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新たな世界でニューライフ  作者: 黒夜叉
第一章 始まりの一日
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第一章5  『第二国立大図書館へ』

 昼時を少し過ぎた時間帯若い男女と精霊が昼食を取りながら話していた。


「ラックが精霊だっていうのはさっき言ったわよね? まず精霊が何かは知ってる?」


 シルヴァの問いかけにユーキは首を左右に振り応える。それを見てシルヴァは話を続けた。


「精霊っていうのは簡単に言うとマナが生き物の形になったもの。つまり、マナを自由に操れるのよ」


 新しく出てきたマナという単語。ユーキはその単語について聞く。


「マナっていうのは魔法を使うのに必要なものか?」


「えっ! マナも知らないの! 魔法は知ってるのに。そうよ。マナは魔法を使用するときに使うものよ」


 ユーキの質問に驚きを隠せない表情をするシルヴァ。だが、直ぐに質問の答えを出してくれた。


「話を戻すわね。マナを自由に操れるということは体外に自身のマナを出して対象の人物にまとわせることも出来るの」


 ここまで言ってシルヴァは隣で暇そうに浮いているラックの方を見た。ラックはシルヴァの視線に気付き、続きを話した。


「纏わせたマナは自分のマナだから勿論もちろんどこにあるかは分かるよ。これがさっきの言葉の意味。今はあの辺にいるよ」


 ラックがお店の店外席から遠くの方を指した。指すと言っても肉球でだが、ユーキは反射的にラックの指す方を見た。


「あそこにいるんだったら早く取り返しに行こうぜ」


「さっきも言ったでしょ。まだ誰にも会ってない。捕まえるんだったら多い方がいいでしょ?」


 ラックが言った言葉にシルヴァが頷く。この時点で少数派のユーキは何も言えない。ここで会話が終わり、両者食べるのに集中した。しばらくして二人とも昼食を食べ終わった。


「美味しかったぁー」


 ユーキはお腹を手で擦り満腹を表現する。異世界でもこの表現が通じるのかは分からないが、それを見てシルヴァは嬉しそうに言った。


「喜んでもらえて良かった!」


「次はどこに行く? 泥棒はまだ誰かに会う素振りないけど」


 ラックがシルヴァに聞いた。ユーキはそれを聞き思わず言ってしまった。


「精霊の索敵能力やばいな。対象だけじゃなくてその周りまで分かるのか」


「そうだよ。だから、精霊をあまり敵に回さない方が良いよ」


 少し笑って応えるラックに少し恐怖を覚えるユーキ。その会話が終わるのを待っていたかのようにシルヴァが言った。


「次は図書館に行こうかな? まだ時間があるし、ユーキが何も知らないってことならその方が良いと思うの」


 ラックとユーキはその意見に頷き賛成した。だが、ユーキはその後気付いた。


「俺、字が読めないんだけど……。その場合どうやって本を読めば……」


 そのユーキの衝撃の告白に少女と精霊は驚いたが、直ぐにシルヴァが言った。


「大丈夫よ。読めないなら私が読んであげる。行くって言ったのは私なんだし」


 ユーキはこれを聞き、シルヴァはかなり優しく親切な人物だと思った。


 店から出て、シルヴァの言う図書館へ二人は歩き出す。ラックはまたシルヴァの髪の中に入っていく。


「どうしてラックは移動するとき髪の中に隠れるんだ? 誰かに見られでもしたら不味いのか?」


「別に見られたら駄目ってわけではないわ。でも、精霊は珍しいから見慣れてない人が多いの。そういう人達を驚かせないように目につかない場所に隠してるの」


 ユーキが言った質問に丁寧に答えるシルヴァ。ユーキはそれを聞き感心したように頷き言う。


