第一章4 『一人の少女と一匹の精霊』
オウルクスの恐らく嘘であろう言葉を聞けたところでユーキは言った。
「今回もありがとな。おかげで助かったよ」
素直な感謝の気持ち。それを聞いたオウルクスは少し笑って応えた。
「君は凄いな。さっきの説教と言い、僕に臆することなく話せるなんて」
「いや、俺あんまりお前が凄いってこと知らないからな。確かに有名で強くて信用があるからって緊張なんてしねぇよ」
自分で言っていて途中で可笑しいなとユーキは思った。その言葉を聞き、オウルクスは更に自分の意見を言う。
「そうかもしれないけど、僕とそんな風に話すのは衛兵の中でも極一部だよ。ほとんどの人はさっきの騎士みたいな感じだよ? だから君は珍しいのさ」
オウルクスの言葉を聞いてユーキは先程の騎士を思い出した。確かにその態度は対等とは程遠いものだった。
「それでもだ。俺は珍しくもなんともない。簡単なことだ。その極一部はオウルクスの友達ってことだよ。そして、俺達も友達だろ?」
オウルクスに答えを示すユーキ。自分で言っておきながら少し恥ずかしいなと思うユーキだったが、それを聞いたオウルクスは軽く頷いた。
「確かにそうだね。答えは単純だ。僕と君は友達。それで解決するのか。ごめんね、こんな事で悩んで。先に言ったのは僕なのに」
「別に良いよ。こんな事でさっきの恩返しが出来るんだったら。それよりもうすぐ行くけど良いか?」
オウルクスの悩みは解決したのでユーキは止めていた足を進めていいかを聞く。
「ああ、良いよ。僕も特に用があって来たわけじゃないし」
ユーキの提案に賛成してくれるオウルクス。そして、最後に一言付け加えた。
「今度は事件に巻き込まれても助けられないよ。だからもう少し周りを意識して行動してね。それじゃあ、また会ったらよろしくね」
最後までユーキを心配してくれていると分かる言葉にユーキは微笑んで返した。
「また会ったらって……、直ぐじゃなかったら良いな。別に会いたくないってわけじゃないよ。それじゃあな!」
誤解を与えないように焦るユーキ。そして二人は別れ、ユーキは大通りを目指した。その背中を見つめるオウルクス。ユーキの背中が遠くなったところで口を少し開いた。
「少し怪しかったから跡をつけてみたけど取り越し苦労だったみたいだね。あんな状況でもボロが出なかったから僕の加護を防げる程の実力者じゃないと思うけど……。でもあの石の形はよく似てるんだよな、アレと。まぁ、ユーキが不審なことをすれば僕が直ぐ捕らえればいいか」
ユーキがいなくなった道端でオウルクスがあの場に来れた理由と石の秘密が明かされた。
✤ ✤ ✤
オウルクスと別れ大通りを目指すユーキ。しばらく歩くと路地に繋がると思われる大通りに辿り着いた。
「ここかな? おっちゃんが言ってた大通りは」
ユーキはその大通りに入っていった。他の大通りと人の多さも雰囲気も変わらない様に見えた。ユーキは次に路地を探しながら大通りを歩いた。
「すぐ見つかると良いなぁ……。あっ! あった!」
人通りの多い大通りに繋がる路地は直ぐに見つけることが出来た。その路地は最初ユーキが拠点にしていた路地よりも幅は狭く、人が3人程通れるぐらいだった。中は最初の路地より暗く、入るのに少し勇気がいる。
「はぁ……、急に何か出てきたりしないかな?」
ため息をついたユーキだったがこのままでは埒が明かないと思い一歩、また一歩と重い足取りで路地に進んで行った。
しばらく明るい場所にいたので中に入ると案の定目は見えにくかった。道なりに進むと次第に目が慣れてきた。
「これを道なりに進めばいいんだよな?」
