6.青天霹靂
読者様には、感謝しかありません。ありがとうございます。(平伏)
引き続き、誤字脱字や拙い文章にお目汚しな部分はあるかと思いますが、ご容赦いただけますと幸い。
国王主催の舞踏会は、二人の王子の誕生日会を兼ねている事もあり盛況だった。
よく見れば若い令嬢達が多い。マリウス曰く主役の二人は独身で、婚約者もまだ居ないという。
そうなれば野心家の貴族達にとって、王族と親類縁者になれるかもしれないこの好機は逃せない。特にノアは王位継承の有力候補、また美貌の持ち主ということで妃の座を狙う令嬢達は多い。ノア王子の目に留まるためなのか、令嬢達の気合の入り具合が違う気がする。
しかし、そんなことはアナには縁がない話。
アナ自身”結婚”というものは、出来ないだろうと思っている。
不気味な蛇の印を身体に刻まれた醜い自分など、愛される資格はないと。
その所為か流行りの装いで美しく着飾る令嬢達の姿に気後れするし、向けられる視線が疲弊感を生む。
そんな中でアナは独りになってしまった。
(はぐれてしまった………。どうしよう)
挨拶周りに疲れ、集中力が欠けマリウスの腕から手を離したのがいけなかった。気が付けば兄の姿を見失いアナは落ち込む。
「仕方ないよね………」
ため息と共に諦めの言葉を口にしてアナは、広間の端で壁の花になり兄を探す。
次第にアナの存在に気づいた貴族は、あからさまに避けて目の前を通るか、逆にジロジロと不躾な視線をぶつけてくるか。マリウスが一緒に居なければ、アナ個人に声をかけてくる人などいない。
『呪われた魔女よ……』
『目を合わせたら、呪い殺されるぞ』
『両親は闇の精霊を呼び出そうとして、失敗したって?』
『その闇の精霊と交わったから、印を刻まれたって聞いたわ。なんて卑猥なのかしら』
『もしかして新しい生贄を、探しに来たのか。不吉だ』
『近づいたら、血を抜かれて生贄にされるぞ』
嘲笑に混じって小声で聞こえる貴族達の噂話はどれも性質が悪く、一部を除き事実とは異なるものばかり。広間に視線を向けマリウスの姿を探していたが、聞こえてくる声にアナの表情は段々険しくなり視線は下を向き、気が付けば自分の足元を見ていた。聞きたくない声に居た堪れなくなり、全身が強張り前で組んだ両手に力が篭る。悪意に満ちた声など聞きたくない、聞こえるならミア達の声がいい。
疲弊感が肥大し息苦しさに、アナは限界を悟る。広間から離れ外の空気でも吸おうと、足を踏みだした瞬間に周囲がざわついた。
俯いていた視界に自分以外の影と男物のブーツが映る。人の気配と共に聞こえるたのは耳触りの良いテノールだった。
「レディ…。一曲、私と踊って頂けますか?」
「え?……あ、あの…ランバート殿下?」
声に弾かれるようにして顔を上げると、先ほどまで壇上に居た第二王子のランバートが目の前に居た。彼は蠱惑的な笑みを浮かべながら、アナに向かって手を差し出し、ダンスを申し込んでいた。予想外の状況にアナは双眸を見開き狼狽え、口が半開きのままの間抜けな表情を晒してしまう。
「あぁ、ちゃんと私の事は、知ってくれているらしい」
(知ってるも何も、さっき国王が紹介してた……それよりもなぜ、私なんかに声かけるのよ)
国の王子にダンスを申し込まれているという状況に脳内は混乱状態、返す言葉を無くす。一方でアナは目の前で魅惑的な笑みを浮かべている”この人は誰?”と思ってしまう。遠目に見た壇上に立つ彼は、人を誘惑するような愛想の良い笑顔を浮かべていなかった。目が合ったと感じた時も、此方を怖い顔で睨んでいる様にしか見えなかった。
「沈黙は肯定として、受け取っていいね?可愛いレディ」
返事をしないままでいると、痺れを切らしたのかランバート勝手な解釈を口にする。同時に距離を詰めアナの手を取ると、彼は手慣れた仕草で手の甲にキスを落とした。
その瞬間、再び周囲に居た貴族達が――特に令嬢達が驚き、口々にざわつく。
「………………なッ―――――」