「へぇー、周りのこと気遣ってやってるんだな。でも、ラックはそれでいいのか? 自由にしたいとかないのか?」


 ユーキの質問の対象がシルヴァからラックに変わった。ラックはユーキから問いかけられたのでシルヴァの髪の中から顔をちょこんと出して言った。


「確かに自由も良いけどこの中も快適だよ。肌触りも良いし、適温だし。まぁ、君には一生味わえないものだよ」


 優越感に浸る表情で言うラック。ユーキはそんな精霊に少し苛立ちを覚えた。そんなユーキの気持ちはシルヴァやラックには関係なく話は続いた。


「ラック、自由に飛びたいなら良いのよ? 隠れなくたって。見られても困りはしないし」


 シルヴァが提案した後にユーキはラックのほうを向き、顔の前で合掌して言った。


「見られていいなら触らしてくれよ、頼む!」


 片目を開け、ラックの表情を伺うユーキ。ラックが頷く。それを確認したユーキはラックのほうへ手を伸ばす。ラックが手の上に乗る。ユーキはラックを指で優しくまさぐる。


「外見通りの触り心地だな。あんまり動物触ったことないけど他の動物もこんな感じなのかな?」


 一度触ると手放したくなく、病みつきになってしまいそうなラックの毛。指でラックを弄るユーキはだんだん手全体で弄るようになり手つきも優しさは残っているが激しくなっていく。


「毎、日手入れ、してもらって、るからね。それより、ゆ、ユーキ。触る、の上手いね。て、手先が器用な、のかな」


「手入れってやっぱり大切なんだな。ラック、動物触るのに手先が器用とか関係するのか」


 ユーキが触るせいで喋りにくそうだったのでユーキは一旦での動きを止め、聞いた。


「手先が器用だったら細かい動きが出来るからされる側からしたらかなりのものだよ」


「へぇー、そうなのか。俺にこんな才能が……」


 自分の新たな才能に気付いたユーキは自身の両手を見て言った。そのとき、前を見ると木造の橋が架かっていた。大きな川に架かっていたので橋も大きかった。


「この川、大きいな」


「この辺りじゃ、一番大きい川よ」


 ユーキの問いに即座に答えるシルヴァ。このやり取りがあった辺りで足が橋を踏む。このとき、ユーキは自分が木造の橋を渡ったことがないことを思い出した。もう少しで橋の真ん中に到達するとき前から黒いフードを被る人が歩いてきた。恐らく男である。


(あの人、俺より目立つ格好してるな)


 ユーキと黒いフードの男の距離が縮まる。そして、ちょうど橋の真ん中、二人が重なったとき男がユーキの耳元で囁いた。


「お前とはまたいつか会いそうだ。この国で」


 急に囁かれた言葉に振り向くユーキだったがそこには黒いフードの男の姿は無かった。その様子を見て、シルヴァとラックは言った。


「どうかしたの? ユーキ。何か怖いものでも見たみたいに」


「もしかして、さっきの黒いフードを被った人が原因?」


 シルヴァの心配に応えようとしたが、ラックの言葉でその気持ちは上書きされた。


「黒いフードのやつが原因ってどうして分かったんだ!?」


「あの黒いフードの人、雰囲気がどこか可笑しかったから……。それにユーキの横を通り過ぎた瞬間に消えたし」


 まだユーキの手に乗っていたラックは消える瞬間を見ていたらしい。そこから十数分歩くと、シルヴァが言った。


「ここよ。この国で二番目の図書館。第二国立大図書館よ」


 シルヴァの指す方を見るとそこには今まで見たことがないくらい大きな図書館があった。


「想像してた図書館の遥か上だわ。もう、なんて言っていいか。こんな大きな図書館見たことねえ」


「えっ? これ第二よ? ここより先に出来た第一の方がこれより更に大きいわよ?」


 シルヴァの言葉に更に驚くユーキ。そして、心の中で思った。


(ここは異世界だったな。慣れってのは本当に怖いわ。想像を遥かに超えてくる)