誰かに問いかけたわけでもなくただ自身への確かめのようにユーキは呟いた。路地は一本道で迷うことなく進めた。角をいくつか曲がると光が見えた。
「やっと着いたか。おっちゃんの言ってた大通りに」
路地の出口の前には三段の段差があった。ユーキはそこまで行き、段差を上り路地から出ようとした時、大通りで声が聞こえた。
「止まりなさい! 泥棒! 止まらないなら少し痛い目見るわよ」
恐らく若い女性の声。ユーキはまだ目が明るさに慣れていないのでそう予想した。目が慣れてきたあたりでこちらに走ってくる足音が聞こえた。
「ん? 誰かこっちに走ってきてる?」
目が完全には見えきっておらず目を足音のする方へ凝らす。しかし、姿は見えなかった。だが、足音を出している人物がさっきの若いであろう女性が言っていた泥棒であることに気付いた。
「ここは通さねえぞ、泥棒」
足音の正体が泥棒だと分かったユーキは直ぐに路地を塞いだ。明るさに目が慣れたユーキは泥棒を見る。全身を紺色の布で覆っていて顔は見えなかったが恐らく男だとユーキは思った。
「通りたかったら俺を無理やりにでも倒すんだな! ……えっ!?」
泥棒を挑発し、足腰に力を入れたユーキ。しかし、泥棒を迎え撃つ準備を終わらしたユーキを驚かせることが起こった。大通りに強風が吹き荒れたのだ。それにより足腰に入れていた力が抜け、泥棒に簡単に突き落とされてしまった。
突き落とされたユーキは後ろの段差を転がり落ちた。その上に泥棒が落ちてきた。ユーキを倒そうとする時に力を入れすぎて体勢を崩したのだと考えられる。
「ドラマだったら死んでるぞこれ!! …うぐっ!」
ユーキが落ちたことにより首にかかっていた石が地に落ちた。そして、泥棒が落ちたことにより泥棒が盗んだであろう石が握りしめた手から落ちていった。どちらの石も色が翡翠色に近く、違う部分は形のみと言っても過言ではない。
泥棒は直ぐに立ち上がり痛がるユーキを無視し落ちている石を一つ、急いで拾い一本道の路地を逃げていった。その背中にユーキは腹を押さえながら声を振り絞り叫んだ。
「お、おい! 待てよ。逃げんなよ!」
声を振り絞った後、ユーキは視線を石に移した。そこにあった石は勾玉ではなかった。それに気付いたユーキはもう一度叫んだ。
「待て! その石は俺のだ! お前が盗んだ石はそっちじゃねぇ! こっちだ!」
ユーキの声は泥棒には届かずそのまま泥棒は曲がり角を曲がり姿が見えなくなった。すると、今度は上の方から声が聞こえた。
「あなたね! 私の物を盗ったのは! 早く返さないと痛い目見るわよ」
声をする方を見ると段差の上にユーキと同い年ぐらいの少女が立っていた。少女はこちらに右手の掌を向けていた。
「何するか分かんないけど俺は何も盗ってないよ! たぶん君のはアレじゃないかな?」
両手を体の前で左右に振り、自分が泥棒ではないことをアピールするユーキ。そして、地面に転がっている泥棒が持っていかなかった方の石を指した。
「あ、あなたじゃないのね……。ごめんなさい! 私も焦っててつい――」
段差を降りて謝ろうとする少女。謝罪を言い終える前にユーキが割って応えた。
「別に大丈夫だよ。疑われるのはさっきので慣れたし。それに泥棒を止められなかった俺も悪いよ」
ユーキは慣れるのがが異常に速かった。だから、疑われても怒ったりしなかった。少女に謝った後、更に言葉を続けた。
「それよりも大丈夫か? そんな簡単に人の言葉信じて。もしかしたら嘘ついてるかもしれないぞ?」
少女を純粋に心配する言葉。しかし、この言葉は自分が悪い人だと勘違いされても仕方ないものだと後からユーキは気付いた。ユーキが言葉を訂正しようとすると少女の声ではない第三者の声が聞こえた。
