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新たな世界でニューライフ  作者: 黒夜叉
異界章 異なる世界とクロスライフ
35/42

アナスト 『交流会:戦闘編』

こちらは元気ハツラツマンさんとのコラボであり、『アナスト 愉快適悦;交流会 ほのぼの篇』の続き、いわゆる後編です。

コラボの経緯は相手方をご参照下さい。


諸注意・・・とても長いです。自分で書いててなんですが、暇な人のみ閲覧することを推奨します。


諸注意をご確認し、「それでもいいよ!」という方のみ本編へ


「やったー!早くやろ早くやろ!」


 戦いと聞いた瞬間、顔が明るくなるカルネ。後ろに思い切り揺れる尻尾が見える程に喜ぶカルネにユーキは若干引く。

 恐らく他の者たちも驚き、人によっては引いているだろう。


「会長、ちょっと抑えろ。周りが引いてるぞ」


 興奮するカルネを言葉で制するクロ。制されたカルネは少し冷静になり、周りを見渡す。

 カルネのことを分かっている隴たちはあまりだが、出会って間もないユーキたちは程度があれど引いていた。


「そこの二人! 話進めてもいいか?」


 話を進めたいデウスが手を叩いてその場の注目を集める。カルネとクロや他の者はその音に反応して静まる。


「話進めるって他に話すことなんてあるか?戦うだけだろ?」

「誰と戦うかとか色々あるだろ?まあもう決まってるけど」

「えっ、もう決まってるのかよ……そこはこっちに決める権利あった方が面白くないか?」


 隴とデウスの会話にユーキが割って入る。


「そっちで決めても戦力差おかしくなるぞ?ユーキ。もしかしたら死人が出るレベルで」

「ここにいるやつらそんなに強いのかよ!?見た目がやばい隴は置いといて、他の人たちも強いのか?」


 ユーキが隴たちの方に目線を向け尋ねる。目線を向けられた隴たちは各々に顔を合わせ、首を傾げる。


「まあまあ強いんじゃないかな? 隴とデウスさんはもちろんとして私やカルネさんやクロさんは学園の中でも強いし、インフェルノさんやライヴァさんも強いからね」


 目線を交した中で代表して勇麗が答える。

 その返答を聞くと第一に出てくる疑問としてシルヴァが口に出す。


「学園?ってことはみんなそこの学生さんなの?」

「私と隴とカルネさんとクロさんが学生でその他の人たちは違います」

「へぇー、学校通ってんのか隴。俺もあの頃が懐かしいよ」

「懐かしいって学校行くのも楽じゃねえよ?行きたきゃ行けば良いじゃねえか?」

「俺はもう働いてんだよ。大人になると学生時代が懐かしくなるって本当なんだな」


 何週間前のことをはるか昔のように思い返すユーキ。


「ユーキくん、もう働いてるんだ? なんか意外」

「働いてると言っても全く役に立ってないけどね」

「そうですね。料理なども全てシオンたちが手伝ってますし……」

「ごめんな、先輩方! 俺もできる限りの努力はしてるからさ。もうちょい我慢してくれ」


 働いてることに興味を持ったカルネがユーキに聞くとシロとシオンの職場の先輩が答えた。

 ユーキはその二人の言葉の攻撃に謝りながらも胸を張り未来への期待を宣言する。


「お前ら俺の話から脱線してんの態とか?もう戦う相手言うぞ?一戦目デウス対オウルクス、二戦目インフェルノ対シオン、三戦目カルネ対ラック、四戦目クロ対シロ、五戦目勇麗対シルヴァ、六戦目隴対ユーキ、こんな感じだ。何か異論はあるか?」

「あってもお前認めないだろ?」


 デウスの対戦表に隴がため息混じりに答える。デウスは「よく分かってるじゃないか」と言いたげに頷く。


「え~、私三戦目か。もうちょっと早くやりたかったな。でも猫って……戦えるの?」

「見た目で判断してはいけないよ。僕をそこらの猫と一緒にしたら直ぐに負けるよ?」

「ラック程々にね?本気になりすぎたら怒るわよ。まあそんな猫は置いといて、勇麗さんよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします、シルヴァさん。お互い頑張りましょう!」