 シルヴァを先頭に図書館へと足を進めようとするシルヴァ一行。そのとき、ラックがユーキの手から離れ二人の前に浮いて言った。


「ねえ、ルア。ユーキにはどの本を読ませるの?」


「ここに来るまで考えていたんだけど難しい話はやめた方が良いと思うの。だから、簡単な童話とかの方が良いんじゃないかしら?」


 シルヴァの提案にラックは頷く。ユーキはその話を第三者視点で聞いていた。そして、シルヴァに言った。


「童話って言うのはあれか? 桃太郎とか浦島太郎とか金太郎とかか?」


「そんな話は知らないわね。直ぐに思いつくのは世界が出来たときの話とかだけど……」


 言ってから伝わらないことに気付いたユーキ。そんなユーキにシルヴァが例を出す。それを聞いたユーキは言った。


「童話ってもっと楽しい雰囲気のものじゃなかった!?そんな世界創造の物語とかじゃなくない! まぁ、そういうの好きだからいいけど」


「あっ! そうなの? それは良かった!」


 手を鳴らして顔の前で合わせ、微笑むシルヴァ。それを見て微笑むユーキ。そして、二人は図書館への扉に歩いていった。そのとき、ラックはシルヴァの肩に乗っていた。


 図書館の中に入ると最初に受付のようなものがあった。そして、一番目を引くのは沢山の本だ。図書館なのだから本が多いのは当たり前なのだが、流石は大図書館、これほどの数の本を今までユーキは見たことない。


 図書館の構造は二階建て、と言っても一つの階が物凄いので高さが可笑しい。一階は中央に読書スペースと階段があり、他の部分は壁まで本で埋め尽くされている。二階は通路のような床しかなく、壁はこちらも本で埋め尽くされている。どちらもどうやって取るのか分からないところまで埋め尽くされている。


「なあ、あの高いところにある本ってどうやって取るんだ?」


 ユーキがシルヴァに聞く。


「あなたならその質問、絶対に聞いてくると思ったわ。あの辺の本は基本届かない。だから、梯子はしごで取るのよ」


「そんな大きな梯子があるのか?」


「伸縮自在の梯子よ。ほら、あれ」


 そう言ってシルヴァは受け付けの横にある小さな梯子を指した。その梯子があんな高さまで伸びることは想像がつかない。


「でも、あの辺の本って何があるか分からないよな? どうやったら分かるんだ?」


「それはあの名簿に書いてあるよ」


 ユーキはシルヴァに聞いたつもりだったがラックが答えた。ラックは受け付けに置いてある本を見た。一冊一冊は分厚いという程ではないが冊数が尋常じゃなかった。それだけこの図書館の本が多いということだろう。


「あの受け付けでは何が出来るんだ?」


「あそこではここの本を借りたり返したりが出来るわ。あと、探してる本が見つからないときは教えてくれるわね。それくらいかしら」


 質問ばかりするユーキに的確に答えるシルヴァとラック。ユーキの質問が終わったと思ったシルヴァは言った。


「もう分からないことはない? ないなら本見てくるけど……」


 シルヴァの言葉にユーキは頷いた。シルヴァはそれを確認してラックをユーキに預けて言った。


「中央にある机で待ってて。私は色々本持ってくるから」


「いや、それなら俺も一緒に――」


「ユーキはラックと一緒に待ってて! 私が持ってくるから!」


 シルヴァはそう言って受け付けの名簿を見に行った。ユーキはシルヴァの気迫に押され、ラックを連れて読書スペースに向かった。


「うーん、待っていてって言われても暇なんだよなぁ。特に話すことないし、精霊となんか」


 席に着いてからの第一声、困った顔で言うユーキ。周りを見回しても全方位本で囲まれてる。本が嫌いな人にとっては頭が痛くなる光景だろう。


(本が嫌いじゃない俺でも少し頭が痛ぇのに)


 そんなことを考えているとラックが話しかけてきた。


「話すことないは酷くない? でも、そうだなぁ、話さないのも気まずいし……。そうだ、ルアの話でもする?」


 ラックが考え抜いて出した提案にユーキは興味を持ったようにラックの方を見る。


「その話なら確かに良いな! じゃあ、二人はどこで出会ったか教えてくれよ」


「そういう話か。まぁ、良いけど……。じゃあ、話すよ」


 少し間を置いたラック。ラックの最初の言葉は敢えてスルーしたユーキ。そして、ラックは口を開いた。


「ルアと初めて会ったのは森だね。そこにはエルフが住んでいたんだけどあの子はそこの長の家系でね。ある日あの子がそこを出たいって言ってね。僕はそれを手伝った。それから、僕はずっとあの子と一緒にいるよ……。簡単にしたらこんなもんだね。何か質問はあるかい?」


