サルランタの都へ
生まれ育った村を滅ぼされた。
その言葉を聞いた瞬間、二人の表情は凍り付いた。エアリスはどう言葉を掛けてよいか分からず口を噤み、ロゼは深く聞くべきでは無かったと少し後悔の自責に駆られた。
だがそんな二人を横目にブレイドは自身の過去をゆっくりと語り始める。
「今から一年前の話だ。村がある日突然、何処からともなく現れたオロチの野郎の襲撃を受けてな……家屋も自然も農作物も何もかも滅茶苦茶にされたんだ。村にいた百獣拳使いの戦士達は皆んな必死に野郎を止めようとしたけど……みんな殺された……ライルさんも……」
「ライルさん?」
ロゼの聞き返した言葉にブレイドは説明が未だだったと気付きハッとする。
「あぁ! ……ライルさんってのは俺を拾って育ててくれたライオンの獣人でな……育ての親で師匠でもあるんだ。俺に百獣拳を教えてくれたのもその人なんだぜ!!」
先程までの重苦しい表情から一転してブレイドは意気揚々と育ての親であるライルの事について語り始めた。その楽しそうな表情から見てもライルという人物がどれだけ大切な人であったかが伺える。
「俺が無茶な事ばっかりしてたら頭にゲンコツ叩き込まれてよ! しかも容赦無く全力でだぜ? 何回も喧嘩してたんだ……でも優しかった……」
しかし始めは嬉しそうに語っていたブレイドであったが徐々に声色が弱々しくなる。だが再び握り締めた拳にはハッキリとした怒りの感情が込められていた。
「村だけじゃなく俺の大切な人まで奪いやがったんだ……ッ!! あの野郎だけは……オロチだけは絶対に許さねぇッ!! 見つけ出して必ずこの手でぶっ潰してやるッ!!」
ブレイドは掌と拳を勢いよく合わせると『バチンッ』と草原中に聞こえる程の大きな音を響かせる。
「これが俺が旅をしてる理由だ。オロチの野郎が五大覇界王だろうが、どれだけ有名で強かろうが関係ねぇ……いつか必ず俺が倒してやるッ……とは言っても、やっぱり他人から聞いたら馬鹿みてぇな目的なんだろ? 笑いたかったら笑いな」
そう言うとブレイドは目を閉じてフッと自虐的な笑みを浮かべる。というのもブレイドは二人と出会う以前にとある町の酒場にて旅の目的を話す機会があり、同じ様に話したところその場に居た全員から笑われた事があったのだ。場所が酒場である事や全員が酒に酔っていたという事を考慮したとしても、あからさまに自身を嘲笑してくるその様子を見てブレイドは自分の目的が如何に無謀であるのかをなんとなくは察していた。それ故に今回も二人が笑ってくると思っていたのだ。
因みに笑った者達は全員洩れなくブレイドにボコボコにされたという。
「……いや。笑ったりしないさ」
「え?」
「それを言ったらアタシとエアリスも他人が聞いたら笑われる様な夢や目的で旅をしてる。『アクア・スフィア』っていう御伽話に出てくる様な本当に有るかも分からない宝石を探してるんだからな」
「そうですよ。人から笑われる様な夢を持ってる点においては私達は似た者同士ですから。それに人の夢を笑うなんて事、私達は絶対にしません!」
「お、お前らぁッ……やっぱりいい奴だなぁッ!!」
「うおッ!? だからいきなり抱き付くなって!!」
「……うふふ」
ロゼとエアリスの温かさに触れたブレイドは感激して二人の首に腕を回すと抱えるように纏めて抱き締めた。一方の二人は身体を反り返りながらブレイドを受け止めると、ロゼは少し面倒くさそうな表情を浮かべ、エアリスは優しく微笑みを浮かべた。
「さて! なんか辛気臭い話になっちまって悪かったな!! 気を取り直してさっさと行こうぜ!!」
二人から離れたブレイドはそう言うと体の向きを180度回転させると再び歩み始め、ロゼとエアリスもその後に続く。そうして暫く歩いているとロゼがふとこんな事を呟いた。
「それにしても五大覇界王か……今は実力にまだ天と地ほどの差があると思うけど、いつか本気で戦ってみたいな……」
「そういやさ、五大覇界王ってオロチの野郎以外にどんなのがいるんだ?」
ロゼの呟いた一言を聞いたブレイドはそう尋ねる。五大覇界王と言うからには『死獣のオロチ』と同等の力を持った者があと四人もいるという事であり、オロチを倒そうと志すブレイドは純粋に他の四人に興味を持ったのだった。
「あぁ、それなら……っとそうこうしてる間に着いたみたいだぞ」
その質問に答えようとした時、ふと視線を前方に向けたロゼはある物に気付いて再び歩みを止めた。見ると三人の前方には広大な範囲を巨大な外壁で円形に囲まれた大きな都があった。それは三人がこれまで訪れたどの村や町よりも荘厳で華やかであり、一目でその都が栄えているという事が分かる程であった。
「デケェな……」
「ようやく着きましたね!」
「あぁ。あれがこの国第二の首都と呼ばれてる『サルランタの都』だ」