「頑張ろうって敵同士だろ?まあそこが勇麗のいい所だけどな。で、ユーキ……」

「おい、そこイチャつくな!てか、予想通り俺と隴なんだな、戦うの。予想でき過ぎて逆に怖い。他に予想できてたのはシロクロかな?」

「俺も何となく予想できていた。校長の感じから察するに」

「まあ、ネタでもなんでも決まったからにはお互い頑張ろう!しーちゃんも頑張ってね」

「しーちゃんって……もう無駄ですね。姉様も頑張ってください。インフェルノ様よろしくお願いします」

「ああ、よろしく頼む。おれも出せる限りの本気で相手をする」

われとエアはなぜ呼ばれてないのだ?」

「どうせ私とライヴァは強過ぎるからーとかでしょ?私強くないけど」

「強過ぎるという意味だと僕もなんですが?」

「オウルクスはまだいい。俺が相手するからな。と、まあそういうことで一戦目、やっていこうか!」


 各々、戦闘表の感想を言い、最後にデウスが手を叩き空気を変える。


「それじゃあオウルクス、出てこい!」

「そうだ、デウス。これは本気でかい?それとも殺してはいけないなどあるのかい?」

「あー、確かにそれは言っとかないとな。俺は殺してもいいが他は戦闘不能で終わりだ」


 遅すぎるルール説明に頷いたりして反応する一同。オウルクスはそれを聞き、腰に差す光を帯びる赤い石が埋め込まれた剣を見る。


「何気にこの戦い気になるんだけど。オウルクスの本気の戦闘とか見たことないし」

「私も見たことないかも。ラックは?」

「見たことある人の方が少ないだろうね。第一、オウルクスが本気を出すことがどれだけ大事なのか……国同士の戦争とかだろうね」

「あのオウルクスって人、そんなに強いの?まあデウスさんなら心配ないだろうけど」

「オウルクス、遠慮なく殺してやれよ!デウスは斬った程度じゃ死なねえから」


 この戦いに対する期待やら心配やら野次やらが飛ぶ。初戦とは思えない程の組み合わせに各自驚いていた。


「それでは剣聖の名において手を抜かず相手させてもらうよ。剣も抜かれたいらしいしね」


 オウルクスはそう言いながら腰に差す剣に手をかけ、剣身を顕にする。オウルクスを知っている数人が驚く。

 それを見た隴は不思議そうにユーキに問いかける。


「どうした?急に驚いたりして。あの剣が抜けたのがそんなにおかしいか?」

「あの剣、聖剣って言ってな。相手が抜くに値する相手の時にしか抜けないんだよ。ほら、さっきのゲームの時も俺ツッコんだだろ?」


 ユーキの返答に頷く隴たち。ユーキたちにとってこれは驚くべきことだということを理解したからだ。


「デウスに劣らずあの男も相当やるな。まあ、見た時から感じてはいたが」

「それじゃあ、これ中々の好カードじゃない?クロくん!」

「魔神王と剣聖?だったか。戦い好きの会長は相当興奮してるな」


 剣の意味を知り、ライヴァたちもこの戦いに興味を持ち始める。


「じゃあ始めようか、オウルクス。もちろん俺も本気で行くからな」

「どっからでもどうぞ」

「それじゃあ、お言葉に甘えて行かせてもらう」


 初手はデウスが取る。右手で持つクレスケンス・ルーナでオウルクスに斬りかかる。

 オウルクスは易々と受け流し、その場から後ろに跳び距離を空ける。


「それがデウスの本気かい?君の本気はもう少し上だと思うけど」

「最初から本気出すやつなんていないだろ?それにこんなとこで出す訳にもいかないしな」


