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不死身の女

 数分後。今まで抑え込んでいた自分の感情を残さず曝け出し切ったエアリスは、落ち着きを取り戻して涙を拭う。


「少しは落ち着いたかい?」


「はい……もう大丈夫です」


 そう軽く微笑みながら答えるエアリスだったが実際は精神的ダメージが大きかった。この笑顔もおそらくロゼに心配をかけないよう無理やり作ったものであろう。だがロゼはその気遣いを察している様子であった。


「コイツらとは長い付き合いだったのかい?」


「いいえ。チームに入ったのはつい先日の事です……けど皆さん、本当に優しくて良い人達でした……」


 エアリスは安らかな顔で眠るルーベルの顔を見つめながらそう答える。


「そうかい……そう言えばまだ名乗ってなかったな。アタシはロゼ。ロゼ・ネバーダイだ。アンタは?」


「エアリス・ハーメルンです」


「エアリスか。アタシはこの男とギルドまで無事にアンタを連れて帰ると約束をした。だからアタシにはアンタを守る義務がある。取り敢えずこの森から出ようと思うが、アンタの仲間達をこのまま放って置く訳にもいかねぇ……弔ってやろう。他の仲間のいた場所は分かるかい?」


 ロゼはそう言うとエアリスを立たせる為に手を差し伸べた。一方のエアリスは弔いの提案をしてくれたロゼに心の中で感謝した。


「場所ならなんとか……案内します」


 エアリスはラフィットとバモンの遺体がある場所へロゼを案内しようと差し出された手を取って立ち上がる。だがその時、ふとロゼの背後に倒れているディアボロ・スコーピオンの姿が視線に入った。全身のいたる部位が斬られ体液が耐えることなく流れ続けており、もはや瀕死の状態であったが、そんな状態となっても唯一無傷の尾を巧みに操り毒針をこちらに向けていた。だがこちらとディアボロ・スコーピオンとの間はどうあがいても毒針が届く距離ではなく何の心配も無い筈であったが、エアリスはこちらに向けられたその毒針に対して嫌な予感がしていた。


 そして次の瞬間、その嫌な予感は的中する。毒針の根元が突如として破裂したと思うと、ロゼの背に向かって毒針が弾丸のように一直線に飛んできたのだ。


「危ないッ!!?」


「んぁ?」


 その悲鳴のような声に反応して振り返るロゼであったが既に遅く、毒針はロゼの心臓を射抜く。そしてディアボロ・スコーピオンはその姿を確認すると勝利の雄叫びの様な金切り声を上げて今度こそ力尽きた。


「ガハッ!?」


 ロゼは口から血を吐きだすとその場で蹌踉めく。その姿を見たエアリスは絶望感に際飲まれ「あぁ……そんな……」と喘ぐように声を漏らした。自分の目の前で再び命が失われる。その辛い現実が既に意気銷沈なエアリスの心を更に押し潰そうと重くのし掛かる。


「クソッ……痛てぇな……この野郎……」


「……え?」


 だが次の瞬間、想像していた事とは全く違う出来事が目の前で起こった。エアリスはロゼが地面に倒れる姿を想像したが地面に倒れるどころか毒針を強く握り締めるとそれを抜き取り、地面に投げ捨てる。そして口から溢れている血を拭い取ると何事もなかったかの様にエアリスに笑顔を向けた。


「さて、案内してくれるかい?」


「イヤイヤ!! それどころじゃ無いですよ!? 今、心臓に刺さりましたよね!? 何で大丈夫なんですか!? それに毒が!!」


 心臓を射抜かれて、けろっとしているロゼがどうしても理解できずにエアリスはパニック状態となる。すると突然、ロゼの着ている和服を脱がそうと胸元に掴みかかり、その突然の行動にロゼは顔を赤めて手を払いのけようとする。


「ちょっ!? 何すんだよアンタ!?」


「何って治療です!!」


「必要ねぇよ! 放っといたら勝手に治る!」


「そんな訳ないですよ!! さぁ脱いで下さい!!」


 一進一退の攻防が続いたが、エアリスは恥ずかしがるロゼの一瞬の隙をついて和服を剥ぎ取った。すると毒針が刺さっていた筈のロゼの胸元が露わになる。


「え……?」


 だがそこにあったのは既に流血が完全に止まり、薄く膜が貼り始めている傷跡だった。エアリスは一瞬、それを古傷だと思い込んで別の傷を探すがそれ以外に傷は見当たらず、この傷跡が先程の毒針が刺さっていた場所だと認識する。


「傷が……もう塞がりかけてる……?」


 だがそれは普通に考えればありえない事であった。つい数分前にできたばかりの胴体を貫通する程の傷がもう治りかけているなど、最上位の回復魔法を使わない限り不可能である。だが目の前にいるロゼは先程の戦いを見ていてわかる様に生粋の剣士であり、魔法を使えるとは到底考えられなかった。一方のロゼはというと肌蹴た胸元を恥ずかしそうに隠していた。


「だから言ったろ、勝手に治るって……いっつもそうだ。心臓を貫かれようが死ぬ事もできない……」


『死ぬ事ができない』その言葉を聞いた瞬間、エアリスの脳裏にはラフィットと話していたあの会話が過ぎる。エアリスはまさかと息を呑んだが次のロゼの言葉でそのまさかは現実となる。


「言い忘れていたが……アタシは不死身なんだよ」


 これが不死身の女『ロゼ・ネバーダイ』と魔術師の冒険者『エアリス・ハーメルン』の出会いの物語である。しかし彼女たちはまだ知らない。この出会いが偶然ではなく運命である事を……そしてこの先に続く果てしなく壮大な旅が待ち受けている事を……。


「……取り敢えず、服を返してくれ」


「あ、はい。すいません……」


……今のところは。

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