キスをされた瞬間、頭の中が真っ白。自分の身に何が起こったのか遅れ、理解する頃には急激な気恥ずかしさが込み上り、ポンと小気味の良い音を立て顔が真っ赤に染まる。異性への免疫力が皆無のアナにとって、彼の取った行動は思考回路を混乱させるには十分な行為。益々言葉を無くしてしどろもどろになるアナの様子に、ランバートは口角を引き上げ小さく笑い。
「本当に、可愛いらしい……。さぁ、踊ろう」
「え、ちょ、ちょっと、待って下さい。私……」
耳元に彼の唇が寄せられ色気ある低音で囁かれると、脳髄が痺れ眩暈を起こす。社交辞令だと分っていても、褒められれば悪い気はしない。でも気恥ずかしくて彼の顔を正視できず視線を反らした。その隙に強引に広間の中央へ引っ張り出されそうになり、アナは自分の置かれた状況にやっと気づき焦る。ランバートから離れようと抵抗するが、しっかりと握られ離れる事が出来ない。アナの抵抗の意思が彼に伝わったのか、顔だけを向き直らせ口を開こうとした瞬間だった。
「これは、これはランバート殿下。ダンスの相手をお探しでしたら是非、私めの娘…オリビエといかがですかな?」
突然、二人の目の前に派手なフロックコートを着た小太りの貴族が進み出て来る。男はアナの存在など完全に無視し、傲慢な態度で図々しくも自分の娘を紹介しだす。隣には胸の谷間を強調した露出度高めの、派手な紫色のドレスを着た女性が艶然と微笑んでいた。
「ガスパロ・ヴェナンチーニ公爵………」
目の前に進み出て来た貴族の名前を口にしたランバートの声色はなぜか低さを増し、纏う空気感が冷えたものに変わり、アナの背筋はぞくりと粟立つ。
「ランバート様、ダンスの相手は私が務めさせていただきますわ。そんな醜い呪われた魔女と踊れば、ランバート様が呪われてしまいます」
真っ赤な唇の口角を引き上げ蔑むような笑みをアナに向けたあと、ランバートの方へと向き直るオリビエ。彼女は彼の冷えた空気感など全く気に留めた様子もなく、うっとりとした表情を見せすり寄る。その行動がランバートの機嫌を更に逆撫でしているとも気づかずに。
「呪われた魔女?」
何も知らないランバートが訝し気な声で問い返しアナの方を見る。
吹き込まれた先入観を元にランバートが偏見の目を向けていると思えば、アナは自らが持つ劣弱意識を刺激され顔を上げる事が出来なかった。
「えぇ。ノア様とランバート様の誕生日のお祝いが、呪われた魔女の所為で汚れてしまいますわ。なんて不吉なのかしら。さっさと消えてしまいなさい、呪われた魔女」
オリビエからは執拗な追い打ちを掛けられ、再び湧き上がった疲弊感と息苦しさで表情が歪む。傍観する貴族達からもヒソヒソ話をする声が微かに聞こえだすと、もう駄目だった。
「申し訳ありません殿下…、ダンスは辞退させてください」
ランバートから手を引き離し、距離を取るとアナは彼の顔を見ないようにして頭を深く下げ早口で謝罪。その後は彼からの返事を聞く事なく早足で逃げ出す。
「当然ですわね。品の無い呪われた魔女のくせに………。さぁ、ランバート様。一緒に……」
「触るな……。まったく、余計な邪魔をしてくれる」
去って行くアナの後ろ姿を見ながらもオリビエが、勝ち誇った様な笑みを浮かべ再びランバートの腕に自分の腕を絡めようとした瞬間だった、ランバートは吐き捨てる様に言い放ち彼女の腕を容赦なく振り払う。広間には乾いた皮膚の音を響き、観衆が口々にざわつけば一斉に注目の的を変えた。
「な、なぜ?。ランバート様?」
何が起こったのか理解出来ていないオリビエは、狼狽しランバートに問い返す。
「ランバート殿下!!……」
「品が無いねぇ…。俺には人を貶めるような事を言うお前の方が、品が無く醜い魔女に見えるが?」
父親の公爵の方は娘が侮辱されたことに不快な表情を浮かべ抗議しようと口を開いた瞬間に、逆にランバートが痛烈にオリビエを非難し、冷めた目で睨む。そのまま周囲で傍観していた貴族達にも、冷ややかな視線を向たが彼らは視線を反らし関係ないふりして逃げた。