「大丈夫だよ。もし、そんなことがあったら僕が止めるし。何よりそこがこの子の良いところなんだから。」
どこから聞こえるか分からない声。ユーキが周りをキョロキョロ見回していると、また声が聞こえた。
「ここだよ。ここ、ここ。ここにいるよー」
再び聞こえる声。その呑気そうな声は少女の長い髪の中から聞こえていた。
「ま、まさか、髪が喋ってい――」
「そんなわけないでしょ!」
ユーキが冗談混じりで言った言葉を少女は思いっきり否定した。ユーキは苦笑いをし頭を掻く。
「いや、冗談のつもりだったんだけど……」
少女の髪の中から聞こえる声もユーキの言葉に便乗してくる。
「そうだよ! 今のはこの子の冗談だったでしょ!」
「もう! そんなこと言うんだったら早く出てきなさい!」
二人に責められる形になってしまった少女は少し怒ってそう言った。そして、自身の髪の中に手を入れ、何かをつまみ出した。その何かとは言葉では説明しにくいものだった。
「やぁ、 初めまして! 僕はラック。よろしく!」
何かよく分からない生物が摘まれた状態で小さな手を出し握手を求めてきた。
「ああ、よ、よろしく。」
少し戸惑うユーキだったが、取り敢えず応えた。そして、小さな手に対し握手ではなくグータッチをした。
「なあ、ここでこんなことしててもいいのか?」
ユーキは泥棒に話題を戻した。しかし、直ぐに気付いた。
「違うか。泥棒が盗ったのは俺の石なのか……。じゃあ、早く取り返しに行かないと! すまねぇ! 俺用事思い出したからもう行くよ!」
盗られたのはユーキの石。つまり、この少女たちはもう関係ないのだ。それに気付いたユーキはその場をすぐ様離れようとした。しかし、少女に呼び止められた。
「取り返しに行くって、どこにいるか検討はついてるの?」
少し表情の曇るユーキ。だが、少女は少し微笑んで言った。
「大丈夫よ。私たちが手伝ってあげる」
「いや、良いよ。もう君たちは関係ないしこれは僕の問題だから」
「それは出来ないわ! 元はと言えば私が原因なんだから手伝うわよ。それに手伝うと言ったって、もう場所は分かっているから。そうでしょ? ラック」
少女の言葉に首を傾げるユーキ。そして、ラックと名乗る生き物の方へ視線を送ると、少女の手から解放され少女の肩に乗っていた。
「うん! 分かってるよ。でも今はまだ駄目かな。まだ逃げてる最中だから」
何を言ってるか分からないと言うような顔をすると、少女が言った。
「取り敢えず立ち話もなんだし、どこか座って話せるお店に行かない? これも何かの縁だと思うし、それにお腹空いてるでしょ? あなた」
確かに異世界に来てから何も食べていないユーキだったが、それを先程からの少しの仕草で当てた少女は観察力が高いなと感心した。
「よく分かったな。観察力が高いんだな、君は。でも俺お金持ってないんだよ」
「えっ!? 本当にお腹空いてたの! 何となくで言ったつもりだったんだけど。あと、お金は大丈夫よ。今日は私、お小遣い貰ったからね!」
自分がお小遣いを貰ったことを腰に手を当てドヤって言う少女。いつもお小遣い貰ってないのかなとユーキは思ったが、その仕草は素直に可愛いなと思った。
路地から出て、二人並んで歩くユーキと少女。ラックはまた、少女の髪の中に入っている。傍から見れば恋人同士に見えるなと思うユーキだったが敢えて口には出さなかった。
しばらく歩くと真新しい店があった。少女はそこを指して言った。
「ここよ! ここ。最近出来たらしいの! 行ってみましょ!」
テンションが妙に上がっている少女。ユーキは心の中で思った。
(あれ? これって俺の腹拵えのためだったよな?)
