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異変、忍び寄る影

 森の中へ入って、1時間ほどが経過した。森の中は草木によって陽が遮られている為に薄暗く、依然として巨大な木々に囲まれており様々な種類の植物やキノコ類が至る所で無差別に生い茂っていた。すると先頭で進行していたラフィットが突然立ち止まると振り返る。その表情はどこか険しくあまり良くない報せがある様だった。


「なぁ、やっぱりこの森おかしいぜ……ここまで来ても獣はおろか小鳥一羽すら見掛けないなんてよ……」


 ラフィットの言う通り、本来なら数多くの生き物たちが生息している筈のこの森で未だに生物と遭遇しておらず、ハッキリ言えば異常としか言えない状況であった。


「それだけじゃない。見ろ」


 バモンが地面に屈み込むと一粒の小さな木の実を拾って見せ付けた。


「この実はこの森に住む固有種のトビリスの好物だ。この時期になると奴らはこの実を自分の巣に備蓄する習性があるんだが……見て見ろ、至る所に実が落ちている。ここまで来る間にもそこら中に落ちていたと言う事はつまり、この森に今トビリスが居ないと言う証拠だ」


 本来ならトビリスが木の実を備蓄する際、かなりの量を巣に持ち帰るために木の実が地面に落ちているのを見る機会は少ないのだが、ここまでの数が落ちていると言う事はトビリスがこの周辺に生息していないと言うバモンの説は正しかった。


「やはり何らかの異変が起こっている様だな……取り敢えず少し休憩してから本格的に調査を始めよう」


 ルーベルの言葉にエアリスとラフィットは頷くと荷物を降ろして木の根元にもたれ掛かる。だがバモンだけは腰を下さず立ったままの状態で森の奥を見つめていた。


「バモン、どうかしたのか?」


「少し気になる事があってな……ルーベル、この付近を少しだけ探索しに行ってもいいか?」


「構わないが、何かあったらすぐに知らせてくれよ」


「分かった」


 バモンは軽く頷くと一人で更に森の奥へと進んで行った。やり取りを見ていたエアリスは不安げな表情を浮かべる。


「大丈夫ですか? 一人で行かせてしまって……」


「心配ないぜ。あいつは元々ソロの冒険者。何かあっても一人で対処できる実力はあるからな」


 ラフィットは全く心配しておらず、ルーベルも同様にそこまで気にかけている様子は無かった。それは二人がバモンという男の実力を知っていて尚且つ信頼しているが故の対応なのだが、エアリスはどこか嫌な予感がしていた。




 ーー○ーー




 三人を置いて一人、周辺の探索に乗り出したバモンは辺りを見回しながら森の中を歩き続けていた。すると目の前に一本の大木が倒れ込んでおり、それに近付くとバモンは倒木ではなく、倒木が生えていた切株の断面を確認した。見ると切株は不自然な断面をしており、腐食によって自然に倒れた訳でも人間に切り倒された訳でもなく、何か大きな圧力が加えられて倒されていた様であった。


(何かによって倒されている……この森にこれ程の力を持つ生物は存在しない。という事はやはり……)


 それを見たバモンはある確信を得る。というのも今回の異変についてバモンはある一つの可能性を示唆していたのだ。それは外部からの干渉。この森に本来生息する筈のない生物がここに住む他の生物を追いやったというものである。


「この大きさの巨木を倒せるモンスターは……この地域だと『ギガント・ホーン』かもしくは『ライノ・オート』のどちらかだな……」


 バモンはこの森の近くに生息するモンスターの中でもこの大木を倒せそうな力を持つ二体のモンスターを連想する。ギガント・ホーンは巨大な二本の角を持つ巨大な鹿型のモンスターでライノ・オートは全身を強固な鎧を纏っているサイ型のモンスターである。どちらも草食で普段は大人しいモンスターであるのだが、何らかの原因でこの森に迷い込んでしまい見知らぬ環境の中で興奮状態に陥って暴れたのだと推測した。


「だとしたらこの近くにいるかもしれない……取り敢えず戻って報告を……」


 異変の手掛かりを掴んだバモンは元来た道を引き返そうと振り返ったその瞬間、ある光景が目に入り息を飲んだ。そこにあったのは大木に刻まれた巨大な傷跡だった。


「……何だ!? これは!?」


 バモンは恐る恐る傷跡に近付いて行くと傷跡を指でなぞる。先程の荒い切株の断面とは違い、何か鋭利な刃物の様な物で刻まれていた。


「こんな傷、ギガント・ホーンもライノ・オートも付けられる筈がない……!! じゃあ一体何が……!?」


 先程、連想した二体のモンスターとは全く異なる痕跡にバモンの頭の中で様々な可能性が過ぎる。だがその時、背後に何らかの巨大な気配を感じ取ったバモンは咄嗟に振り返った。


「ッ!?」


 そして最後にバモンが見たのは巨大な黒い何かであった。

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