第一章6 『むかしばなし』
本の最初には目次が書いてあった。何と書いてあるか分からないユーキでも話が大量にある事は字数で分かった。
「最初はやっぱり世界創造のお話かしら?」
シルヴァがラックに向かって問いかけた。ラックはそれに答えた。
「それで良いんじゃないかな。絞るならその後に大罪人とかの話をすれば良いんじゃない?」
シルヴァはラックの提案に賛成する。ユーキは完全に置いてけぼりにされているがそれは仕方のないことだと自分の中で割り切った。
「それじゃあ、ユーキ。最初は世界創造のお話をするわね」
シルヴァが確認のためユーキに聞いてきたが、ユーキはその話が分からないので何となくで返事をした。
「どんな話でも良いよ。どれも聞いた事ないやつだし」
「分かったわ」
この言葉を最後にシルヴァは世界創造の話を音読し始めた。
「いまからとおいむかし、そうぞうしんさまがせかいをつくりかえました。せかいをはかいからまめるためせかいをつくりかえました。そのとき、ほかのかみさまはせかいにいられなくなり、せいれいやりゅうだけになりました。せかいがつくられたあと、そうぞうしんさまはさいごのちからをつかいせかいにマナをうみだしました。そして、ちからをつかいきったそうぞうしんさまはながいねむりにつきました。こうしてこのせかいができました。世界創造のお話はこんなところね」
「創造神は最後死んだのか?」
「やっぱりこの話分かりにくいわよね。何となく伝われば良いぐらいで作られた話だから表現が曖昧なのよ。質問の答えは死んでないわよ」
「じゃあ、眠りについたっていうのは疲れたとかそういう?」
「そうよ。ちょっとこの話を分かりやすくしてくれない? ラック」
シルヴァはラックに視線を送りお願いする。ラックはそれに頷き、ユーキに話しだした。
「今からさっきの話を分かりやすくするね。昔、創造神が世界を破壊神から守るため世界を創り変えた。理由は破壊神含め神の存在を消すため。この結果、破壊神や他の神も消えた。勿論、創造神も。新たな世界には神以外に存在した精霊と龍のみが存在していた。そして、創造神は自身が消える中、マナを生み出し、眠りについた。あと、さっきの話には無かったけどここで人間も生み出された。こんなものかな」
ラックの話を聞いて、さっき分からなかった部分が分かったユーキ。しかし、新たな疑問が生まれた。
「それって実話? それとも作り話?」
「これは実話だよ。精霊から伝わった正真正銘実話だよ」
ユーキはラックの言葉に驚いた。こういうものは大抵作り話と決まっているからだ。
「じゃあ、創造神もいるってことなんだな。どんなやつなんだ?」
ユーキは興味本位で話に出ていた創造神について聞く。それにシルヴァは答える。
「多分、この世界で彼女のことを見たことがあるのは少ないと思うわよ? でも、身近に一人だけいるのよね。いや、一匹ね」
「えっ! ちょっと情報が……。創造神が女だったことが驚きなんだけど。それに身近な一匹ってもしかして……」
ユーキはここで言葉を止め、頭の中で思い浮かべている”一匹”の方を見る。そこには腰に手を当て、自慢げな精霊が一匹浮いていた。
「そうだよ。この僕が創造神を見たことがある一匹だよ」
「そ、そうなのか! それでどんなやつなんだ? 創造神って」
「君の質問に答えたい気持ちはあるんだけど言えないんだよ。色々と事情があって」
ユーキはその言葉に少し肩を落とす。それを見てシルヴァがラックに言った。
「ただ単に覚えてないだけでしょ」
「あっ! バレちゃった?」
ラックがシルヴァの言葉にふざけた感じで応えた。ユーキはそこにツッコんだ。
「覚えてないんだったら何で自慢げなんだよ!」
ラックはそれに対して頭に手を当て笑った。このツッコミを最後に会話が区切られた。そして、シルヴァが口を開く。
「それじゃあ、次の話行くわよ?」
「次の話はどんな話なんだ?」
質問を質問で返すユーキ。その質問にはラックが答える。
「今度の話はさっきの世界創造みたいな物語ってわけじゃないよ。次は大罪人って言う人達の話」
「題名だけ聞いたらすげぇ物騒な話っぽいな。でも、実際は良いやつらだったり?……」
「少なくとも良い人達では無いわね。この国も襲われたことあるらしいし」
「それは確かに良いやつらでは無いな」
ユーキは少ない可能性に賭けてシルヴァに聞いたがその可能性はシルヴァの言葉によって潰えた。ユーキが可能性に賭けた理由はただ一つ。
(倒さないといけないのって完全にそいつらだよな。どうしよう、そんなやつら倒せねぇぞ)
