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転生者に生まれるという事

転生したら、泣きながら罵倒されました

丁度良い長さに、と思っていたのですが、変に切ると寧ろ読みづらくなるかもしれないと判断したので、そのまま掲載する事にしました。少し長いかもしれませんが、お付き合い頂けると幸いです。

「――私の子供を返して!!」




 それが、私がこの世に生を受けて最初に聞いた言葉だった。


 ――この声は聞こえているのだろうか?一体何処の何方に聞こえているのかは、時空を曲げて声だけ届けているので私にも分かっていないのだが……。

 一応言っておくと返事は出来ないが、君の頭がおかしくなった訳では無いから安心して欲しい。

 因みに、この声が聞こえたという事は、君には優れた魔法の才が有るという事だ。もし既に魔法に関連した職についているなら誇ると良いし、就いていないのであれば目指すと良い。……まぁ、その辺りは君の自由だ。お節介だったかな。すまない。




 私は転生者……要は前世の記憶を持っている人間だ。世界にもよると思うが、私のいる世界では珍しくはあるが見つからないほどではない程度にはいる存在でもある。前世でトラックに跳ねられて……気付いたらこの世界にいた。よく有る小説の様にチート持ちで、それなりに上手くやれている……と思う。名前も勿論あるのだが……『勇者』以外の呼ばれ方をしないのであまり意味はない。割愛させてもらう。




 ―――唐突にこんな自分語りを始めて申し訳ないが、少し、私の話に付き合って貰えないだろうか?見知らぬ男の昔語りと聞き流してくれても構わない。急にこんな声が聞こえてきたのだから、さぞ恐ろしい事だろう。危険性は一切無いと保証するのでそこだけは安心して欲しい。



 私は()()()語っておきたい事があっただけで、その相手が偶然君だった、それだけの話だ。君にとっては不運な事かも知れないが。


 因みに今の私は瀕死の状態だ。魔王や悪龍を倒し、戦争を生き抜き……ようやく一息つけると油断した所を呪われたらしい。

 ここは私の自室だから部外者が入る事は基本的に無いし、呪いを解くのは専門外なので直す手段も分からない。


 そも、負のものを退ける力を持つ勇者を殺せる呪いなど常識を逸している。救援を呼んだ所で、恐らく助かる事はあるまい。今の私には呪いによって死ぬまでこうして転がっている事しか出来ないのだ。勇者の力のせいで効果が出るのに時間がかかっている様だが、末路に変わりは無いだろう。つまりこれは遺言でもあるという事だ。




 あるいはこれが、何処ぞの国が備えていると聞いた対勇者抹殺兵器とやらなのだろうか?

 それとも魔王軍の残党の仕業だろうか?魔王本人や大部分の魔族とは表向き死んだ事にして秘密裏に和睦を結んだとは言え、一部の過激派が私を恨んでいるとは魔王からも忠告されていた。もし此方だとすると彼女(魔王)に申し訳が立たないな……。



 まあ、死因は呪殺で間違いないが、誰がやったのかはよく分からない。世間じゃ色々と言われているが、勇者なんてその程度だ。

 この国の国力も落ちるが、外交面での問題はある程度解決しているから問題ない。

 ――そもそも、今の世界に壊す事しか出来ない私は危険なだけで必要無いのだから、死んでも困る人はいない筈だ。私自身にも思い残す事は無いから、あまり気にしないで欲しい。いつかはこうなると思っていたんだ。仕事柄、恨みも買っているからね。




 ……脇道にそれてしまったな。人と話すのは随分と久しぶりで、柄にもなく喋り過ぎてしまった。()()()()より、私の話をさせて欲しい。


 私が生まれてしまった事で不幸になった……とある女性への懺悔の話だ。






 先にも述べたが、私の転生はトラックに跳ねられて起こった。前後の事はあまり覚えていないし、有りがちな神様に出会ってどうこう、といった事も無かったので正直詳細は分からない。



