〜親愛なるお母さんへ〜
この話は、完全実話のノンフィクションです。
記憶を辿りながら書いたので、曖昧な部分がありますが、ご了承ください。
※この話は完全ノンフィクションの実話です。
「さゆ、行くよ。」
「ママー!待ってー!今行くー!」
お母さんの静かな声とは裏腹に、元気な声で返事をする。ここから、何もかもが音を立てて壊れていくことを、当時の私は知らなかった。
私の名前は藤原 咲夢
当時、田舎の学校に通ってた小学生3年生の9歳だ。
運動が大好きで、ソフトボール部に所属していた。
私は、自分を含めて三兄弟の末っ子だ。
兄弟は後々出てくるから、紹介は後にしよう。
当時の私といえば、とにかく活発で明るい子だったと思う。なにより、家族が大好きだった。
そんなある日の朝、
「さゆ、行くよ。」
いつもの明るい表情とは打って変わって真剣な眼差しで母が言う。
今考えれば、そこから歯車が狂った。
両親の離婚だった。
わけも分からず車に乗り込む。
「なんだかワクワクするね!」
兄の都夢が答える。
「そうだな。」
当時、中学1年生だった兄は分かっていたのかもしれない。
「さゆ、静かに座ってない危ないよ。」
当時、小学生6年生の姉の美夢が言う。
「着いたよ。」
お母さんの声で皆目を覚ます。
そこには、初めて見る家、男、その男の子供が3人居た。
「今日から一緒に暮らすんだよ。」
私はよく理解しておらず
お友達が増えた、その感情しか無かった。
それからどれほど経ったのかは定かではない。
11年も前の記憶だ。
気付けば、兄、姉はもう一緒には居なかった。
なんでだろう?なんでお父さんの所に戻ったんだろう?私には全く分からなかった。私は根っからのお母さんっ子で、小さい時からお母さん以外には懐いてなかったらしい。あの時、戻っていれば。と、11年経った今でも凄く、物凄く後悔している。
あれは昼下がりだったろうか。
お母さんの手首に傷があるのが見えた。
「ママ、手首どうしたの?」純粋な気持ちで聞いた。
「あぁ。ちょっと転んでね。」母は、おどけて笑って見せた。
じゃあどうして、隠すようにバンドを巻いているのか。違う。転んだ傷なんかじゃない。リストカットだ。子供ながらに何故かわかった。
何かがおかしい。そう思っていた矢先に、事件は起こった。
深夜、私は物音で目が覚めた。
何かが聞こえてくる。
すすり泣く声だった。
私は慌てて部屋のドアを開け、声がした方に目を向ける。泣いていたのは、母だった。
その隣には、9歳の私にはあまりにも恐ろしい形相をした男が立っていた。
その時からか、私は憎い、という感情を覚えた。
急いで母の元へ駆け寄る。
「大丈夫よ。部屋に戻ってなさい。」
母はやっぱり泣いていた。
子供の私が出てきたからか、男は優しく言う。
「ちょっと言い合いになっちゃって。泣かせてごめんな。」
なにも状況が掴めないまま、母に連れられ部屋に戻された。
目が覚めると、いつも通りの母の姿があった。
昨日のはなんだったんだろう?夢?
