獣を護る少年
「ふーん……森に現れた巨大な熊型モンスターの討伐ねぇ……」
依頼の内容が気になったロゼはその依頼書を手に取ると端からじっくり目を通す。
依頼書に書かれていた内容はこうであった。この町から少し離れた場所にある森林で熊型のモンスターが人間に襲い掛かったとの報告があり、既に何名ものハンターが討伐に向かったのだが尽く失敗に終わってしまったという。
熊型のモンスターがもしもこの町に近付けば住人達に甚大な被害が及ぶ可能性があり、この非常時にギルドはハンターだけではなく冒険者にも協力を仰いでいるとの事であった。
「モンスター討伐の依頼なのに冒険者も受注出来るのは好都合だな。さて報酬は……。おッ! 8万マグラもあるじゃん!」
依頼内容を気に入ったロゼは報酬金額が書かれている欄を確認して更に胸を躍らせる。何故なら8万マグラもの旅費があればサルランタの街まで充分に保つ上にお釣りまで出るのだ。
すると朝食を食べ終えたエアリスがやって来るとロゼの手に持っていた依頼書を覗き込む。
「何かいい依頼でもありましたか?」
「あぁ。丁度ぴったりのヤツを見つけたよ」
ロゼは持っていた依頼書を手渡すとエアリスはその内容を確認する。だが読み進めるに連れてエアリスの表情がやや強張っていく。
「モンスターの討伐ですか……報酬金は確かに多いですけど、ハンターの方々が何度も失敗しているのが気になりますね……大丈夫でしょうか……」
依頼内容を読み終えたエアリスはそう呟く。モンスター退治のプロであるハンター達が何度も討伐に失敗していると知り、一体どれほど強大なモンスターがいるのかと不安に思ったのだ。しかしそんなエアリスとは裏腹にロゼは自信満々な笑顔を見せた。
「なーに心配する事ねぇさ。今のアタシならどんな相手だろうと負ける気がしねぇからな」
「そうですよね! あのデザート・バジリスクを倒したロゼさんならきっと大丈夫ですよね!」
ロゼはデザート・バジリスクとの戦いで新たな技、斬鉄を会得した事により自分自身に更なる自信を付けており、一方のエアリスも共に戦いながらその実力を間近で目の当たりにしていた為にロゼの実力を信頼していた。
そして二人はこの依頼を受ける事に合意して互いの顔を見合わせて頷くと、受付嬢のいる中央カウンターまでやって来た。そしてカウンターにいた受付嬢は二人の姿を見ると歓迎する様に優しく微笑み掛ける。
「こんにちは。依頼の受注ですか?」
「はい。これをお願いします」
受付嬢はエアリスから依頼書とギルドカードを受け取ると、その内容にサッと目を通す。そしてカウンターの中から依頼受理の書類を取り出し、必要な項目を手早く書き終えるとエアリスにギルドカードを返した。
「お待たせしました。この依頼は熟練のハンターの方々もかなり失敗されているので気を付けて下さいね」
「ありがとうございます」
「すまない。一つ聞きたいんだけどさ、その依頼について何か詳しい情報は無いかい?」
エアリスはお礼を言いながらギルドカードを受け取った。すると背後にいたロゼがひょいと顔を覗かせてカウンターに肘を付くと受付嬢に依頼についての情報を尋ねる。そして質問を受けた受付嬢は天井を見上げて考える素振りを見せた。
「情報ですか? そうですね……。あっ! そう言えば失敗の報告に来られたハンターの方々が皆さん口を揃えて妙な事を仰るんですよ」
「妙な事?」
「はい。なんでもいざモンスターを討伐しようとすると毎回、妙な格好の少年に邪魔されるらしいんです。でも変なんですよ……森林に人は住んでない筈なんです。それにモンスターを庇うなんて一体何の為に……」
それを聞いたロゼは一瞬、眉を潜めたが直ぐに微笑みを浮かべた。
「なるほど……。情報ありがとな!」
「いえ、どういたしまして!」
受付嬢に礼を言うと二人はギルドを後にする。そして人通りが多い大通りに出ると依頼にも書かれていた熊型モンスターが暴れているという森林へ向かって歩き出した。
「それにしても気になりますね。さっきの話」
「そうだな。暴れてる熊型のモンスターも気になるが、それよりもハンター達を邪魔する少年ってのがどうも突っ掛かるな…」
「如何して邪魔なんかするんでしょう? 邪魔なんかした所でなんのメリットも無い筈なのに……」
二人は受付嬢が話した情報にあるハンター達の邪魔をするという謎の少年が気になっていた。
ハンターに関わらず冒険者や一般人への過度な妨害行動や殺意を持った攻撃は犯罪行為と見做されギルドの中でも特殊な組織である『ギルド保安庁』に捕縛され、法廷で裁かれた後に適切な罰が与えられる。
そんな子供でも分かるような常識にも関わらず、何故その様な事を取るのか、エアリスには理解出来ずにいたが、ロゼはある事が関連しているのではないかと考えていた。
「もしかしたら、その熊型のモンスターが深く関わってるかも知れねぇ……」
「え? それってどういう……?」
その一言に反応したエアリスはロゼの顔を見るがロゼの目線は空の方へ向いていた。
「こりゃ一筋縄ではいかねぇかも知れないなぁ……」
腰に携える刀の鞘を握り締めたロゼはそう呟いた。