 だが、生まれて最初に言われた事だけは良く覚えている。





「――私の子供を返して!!」





 私の今世の母親であろう女性が此方を睨みつけ、泣きながら叫んだ言葉だ。


 どうやらこの世界では、転生者が生まれてくる事が分かる方法があるそうだ。

 強大な力を持って生まれて来る子供たちを保護・観察して、育成していく機関があるとも聞いた。危険だと判断された親元からすぐに離された私を養育したのもその機関だと聞いた。



 とは言え、基本的に親元と離されるとは限らないらしい。転生者とは言え自分たちの血を引く子である事に違いは無いと、実の子として愛情を注ぐ親も珍しくは無いと聞いた。


 そもそも転生者とは言っても、本来生まれて来る筈だった子供の魂と亡くなった誰かの魂が混じり合っている状態だから、前世の記憶は断片的だし性格なども本来生まれて来る筈だった子供に似るらしい。チートを持っているかどうかも半々だそうだ。


 転生者を自分の子として育てるのに忌避感が無いのはその所以もあるのだろう。混ざりものがあるとは言えベースは自分の子供という訳だ。



 そもそもこの国は生活レベルや国民の倫理観の成熟度もそこそこ高いから、国も無理に子供を取り上げるなんて残酷な事はしないし、子供を 兵器として育て上げるなんて非道な事もしないと法で定めている。


 長い歴史の中で転生者が何度も生まれて来た関係で差別もそれ程強くは無い。――――差別が無いとは口が裂けても言えないが………片手で自分を殺せる相手を平等に扱え無いと言うのも、まぁ仕方のない事だ。



 私を預かってくれた機関自体も養育よりは転生者を育てる親のための相談所や、転生者が起こした事件や転生者への差別問題に対応する為の部署といった側面が強いらしく、私の様に預かられている子供は他に居なかった。




 とは言え私は、私を産んだ彼女(母親)を恨んではいない。寧ろ、私が言った悔恨とは彼女(母親)に対してのものだ。

 世間は彼女を『愛の無い親』、『差別意識に塗れた社会の汚点』などと散々詰ったと聞いたが、私にはとてもそうは思えない。



 実の子、まして愛する夫を亡くしたすぐ後に懐妊が発覚したという忘形見が、知らない転生者(誰か)だったなんて、狂乱して泣き叫んで当たり前だと思うのだ。そんな転生者(赤の他人)を罵倒して一体何が悪いのだろうか。



 彼女(母親)にしてみれば、レイプ魔との子供を突然懐妊した様なものだ。胎の中にいる子を、得体の知れない化け物の様に感じてしまったとしても仕方ないし、その化け物を愛さなくても可笑しくは無い。





 子供に罪はない、それは確かに正しいのだろう。私も、別に転生を望んだ覚えは無いし、彼女の子として生まれようと思った記憶も無い。不可抗力に責任を求められても、正直なところ何も出来ない。




