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1<あなたしかいない>




 これまでのあらすじ!


 私は乙女ゲーム好きな女子高生。ある日、部活の先輩から押し付けられた乙女ゲームを(たしか)全クリア後、徹夜続きもあって即寝落ち。目が覚めると、さっきまでプレイしていた乙女ゲーム【sleeping rose】のヒロイン(主人公)が目の前に‼︎ なんと私は乙女ゲームの中にモブ役としてトリップ? 憑依? 転生? していました。以上!




 いやいやいや! 訳分かんないし! なんなのマジで!

 今現在の状況把握と自分の謎のテンションを落ち着かせようと、あらすじ風に整理してみたが余計に謎だ!

 


  めっちゃリアルだし! 主人公ちゃんいたし! ココが天国ですか? 天国なんですね! 寝落ちしたから、こんな悪役令嬢系の夢見ているのか私!?



 声に出して叫びたい衝動を抑える為、落ち着いて状況把握する為、草影にしゃがんで隠れている。ここなら誰も来ないから。

 染めた記憶のない髪ごと、私は両手で頭を抱える。黒色ではない、こげ茶色の地毛が視界の隅で揺れる。悶絶した。因みに、顔も面影さえなかった。さっき鏡で確認した。


 そんな混乱で忙しい私は、背後からやって来る足音に気がつかなかった。



「あ、こんな所にいた! アリス走るの早すぎ!」

「アリス? どうかしたの? 大丈夫?」



 ギクッとし、恐る恐る後ろを振り返り、見上げる。すると、逆光で既視感のあるシルエットが二つ。私は目を細め、手をかざして見た。そこには、青髪ショートヘアと黄緑髪ゆるふわロングな二人の女の子がいた。なんだか心配そうに、こちらを見ている。



 誰? と、思う間も無く、直ぐに二人の名が浮かぶ。''私''は、知っている。二人は、アリスの大切な友人。



「ベルタとクラーラ……」



 私は、すんなり名を言えた事に安堵し、肩の力を少し抜いた。そんな私を見た二人は、互いに顔を見合わせる。

 青髪ショートでしっかり者のベルタ。黄緑髪ゆるふわロングでおっとり目なクラーラ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()からの出会いで、今では仲良し三人組だ。



 アリスの古い記憶を少し思い出して、ぼうっと、二人を見上げていた。

 突然、二人は私と同じ様にしゃがみ込んできた。同じ目線になり、二人の顔がよく見える。



「らしくないな。本当にどうした? 話聞くよ?」

「怖がらなくても大丈夫よ、アリス。まずは、落ち着いて、ゆっくり深呼吸よ」



 二人に挟まれ、頭やら背中やらを、ぽんぽんされながら励まされている。謎の状況に頭の中は、ハテナでいっぱい。


 宇宙に意識が行きかけた中、現段階で最重要事項が待ったをかけた。意識が、一瞬で戻って来た。二人の撫でている手を、ガシッと捕まえる。



「二人共、私の頬を引っ張って!」



 二人は目を少し見開き、互いに顔を見合わせ、頷く。



「「せっ〜のっ!」」



 両方の頬に、軽い痛みが走る。





「……痛い。」



「そりゃ、そうでしょ。……って、アリス何泣いてるの! そんな痛かった⁉︎」



「夢じゃ……ない。」



 私の視界が歪み、ポロリと涙が溢れる。


 そんな私に二人は慌てて、魔法で頬の痛みを取ってくれた。ベルタは、氷を二つ作りハンカチでそれぞれ包み、両頬を冷やしてくれた。クラーラは、痛いの飛んでけ〜っと、治癒の呪文をかけながら痛みを消してくれた。

 けれど、涙は止まらず。二人の言葉や優しさに胸の奥が苦しくなり、目頭が熱くなり、わっと号泣してしまった。今度は、心臓が痛みだす。



 

 涙が溢れてたのは、痛かったからじゃない。痛みを感じてしまったからだ。神経が繋がっている本物の身体だと、この痛みや身体は現実なんだと再度実感してしまった。


 自分の姿を見た瞬間、あぁ、やっぱりなと、思った。

 ゲームの第三者目線でフカンしている様な、他人事の様に思う自分がいた。なのに、心の隅っこにあった夢だと思いたかった気持ちが、砕かれ、悲しくなって涙がこぼれ落ちた。もう帰れないんだと。




 号泣してしまったのは、二人がこんなに優しくしてくれているのに、優しさを向けられたアリスはいない事に気付いたから。



 二人の目の前にいるのは、アリスの皮を被った偽者だ。

 アリスだと思い優しく励ましたり、この場所に駆けつけてくれたり、魔法で癒してくれた。けれど、本当は中身は別人。



 この優しさは、アリスには届かない。

 

 本物のアリスを私が消してしまった気がした。



 もう二度と、二人にアリスを返してあげられない気がして、胸が痛くなり、涙が止まらなくなった。





 ''ありがとう'' と "ごめんなさい" を繰り返しながら、私は小さい子供の様に泣きわめいてしまった。







 二人と直接話したのは、今が初めてなのに初めての気がしない。それは、アリスの記憶を見たから親近感が湧いた性か、アリスの記憶を追体験した様に自分の頭に入って来た事で自分の物になった気がしている性かは分からない。