ユーキは内心物凄く焦っていた。そして、自称『神』に対して少し怒りを抱いていた。
「ちょっと僕本取って来るよ」
このラックの言葉でユーキの意識は現実に戻ってきた。そして、ラックに問いかける。
「どうして取ってくるんだよ? この本で十分なんだろ?」
ラックはユーキの問いかけに答えずに本を探しに行った。なので、ユーキの問いの対象はラックからシルヴァに移った。
「シルヴァ、どうして取りに行ったんだ?」
「この話が終わったら分かるわよ。多分」
「何か嫌だな。自分だけ仲間はずれみたいで」
ユーキは口を膨らませながら言った。だが、シルヴァはそれを無視し大罪人の話を読み始めた。
「たいざいをおかしたものたちのことをたいざいにんという。かれらはおおきなつみをおかし、つかまった。しかし、にげだした。かれらはおおきなちからをもち、とめることがむずかしい。かれらはせかいがおわるのをまっている。短いけどこれだけね」
先程の世界創造の話とは雰囲気が違う話だった。世界創造の話はおとぎ話というイメージだったのに対し、大罪人の話は警告という感じだった。まるで、いつか必ず大罪人が世界を滅ぼす。そう語っているように。
「何かさっきとは雰囲気違うな。何かを訴えかけてるような感じがした」
「確かにこの話は他の話とは違うわ。ユーキが言ったように雰囲気が違う。そして、内容も」
少し二人の間の空気が重くなる。それを察知したユーキは少しテンションを高めて言った。
「な、なあ、この大罪人ってやつらがどんなやつかは知れないのか?」
「ああ、それならもう少し待ってて。直ぐ来ると思うから」
「直ぐ来る?」
シルヴァにそのまま言葉を返したユーキだったが、そのとき脳内で話が繋がった。
「だから、あいつは取りに行ったんだな。本を」
ユーキが気付いたことを口にしたとき、ちょうど精霊が帰ってきた。
「そうだよ。ていうか気付くの遅いね。ルアに教えて貰わなかったの?」
「それが教えてくれなかったんだよ。おっ! それが大罪人に関する本か? 本って言うより冊子の方が合ってるような気がするけど」
ラックの持ってきた本はとても薄かった。冊子と言われても不思議じゃないくらいに。ユーキの言葉にシルヴァが答えた。
「大罪人についての資料はほとんど無くなっていて、あるのは能力についてだけなの。名前も出身地も分かっていないわ。あと、教えなかったんじゃなくて喋らなかっただけだから」
「それを人は教えなかったって言うんだよ! それより能力についてしか情報が無いってそれはそれで珍しいな。普通情報を隠すなら能力とかから隠すだろ?」
ユーキの疑問は当然のものだった。情報を隠したのが大罪人であれば何か事情が無い限り優先的に隠したいのは能力だと考えられる。強さがバレるからだ。しかし、素性から隠されたとしたらそれを隠したのは、
「第三者ってことか」
ユーキの呟きを聞いて、ラックは驚いて言った。
「よく分かったね。君は頭が良いね。確かにユーキの言う通り情報を隠したのは第三者って説が一般的だね」
「やっぱりそうだよな!」
自分の考えが正しかったことが嬉しかったらしくユーキは少し声を大きくして言った。
「推測が当たったのは嬉しいだろうけどそろそろ読んで良い?」
シルヴァはラックの手にあった本をいつの間にか持っていた。そして、それを見せながら言った。
「ああ、ごめんな。待たせちゃって。早く聞かせてくれ」
ユーキは顔の前辺りで手を合わせ謝る仕草をする。それを見てシルヴァは本を二人の間に置き、開く。ユーキはその開かれた本を見る。
「これは説明みたいなものだから、物語みたいには読まないわよ」
「分かった。じゃあ、読んでくれ」
「大罪人とは童話にも書かれている通り大きな罪を犯した者達のことだ。それは基本的には七人と言われている。大罪とは憤怒 嫉妬 強欲 怠惰 色欲 暴食 傲慢の七つのことである。これらを犯した者達を大罪人と人は呼ぶ。先の文で基本的には七人と述べたがあと二人、大罪人と呼ばれる者がいる。それは虚飾 憂鬱の大罪人と呼ばれる者だ。大罪人は皆、大罪の異能と呼ばれる特殊な力を有している。虚飾 憂鬱は罪を犯してはいないものの大罪の異能を有しているので大罪人と呼ばれる。次は大罪の異能について説明しよう。ちょっとここで区切らせて」
シルヴァがそう言うのも無理はない。長文を何度も読んでいればそれは相当な疲労となることは容易に想像出来る。
「ごめんな。無理させてることに気付けなくて」
「いや、大丈夫よ。私がやりたくてやったことだからあなたが謝る必要はないわ」