 だが、そんな正しさで救われないのもまた真実だ。「仕方ない」、「諦めろ」、「子供に罪はない」………そんな言葉で彼女の心が癒せるものか。


 子供への愛が、『正しさ』なんて冷酷なもので救えてたまるものか。


 彼女には転生者()を拒絶し弾圧する権利が十分にあったと私は思うし、その言葉を受け入れなくてはならない余地も私にはあった筈なのだ。


 けれど周囲はそれに反発し、『正しさ』という圧力を持って彼女を断罪した。


 今も死んではいないが、母親(彼女)は貧民街の片隅で人目を避け、一人生きているらしい。


 別に周囲の人々が間違っていた訳ではない。親が子を()()()()、そう、()()()()()()()()()()()罰するのを止めただけだ。


 ―――何故彼女は愛せないのか


 そう彼らが言うのも、間違った事では無いのだろう。






 それでも、それでも私は許せない。


 生まれてしまった事を許せない。


 彼女の子を、亡くしてしまった事を許せない。





 愛があるか何て関係ない。


 私は彼女の子供なのだ。


 彼女の最愛を殺した最悪なのだ。





 故に、償わなくてはならない。


 この、彼女の最愛から奪った全てをもって。





 そう、償わなくてはならないのだ。



 忘れられずとも、


 憎まれ続けようとも、


 一度も、許されないのだとしても。




 ……それが、私が生きてきた理由だった。


 彼女に償うために勇者になった。


 この国を守るために戦った。





 それも、もう終わりみたいだが。


 世界は平和になって、私は余分になった。


 最悪であった筈の私は、いつしか最高と呼ばれてしまった。


 化け物として生まれた私は、いつしか本当の化け物になっていた。



 宮廷の片隅に部屋を与えられ、誰からも恐れられて過ごした。会いに来る人間も、今や稀なものだ。―――そういえば、配管の関係か少し暖房の効きが悪い部屋なので、改善して欲しいと要望を出すのを忘れていたな………まぁ、今更どうでも良い事だ。

 勇者なのに……と思わなくもないが、核爆弾のような存在を自由に動かすのが危険である事も間違いないし、勇者()が動かねばならない事態が起こっていないのはむしろ幸いと言うべきだ。この状況も国としては『正しい』判断だ。

 今此処でこうして消えていく事も。



 いらないものは、消えて、無くなる。


 一つの真理だ。単純で冷酷な『正しさ』だ。




 だからもう、これで良い。


 私が死んだら、私の資産は彼女に譲られるよう手続きしてある。


 これで償いは十分だろう。そう信じたいものだ。彼女の子が返ってこない以上……所詮、償いなど自己満足に過ぎないのだから……。



 つまらない話を聞かせて悪かった。これでもうお終いだ。最後に、誰かに聞いて欲しくなった弱い私を許して欲しい。……すまない。語っておいて何だが、この話は忘れてくれ。その方が君の為でもあるだろう。


 それと、ありがとう。最後にこんな話を聞いてくれて。何故か、救われたような気がするよ。


 本当に、本当に…………ありがとう……。



 ……そろそろ限界みたいだな。身体中が軋むのなんて、昔、龍と戦った時以来だよ。


 ……じゃあな、付き合わせて悪かった。君の将来が、素晴らしいものである事を祈っている。



 …………では、さようならだ。



 後悔は無い。いらないものはいらないものだ。それ以外になんて成れやしない。


 ―――あぁでもやっぱり……少し寒過ぎるな……この部屋は………………













 「―――いいえ、まだです!!『魔呪解除(ディスペル)』!『呪根消滅(アンチカーズ)』!!」

 「まだ死ぬんじゃないぞ、勇者!!『完全治癒(グランドヒール)』!『魔術返し(リフレクション)』!!」



 ―――目を閉じた暗闇に、聞き覚えのある女性達の声が響いた。いや、だが……何故彼女達が此処に………?




 急に軽くなった体を起こし、目を見開いた先に立っていた女に……いや自分を取り巻く人々に驚かされる。


「何故……お前が此処にいる?それに皆……こんな所で何してるんだ!?」


 この国の王子に姫様達……さらには各々の国に帰った筈の、魔王討伐(かつて)のパーティーメンバー達まで………彼らは身分も高く、それぞれの国の中枢に地位を得ている筈だ。まかり間違ってもこんな場所に簡単に集まるような存在ではない。転生者とは言え貧民出身の私では、二度と会う事も出来ない人々だろうとすら思っていた。




