不気味な村
キラー・ビーの襲撃から命辛辛逃れ、崖を降った三人は疲れ切った体を引き摺りながらようやく目的地の一つ前の地点にある村へと到着した。村自体はそこまで大きな規模の場所ではなく、木造の家屋が立ち並ぶとても質素な風景が広がっていた。
「や、やっと着いた……」
「今日はもう動きたくねぇ……」
村の入口に入るや否やロゼとエアリスは崩れる様に地面に座り込む。ここに来る以前に森の中での全力ダッシュや崖降りなど本来であれば使う筈の無かった余計な体力を使い切らされたのだから疲れ果てるのは無理もなかった。
「なぁ、飯屋はねぇのか?」
「どっかに一軒くらいあるだろ。取り敢えずそこまで移動するか」
村を見渡していたブレイドの問いにそう答えたロゼはエアリスと共にやれやれと言った様子で立ち上がると、村の中を移動する。だが暫く歩いているとロゼはふとある事に気が付いた。
(妙だな……誰も歩いてない?)
村の入口から中心部にまでやって来たが、その間に村人の誰ともすれ違う事がなかった。昼下がりの村の中で決して有り得ない事では無かったのだが、その違和感は拭い切れなかった。
「お! あそこじゃねぇか?」
ブレイドが指差す方を見ると、一軒の食堂らしき看板を構える建物が目に入る。三人は建物の入口までやって来ると、ブレイドは意気揚々と扉を開けた。
建物の中には幾つものテーブルが並べられていたが既に何人もの男達が食事を取っており、ほぼ満席の状態であった。三人は店内を見渡すと唯一空いているカウンター席を見つけるとそこに座る。
「おっちゃん! 取り敢えず水くれ!」
「アタシも水」
「私も同じ物を」
「……」
席に着くと同時に三人は乾き切った喉を潤す為に水を注文する。するとカウンターの内側に立っていた店主と思わしき男は特に返す言葉も無く黙々とグラスを取り出し、水を注ぐと三人の前に差し出した。
そしてブレイドとエアリスの二人は目の前に出されたグラスを手に取ると、余程喉が渇いていたのか一気に水を飲み干す。
「ぷはぁッ!! 美味めぇ……!!」
「ふぅ……生き返りますね〜」
(……な〜んかさっきから変な事が多いぞ)
一方のロゼは水を少しづつ飲みながら、先程から感じている違和感の正体を探ろうと店内を見渡す。まず最初に違和感を感じたのは目の前にいる店主であった。店の主人であればグラスなどの備品の場所を全て把握している筈なのだが、水を注文してからグラスを取り出すまでに手探りで探す素振りを見せた上に、水を入れる動作もどこかぎこちなかったのだ。
更にはロゼがゆっくり後ろを振り返った際、店内にいる客の殆どが三人に視線を向けており、振り返った瞬間、全員が視線を外したのをロゼは見逃さなかった。
「……」
店内に漂う不穏な空気を察知したロゼは密かに刀の柄に手を掛けると周囲を警戒する。だがその時、店の扉が開くと全身を茶色のローブで覆い、杖を付いた腰の曲がった老人と思わしき人物が店に入って来た。
「あぁ……!! 何方か助けては頂けませぬか!!」
そして嗄れた声の老人は店に入るや否や慌てた様子で周囲にいる人々に助けを求め始めた。