 二人の為を思うなら、笑って ''なんでもない'' と、言えば良い。

 けれど、一度溢れ出したものは止まらなかった。(かんじょう)はぐちゃぐちゃだった。

 嗚咽だらけで、もう自分でも何を言っているか分からない私の背中を、二人は優しくさすってくれた。









「アリス、落ち着いた?」


「ゔん、......ありがど「ぐーーーーーー」……ゔ」



 地鳴り並みの音が響いてしまった。

 音の発生場所のお腹を抱えて、私はそっと顔を上げれば二人と視線が合う。ほぼ同時に三人共、吹き出し、声を上げ笑ってしまった。


「あははは! アリスだ! いつものアリスだぁあはは」

「ふふっ。お腹でお返事っふふふっ」

「あ〜。なんか泣いたらお腹空いた〜」


「現金だな〜。そんなアリスの為に、ジャ〜ン! バスケット貰って来たんだ!」


 ベルタが背後からバスケットを出してきた。

 たぶん、私を見つけた時に後ろの方に置いていたのだろう。近くのベンチに座り、バスケットの中から三人分のサンドイッチとりんご、ミートパイにクッキーを出して仲良くお昼を食べた。

 クラーラが緑の魔法で、テーブルを作り、ベルタが水の魔法で紅茶を出してくれて、流石魔法の世界だと、改めて実感した。


「ふふふっ。なんだか、初めて会った時を思い出すわ」

「確かにあったねー。でも前は、ベルタもクラーラもお腹鳴ってたからね! あの時はさ〜」



 ベルタとクラーラと一緒に、出会った時の話で盛り上がった。

 




 楽しい時間はあっという間に過ぎて、昼休み終了の鐘が鳴り校舎に戻る。途中、校舎脇の花園が視界に入り、私はある重大な事に気がついた。

 二人には、忘れ物したから先に行っててと、伝えて別行動に。

 先程お昼ごはんをしていた所より手前の藪に、人が屈めればなんとか通れそうな抜け道を見つけ、ある場所へと向かう。

 授業開始の鐘までは、まだ時間がある。ちょっとだけ確認してから戻れば良いかと、音をたてないよう気にしながら足を早める。




 ある場所。そこは、これがゲームなら今から主人公と攻略キャラの出会いイベントがある場所だ。

 学園裏の花園。そこで、ゲーム開始から最後の攻略キャラが登場する。

 ゲーム知識と、先程の主人公ちゃん突き飛ばし事件から、今日この後のストーリーが導かれた訳だが、正直まだ不確定。ちょっとわくわくしているが、現在時刻、現在地、現世界を確認するためだ。決して、プレイしていたゲームのイベントスチルが生で観れるかもしれない可能性に歓喜している訳ではない。

 さっきまでわんわん泣いていたのも、あれはあれ、これはこれだ。

 逆に吹っ切れバグって深夜テンションみたいになったかもだ。寝不足だったからしょうがない。





 主人公ちゃんが今から会う攻略キャラとの出会いイベント。そこでの選択肢が3回出されるが、その選択次第で最終章が大きく変わる。

 ハッピーエンドになるも、バッドエンドになるも選択次第。

 だからこそ、このイベントは見届けてなくてはならない!

 主人公ちゃんがどの選択肢を選ぶのか、このゲームがどの(ルート)に進行するのか分からないから。


 左手にレンガの壁、目の前には低めの生垣、花園が良く見える場所に出た。しゃがんで膝を抱えれば頭まで隠れる。

 ちょうど、主人公ちゃんのピンク髪が花園の中央に見える。まだ攻略キャラと出会えてはいないようだ。


 ゲームのストーリー通りならば、迷子になった主人公が木の上で寝ている攻略キャラに丁寧に道を尋ねて、罵詈雑言クソ最悪にキレられる。

 最悪な出会い。攻略キャラが色んな意味でヤバい人。個人的乙女ゲーあるあるだ。



 でも、そんな攻略キャラにもめげずに会話を広げる忍耐ありありな主人公。

 そして、攻略キャラの力を目の当たりにしてこう言うのだ。




「『あなたしかいない』」




「へぇ〜、誰に向かって言ってるの?」

「主人公が王子へ言ってるに決まってるじゃん」

「何それ? 劇でもやるの?」

「いや〜、劇じゃなくてゲームで」



 今、私は誰と会話をしている? 

 ギギギッと、錆びた機械のように声のした右斜め後方に頭を向ける。

 そこには、青色ショートヘアの少年が頬杖をつきながら私の側でしゃがんでコッチを見ていた。

 私は驚きすぎて、何も言葉が出なかった。

 そして、なにより驚いたのは、この少年をアリスも私も知っていることだ。



 何せこの少年は、攻略対象のキャラクターであり、()()()()()()()()()()()()()()()


エアネスト・ツーファールだ。




 何も話せないでいる私に対して、エアネストは頬杖をしながら器用ににこっと微笑んで頭を傾げる。




「初めまして、アンダーヒル伯爵令嬢?」


 


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