「ヴェナンチーニ公爵、娘の教育くらいちゃんとした方がいい………。先に失礼する」
ランバートは嘆息しもう興味はないといった態度で公爵親子を突き放し、そのまま振り返ることなくアナを追いかける様にしてその場から立ち去った。
残された公爵達は大勢の観衆の前で恥をかかされ、屈辱で身体を震わせる。オリビエは親指の爪を噛み、父である公爵の方は去ってゆくランバートの背中を恨めしそうに睨み続け、周囲に聞こえない声でと
呪文を唱える様にぶつぶつ恨み言を零す。
――――※―――――――――※―――――――――※―――――――――
「はぁ、はぁ……。やっぱり来るんじゃなかった……」
脱兎のごとく広間から逃げたし中庭へと出る。なんとか人の気配が無い場所まで辿りつくと、急に息切れを感じ近くにあった石製の長椅子へと腰を下ろす。零れるのは後悔の言葉――分っていたが、観衆の前であからさまに罵倒されるなんて理不尽の極み。しかし、オリビエが言い放った”呪われた魔女”や”不吉”という言葉に、アナははっきり”違う"と言えない。
何せ彼女の言ったことは本当のことだから…。
「マリウス兄様探さなきゃ……。………戻りたくないなぁ…」
大きくため息を零しながらも、自分が抜け出して来た広間を見つめる。
外に出た事で精神的な息苦しさは解消されたが、完全ではなかった。
全部の窓を開け放っているため離れていても、楽団の演奏や来賓達の賑やかな話声は漏れ聞こえてくる。兄を探さなければならないが、あの賑やかな場所に戻るのかと思うと億劫になった。
「皆に会いたい、モフモフしたい……」
『アナ、だいじょーぶー?いじめられた?』
『僕のお腹でモフモフするー?』
『ナキのお腹は、モフモフじゃなくて、ぽっちゃりー』
何度目かの本音を零す――次の瞬間、間延びしたおっとりとした声が左耳に聞こえると、アナは敏感に反応し声の主を探した。視線を下に向けると自分の膝の上にちょんと可愛らしく座る三匹のネズミ達。
『こら、ハニーを癒すのは俺様の役目だ。邪魔すんな食いしん坊三兄弟』
更に木の枝からアナの肩へとカラスが飛び降りてくると、ネズミ達に抗議しだす。
「トト、ナキ、ケト、それにギュールズ。貴方達やっぱり付いて来てたのね」
城の中へと入る前に感じた気配は、やっぱり彼らだったのだ。
屋敷の中で一緒に生活するミアやサンディと違い、普段彼らはエングースがいる厩舎で過ごしている。それに身体の小さいことや空を飛べる彼らは、アナに隠れてこっそりと付いてこれる訳で。
「もぅ。見つかったらどうするの。騒ぎになって捕まっちゃうでしょ」
大勢の貴族が集まる広間で害獣とされるネズミが、走り回っているだけでそれこそ大騒ぎ。本当によく見つからなかったものだ。
『だって、アナだけご馳走…ずるい』
『そーだそーだ、アナだけずるい。ぁ、アナも一緒に食べる?』
『だいじょーぶーだよ。こっそり運んだよ。アナ、このクッキー美味しいよ?』
それなのに彼らは悠長な態度で頬袋に詰めた焼き菓子や、好物のチーズの欠片を出して膝の上でカリカリと食べ始める。ナキに至っては小さな手で、クッキーの欠片をアナへ差し出し相変わらずの食いしん坊ぶりを発揮。おかげでアナは毒気が抜かれ、ついでに疲弊感も緩和される。
「はぁ……。本当に食いしん坊なんだから……。ギュールズもご馳走目当て?」
『俺様はそこまで食いしん坊じゃないぞー。ハニーを護衛するために決まってるだろ』
嘆息して次は肩に停まっているギュールズへ視線を向けると、彼は翼を広げ誇らしげに言う。
「まぁ、それは素敵なナイト様ね。ありがとうギュールズ」
『任せろ、ハニー。いじめられたら俺様が、コテンパンにしてやる。』
その姿を見てほっこりした気分になると自然と笑みが零れ、彼の喉元を指先で撫でながら感謝の言葉を返せば、照れつつも心地よさそうに目を細めた。