「ゆ、勇者様ぁぁぁぁぁぁ!!」

「何故って……当たり前だろう!!」

「普通、お前が死にかけてるとか聞いたら、全部ほっぽり出してでも駆けつけるに決まってんだろ!?」

「私、何かあったら連絡しろって言いましたよね!連絡先も渡しましたよね!?何で直ぐに連絡しないんですか!!私、これでも聖女ですよ!?」

「というか、お前なら呪いを受けても動く事ぐらい出来る筈だろ!!何で直ぐに宮廷魔道士の僕の所に来ない!!」




 とんだ藪蛇だった。


 泣き出す者、怒鳴り出す者、抱きついてくる者、胸倉掴んで来る者……………これで好かれていないと勘違いする程、鈍感ではないつもりだ。


「いや、分かった!すまん!!分かったから!!俺が悪かったから!!」



「全く……ちゃんと忠告してやったのに気を抜くからだ。何をやってるんだ君は」


「いや、だから何でお前が此処にいるんだよ!魔王!!」


「ん?いや、だって世間が落ち着くまで待ってから、こっそりお前のサプライズパーティーするって聞いて、戦後交渉と親善も兼ねるつもりでやって来たら…………お前なんかヤバイ呪いでぶっ倒れてるし……しかも何か遺言っぽい事言い出すから慌てて解呪出来る奴を探す羽目になったしな……」


「は………?」


 ちょっと待て、サプライズパーティー?

 いや、その前に……もしかしてこいつに聞かれてたのか!?よりによって!?こいつに!?


「魔王に向かって魔法の才能があるとかよく言えたな、お前。と言うか、そんな余裕あるなら先に救援呼べよ。本当何やってるの?こっちはお忍びで来たら、いきなり無案内な城の中で関係者の捜索とか、聖女と一緒に呪いの解呪とかやらされてヘトヘトなんだが!?というか、勇者の遺言を魔王が聞いちゃうとか気まずさ半端ないんだぞ!?」


「何でお前が聞いてるんだよ!!嘘だろ!?おい!!」


「残念だったな!!既にお前の遺言とやらは関係者達に拡散済みだ!!その件で()()()したい奴らが沢山いるらしいぞ!ザマァみろ!!」



「嘘だろ!勘弁してくれ!!ただの黒歴史じゃねぇか!!くっそ、こうなったら直ぐにでも逃げ出して……「勇者様?」……ナ、ナンデスカ、姫様………」



 ヤベェ、姫様が怒ってる。曇りひとつない笑顔なのに威圧感が尋常じゃねえ………!!いつもニコニコしてるけど怒るとめちゃくちゃ怖いっていう王子様の話は本当だったのか……!!今まで嘘だと思ってた!すまん、王子!!



「勇者様、何か別の事を考えてらっしゃいませんか?」



「ヒッ、……そ、そんな事はありませんよ姫様!!」



「そうですかそうですか……それは良かったです。よく分からない勘違いを積み重ねて勝手に死にかけていたおバカさんには、この際ちゃんと()()()して、しっかりと理解して頂かないといけませんから………」



「も、申し訳ありません……」



「まず最初に言っておかなくてはなりませんが、我が国に貴方を害そうという意思はありません。世界を救った貴方を不当に害したら、この国が他国に攻められるどころか女神様が天使を率いて人類の断罪に来ます。何より貴方を害そうとか考えてる奴は見つけ次第、私が八つ裂きにしますので」



「ひ、姫様が八つ裂きとか言って良いんでしょうか……?後、女神様が断罪に来るというのは真でしょうか……?」



「此処にいる人達は私の本性を知ってるので問題ありません。皆同意見のようですしね」



「えぇ………」


 マジか。天使みたいに綺麗で純真な人だな、とか思ってたのに………。てか何で全員頷いてるの!?怖いんだけど!!めっちゃ怖いんだけど!!