「ルア、続きは僕が読もうか?」
ラックがシルヴァに提案する。シルヴァはそれに頷きながら答えた。
「お願いできる?」
ラックはそう言ってユーキ達が座っている側に来た。そして、シルヴァの読んだ続きから読み始めた。
「一つ目は憤怒の異能。憤怒の大罪人が持つ異能だ。能力を分けると主に三つある。完全な狂人にはならない力。狂えば狂うほど自身の身体能力等が底上げされる力。自身も含め吸った者を狂わせる霧を生み出し操る力。この霧は吸った場合程ではないが触れても狂う。二つ目は――」
ラックが次の異能を説明しようとするとユーキはその言葉を遮って言った。
「ちょっと待った! 途中で止めるのは悪いと思うが止めるぞ。狂うって具体的にどういうことだ?」
「確かにそれは分かりにくいか……。狂っている度合いのことを狂気度って言うんだ。それで完全な狂人って言うのは理性を失ってしまっている状態のことだよ。そして、それが狂うの最終段階。狂気度の上限。しかし、憤怒の大罪人にはそれがない。つまり、二つ目に言った力の上限が存在しない。分かった?」
「あ、ああ、分かったよ。ありがとう」
ユーキはラックの口から語られた憤怒の異能について整理していた。
(ラックが言うには狂気度が上限に達してしまうと完全な狂人になってしまう。たが、憤怒の大罪人はその状態にならずパワーアップの上限は実質存在しない。力を上げるためのものも霧を使用するから戦っているうちに勝手に上がる。簡単に言えば自動無限パワーアップってとこか。……勝てるかっ!)
将来的に戦うかも知れない相手の分析をし、自分に勝利の希望がないことが確認できたユーキ。そんなユーキには心の中で戦わないことを祈ることしか出来なかった。
「おーい、ユーキ。次の異能について説明して良い?」
ラックの問いかけ方から自分が熟考していたことに気付くユーキ。
「すまん、ちょっと考え事しててな。続きを話してくれ」
「それじゃあ、読むね。二つ目は嫉妬の異能。嫉妬の大罪人が持つ異能だ。もう、気付いているかもしれないが罪名は異能に対応している。話が少し逸れたが嫉妬の異能は主に二つの能力に分けられる。嬉しみ、悲しみ等の感情を増幅させる力。精神を縛り付ける鎖を使用する力。精神を縛り付けられるとそれは肉体にも影響するよ」
ラックは一つ一つで止まらないように能力について解説を入れてくれている。ユーキはそれに感謝した。
「三つ目は強欲の異能。強欲の大罪人が持つ異能だ。強欲の異能は主に二つの能力に分けられる。自身が不老不死となる力。自分が見て、体験したことのある技を十個までほぼ完全に模倣できる力。
四つ目は怠惰の異能。怠惰の大罪人が持つ異能だ。怠惰の異能は主に二つの能力に分けられる。自身の分身体を五つまで出すことが可能になる力。それ以降は徐々に完全な分身体じゃなくなるよ。敵味方関係なく自身の近くにいる者の気力を消失させる力。この気に長い間触れ続けると最終的には息をすることとか、つまり生きることすら面倒になっていくよ。
五つ目は色欲の異能。色欲の大罪人が持つ異能だ。色欲の異能は主に二つの能力に分けられる。自身の姿形を意のままに変化させる力。自身と目が合った相手を操れる力。この力は相手の強さによって目を合わせなければいけない時間が変わるよ。そして、秒数は相手を見れば感覚で分かるらしいよ。でも、色欲の大罪人の一番の脅威はその魔法の才にあるよ。
六つ目は暴食の異能。暴食の大罪人が持つ異能だ。暴食の異能は主に二つの能力に分けられる。自身が想像する動物を出現させることが出来る力。対象の名前、記憶、歴史、時間を喰らうことが出来る力。この力の使用条件は相手に二秒間触れること。そして、一回に喰えるのは一つまでだよ。
七つ目は……」
「ちょっとストップ!暴食の異能についてもうちょっと教えてくれ」
ラックが七つ目の異能を言おうとしたときユーキがそれを遮った。ラックはその言葉を聞いて頭上にはてなを浮かべた。ユーキはそれに気付き、ハッとして言った。
「ストップって言うのは待ってとか止めるとかそういう意味だ」
「そういう意味か。ユーキは知ってて当然のことを知らなくて、皆が知らないことを知ってるね」
「その言葉、一応褒め言葉として受け取っておくよ」
少し苦笑いしてユーキは応えた。
「それで説明して欲しいのは喰われたらどうなるかってこと?」
ユーキはラックの問いかけに首を上下に勢い良く振り答えた。
