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WORLD OVER 〜最果ての到達者〜  作者: 紡星


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大鬼蜘蛛

小説の各話タイトルを一括変更しました。

 テディの元居た住処に潜むモンスターの討伐に出発したロゼ達は現在、巨大な樹木が連なる山林を進んでいた。そこは先程いた森林よりも樹木や植物が一回りも二回りも大きく、巨大な樹葉の影響で陽の光も僅かしか通らない薄暗い場所であった。


 時折聞こえてくる鳥や動物の鳴き声はみな聞いた事がない奇妙かつ野太いものばかりで、姿が見えずとも通常のサイズでは無い事が伺える。そんな山林をロゼとエアリスは周囲に注意を向けつつ歩いていた。


「結構な山奥まで来ましたね、そろそろ着くんでしょうか?」


「さぁね。正確な位置はアイツしか分からないからな」


 ロゼはそう答えると真上に視線を向ける。上空ではブレイドが巨大な樹木の間をまるで本物の猿の様な軽い身のこなしで移動していた。そんな姿をエアリスは感心した様子で眺めていると、突然ロゼが「おーいブレイド! 降りて来いよ!」と呼び止めた。


 それに応える様に樹木の枝から飛び降りたブレイドは空中で華麗に体を回転させると二人の傍らに着地する。


「よっとッ……呼んだか?」


「例のモンスターの住処はもう近いのか?」


「この先をあと少し進んだ所だぜ」


 そう答えるとブレイドを先頭にして三人は再び歩み始めた。すると歩き始めてから数分後、エアリスはふと思い出したかの様にこんな事を呟く。


「それにしてもテディちゃんは大丈夫でしょうか? あんな洞穴に置いてきちゃいましたけど……」


 此処に来るまでの道中でテディは身籠っている体で戦いに参加するべきではないという判断から山の麓にあった洞穴の中に隠してきたのだった。


「テディなら大丈夫だ。あそこならハンターとかいう奴らにも見つかる事はないだろうしな」


 エアリスの心配を払拭する様にブレイドはそう答える。テディを隠した洞穴自体はそこまで大きい物ではなく、彼女(テディ)の体がすっぽり収まる程度の広さであった。それに加えて洞穴の入口部分は草木に囲まれており、そう簡単には見つかる事は無いだろうとブレイドは考えていた。


「そう言えばアンタに一つ聞きたかった事があるんだけどよ、なんでテディが住処を追われた事を知ってたんだ? アンタとテディが出会ったのは最近の事だろ?」


 ロゼはずっと疑問に思っていた事をブレイドに問いかける。何故テディの過去を其処まで詳しく知っていたのか。先程のブレイドの説明はまるで全てを間近で見てきたかの様な口調だったのだ。それを聞いたエアリスも「確かに……」と呟く。


 するとブレイドから返ってきた返答はエアリスの予想を遥かに上回る衝撃的なものだった。


「そりゃ本人から直接話を聞いたからだよ」


「……え? 本人って?」


「テディから」


「えぇッ!? ブレイド君って動物と話が出来るんですかッ!?」


「おう出来るぞ」


 まさかの動物の言葉が分かると言うブレイドの衝撃的な特技にエアリスは度肝を抜かれた。動物との会話を可能にする方法はいくつか存在する。そのうちの一つに動物との会話を可能にする魔法があるのだが、高位の魔法である為、扱える者は間違い無くロプア階級かそれ以上の魔術師であった。


 しかしブレイドに魔法など使える筈が無く、動物と会話が出来るというのは間違い無く魔法以外の能力であるという事が判断できた。その一方でロゼはその発言を聞いて確信を得たような表情を浮かべる。


「これで確信した。ブレイド……アンタ、アルニマ国の出身だろ?」


「ーーー!! ……なんで分かったんだ?」


 ブレイドは自身の出身地を言い当てられた事に対し、少し驚いた様子だった。


 アルニマ国とはグランドアイランドの北部に位置し、マグラベート帝国に隣接する『獣人族』。そして獣の特性を持った人間である『人獣族』たちの国である。豊かな自然や獣人族の伝統技術、その国でしか採取できない希少な鉱石で諸国との外交を展開しており、国土は小さいものの他国に引けを取らない国力を誇っていた。


 そんなブレイドに対してロゼは右手を自身の顔の前まで上げると指を三本立てる。


「理由は三つ。一つはアンタさっき、お礼だって言って抱き付いてきただろ? あれは獣人族の特有の習慣だ。二つ目はアンタが動物と会話が出来る事。これも動物との対話が得意な獣人族にやり方を教えて貰ったんだろ。そんで何より三つ目は百獣拳が使える事だ。あの技は習ったっても数日で身に付く様な簡単なもんじゃない。多分だけど子供の頃から相当な修行を積んでたんじゃないのか?」