「女神様が断罪に来ると言われても信じられないのは分かりますが、聖女様が神託で直聞きしているので間違いありません。王家に伝わる伝承でも、勇者を暗殺した国が天使に攻め滅ぼされた話が伝わっているので信憑性は高いですね」



「そんな………」


 死を望まれているのだと思っていたのだが………。よもや間違いだったとは……。


「もう一つ勘違いを正しておくと、貴方の母親は貴方を恨んでいるわけではありませんし、まして自らの子を殺されたと恨んでいるわけでもありません」


「え?いや……でも、あの時………」


 「私の子供を返して!!」と叫ぶ彼女の形相は、今も私の脳裏に焼き付いている。あれが何かの間違いだったとは思えない。


「あれは私たち王国側の対応に問題があったのです。貴方の母親は今も貴方を愛しておられますよ。……本当にご立派な方です。何なら、今もこの場におられますよ?―――アリサさん……私達は暫くの間、何も見ていませんから……………どうか……どうか、思うままに」



「ッ!!」


 王女様の言葉を受け、弾かれたように駆け寄ってきた女性がいた。まるで壊れものを抱くかのように私を抱きしめながら、ひたすらに「ごめんなさい」と涙ながらに謝り続ける女性………。

 顔に見覚えはある。王宮で侍女として働かれている方だった筈だ……。時々遠くから私をじっと見つめている事があったので覚えていた。もしや、彼女が………私の……?


「その方の名はアリサ。平民出身の……紛う事なき、貴方の母親です。今日までの長きに渡り……貴方の身元引き受け人である、王家と彼女との間で結ばれた協定が守られる限りという契約ををもって……下級侍女の一人としてこの国に仕えて頂いていました」


 王女様の声がまるで遠い所から届くように私の脳内に響く。


 ―――契約?

 ―――協定?

 ―――何故……何故、その様な事を……?


「協定の内容は……貴方の母と名乗り出ない事、貴方に意図的に接近し過ぎない事……貴方に関する事項について……可能な限り直接、間接問わず貴方と接触しない事など……。要は、貴方の母親としての権利や義務の一切を禁じる為のものです……。もし違反した場合には、彼女自身と彼女の身元保証人となっている賢者様、教会の大司祭様にも責任が及び、罰せられると規定されています。……今改めて見ても、あまりにも残酷な契約ですね………」


 母親としての権利を封じる……?何故、その様な契約を……。まさか……王家は脅迫を……いや、この国の人々は基本的に法と良心に篤い。王家の方々も信用出来る人々だ。理由なくこんな事を強いる人ではない。……だからこそ、何故……?



「契約を結んだのは当時から国王である父上になります。……当時の王家や転生者保護局には疑念があったのです。貴方の母親であるアリサさんが……貴方を殺してしまうのではないか、と。………此処から先は非常に個人的な話も絡みますが……本当に此処で話して構わないのですね?アリサさん」


「ええ……()()である私にそれ程気を使う必要はありません……王女殿下。それに王家の方々には何度も契約の破棄を提案されていました……王家に責はありません。あくまで私が望んだ結果なのです」


「貴女のご意志は分かりましたが……。父上からも非公式の場で謝罪して欲しいと言われているので、謝罪は撤回致しません。続きを話しましょう。……私達がアリサさんに疑念を抱いていた理由……それは当時の彼女の境遇にありました。勇者様、貴方は自分の生まれを貧民街だと聞いていますね?」


「はい」


 幼少の頃に伝えられた事だ。お陰で勇者になる時も貴族連中からの差別が酷くて大変な目に遭わされた。


「それは間違いでは無いのですが……真実は少し異なります。………貴方の生まれは、貧民街にある牢獄塔です。………当時、囚人として収容されていたアリサさんが獄中で生んだ子供………それが貴方です」


