第一章7 『動き出す話』
「五神剣って言うのはさっきも言った通り破壊神を倒すときに創造神が使った剣が分かれた物よ。元の剣の事を神剣と言うの。だから、五神剣。五神剣はどれも力が強くて誰もが持てるわけじゃないの」
ユーキは興味津々という感じでシルヴァの話を聞いている。ラックはちゃんと聞いている様子では無かった。
「霊剣、龍剣、封剣、聖剣そして、魔剣。この五つが五神剣よ」
シルヴァの言葉を聞き、何か引っかかっている様な顔をするユーキ。
「んー、聖剣ってどっかで聞いたような……。ここまで出てきてる」
ユーキは喉辺りに手を当て、言う。その答えはシルヴァが言った言葉で思い出される。
「聖剣って言えばオウルクスが持ってる剣の事よね?」
ラックに問いかけるように言うシルヴァ。だが、それに反応したのはユーキだった。
「ああ! オウルクスだ! あいつが持ってたのってそんな凄かったのか。見た目から豪華だったけど」
ユーキが気付き声を上げる。次はそれにシルヴァが反応する。
「えっ!? ユーキってオウルクスと知り合い? 一体あなた何者――」
「ユーキ、ルア。やっと動き出したよ、泥棒が」
シルヴァの言葉がラックの言葉で遮られる。ラックの言葉にユーキが少し落ち着きを無くし応える。
「じゃあ、早く行こうぜ!」
それに対しラックは冷静に応える。
「その前に本を片付けてからね」
そう言いラックは大罪人について書かれた本を受け付けへ戻しに行く。シルヴァは世界童話辞典を持ちそれに着いていく。ユーキもシルヴァに続いて歩く。受け付けへ歩く途中シルヴァがユーキに言った。
「さっきの話また後で聞かせてね」
ユーキはさっきの話が何か分からなかったがそれは心の奥に閉まい、図書館から出た。
図書館から出て、最初にユーキが口を開く。
「それでラック。俺の勾玉を盗ったあの泥棒はどこにいるんだ?」
「勾玉? あれ、魔石じゃないの?」
またユーキにとって聞き慣れない単語が出てきた。ラックの質問に答えてからユーキも質問した。
「勾玉ってのは形のことな。で、魔石ってのが何か聞きたいんだけど」
「魔石を説明する前にまず魔鉱石から。魔鉱石って言うのは石とかがマナによって変化した物で、マナの濃度が高い所では純度が増して魔石ができるよ。ルアが盗まれた石も魔石だよ」
ラックがそう言うとシルヴァが首にかけていた石を少し上に上げる。その石はユーキの持つ石より澄んだ色をしていた。ユーキがシルヴァの持つ魔石を見ているとき、ある疑問が生まれた。
「あれ? 何で俺の持ってた石の事知ってんだ? あの時は確か盗まれた後に来ただろ?シルヴァ達」
「それは簡単だよ。泥棒が持ってた石が魔石のマナっぽかったから」
ああ、と少し声を漏らして理解したユーキ。ユーキはもうあまり驚かなくなっていた。そんなユーキにシルヴァが問う。
「それより何で魔石なんて持ってるの? 魔鉱石と違ってそんな簡単に手に入るような物じゃないけど」
「それは……。うろ覚えなんだけど小さい時に貰ったんだよ。父さんか爺ちゃんに、多分」
少し考えた後自信なさげに答えたユーキ。
(わざわざここで嘘つく必要はないか。それに助けて貰ってるから罪悪感あるし)
「て言うか、こんなこと今はどうでもいいだろ! 今は泥棒捕まえるのが先だろ?」
逸れていた話を元に戻そうとするユーキ。それにシルヴァが応える。
「確かにそうね。誰から貰ったか分からないほど昔から持ってる大切な物だものね」
「それじゃあ僕に付いてきてね」
そう言った後、ラックが泥棒がいるであろう場所に飛んで行った。二人は走ってそれを追いかける。ラックの速度は軽めに走って追いつける程度だった。
「これぐらいだったら付いてこれる?」
「ああ、この程度なら大丈夫だ! シルヴァはどうだ?」
ラックの問いかけにユーキが答える。それに続きシルヴァも答える。
「ええ、これぐらいだったら大丈夫よ」
「二人とも大丈夫だね。もし、無理だなとか思ったら言ってね。少し遅くするから」
「えっ? それで追いつけるのか?」
「多分追いつけると思うよ」
不安等もなく普通に答えるラック。
「ラック、お前他人事だと思って適当に答えんなよ? あれは俺にとって大切なもんなんだからな」
「いや、適当に答えてなんかないよ。そんなに遠くないんだよ。それに泥棒走ってないんだよ。まあ、悪目立ちしちゃうしね」
「そうだったのか。適当とか言ってごめんな」
ラックに謝ったユーキ。その会話を黙って聞いていたシルヴァが口を開く。
「それって私達はどうなの?」