広間に居るのが辛くなって中庭へと逃げ出し、再び広間へと戻る気力を失いどうしようかと困っていたが予想外にも彼らに会えたことに感謝した。そして広間には戻らず、暫くは中庭で彼らに癒されると決める。
しかし、癒しの時間は長くは続かなかった。
「見つけた……。どこに行ったかと思えば、こんな所に居たのか」
聞き覚えのある声が聞こえたと同時に、人が近づいてくる気配に三兄弟は膝の上から素早くドレスをよじ登りアナの首裏や纏めた髪の影に隠れ、ギュールズは肩から近くの枝へと飛び移る。
「………誰?」
「もう、私の事は忘れた?レディ」
人の気配がする方向をじっと見つめれば、次第に月光に照らされてその姿が浮かびあがってくる。
「ランバート殿下?……どうして……」
月光に照らしだされたのは、先ほどダンスを申し込んできたランバートだった。彼の口ぶりではアナを探していた様子、なぜダンスを断った相手を探す必要があるのかとアナは驚く。
「どうしてって……。ダンスを申し込んだ、それを君は了承してくれだろう?」
アナの驚く様子が意外だと言わんばかりの様子を見せ、逆に一方的な言い分を放ちながら彼は距離を縮めて来る。
「違います……、辞退させていただきました」
彼の身勝手な決め付けにアナは憤りを感じ、長椅子から立ち上がりはっきりと言い返す。
さっきも知らない上位貴族に罵倒されたばかり、王族と関わる事でまた知らない貴族から批判されたくないという思いが先走り、アナは近づいて来る彼から離れようとした。
「それは、ヴェナンチーニ公爵が現れたからだろう?」
しかし、離れようとした寸前で手首をランバートに掴まれ、強引に彼の方へと引き寄せられた。突然だったこともあるが力では彼に敵わず、アナはされるがままになり気が付けば彼の腕の中にいた。
「な、何するんです……離してください」
男性に抱きしめられている状況にアナは気恥ずかしさが込み上り、反射的に離れようと両腕を突っ張り彼の胸板を押し返すが腰を抱く力強い腕、逞しい胸板はびくともしない。ふと顔を上げれば間近には、ランバートの顔があって…
月明りに照らされ浮かび上る、野性みを帯びた精悍な面差しに心拍が跳ねる。そして間近で見る金色の双眸に魅了されると同時に、広間で彼を見た時と同じ既視感にアナは思わず彼を見つめ返してしまう。
「もしかして、誘ってる?…………――――んっ、っ。」
「ち、ちが………ッ、んぅっ……は、ぁ。……」
目が合ったのを切っ掛けに、魅惑的な笑みを深めたランバート。前触れもなく強引に下顎が掬い上げられたまま固定される、吐息が触れるほどにお互いの顔が近づいたと認識した時には、噛みつく様なキスをされていた。
唇を、唇で覆うような接触。角度を変えながらも下唇に吸いついたり、甘噛みを仕掛けてくる彼。アナは軽い酸欠に襲われ頭の中は真っ白、思考が擦り切れる一歩手前。息苦しさにアナは表情を歪め胸板を叩き抗議、しかし彼は止めない。むしろザラツク舌で唇を舐め、もっと深いキスを誘ってくる。その瞬間アナの脳髄は甘く痺れ、心地よさに肌は粟立ち体温が上昇、全身を巡る血液が沸騰したような錯覚を起こす。
”食べられてしまう”そんな感覚だった。不安と心地よさが混在した得体の知れない感覚にアナは戸惑い、全身が強張る。
「―――あれ?…キスは初めてとか?なら君も、他の令嬢みたいに楽しめばいい…」
唇を離し熱の篭った吐息と共に、放たれた言葉に羞恥で顔が赤面する。一方で奔放な遊びを楽しむ令嬢達と同じ扱いをする傲慢で軽薄なランバートの態度に、アナは激しい憤りを感じる。
「……は、…、ぁ……ッ…一緒に、…しないで……やっ、ぁ」
息苦しさから解放され、乱れた呼吸のまま涙目で彼を睨み否定の言葉を口にする。しかし当の本人は悪びれている様子は全くなく寧ろどこか楽しげ。アナの下顎を掴んだ手に力が篭り、今度は右を向かされ左首が無防備に晒される。更に腰を捉えていた手がアナの左首筋を撫で上げ、印を隠すチョーカーの位置をずらし秘密を暴こうとする。
「では、お前は何者だ………。答えろ。」