「は……?獄中?」


「ごめんなさい。私は……薄汚れた元囚人なの。だからこそ、ずっと遠くから貴方を見つめる事しか出来なかったの…‥…本当にごめんなさい……」


「アリサさんの罪は殺人……。それも自分の夫を殺し性行為を強要して来た転生者を、寝台で殺したというもの……。状況は正当防衛とも言えるでしょうし、情状酌量の余地も十分にあった……本来、人を殺すような人では無い事も調査によって分かっていたのだけれど………それでも、殺人は殺人。私達は、彼女を信じきる事が出来なかった。貴方は生まれつき勇者の素質を持っていましたし……。何より、夫を殺し、自分を強姦しようとした存在(転生者)を胎に宿すなんて……彼女には耐え切れないと、もし、自らの子を殺してしまったら……あまりにも残酷すぎるし、生まれた(勇者)にとっても危険だと、生まれたばかりの貴方を母親と引き離す判断をした」



「じゃあ……あの時、母が叫んだのは……」


「『私の子供を返して』……自分の子と引き裂かれようとしている母親なら、そう叫ぶ事は当たり前の事でしょうね」


「そんな……」


 全て、私の勘違いだったという事か……。


「寧ろ貴方の母親はとても愛情深い方ですよ。一人の人間として尊敬する程に……。彼女は、自らの子と離れ離れになったと知ると、すぐに模範囚となり、一言でも自らの子に害意を示す発言をしたら処刑してくれても構わないとすら豪語して、大司祭様の前で賢者様から『嘘感知』の魔法を掛けられた状態で、決して貴方を害する存在では無いと神に宣誓までしてみせた。お二人がアリサさんの身元保証人になったのはこの時だそうです。………王国としても、貴方に害意が無い事を立証し、大司祭様と賢者様を味方につけた彼女を無下に扱う事は出来なかった。が、同時に転生者に恨みを持ち、殺人犯でもある彼女を貴方の身近におく事は躊躇われた……。残念ながら感情は……不変のものではありませんから。いつか起こるかもしれない悲劇の可能性を避ける為、王家は彼女と契約を結びました。それが、先に述べた契約です。………それから二十年、ずっと契約を守り……あなたを遠くから見守り続けた………。本当に素晴らしい方ですね、貴方の母親は……」


「そんな………」


 愛されていないのだろうと思っていた。

 憎まれているのだろうと諦めてきた。


 全て、全て勘違いだったなんて……。

 誰かが悪いわけではない。守る為に、母を私から遠ざけただけ。……じゃあ私がしてきた事は……いや、今はそんな事よりも、優先すべき事がある。


「お母様……」


「囚人の私をそう呼ばないで……。貴方は勇者……立派な勇者なんだから。私みたいな存在に拘っちゃダメなの!!」


「いいえ!例え貴方に許されずとも、私は貴方の息子です。………今まで、申し訳ありませんでした。……そして、ありがとうございます。貴方の子に生まれた事を……誇りに思います……」


「そんな!!だって私は……!!」


 伝わらない。こんな言葉だけでは、決して。胸の中で震える私の母に、どうすればこの想いは伝わるだろうか……?


「何十年かかっても良い……いつか親子になりましょう。二十年、ずっとし続けた親不孝を償う機会を、私に下さい」


 母を抱きしめ、思いを告げる……誓いを共にして。……こんなに小さな背中で、この人はただ背負い続けたのか。


 親が子を思い育てる事は奇跡……。前世でそんな言葉を聞いた事がある。今、心から真実だと思えた。


「お母様。今度は私が、守らせて下さい。何度でも言いましょう。貴方の子に生まれた事を……何よりも誇りに思います」


※誤字報告、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] > そもそも転生者とは言っても、本来生まれて来る筈だった子供の魂と亡くなった誰かの魂が混じり合っている状態だから、前世の記憶は断片的だし性格なども本来生まれて来る筈だった子供に似るらしい。チ…
[気になる点] 夫=強姦魔(転生者)ということであってますか? [一言] 素晴らしい作品をありがとうございました!
[気になる点] 表と裏も欲しかった! [一言] SF作品だと、<クローンに自身の記憶転写>で復活という倫理問題を扱った作品は多いですが、「なろう」では少ないですね。 知る限りでは「同居」の葛藤までか…
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