「簡単に言うと名前を喰われれば喰われた人物の名前が無くなり、周りから忘れられる。記憶を喰われれば自分も知り合いも誰だか分からなくなる。歴史を喰われればその人物が今まで行ってきたことが全ての人物の記憶から消え、歴史に矛盾が生じる。時間を喰われると喰われた人物がそこから歳をとらなくなる。ちなみに大罪人はその力によって全員不老だよ」
「どんなやつらだよ!」
ユーキは何となく予想していたがその事実を知ってしまうとついツッコんでしまった。
「暴食の異能についてはこれで分かってもらえた?」
「あ、ああ」
ラックはユーキの反応を確認し七つ目の異能について続きを読み始めた。
「七つ目は傲慢の異能。傲慢の大罪人が持つ異能だ。傲慢の異能の能力は一つのみ。状態を操る力。これの説明は難しいんだよね。まず、傲慢の大罪人は自身の状態を固定してるんだ。これは攻撃しても一切攻撃が通らない。つまり、自身の時間が止まっているみたいな感じだよ。そして、動きの状態も操れるから傲慢の大罪人が投げた物とかは能力の使用を止めない限り何があっても止まることはない。これが状態を操るの基本的な使い方」
ラックが七つの異能について言ったが、その時点でユーキの心は折れていた。
(ただでさえ強えのにそいつらが七人もいるんだろ。あっ、更に二人増えるのか。余計無理ゲーじゃねぇか! こうなったら与えられた力に期待するしかねぇな)
不確定要素に縋ることしか出来ないユーキ。ユーキは自称『神』に期待するしか無かった。ラックは虚飾の異能の説明に入った。
「八つ目は虚飾の異能。虚飾の大罪人の持つ異能だ。虚飾の異能の能力は一つのみ。世界の理を変える力。理とは決まりのこと。つまり、世界を思うがままにする能力」
ユーキが虚飾の異能の説明を聞き、矛盾点に気付く。
「それだと矛盾してないか? 大罪人は世界の終わりを求めてるんだろ? その能力で消しちまえば良いじゃん?」
語尾がいつもと少し違うユーキ。但し、質問は確かなものだった。ラックはユーキの問いかけに答えた。
「話は少し逸れるけど、大罪人及び破壊神のことを崇拝する者達がいる。その集まりを大罪衆と呼ぶ。まあ、一種の宗教だね。彼らの目的は破壊神の復活。つまり、世界の終わり。大罪衆の主力は大罪人とそれに仕える六人の司教。一人につき一人ずつ付いてるんだけど傲慢だけなぜかいないんだ。そして、虚飾と憂鬱はこれに参加してない。だから、虚飾は世界を終わらせない。もしかしたら、憂鬱は今後参加するかもしれないけど虚飾は絶対参加しない」
絶対と言い切るラックに首を傾げるユーキ。ラックはそれに応える。
「いつか会えると思うからその時分かるよ」
「そこは教えてくれよ! 急に意地悪すんなよ!」
今まで色々と教えてくれていたラックが急に言ってくれなくなった。そこに何か理由があるのかと思いつつユーキは言った。
「逸らした話を戻すよ。これが最後の大罪の異能だ。九つ目は憂鬱の異能。憂鬱の大罪人が持つ異能だ。憂鬱の異能の能力は一つのみ。脳内で絶望を体験させる力。これは周囲の者に夢のようなものを見せ、絶望を味あわせることで戦意を喪失させるんだ」
九つ目を聞き終わりユーキはため息をついた。そして、一言。
「無理だよ! こんなの!」
図書館だからと少し遠慮したがそれでも大きな声だった。それに一番驚いたのはシルヴァだった。ラックがユーキに読んであげていたのでシルヴァは少し耳を傾け、心ここに在らずという状態だった。椅子から落ちそうになったシルヴァはユーキに言った。
「急に大きな声出さないでよ! 周りに迷惑でしょ」
「そっちも迷惑だろ」
ユーキへ注意するシルヴァの揚げ足を取るユーキ。ラックはそのやり取りをにやけながら見ていた。だが、周りの注目を集めていたのでラックがその場を治めるため二人に問いかける。
「大罪人については終わったけど次はどうする? 五神剣とかどう?」
「なんだその厨二心擽る単語は!」
「「ちょっと何言ってるか分かんない」」
二つ同時に放たれた言葉はユーキの心を抉る。しかし、直ぐに立ち直り聞き返す。
「それで五神剣ってなんだ?」
「立ち直るの早いわね。五神剣って言うのは創造神が破壊神を倒すために使った剣が五本に分かれた物よ。読んでも良いけど。その前にラック、泥棒はどう?」
ユーキは泥棒について頭から少し抜けていたがシルヴァの言葉でハッとして思い出した。
「まだ大丈夫っぽいよ。というかあの泥棒、いつまで彷徨いてるのかな?」
誰かに聞くわけでは無くラックは言った。シルヴァはその答えを聞き、ユーキに言った。
「それじゃあ、話すわね。私の知識で良い?」
「それで良いよ」
シルヴァにサムズアップしながらユーキは言った。