「質問かぁー。そう言えばシルヴァってエルフなのか? 耳とんがってないけど」


「ああ、そうだよ。ルアはエルフじゃなくて人間だよ。エルフの長は人間が務めているんだよ。初代がエルフじゃなかったし」


 ユーキは頷いた。そして、シルヴァについてまた一つ知れたと思った。


(自己紹介の時はなぜか情報少なかったしな。ほとんど名前だけだったからな、アレ。普通もっとこう、あるだろ。色々)


 ラックが頷くユーキに聞いた。


「最初、ルアについて話そうって言ったでしょ? あれは恋愛系の話をするかなって思って言ったんだけど、その話にならなかったってことは君はルアのことが好きじゃないの?」


 急なラックの言葉にユーキが驚く仕草をする。そして、少し考えてラックに答えた。


「会って間もないのからな。本気で好きだって言えるにはまだ相手を知らなすぎる。それにラック、お前シルヴァのお父さん的存在だろ? そんな奴に言えるかよそんなこと」


「そうだね。僕はあの子のお父さん代わりだからね。そんなこと簡単には言えないかぁ。でも、僕は君たち良い感じだと思うよ?」


 ラックが二人の仲を褒める。確かに会って間もないのにここまで仲が良いのはなかなかにない話だと思うユーキ。ユーキは笑って言った。


「お父さんに許可貰えるならここからどんどん進展させていこうかな」


 ラックはこれに対して腕を組んでお父さん風に応えた。


「確かに仲が良いとは言ったが、それとこれとは話が別だ。簡単に娘は渡さんぞ!」


 ラックがこう言った後、ユーキとラックは見つめ合い笑いあった。そこにちょうどシルヴァが帰ってきた。


「あら、楽しそうね? 何か私だけ取り残されてるみたいで悲しいな。でも、あんまり煩くしたら駄目よ。図書館では静かにするっていうのが決まりなんだから」


 ユーキは帰ってきたシルヴァを見て顔を険しくした。そして、シルヴァに対して恐る恐る言った。


「今の話聞いてたか?」


 シルヴァがその問いに対して答えた。


「何? もしかして、私に聞かれたら困るようなこと話してたの?」


「いや、そんなこと話してないよ。楽しくまったりラックと話してたよ」


「ふーん、そっか。確かに楽しそうだったわね」


 シルヴァの反応で聞かれてないことを確認できたユーキは答えた。少し怪しく見える答え方だったがシルヴァは気付かなかったようで普通に応えた。


(ふぅ、危なかった。あんな会話聞かれてたら恥ずかしいどころじゃないな)


 心の中で安心しているユーキの耳元にラックは近づいていき囁いた。


「面白かったよ。何か純粋な恋って感じで良いね」


「何だよその『思春期真っ只中の男女に付き合ってないのとか凄い聞いてくる母親』みたいな感じは」


「ちょっと何言ってるか分からないよ、ユーキ」


 長々と語られたユーキの例えはラックには伝わらず、ラックの一言で呆気なく潰された。そんなユーキにシルヴァは聞いてきた。


「本、何を持ってくれば良いか分からなかったから一冊にしたの。それでも良かった?」


 ユーキはそれに頷いて応えた。それを見て、シルヴァは少し顔を明るくし手に持っていた一冊の本を見せて言った。


「良かったぁ! 私が持ってきたのはこの本です!」


「いや、あの、ごめん。読めないから口で言ってくれないかな?」


 本の表紙に書いてある文字はなんて読むのかユーキにとってはさっぱりだった。


「ああ、そうだったわね。それじゃあ、改めて! 私が持ってきたのはこの本、世界童話辞典よ!」


「その本って子供向け?」


 シルヴァが手に持つ分厚い本を見たユーキが一応確認として問いかけた。


「そうよ。でも、侮らない方が良いわよ。この本、物凄く教育的だから。戦いの歴史も子供向けに分かりやすく書いてあるし」


「それなら良いか」


 ユーキが納得の意思表示として頷きながら言った。そして、二人は二個隣同士で空いている椅子に座り、間に本を置いた。ラックは二人と対になるように机に座った。座ったユーキは本を右手で開いた。

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