1.プロローグ
初投稿です。
拙い文章、誤字脱字などお目汚しの部分が色々あるのはご容赦いただければ。
少しでも作品の世界を楽しんでいただければ幸いです。
2019.6.15 一部改稿しました。
ふと気づくと意識は暗闇の中にあった。
「……ル、……………アナ………べ、ル……――――」
遠くの方から呼ぶ声が聞こえ、意識を集中させてその正体を見極めようとする。
だが目の前に広がる暗闇は視界に、何も映さず『黒』一色で何も見えない。
それでも呼ぶ声に反応し声の正体が、何者なのかを確かめるため黒い世界を注視する。
「―――アナベル…」
はっきりと名前を呼ばれ、背後へと振り返る。
懐かしい声の主が誰なのか分れば、嬉しい再会に喜びと安堵を感じ溢れ出す涙。
その一方で胸中で湧き上がってくるのは罪悪感。
「父様!……、母様!……」
振り返れば黒一色の世界に、ぼんやりと白い靄が現れ
次第にそれは人の形を成し、最終的には愛する両親の姿に変化した。
最後に別れた時と何ら変わりない。
優しく微笑む父と、艶然と微笑む母のその姿に嬉しさのあまり子供の身体で
勢いよく抱き着いた。腕に確かに感じた2人の存在に、更にぎゅと腕に力を込めて抱きしめた。
――――今度こそ、手を離さない。
そう、あの日みたいに手を離さない
「ご、ごめんなさい……。ごめんなさい。わたし、……わたしの、…」
「逃げろッ!!」
「え……なに…………きゃッ……」
涙声で詫言を何度も漏らせば、前触れもなく父が大声で叫ぶ。
びく、と身体が戦慄き2人の顔を見上げるが、そこに父と母の姿はなく
慌てる。再び黒一色の世界に戻った、周囲に視線を走らせ二人を探せば再び
白い靄が、姿を現し一冊の古びた分厚い本へと変化、風に煽られたのように
パラパラと勝手にページがめくりあがる。
次の瞬間、ピタリとあるページで止まると本から白く細い線が飛び出し地に円を
描き、更に記号の様な文字を円の中に書き上げた。
魔法陣のようなものが完成すれば突然、目が眩む程の光が放たれ黒の世界を一掃。
眩しさに悲鳴を上げ、反射的に双眸を閉じ表情を歪め再び双眸を開いた時に
広がっていたのは真っ赤な世界。
そして次に視界に飛び込んできたのは、変わり果てた父の姿。
既に息をしておらず顔面蒼白、双眸を見開き口から鮮血を吐き全身に獣の
鋭い爪で、切り裂かれたように細い傷を無数に受けていた。
足の一部分に至っては千切れかかっている状態で、まるで壊れた人形のよう。
まさに父は血の海に沈んでいた。凄惨な光景に瞠目し声を失ったまま
呆然と立ち尽くし、子供の自分は一瞬にして恐怖と悲しみに囚われた。
―――忘れもしない、あの日と同じ光景。
「アナ……ベル……に、にげて……はやく、にげて……」
悲しさと恐ろしさのあまり涙が止まることなく溢れて、赤い世界が歪んで見える。
足に力が入らず、立っている事も困難になりその場に座り込む。ただ自分が約束を
破ったことへの後悔ばかりが自分を支配し思考は働かず、頭の中は真っ白。
そこへ届く母の声。弾かれる様に顔を上げ、母の姿を探す。
血の海に沈む父の向こう側、白く光る記号文字が描かれた円の中心に立ち
母は涙を流し此方を見て、弱々しく娘に向かって呟く。
全身に黒く長い触手の様なものが巻きつき、母の身体を拘束している。
首に巻き付いた部分が更に引き締まれば、苦悶の表情を浮かべ反射的に、
呼吸しようとパクパクと口を開閉する。
「母様ッ……、今、たすけ……」
残酷な光景に子供の自分は恐怖し腰を抜かして、立ち上がって踏み出せない足。
でも、母を助けたい『動け足!』そう自分自身を一喝するも思うように
動かない身体。それでも母を失いたくない一心で腕を伸ばした。
同じように母も愛おしい娘の手を掴もうと腕を伸ばそうとするが、抵抗すればする程に
触手の拘束力は強くなり、母の身体を飲み込んでしまおうと触手が重なって覆い被さり
どんどん母はドロドロした沼に飲み込まれて行く。
「仕方無いね、邪魔者は排除しないと。お前が、悪い。アナベルが早く我の手を取らないから……。」
さも父と母が悪いと言わんばかりの傲慢さ。
左耳へと嘲笑を含んだ甘い低音の声で囁かれ、背筋にゾクリと悪寒が走り皮膚が粟立つ。
両親を悪く言う声に憤りを感じ、涙で潤んだ双眸で声の主を睨む。
左へと向き直ると、黒い靄の塊があり中央にはぎょろっとした金色の双眸が此方を捉え、
細く弧を描く口は、にやりと笑っいるようで不気味で居心地が悪い。
黒い靄は金色の双眸を眇め、笑い声を上げ更に言い放ってくる。
「今からでも遅くはないぞ?我の手を取れ……」
「ひッ……い、いやッ!!」
黒い触手が此方に向かって伸び先端が、青白く血色の悪い手に変化し頬を撫でる。
氷のように冷たい掌、細長い爪が頬を軽く引っ掻く感触に声にならない悲鳴を上げ
背筋は粟立ち、恐怖を煽られると同時に不愉快な気分にさせられた。
不気味な手を反射的に払い退けようと手同士が当たった瞬間に、ぱんっと破裂音が
響き、黒い靄の塊が分散し怯むような様子を見せた。突然の事に何が
原因で不気味な手を撃退するを出来たのか、状況が飲み込むことが出来ず
唖然とする。弾かれた方は、思い通りいかないことに忌々し気に舌打ちし気分を害した
様子だっだが、すぐに気を取り直し再び黒い靄の塊を作れば不気味な手を
少し離れた場所から伸ばしてきて。
「……ちっ、邪魔者のせいか。仕方ない、今回は我慢するよ…アナベル。でも再会する日まで我の事を
忘れないように、印をつけておいてあげよう。次は約束を破っては駄目だよ」
不気味な手が伸びて来たかと思うと、黒い靄が目の前から消えた。
その代り前触れもなく背後に人の気配がして、耳朶に人の唇が触れる。
続けて甘い低音で囁かれる。同時に左耳裏の首筋に長く伸びた爪の先端を宛がい
皮膚に軽く食い込ませてくれば、呪文のような言葉を呟き始めた。振り返る事が
出来ないまま次の瞬間に爪の先端が食い込んだ場所を中心にして、何か熱い物を
押し付けられ皮膚が焼けていく痛みを感じ悲鳴をあげた。
「あ゛ぁああ、あっぁあッ……」
まるで浸食されて行くかのように痛みを感じる場所は広がっていき、熱さに首が焼き
切れてしまうのではと錯覚した。ぎゅっと硬く閉じた双眸を薄っすらと開けば
涙で歪んだ視界に凄惨な姿の両親が映り、子供の自分はなんて無力なんだと思い知り
自責の念に駆られ自らも黒い世界に飲み込まれていった。