 またもデウスから大地を蹴り、オウルクスに攻撃を仕掛ける。先程より重い攻撃にオウルクスは一瞬動じる。

 その一瞬にデウスは兇敵ノア・ルーナをオウルクスに振り翳す。オウルクスは後ろに更に跳び避ける。

 一向に攻めずに耐え続けていたオウルクスが剣を構え、大地を蹴る。そして次の瞬間、オウルクスの姿はデウスの後ろにあった。


「僕の限定の加護により君の死は定められている。つまり、君はこれで死ぬ」


 オウルクスの背には胴体を斬られたデウスがいる……はずだった。

 オウルクスの後ろにはしっかりと胴がくっついているデウスの姿があった。それを見て、いつも爽やかなオウルクスの顔が少し歪む。


「今、僕は確かに君を斬った。なのになぜ君は生きている?さっきまでの違和感は関係あるかい?」

「違和感なんて俺は知らないぞ。ただ俺が死なないのは魔神族ディアヴォルだからだ」

魔神族ディアヴォル?例えそれが不死だとしても僕の加護は不死者に死を創り出すことができる」


 二人が戦っているのが遠いので、観覧者は斬られたのに死ななかったことや何を話しているかなどの疑問で盛り上がっている。


「えっ、今デウス多分斬られたよな?剣筋見えなかったからよく分からねえけど」

「デウスさんは魔神族ディアヴォルだからね。斬られたぐらいじゃ死なないよ」

「でも確かオウルクスって相手の死を確定する加護みたいなものを持ってたはずだよ?僕も聞いただけだけど」

「加護?そんなのもあるのか。そうなってくるとよく分かんねえな。まあデウスだからなんかあるんだろ」


 観客側は最終的に『よく分からない』という結論に至った。


「向こうでも色々言ってるけど、実際どうなんだい?デウス。仕組みを教えてくれないかい?」

「俺もちゃんとした理屈は分かんねえよ。ただ俺は一回死んでるんだよ。その時点でお前の加護は発動していてその後に俺は生き返っているってことだと俺は予想する」


 デウスの予想にオウルクスは何となく理解した様子で頷く。ただ、そうなると発生する事態が一つ。


「デウス、この戦い終わらないよ?」

「どうしてだ?オウルクス」

「僕が死んでも息を吹き返す。デウスも生き返る。つまり、どちらも殺せないということだ。僕が本気を出せば変わるかもしれないが、君は本気を出さないらしいし僕も出さない。さあどうする?」

「とりあえず適当に戦って終わろうか。交流会だしな」


 デウスが言葉の最後に二つの剣でオウルクスに斬りかかる。至近距離からのそれにオウルクスは瞬時に反応する。

 そして後ろに手を付き、デウスを蹴り上げる。蹴りはデウスの顔に直撃する。

 デウスは直撃されてもなおオウルクスを斬りつける。デウスのクレスケンス・ルーナはオウルクスを斜めに斬りつけ、オウルクスの服が髪と同じような赤に染まる。

 斬られたオウルクスはそんなことは気に留めず、聖剣でデウスを刺し、横に引き裂く。そのまま剣の向きを変え、斜めに斬り裂く。

 もう一度オウルクスが斬りつけるとデウスはそれを受け流し、もう片方でオウルクスの首を狙う。

 オウルクスは下に避け、下から斬り上げるが、先程聖剣を受け流した剣で防ぐ。

 どちらかが攻撃しどちらかが防ぐ。攻守を入れ替えそれを繰り返す二人。見ている側からすれば速度は速いので面白いが当事者である二人からすれば単純作業。誰か止めてくれるのを待っている状況だ。