シルヴァの疑問は周りを見れば一目瞭然だった。周りは精霊を先頭に走っている二人に目を向けていた。そして、分かりにくいが道も出来ていた。
「目立つのはちょっと嫌だけどそのお陰で止まることなく走れてるんだったら良いか」
「ここからはそうもいかないよ。人通りが多い所だからねこの道は」
ラックがそう言ったので前を見ると今まで走っていた道より人が明らかに多かった。
「ん? あの道ってあの大通りか?」
その大通りとは先程ユーキがシルヴァに疑われた路地がある大通りだった。
「そうだよ。でも、あの路地の近くって訳じゃないよ。あの大通りレイベル通りって言うんだけど人通りが多いんだよ。それに他の大通りと比べて特別に大きいんだよ。名前が付く程に」
「つまり、あの疑われた路地とは遠いんだな」
「あの時は本当にごめんなさい。慌ててたっていうのもあるけどそれでも……」
ユーキの言葉に反応し、少し前の謝罪をもう一度するシルヴァ。
「いや、それはあの時大丈夫だって言っただろ? 俺も逃がしちゃったし……。あれっ? 逃がしてもシルヴァ達にとってはどうでも良かったのか」
自分の間違いに気付くユーキ。だが、シルヴァがそれを否定する。
「良くはないわよ。結果、私のせいでユーキの魔石が盗まれたんだし。それにたとえ盗んでなくてもその行為が悪い事なの。ちゃんと罰を受けてもらわなくちゃ」
「後、あの泥棒多分有名だよ。最近巷で噂になってる泥棒だと思うよ」
ラックの言葉でユーキはある事を思い出した。
「あんま気にしてなかったけどあの女の人が言ってた泥棒ってあいつの事かよ。なんか急に怒りが湧いてきたんだけど」
「あの女の人?」
ラックがユーキに聞いてきた。
「ああ、シルヴァに疑われる前にも疑われたんだよ。泥棒ってな。理由もちゃんとしたような物じゃなかったし。あれは本当に意味が分からなかった」
「ユーキ私以外にも疑われてたの!? それだったらユーキが泥棒ぽいってだけで疑った私は悪くないの?」
「そんな訳ねぇだろ! 別に謝んなくてもいいけど一応反省の意思は持ってくれ。じゃないと許せねぇ」
シルヴァの天然っぽい発言に食い気味にツッコむユーキ。そんな二人にラックが言う。
「別にじゃれ合うのは良いけどもうそろそろ人が多くなるから気をつけてね」
「じゃれ合ってない!」
「じゃれ合ってねぇ!」
「わぁ、息ぴったりだね!」
笑いながら言うラック。だが、ユーキとシルヴァの息の合い様は凄かった。
「うわぁ、確かにここさっきより人多いな。この速度でもぶつかるぞ」
レイベル通りに入ってから初めにユーキが人の多さに引き気味に言った。人混みを掻き分けて進む程ではないが直進して走ることは出来ない程度の多さ。そこをラックを先頭に走っている。
「ねぇ、ラック。あとどれくらい?」
「そんなに遠くないよ、ルア。あと二十分はかからないと思うよ」
「それって人混みを走っての計算? それとも普通の計算? どっちだ」
ラックの考えにユーキが質問する。ラックは短くそれに答える。
「後者だよ」
「それ間に合うのか!?」
「ちょっと速度上げてくれないかな? 二人とも」
少し申し訳なさそうに言うラック。それに二人は少しため息をついて足を加速させ応えた。
「ここを曲がったらあともう少しだよ。曲がったあとに路地があってそこに泥棒はいる」
「また、路地か! 俺、今日何回路地入った!」
頭の中で今日の出来事を思い返す。昨日までの元の世界での思い出と比べられる程の出来事が思い返される。
(何であの時異世界行くのオーケーしたんだろ。今になって後悔してきた。かなり早いけどホームシックかな。いや、そんな気持ちじゃ駄目だな。了解したんだから最後までやり遂げるのが筋か)
頭を振り自分の気持ちを振り払うユーキ。それを見てシルヴァが心配そうに言った。
「え、えっ! ユーキ、急にどうしたの!? 頭振って、大丈夫?」
「大丈夫! 不安を振り払っただけだ。それよりラックあの路地か?」
シルヴァを心配させないよう答えるユーキ。そして、ラックは答える。
「うん、あそこにいるよ。急ごう。あ、そうだルア。魔石を僕に渡してくれない? 単純に取り返すのは難しいと思うから」
シルヴァはラックの真意が分からなかったが首にかけている魔石を外しラックに渡した。ラックはそれに触ると何か施した様な仕草の後、魔石をユーキに渡した。
「ん? 何これ」
「これを囮にして魔石を取り返して」
「そんなことしていい訳――」
「大丈夫。それにもし僕達が出たら、あの泥棒は逃げると思うから出られないんだよ。足は速かったから。だからそれを使って」
ユーキが言い終える前にラックが言葉で制した。ユーキは無言で受け取った。そして、路地の手前に辿り着いた。