次の瞬間、彼の低音の声に鋭さが増す。視線だけを向けるとそこには魅惑的な表情ではなく、獲物を狩る獣の表情に変貌していた。アナは彼の態度の変わりように怯え、四肢が強張る。
「……っい、…いやッ…………」
再び顔を近づけてくる気配に気づいても逃げ出せず、ぎゅっと双眸を閉じ叫んだ。
『アナをいじめるなー』
「いでででッ……は、鼻がッ」
アナが叫んだ瞬間にネズミの鳴き声と共に、左耳に届く間延びした可愛らしい声。そして一拍遅れでランバートの苦痛を訴える声が聞こえた。
そっと目を開けるとランバートの顔の中央で、短い両手足を広げぺたっと貼りつくモフモフが一匹……どうやら彼の鼻に噛みついているらしい。
「みんな……。」
『トト、やっちゃえー』
『アナを、いじめるやつ成敗しちゃえー』
何が起こったのか理解するのに遅れ、呆気に取られていると髪や首裏に隠れていたネズミ達が姿を現し、左肩の上でランバートの顔に貼りつく兄弟を応援していた。
「くっ、こら。何する、痛い。離れろッ……」
噛みつかれる痛みに悶えながらランバートが、痛みの元凶であるネズミを手で振り払おうとした瞬間、トトは器用にもぴょんと跳んで離れアナのドレスのスカート部分に着地。そのままドレス伝いに肩までよじ登ってくる。
『ギュズ、でばんー』
『まかせろッ。ハニーにキスしたなー、この変態。俺様がコテンパンにしてやる』
痛みにランバートが怯んでいる隙にとトトが合図を送ると、カラスの鳴き声と共に木の枝からギュールズが現れ、羽ばたきながら彼の頭や腕を嘴で突いて攻撃する。一匹と一羽の絶妙な連携攻撃にアナは再び呆気に取られる。
「うわっ、今度はカラスかよ、……いででで。やろめ、突っつくな」
隙を突かれたランバートはギュールズの攻撃を防ごうと必死に両手で振り払うが、器用にも手の動きを交わしながらも突くギュールズの方が上手で。
『アナ、いまのうちー。にげるー』
ただ呆然とカラスに突かれるランバートを見つめて居たら、ケトが鼻先でアナの頬をちょんちょんし押しながら逃げることを勧めてくる。
「で、でも。ギュールズが……」
しかし、ギュールズをそのままにして逃げる事に逡巡し、足が前に出ない。それにこれ以上ランバートがギュールズの突き攻撃を受けているのも可哀想に思えてきて。突くのを止めてと…声に出そうとした瞬間。
『ギュズなら、だいじょーぶー。カラスだから、飛べるー』
『はやく、はやく。にげるのー』
『また、捕まっちゃうー』
いつもの間延びしたネズミ達の口調と根拠のない理由に少し不安になったが、急かす声に背中を押される。また彼に捕まったら、と考えると背筋がざわつき不安が蘇った事でアナは覚悟を決める。
「ギュールズ、ありがとう。先に行くから、貴方も早く逃げて」
未だに絶妙な突き攻撃を繰り返すギュールズに声をかければ、彼は『カァ』とひと鳴きし返事する。気合が入ったのかランバートの髪を嘴で摘まんで引っ張り、攻め具合に拍車をかける。
「あ、待て。まだ話は終ってない…くそ、いでで。ッ………お前は動物の声が聞こえるのか?」
そして広間に向かって走りだした瞬間、背後からランバートの引き留める声が聞こえ、彼は知らないはずの秘密を問うてくる。アナは驚き足を止めランバートの方へと顔だけを向き直らせると、また彼の金眼から送られる視線と合う。物言いたげな表情を浮かべる彼に、またアナも「どうして…」と聞き返そうと口を開きかけたが……。
『アナ、止まるな逃げろ!!』
ギュールズのひと際大きく叫ぶ声にハッとさせられ、結局そのまま何も言い返さず走って広間へと戻る。それからすぐにマリウスと再会することが出来、アナは体調が悪いと訴えて逃げる様に王城を後にした。
帰路につく間アナの脳裏にはずっとランバートが、最後に言い放った言葉が残り続け答えは出ることはなかった。そしていつもの日常へと戻っても、アナの心を悩まし続ける言葉となった。
無駄に長く、申し訳ございません(今頃かよ)