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初日

「うーん。ロボット掃除機は改良の余地ありかな」



 町の郊外にある年季の入った一軒家、その家のリビングで壁に張り付いているロボット掃除機の動きを眺めながらタブレットをいじる14歳の少女の姿があった。彼女の名前は陽向。プログラミングの他、数々の工学技術を有していている。そのため、今回はロボット掃除機の挙動を直そうと素早くフリック入力を行っている。



「これでよしっと」



 ロボット掃除機のプログラム修正画面の保存ボタンを押し、再びロボット掃除機を起動させた。


 その挙動は陽向が望んだもの通り、ゴミ箱の中に入り自動でゴミを勢いよく噴出してくれるものだ。タブレットを使い指定の場所で出すこともできる。陽向自身も笑みをこぼしご満悦だった。しかし、すぐに動きがおかしくなったため確認したところ紙パックの交換が必要ということだった。



「後で買いに行こうかな」



 ロボット掃除機のプログラム修正を終え、そのままタブレットをいじり続け大手検索ポータルサイトへと向かう。


 そのサイトは検索エンジンの他、ニュースや天気までわかる。



「明日のこの町の天気は、晴れか。洗濯物がよく乾きそうかな」



 陽向は一人呟きながら他のニュースを見る。町の中心部で窃盗事件が起こっただの、最近は個性的な装飾を施した棺桶が人気など数々のニュースが表示される。



「興味深そうなのがないなぁ」



 ニュースのページを下にスクロールし続けると、陽向の目に一つの興味深い記事が止まった。



『強盗犯を確保、正義の女性ヒーロー』


 


 タップしてみると、その場に偶然居合わせた女性をが強盗犯を拘束しヒーローと讃えられているということだった。


 ヒーロー。陽向が幼い頃に何度も憧れた言葉だ。しかし、現実とは悲しいものである。運動神経は良くないし、何より勇気がない。いつの日かヒーローになるという夢は諦めていた。



 ニュース画面を閉じようとした際、突如ページ丈夫に速報の文字が出現した。


 そこに書かれていたのは──『速報 太陽が動かず』だった。



「は?」



 陽向は文面を上手く咀嚼出来なかった。そのため、すぐにその速報をクリックしてニュース記事に飛ぶ。


 太陽が止まる。それは、東の方角から少し昇った太陽──朝の七時頃の太陽が突如として動きが止まったらしい。


 陽向は急いで窓の方へ行き窓を開けた。目をゆっくりと細めながら太陽を見る。



「わかんない……」



 一日で一周しかしないのだから、数秒見たところでその動きを視認するのはまず不可能である。実際、現在時刻は7時53分とほぼ1時間が過ぎていた。


 タブレットでSNSを確認する。7時半頃から太陽がおかしいという人が現れた。最初は少なかったが、ニュースになった途端爆発的に増加している。


 その後しばらくSNSではそれ関連の投稿がほとんどを占め、挙句の果てには町長が臨時の記者会見を行うと発表があった。


 テレビなどでも生中継されるということで、陽向はタブレットを睨んだ。臨時ということだけあり、すぐに町長が会見場に立ち会見は始まった。



「本日午前七時頃より、太陽の動きが停止しているのが確認されました。原因や影響、その他諸々については未だにわかっておらず、我々としましても自体の原因究明に努めております」



 町長はそうはっきりと全町民に告げた。高度に情報化された今日において、町長の会見はまたたく間に町中に広まった。普段からテレビなどを見ない人でも知るところになった。そうなれば、パニックが起こるのは必然であった。


 陽向の家は比較的郊外であるため喧騒は少ないが、SNSを見る限りでは大勢の人がパニックになり騒ぎ立てたり暴行事件が起こってる。ノストラダムスの大予言や2012年人類滅亡説などが流布されたときもこのようだったのか、と陽向は考えた。



 しかし、人間の慣れとは恐ろしいものでパニックは数時間も立たぬうちにほぼ沈静化した。理由は明白、太陽が止まっただけでありそれ以外には全く影響がないからだ。SNSでは夜空の星が見られないと悲しげに嘆く呟きもあるが、それ以外は悲観的な意見は少ない。それに、そのうち動き出すのではないかという楽観的なツイートが瞬く間に広まったこともある。



「大丈夫そうかな?」



 SNSで町の様子を見るが、完全に沈静化したようで関連ツイートはほぼ消滅していた。もともと陽向の住んでいるところが郊外ということもあり、陽向は外へ出て自転車に跨った。そして、タブレットで近くの販売店を探しだす。



「えっと……この先の果てにあるのか」



 タブレットの電源を切ると、そのまま陽向は販売店へと向かった。販売店で紙パックを購入し、ついでに改良の部品も買う。次の改良はさらなる吸引力の強化だ。


 その後家に帰るが太陽は依然として午前七時の場所から動こうとはしなかった。しかし、夜空は夕刻同様に茜色に染まっている。



「どういうことだ……ん?」



 紅茶片手に窓から目を細めて太陽を眺めていると、一瞬太陽が点滅した。陽向自身も信じられず、瞼を擦り再び太陽を見る。だが、点滅したのは一瞬だったので誤認識なのか真実なのかはわからなかった。


 その後、夜の帳が下り空は黒に包まれる。しかし、太陽は決して動かず夜空に浮かび上がる星々と共存していた。

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