少女を先頭として店に入っていく二人。店内は新しいと言うだけあって満席だったが、少女が進んでいくということは空席があるということなのだろう。しかし、店内を見回しても空きが見つからない。
「どこの席が空いてるんだ?」
「運が良かったわね、あなた。偶空いていたのよ」
どこだよと言おうとしたユーキだったが少女がどこへ行こうとしているかが分かったので言うのをやめた。少女が向かっているのは扉であった。少女が扉を開けるとそこには数組用の席があった。
「ここがこの店が人気の理由、店外席よ!」
そう言いながら唯一空いている一組の席に座った。ユーキもそれに続き少女の反対側に座った。
「いい景色でしょ! ここ」
それを聞いて横を見るユーキ。遠くの彼方まで見える見晴らしのいい景色。これが見れるというならば人気なのにも頷ける。
「確かにいい景色だな! 遠くの方まで見渡せる」
少女は何度も頷く。余程ここに来たかったのだと分かるくらいに。ユーキが景色を眺めているとラックが髪の中から出てきた。それを見てユーキは問いかけた。
「その、ラック? だったか。ラックは何なんだ?」
「僕かい? 僕は精霊だよ。それより、話し合うんだったらさ、自己紹介しといた方が良いんじゃない?」
少女とユーキにラックは言った。ユーキは精霊と聞いてそのまま話を流すことは出来なかったが、ラックの言うことも確かだと思い、自己紹介をした。
「じゃあ、俺から。俺の名前はクガ・ユーキ。歳は16。普通の家に生まれた一般人。そして、今は金無し、知識無し、帰る家も無しってとこだな。ユーキって呼んでくれ!」
オウルクスの時とは違う自己紹介をした。少女はこれを聞き、ラックに言った。
「ねぇ、ラック。彼って石が盗まれたとか関係なく、物凄く危険じゃない?」
「彼じゃなくてユーキでしょ。そう呼んでって言ってるんだから」
少女の言葉に応えるラック。だが、その応えに対してユーキはツッコミを入れた。
「いや、そこかよ!」
しかし、ラックと少女はそれを聞き流し話を続けた。
「確かに君の言う通りだよ、ルア。ユーキの今の状況を例えるならばどちらに落ちても危険な幅の小さな足場を延々と歩いている感じだね」
これを聞き、ユーキはその場を想像した。すると、鳥肌が立ってきた。
「そうよね。だから、頼んでみない? ユーキを助けれないか」
想像の恐怖により二人の会話を聞いていなかったユーキ。我に帰ったユーキは少女に聞いた。
「ねぇ、君は自己紹介しないの?」
名前はラックの言葉で分かったがそれは言わずに聞いた。ユーキに聞かれたことで思い出した少女は自己紹介を始める。
「私はシルヴァ。この精霊、ラックと契約している者よ。シルヴァって呼んでね」
シルヴァの自己紹介は短かった。名前と少しの情報のみ。まだそこまで信頼されてないのかとユーキは思った。が、気になったことがもう一つあった。ラックの呼ぶ名前とシルヴァが言った名前が違うことだ。
「ラックが呼んでたルアっていうのはあだ名か?」
「そうだよー。二文字目と四文字目から取ったんだよ、結構良いでしょ?」
ラックがユーキの問いに答える。確かにセンスがあるなと思った。そして、仲が良いなとも思った。頷きながらラックに言った。
「そのあだ名良いな! 俺も気が向いたら使ってみるよ」
ここで会話が一旦止まった。
ユーキは少女の外見を観察する。髪は少し白っぽい金色で見ただけで凄く手入れが施されていることが分かる程綺麗だった。目は澄みきった青色だった。肌は白く顔立ちはとても整っており、オウルクス同様元の世界でも中々いないものだった。全体的に純粋さを表しているなとユーキは思った。
次にユーキは隣で浮いているラックを見た。浮いてることに何も思わなくなったのはたぶん慣れだろうと思った。ラックは少し青みがかった白色で目は薄めの緑だった。大きさは片手で乗せると足りず、両手に乗せると少し余るくらい。尻尾は長めで手には肉球があり全体的に見ると愛らしい猫っぽい生き物だった。
観察しているとシルヴァが聞いてきた。
「ユーキは何を食べるの? 私はこれを食べるけど……」
そう言いメニューを見せてくるシルヴァ。シルヴァはご飯系を食べるらしい。ユーキはメニューを見て、パスタのような食べ物を見つけたのでそれを指した。すると、シルヴァは店員を呼び、注文した。料理は来るのが速く直ぐに来た。
「うわぁ、美味しそう!!」
ユーキとシルヴァは同時に言った。二人はもう片方の顔を見て、笑った。ラックはそんな二人を見て誰にも聞こえないくらいの声量で呟いた。
「この二人、結構良い雰囲気かも」
数分前に出会った二人だったがお互いに気を許しあっているようにラックには見えた。
「ところでさっきの場所は分かってるってどういうこと? さっきは話の流れを折ったら駄目だなと思って聞かなかったんだけど」
お互いに料理を食べだしたときユーキは一人と一匹に対して聞いた。
次回、投稿いつもより遅れます。




