第1作「雪乃と言えない秘密」
「雪乃ー食堂行こうよー」
「あ、今行くよ」
そう言って走っていく彼女の名前は楠木雪乃。この春から創造大学に入学した大学1年生である。容姿はかなり可愛い方であり
「あ、楠木さんだ…」
「今日も可愛いな…」
と、毎日のようにすれ違い様に男子たちに呟かれている。本人は気づいていないが。
「雪乃ってなんでこんなにモテるのに彼氏作んないの?」
「それなー。ゆっきー超可愛いのに」
「うーん…そうゆうのよくわかんないんだよね」
この言葉に一切の嘘はなく、雪乃は生まれてこの方彼氏がいた経験がない。
「まぁ、ゆっきーは音城君がいるからねーもう付き合ってるみたいなもんだしね」
「ふぇ!?い、いや新太君とはそんな関係じゃなくて…と、友達であって…」
「この動揺の仕方もう確定だろ」
「もう!2人ともいい加減にして!」
「ごめんって笑」
このように楠木雪乃は至って普通の女子大生っぽい生活を送っている。しかし、そんな彼女にも人には言えない秘密があった。
それは———「歌い手」としてネットで活動していることである。高校2年生の時に「粉雪」というハンドルネームで活動を始め、今では歌い手界を代表する超有名歌い手となった。
「…こんなこと、周りに知られたら大変な事になるよね…」
「ん?雪乃なんか言った?」
「いや、なんでもないよ」
そりゃそうである。自分が「粉雪」だという事がばれてしまったら大学中のファンが押し寄せて来て大学生活どころじゃなくなってしまう。雪乃は自分の正体を隠し通す事にしているのだった。
「ところでさ、2人はサークル決めた?」
雪乃の友達の1人が話を変えた。
「あたしはバトミントンやるよ。雪乃は?」
「私はまだ決めてないかな…岬ちゃんは決めたの?」
「うん。私はテニスやるんだ」
創造大学はサークルが多いことで有名であった。運動系と文化系、合わせると100を超える数のサークルがあるという。
「まー雪乃はどうせ音城君と一緒のサークル入ってイチャイチャするんでしょ?」
「し、しないよ!イチャイチャなんて!」
「でも一緒にサークル巡り行くんでしょ?」
「…………」
「あ、ほんとに行くのね」
「これはもぉ確定じゃないですかー雪乃さぁん?」
「もう!2人とも変な話しないで!」
しかしこの時の雪乃は思ってもいなかった。まさか自分があんなサークルに入る事になろうとは————