6<愛情>
私がまだ***と、呼ばれていた時の話だ。
ある、晴れた夏の日のこと。
夏休み中の部活で、学校に来ていた。部活は演劇部。私は全然向いてなく、裏方を専門にしていた。
かなり、やり甲斐があり、部活の先輩や同級生もいい人達で、楽しかった。
「じゃあ、10時50まで休憩!」
文化部だけど、腹式呼吸を鍛える為に筋トレが日課として行っている。今も、そのトレーニングが終わったところだ。そのうち腹が六つに割れてしまわないか、私は恐怖している。
休憩中、スマホアプリを起動して、デイリークエストに勤む私。隣には、同じくゲーム中の先輩。
「何やってんの?」
「世界の包丁擬人化ゲームのアプリ版です」
「あーあれね。私アレ、野菜包丁作って放置プレイしたままだったわ。今、どこまで行ってんの?」
「初期じゃないっすか。今はサーモン切る包丁が新作で、きましたね。熟練度がヤバいです。だから完成したと思ったらパン切り包丁だったり」
「パン切り包丁見たい」
「ハイ。コレです」
「おーカッコいい。……所持数三桁かよ」
「願掛けで、今日の朝ごはんは、しゃけフレーク、しゃけの切り身」
「しゃけとサーモン違うらしいって知ってた?」
「まじですか。しょっぱいハズだ」
「今日の帰り、回転寿司寄ろうか」
「先輩……。今やってるので、何か手伝うクエストありますか」
「今日のクエは終わらして来たわ。今やってんのブロック崩しだからクエないし。あ、これヤってみる?」
「その言い回し,絶対BLでしょ。絶対やりませんからね」
「バレたか。」
「バレバレです」
「まぁ、興味湧いたら、いつでも待ってるから。軽めでR指定なしから布教してくから安心して沼って」
「安心とは。そもそも乙女ゲーの沼が底なしなんで出れないです」
「二者共存も出来るから。だって同じ女性向け」
「今日はやけに推してきますね」
「だってラストJKにとって最後の夏。後輩と語り合いたいじゃん」
「先輩」
ここまで、ずっと見ていたゲーム画面から目を離し、ゲームの手を止めない先輩を見る。
「って、言えば***は、始めそうじゃん」
「先輩」
「よし、ぱんチラゲット〜。じゃあさ、おすすめの乙女ゲームある? 最近、全然出来てなくて。気分転換に良いやつ」
「変わり種としては、この間クリアしたゲームがBLぽいのがいて、でもあのゲーム元カノと修羅場ったり、女関係ドロドロで……大変に個性的で刺激的。でも凄く面白かったです」
「ヤバっ。後でタイトル送って」
「りょ」
キャアキャアと、わずかに廊下から聞こえてくる。
「ここにも、女関係でヤバい奴いたな」
先輩も気がついたらしいが、ゲームの手は止まらない。
何時もの事なので、気にしたら負けだ。
「あのさ、***って、霧谷のこと好きでしょ? 告白しないの? この間もゲーム渡されてたじゃん。脈ありよりのありじゃない?」
私は、手にしていたスマホをつるっと落としてしまい、派手な音が響いた。
「な、ななな何言ってんですか! わわ私、そんなんじゃないんですから!!」
「動揺が凄いな」
「どどど童謡なんてしてませんから! そもそも霧谷先輩のことなんて」
「え、俺のこと?」
この場にありえない程、少し低めで爽やかな美声が横から聞こえた。冷や汗ダラダラで横を向ければ話題の人が立っていた。
「ひぃ! ななななな」
「あはは、***は相変わらず面白いな」
穴があったら入りたい。私は恥ずかしさと、大変な動悸に襲われたが、霧谷先輩が楽しそうな笑みが眩しすぎて、霧谷先輩を直視出来ないでいた。
「あ、そうそう***、コレあげる」
差し出された袋の中には、カラフルな飴が入っていた。