可愛かったのに。

 顔立ちは端正なままだけれど顔つきが締まってきたと言うか……」

「毎晩毎晩、あの子の『男』を求めて褥に招いていたのはどなた?

 あの子は期待に応えることが染み付いているんだから、当然男らしくもなるでしょうよ」


 嫌味っぽくディナリスに告げるレプラ。

 二人の関係を祝福しているレプラだが、それとは別に弟がよその女に夢中になっていることに嫉妬する気持ちは持ち合わせている。

 独占欲は男女の愛以外にも棲みつくものだからだ。


「ああ。そこにシウネまで加わってさらに跳ね上がった。

 もしかすると今のがジルベールの本当の姿で、今までは抑圧され続けていただけなのかな?」

「でしょうね。あの子、お忍びで王都を歩くときはいつも女装していたのよ。

 とても可愛くて不自然では全然なかったけれど。

 頑張っていたけど心の奥底では王としての責務から逃れたかったんでしょうね。

 本当の自分から遠ざかった女でいる間だけ王でなくて済む、なんてね」

「憐れな話だよ。

 王のくせにたかだか女を二人囲うくらいで世界が滅びるかの必死さで拝み倒してくるんだから」


 ディナリスは笑った。

 月明かりに照らされ彼女の美しい鼻梁が光で縁取られるのをレプラは見つめ、気づいた。


「そこまで怒っていないのね。

 シウネと浮気をしたこと」

「怒っていない……わけでもない。

 アイツは約束を違えたからな。

 その上、格好悪いところも見せてきた。

 なんだよ、二人とも愛しているからお前を抱きたい、って。

 浮気の弁解ついでにそんな事を言われてホイホイ股を開けるかってんだ」


 レプラは声を殺すように笑った。

 そして、安心した。

 決別に至る話にはならなさそうだと。


「シウネは今頃、お家で悶々としているわ。

 乗り込んでみましょうか?」

「私の顔を見たら初夜の余韻も冷めてしまうだろう。

 もうしばらく、夢うつつにさせてやるさ。

 私もシウネは嫌いじゃない。

 たぶん、向こうもそうだと思うんだ」


 レプラの提案を跳ね除けるようにディナリスは首を横に振り、足を止めて、彼女に向き直る。


「もし、ジルベールがシウネを抱く前に私にお伺いを立ててきていたら、罵倒した挙句決別していたかもしれない。

 だけどそうはしなかった。

 シウネを抱くのに、私が許可を出した、とか、既に別れた、なんて免罪符を使わなかったのは評価してやる。

 事が終わってから頭を下げに来るのはどうかと思うが、『二人を幸せにするためにはどちらも愛さなくてはならない』なんて開き直りをあれだけマジメに言われてしまってはなあ」


 ディナリスの口からジルベールの言葉を聞いてレプラは頭を抱えた。

 彼の罪悪感を和らげるために彼の父の話を引っ張り出したが、曲芸的な思考の跳躍経て、とんでもないところに行き着いていた。


「二人とも……愛する?」

「なっ。そうなるだろう。

『シウネを抱きたい。

 ディナリスも抱きたい。

 そして二人も俺に抱かれたがっているから、全ての願いを叶える!』

 と、あの他人想いの王様が思い詰めた結果だ。

 ハハハ、実に傲慢で都合がいい理屈だよ」


 笑うディナリスにレプラはおずおずと頭を下げる。


「ごめんなさい。

 それはさすがに……私の教育が間違っていたとしか」

「いやいや、そう悪いものでもない。

 世の男は複数の女に懸想し、あわよくばと浮気を企てるものだ。

 そこにあるのは美味しいところだけをつまみ食いしたい卑怯者の理屈だ。

 しかし、ジルベールは違う。

 勿論、若さ故に欲望を抑えられなかったというのはあるだろうが、ただ美味しいところを食べるだけでは終わらせようとしていない。

 繋がりを持つことで生まれる煩わしさや苦しさも全部引っくるめて二人分愛する————そんな、覚悟があるように思えたよ。私にはな」


 笑みを浮かべながら夜空を仰ぐディナリスの表情はピカピカと光っているようにレプラには見えた。


 結局、この子もジルのことが大好きで仕方ないのね。


 と、ほくそ笑むと努めて明るく声を出す。


「そうね。でも、しばらくは針のむしろに座らせておきましょう。

 まったく罰がないのもあの子のためにならないし」

「あっはっはっは! 本当に厳しいねえ様だことで」


 ディナリスとレプラは笑い合った。

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