ハイ・ウォール山脈
翌朝、眩い太陽に照らされて目を覚ましたエアリスはロゼと共に焚火を片付け、身支度を整えるとハイ・ウォール山脈へ向かって出発した。昨日と同じ様に森の中に入ると行手を阻む樹々を掻き分けて進み、そこを抜けた二人を待ち構えていたのは山脈へと続く勾配な坂道であった。するとそれを見たロゼは露骨に面倒そうな顔をするが、一方のエアリスはロゼを先導する様に意気揚々とその坂道を登って行く。
「はぁ……はぁ……」
しかし登り始めてから数時間後、二人の立ち位置は完全に逆転しており、緩やかだった傾斜も上昇するに連れて徐々に険しくなっていった。既に二人がいる場所は平地から山岳地帯へと変化しており、高山植物が周辺に生い茂ほか、断崖絶壁や巨大な滝が連なり、振り返ればソフィア共和国の美しい自然が一望できる高度にまで来ていた。
普段からモンスターと激しい近接戦闘を行なっているロゼとは違い、後方から魔法で支援しているエアリスの体力は比較にならないほど少ない。その為、道中で拾った棒をつきながら息を切らして歩くエアリスに対して、ロゼは全く息を切らしていなかった。すると突如として行手を阻む様に目の前の道が分断されて崖になっており、二人は歩みを止めた。だがロゼはその崖の幅を見ると助走を付けて飛べば十分届くとすぐに理解する。
「アタシが先に行くからアンタはその後に来な」
「わ、分かりましたっ」
エアリスにそう伝えたロゼは助走を付けて走り出すと地面を蹴り上げて跳躍し、余裕を持って向こう岸へと着地する。
「よし……さぁアンタの番だ! こっちへ跳びな!」
「は……はいッ……」
ロゼは振り返るとエアリスに手招きをする。だが一方のエアリスはなるべく見ない様にしていた崖下の光景がふと目に入ってしまった。ゴツゴツとした岩肌の岸壁が両脇に備え、遥か下には先程までいた森の樹々がまるで緑の絨毯の様に見える。一つ分かっているのはここから落ちれば間違いなく即死するという事である。その様な事を考えれば誰でも足が竦むであろう。それはエアリスとて例外ではなかった。
「大丈夫だ! 真っ直ぐ前だけ見て跳べば行ける! ほら受け止めてやるから!」
怖がっている様子を察したのかロゼは両手を差し出した。するとエアリスは後方に下がると「よしッ!」と意を決して走り出し、そのまま崖の縁の前で地面を蹴り上げて跳び出そうとする。だがその瞬間、タイミングの悪い事に地面から突出した石に躓くとバランスを崩して、そのまま崖へ身を投げ出してしまう。
「あ……」
「……え」
突然の事にロゼだけでなくエアリスも茫然とする。だがその間にもエアリスの体は徐々に下向きとなり、崖の下へと真っ逆さまに落ちて行く。
「わあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!?」
「オイィィィィィィィィッ!! 何やってんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!?」
ロゼは咄嗟に刀を抜くと崖からその身を投げ出して刃を岸壁に深く突き刺し、もう片方の手でエアリスの片足を掴んだ。そして二人は宙ぶらのまま取り敢えず助かった事にホッと肩を下ろした。
「あっぶねぇ……」
「し……死ぬかと思いました……ありがとうございます……」
エアリスは涙目になりながら逆さの状態でロゼに感謝する。後少しロゼの判断が遅れていれば今頃は間違いなく奈落の底であっただろう。
「全く冗談じゃないよ……普通あそこで躓くか?」
「すいません……実は私、昔からどじっこで……何もない所でもよく転ぶんです……」
恥ずかしながらそう答えるエアリスに対してロゼは呆れた様子で「はぁ」と溜息を吐いた。
「頼むから足元だけは注意しといてくれよ。あとそれから……」
ロゼはそこまで言葉を紡ぐと何故か急に話すのを止める。それを不思議がるエアリスだったが、逆さの状態である為にロゼの顔を見上げる事が出来ずにいた。
「あの〜ロゼさん? どうしました?」
「……いやぁ、アンタってさ……結構、大人なパンツ履いてるんだね」
「へ?」
ロゼの言っている事が一瞬、理解できずにいたエアリスであったが自分の体勢を改めて確認した瞬間、その言葉の意味を全てを理解した。今のエアリスは逆さまの状態である為、スカートが捲れて完全に下着が露わになっていたのだ。
「きゃッ!? は、早く上げてくださいッ〜!!」
すると瞬く間にエアリスの顔は羞恥心で真っ赤に染まり、慌ててスカートを抑えるがロゼは常に上から見ている為、どう足掻いても丸見えであった。すると、そんな恥ずかしがる素振りを見せるエアリスを見て面白がったロゼはにんまりと悪い笑みを浮かべる。
「アハハハ〜! さぁどうしようかな〜? アタシはまだまだ余裕があるからこのままもう暫く観察するのも悪く無いけどな〜!」
「うわああぁぁぁんッ!! お願いですから早く上げてくださ〜〜〜いッ!!」
その日、普段は静かなハイ・ウォール山脈に情けない少女の声が響き渡った。