 自身の推理をつらつらと述べるロゼ。そんな彼女(ロゼ)に対してブレイドは感心した様子を見せる。


「すげえ……全部当たってら。確かにお前の言う通り、俺の産まれはアルニマ国だ。俺の百獣拳も子供の頃からみっちり稽古を付けられたものなんだぜ」


「珍しいよな。人間なのにその国の生まれってのは」


 アルニマ国の人種比率は獣人族と人獣族が全体の約9割以上を占めており、人間は殆ど住んでいない。その理由としては広大で厳しい自然環境が人間には適応し難いからである。故にアルニマ国出身の人間はとても希少な存在であると言えよう。


「う〜ん。正確には産まれって言うより育ちだな。俺、赤ん坊の頃に捨てられてたらしいんだけど、拾って育ててくれた獣人がいたんだ」


「そうだったのか……。すまない、てっきり……」


 その言葉にロゼはハッとする。そしてあまり踏み込んではいけない話題だったのかと申し訳なさそうに謝罪するがブレイドは気にする素振りを一切見せる事はなかった。それどころかロゼに対して微笑みを浮かべる。


「別に謝る事でもねぇぞ。そんなに気にする事でもねぇし……っとそうこうしてる間に着いたぞ」


 ブレイドはそう言うと歩みを止め、それに合わせてロゼとエアリスの二人も歩みを止めると周囲を見回す。しかし何処を見回してもこれまで歩いて来た道中と同じ様な樹木が連なる光景が続いており、三人が立っている場所にも生物が生活していた痕跡などは見られなかった。


「見たところ何にも無いけど、本当に此処で合ってるのか?」


「間違いなく此処で奴と戦ったんだ。気を付けろよ、何処から襲ってくるか分からねぇからな」


 ブレイドのその一言でロゼとエアリスは周辺に注意を向ける。幸いにも樹木同士の間隔は広く、開けた景観であった為に何処からモンスターが襲って来ても身構える事ができた。その時、その場を歩いていたエアリスは自身の足元に違和感を覚える。


(あれ? いま何か踏んだ……?)


 それまで歩いていた硬い地盤や芝生の柔らかな感覚ではないまるで泥濘んだ泥を踏んだ様な異質な感覚。その違和感を確かめる為にエアリスは自身の足元を確認する。


「うわぁッ! 何これ!?」


 エアリスは自身が踏み付けていた物を視認すると不快感を覚えた。そこには白いネバネバとした物体が靴の裏にベットリと付いており、地面と靴の裏との間で糸を引いていた。


 気味の悪いその物体を払い除けようとするエアリスだったが、あまりにも粘着性が強くゴムの様に収縮する為に足を取られて完全にその場から動けなくなってしまう。


「う〜んッ!! と、取れないッ!!」


 エアリスは前屈みになり脚を掴んで思いきり引っ張るも全く取れる気配は無く、それどころか足元に注意を向け過ぎて周囲への警戒が手薄になってしまっていた。


 それ故にエアリスは気付かなかったのだ。自身の遥か上空から白い糸の様な物が背中に向かって垂れ下がって来ている事に。


「ーーーきゃッ!!?」


「? ……どうしたエアリス?」


 突然、背後から聞こえた小さな悲鳴に反応したロゼは後ろを振り返る。すると数秒前まで其処に居た筈のエアリスの姿が完全に消え去っており、代わりに地面から離れなくなっていた彼女(エアリス)の靴が一足だけ転がっていた。


「エアリス!? おいッ!! 何処だ!?」


 あまりにも突然の出来事に驚きと戸惑いを隠せ無いロゼはエアリスの名を叫びながら周囲を見回す。そんなロゼの様子を見て瞬時に事態を把握したブレイドも消えたエアリスを探す為に周囲を見回した。しかし何処を見回してもエアリスの姿どころか、他の生き物の影も形も確認する事は出来なかった。


「ロゼさん!! 此処ですッ!! 此処ッ!!」


「ーーー!! 上だ!!」


 エアリスの声が何故か二人の上空から聞こえ、真っ先に上を向いたブレイドはそう叫ぶ。少し遅れて見上げたロゼは上空の景色を視界に入れた瞬間、腰に携えていた刀にそっと手を掛けた。


「なぁブレイド……アレがそうなのか?」


「あぁ、そうだ。奴がテディを襲った張本人……」


 二人の視線の先に居たのは糸で身体をぐるぐる巻きにされ身動きが取れなくなっている宙吊りのエアリス。そして更に奥にはギョロリとした8つの目で地上に居る二人を見据えている巨大な黒い影が存在していた。


「大鬼蜘蛛だッ!!」

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