母は一生懸命隠していたのだと思う。気が強く、誰よりも優しい母だ。きっとそうだと思う。
それからと言うもの、私たちは家を借りては出て、借りては出ての生活だった。
過ぎ行く時間に置いてかれないよう、追いつくのに必死だった。
また事件が起こった。
明らかに隣から聞こえる不協和音。怒鳴り声だ。
「今すぐさゆを連れてこいっ!!」
その声が聞こえた直後、走ってくる足音がした。
「さゆ!行くよ!!」
母だった。靴も履かず、外へ飛び出す。
田舎の夜の街だ。とても静かである。
私と母の足音、そして吐息だけが妙に澄んで聞こえた。
「ごめん!かくまって!」
すぐ近くのBARに駆け込む。どうやら母の知り合いの店らしい。
「どうしたの!?こんな夜に!」
「お願い!かくまって!」
母は急いで言う。
オーナーと見られる女性に奥の部屋へ案内される。
詳しく事情を説明した。
「なるほどね。分かったわ。すぐに迎えを手配する。とりあえず、お父さんの所へ逃げなさい。」
今はそうするしか無かった。
とりあえずその日は朝までその部屋で寝た。
早朝に迎えが来たので、とりあえず父の元へ向かう。
しかし、やはりいい顔はしない父。
私がいるから、と渋々だが居させてくれた。
私は冷静になって気付いた。
お母さんが苦しんでる理由は、私自身だ。
私がいるから、お母さんはあの男に怒られてるんだ。
お母さんから、離れなきゃ。
小学生の私には、あまりにも酷だった。
酷く自分を責めた。大好きな母のため、そう思い我慢した。
私がお父さんの元へ戻ってからも、母は何度か家に逃げ込んできた。しかし、すぐに男に連れ戻される。
その繰り返しだった。メール以外で、母と話す手段は無かった。メールと言っても、1日2.3通、もちろん毎日ではない。母の声は、しばらく聞いていなかった。
月日は流れ、小学生の卒業が近づいてきた。
参観日で、親への手紙を読むことになった。
友達はみんなお母さんが参観日に来ていた。
私の父は仕事が忙しく、少し遅れてきた。
丁度私が読み始めた頃、父が廊下から覗いてきた。
涙が止まらなかった。お父さんが嫌な訳では無い。
ただ、涙が止まらなかったのだ。
なんで。なんでお母さんはいないの。
事情を知っている先生は、私を優しく抱きしめ、
「さゆちゃん、頑張ろう。」
そう言ってくれた。
母が帰ってきた。喜んだが、期間限定だった。
なぜだったかは覚えていない。期間限定にしろ、お母さんといられることにとても喜んだことを覚えている。家族みんな揃うことが、こんなに幸せなんだって、いつまでも続きますように。そう願っていた。だけど、時は残酷で、あまりにもあっけなく最後の日がやって来た。部活で疲れた私は、帰ってすぐ寝てしまった。
「ごめんね...ごめんね...。また来るからね。」
私の頭を撫で、泣きながら母が言っていた。
母が部屋の扉を開け、車が出ていく音が聞こえた。
私は誰にも気づかれぬよう、布団に顔をうずめ泣き叫んだのを、今でも鮮明に覚えている。
その時からか、私は自殺を考えるようになり、自分の気持ち伝えるのが怖くなった。また。また誰かを傷つける。そう思ったからだ。
母が助けを求めに来た。
父と話し合いをしている。
私は母と警察に行くことになった。
正式にあの男から離れることに成功したのだ。
なんでもっとはやくって思うかもしれないが、きっとそれを考えれ無いほど、追い詰められていたのだと思う。
〜あれから11年〜
私は20歳になった。
相変わらず自殺願望はあるし、家族にも自分の気持ちを正直には言えないが、少しは強くなれた気がする。
時間はみんなに平等であり、どこかの誰かが亡くなっても周りは何事もなかったように、時を刻む。
まだまだあの頃を思い出して、泣いてしまうこともあるけど、それでも前に進まなくてはいけない。
お母さん、あなたは今幸せですか?
私は、あなたの元に生まれてこれてとても幸せだよ。
すごく辛かったけど、人の痛みを知ることが出来たよ。あの時のことは忘れたくても忘れられないけど、これだけは自信を持って言えることがあるんだ。
お母さん。私は今、誰よりも幸せだよ。
END
〜親愛なるお母さんへ〜
を最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。
まだ過去に苦しめられている部分はありますが、
今は、なにか親孝行出来ないかと考え母に向けて歌を作っています。
皆さんもどうか、両親を大切にしてくださいね。