「後で理由聞くからな」
「見れば分かるよ」
「ねぇ、ラック。本当に大丈夫なの? 他の方法もあるんじゃない? 失敗した時の代償が大き過ぎるわよ?」
ラックが何をしたのかが理解出来ている様に言うシルヴァ。しかし、ラックはシルヴァの忠告を受け入れる素振りもせず答えた。
「今ある物であれ以上に泥棒の気を引ける物なんてないしさっきも言った通り逃げられるから僕達も出れないからね。もしかして力尽くで取り戻す事を言ってるんだったら無理だよ。もし大通りに出られたらこっちは何も出来なくなる。それに飽くまでユーキの目的は取り返す事だからね」
シルヴァは何も言わずに黙る。怒っている訳ではなく納得したという感じで。
「ユーキ、それを渡せたら急いで取り返してね二つとも。そして、急いで帰って来て」
ラックがユーキに取り返す方法を伝える。シルヴァとラックの会話は聞いていたが触れなかった。
ユーキが路地に入ろうと前に立つ。何度目の感覚だろうか。疑われることには慣れてもこの感覚には慣れない
(この奥には泥棒とその取引相手がいる。怖いな。でも、シルヴァもラックもここまで助けてくれたんだ。ここで引き返す訳にはいかないよな)
そう決意し、恐怖で動かない足を機械仕掛けの様に動かしていく。路地に入ると経験通り目が慣れない。少し経つと慣れていき怪しげな二人がこちらを向いているのに気付いた。
「何だお前? 何か用か?」
「いや、特に用があるって訳じゃないんだけど……。その魔石、俺のなんだよ。これがお前が盗もうとしてたやつ」
ユーキはシルヴァの魔石を泥棒に見えるように掲げた。泥棒はそれを確認するとユーキに問う。
「それがあの女の魔石って証拠は? 確かにこれは俺の盗んだ魔石じゃねぇ。だから今、それを依頼主に説明してる。もし、それが本物なら渡して確認させろ」
泥棒は一応ユーキの話に乗ったようだった。だが、もう一人の依頼主の方は一切口を開かず俯いている。顔もフードの影が覆い確認できない。
「分かったよ」
ユーキは泥棒の言う通りにしようと足を動かす。だが、それを見て泥棒が声で制する。
「動くなっ! それ以上こちらへ来るな。投げて渡せ」
「そんなことしたら俺の魔石も返さねぇかもしれないからな。でも、そうしないと返してくれないのか?」
「ああ、だから早く投げろ。これを返してほしければな」
そう言い泥棒はユーキと同じ様に魔石を掲げた。そこには翡翠色に輝く勾玉があった。
「今から投げるからそのままそれ掲げといてくれよ」
泥棒からの返事はなかったがユーキは投げる姿勢をとった。そして、魔石を泥棒側に投げた。が、その魔石は空中で失速し泥棒の五歩手前辺りに落ちた。
「お前、態とか?」
「いや、すまん。手が滑った」
真面目に言うユーキ。そこに悪意は無かった。泥棒は少し前に落ちた魔石を拾おうとそこまで歩く。そして、少し膝を曲げ落ちている魔石に手を伸ばす。
(何が起こるのか。爆発系だったりしたら走るの嫌だな)
そんな事を考えている間に泥棒の手と魔石の距離が近くなっていく。そして、触れた。
その瞬間、魔法陣の様なものが泥棒に向け現れた。そして、その魔法陣から泥棒側へ暴風が吹き荒れた。泥棒とその依頼主はその風の威力があまりにも強すぎ後方へ吹き飛ぶ。その際手に掲げていた勾玉が泥棒の手から抜け落ちる。
「今だ!」
自分に言うように叫ぶユーキ。そして、走り出す。まず、空中に飛ばされたユーキの魔石を掴む。その次に地面に落ちているシルヴァの魔石を拾いその場を離れる。
「ラック! あれは言っといてくれ! 急には驚くから。あと、シルヴァ。これありがとう」
路地を出て直ぐに話しだすユーキ。そして、シルヴァに魔石を返す。一方、路地内で急に吹き飛ばされた二人は辛うじて着地した。
「済まない。油断した。少し待っていてくれ」
泥棒が依頼人に対し言う。依頼人は無言だったが泥棒はそれを確認し路地の出口へ駆けた。
「ん? 何か聞こえない? 何か走ってきてる様な足音が……。それにどんどん大きくなってない?」
突然シルヴァが言い出した。ユーキは耳を立てる。その時、ラックが緊張感なく言った。
「マナが向かって来てるね。早く逃げろー」
「”向かって来てるね”じゃねぇよ!」
ラックの言葉で路地内を見るユーキ。そこにはこちらへ近付いてくる何かがいた。その何かを確認したユーキがラックに叫ぶ。
「今はそんな事どうでもいいでしょ! 早く逃げなきゃ!」
シルヴァが正論を言う。その言葉に頷くユーキとラック。そして、ラックを先頭に後ろから迫る脅威から逃げた。