 それを察する者が一人。観客側にいた。


「あの二人、どちらも加減しすぎだ。これ以上やっても面白みがない。早く止めさせろ」

「ライヴァそれマジか?でも、止めにって……言えば止まるか。デウスなら。デウス!千日手ならもう終われ!」


 隴の叫びによって先程までの凄まじい剣戟が止まる。デウスは二本の剣を鞘に戻し、オウルクスも聖剣を鞘に戻す。その時はもう赤い石の光は失われていた。

 二人は観客側に歩いていく。そして、到着と同時にデウスが口を開く。


「やっと止めてくれたか。あのまま殺り合っても決着つかないらしいからな。気付いたのは……ライヴァか?」

「ああ、われだ。明らかに易しかったからな。見るに堪えない戦闘だった。だから止めた」


 ライヴァは戦闘が好きなのだろう。故に面白くない戦闘は許さない。いや、許せない。眼前でそれが行われることに腹が立つのだろう。


「すまないね、ライヴァ。僕もちゃんとしなければと思ったんだけど、デウスがしてくれなかったからそれに合わすしかなかったんだよ」

「オウルクスそれはないだろ!お前だってそれに合わせて弱くしたんだから悪いのは俺だけじゃない!」


 ライヴァの先の戦闘に対する評価を聞き、オウルクスは申し訳なさげに謝罪する。それをデウスが正す。

 だが、言ってるのが責任転嫁するような年頃の人ではないので周りからは白い目で見られる。


「なんだよその目!あーもう、さっさと次行くぞ!次はインフェルノとシオンだ!」


 デウスの焦りから終わった第一試合。結果は引き分け。なんとも言えない始まり方をした二つの世界の交流戦だった。


「シオンの番ですか。インフェルノ様、よろしくお願いします」

「ああ、よろしく頼むシオン」


 デウスの言葉で一歩前に出るシオン。紺色の髪を靡かせる姿は美しかった。ユーキが第一印象に抱いた感情を蘇させる。

 それに合わせインフェルノも前に出る。シオンが腰を折り、対戦相手に敬意を示す。インフェルノは言葉で返し、手を前に出す。

 シオンがそれに応じ、固い握手が交わされる。


「しーちゃん!頑張ってね!怪我しないように気をつけるんだよ!」

「そんなこと言ったらインフェルノがやりにくいだろ!もうちょっと考えて喋ろうぜシロ」


 シロが参観に来た母親のようなことを言う。シオンは俯き、恥ずかしそうにする。確かにいつものメンバー以外の人もいるのでシオンの気持ちは察せれる。

 ユーキはその姿を見ていたいという弱サディスティック的思考が出るが、今は助けるべきと判断しシロの言葉にツッコミに似た助け舟を出す。

 シロは少ししょんぼりし、肩を落とす。ユーキの言葉に納得できるがシオンを心配する気持ちも本心なので声のかけ方が分からなくなったのだろう。

 そんなシロにインフェルノが声をかける。


「大丈夫だ、シロ。おれに相手を痛めつける趣味はないし、もし止めたくなったら乱入してきても構わない。愛する者が傷付くのは見ていて辛いだろうしな」

「インフェルノ様、姉様のことは気にしなくても大丈夫です。姉様もシオンを信じてください。これは真剣勝負ですからね」


 インフェルノのシロに対する気遣いであったが、直ぐに妹に止められる。可愛げのある語尾にシロは押され、言葉を出さずに静かに頷く。

 妹の成長を実感してしまったのか。だが、数日後にはまた元に戻っているのだろう。


 インフェルノが戦いの準備として手袋を外す。抑えるものをなくした手からは燃え盛る業火が猛る。それを見たエア以外のユーキ側の人物は目を丸くした。


「えっ、火の魔装?なにかちょっと違う気もするけど……」

「いや、多分違うぞシルヴァ。隴側の世界にも魔法は存在してるだろうけど、今のは手袋取ってから燃えたって言うより元から燃えてた手を手袋で覆っていたって方がしっくりくる。だから魔装ってよりインフェルノが人外って考えの方が正しいと思う」

「何長々とブツブツ言ってんだ?約四行も使って」

「お前こそ何言ってんだよ隴!?」


 隴のメタ発言にツッコむユーキ。

 ユーキはインフェルノが着込んでいる理由は単に冷え性だと思っていたので、尚驚いていた。他も同じ理由だろう。

 そしてインフェルノについて気になることがもう一つ。向こう側が何も言わないので触れてはいけないのかと感じていたが臀部に不自然な膨らみがある。

 何かを隠す為に布をかけているせいで初見時は目を疑った。


「あの……迷惑だったら別に無視してくれればいいんだけど、その布は取らないのか?」

「別に構わない。もとより取るつもりだったしな」


 インフェルノがユーキに軽く返答し、臀部の布に手をかける。

 布の奥から顕になったのは先端に炎が燃え盛る尾だった。爬虫類系の尾に灯る炎はリザードンを連想させる。


「やっぱインフェルノ、人じゃないよな?」

「特殊スキルの化身、精獣の類だ」


 インフェルノの返答を受けてユーキは疑問符を浮かべる。それに気付いた隴が口を開く。


「特殊スキルってのはさっき言ってた加護?みたいなものだ」

「加護の化身って言われてもよく分からないけどねー。簡単に言ったら火の精霊みたいなものだよ、ルア」

「そういうことね!ありがと、ラック」


 隴の説明が自然が産んだ翻訳機を通りシルヴァの理解に繋がる。ユーキはその部分を見ていてラックが説明できた理由が気になった。


「シオン、おれの準備は終わった。シオンも武器を出したらどうだ?それとも徒手で戦うタイプか?」

「徒手でもいけますけど……武器を使った方が慣れてますね。では」


 シオンが掛け声のようなものを放つとどこから取り出したのか黒棒を持っていた。長さは一メートル強程で細め。殺傷能力はなさそうで使い方もよく分からない武器だった。

 シオンはそれを適当に振り回す。慣れた手つきでぶん回される棒はシオンの周りをくるくる回る。


「腕は鈍っていませんね。それでは始めましょう」

「始めようか!」


 観客席に近かったのか、先程の場所からもう少し離れてシオンが始まりを告げる。

 インフェルノは答えると共に腕の炎を更に燃え上がらせる。


「そう言えばシオンって魔法の適性あるのか?姉妹で一緒に雷って感じか?」

「あるけど雷じゃないよ。しーちゃんの属性はあの雰囲気に似つかわしくない火だよ!いや、あの可愛さに火傷するって意味かも!?」

「何言ってんだシロ。でも火か……それは予想してなかったわ」


 シオンの魔法属性を知らなかったユーキが問いかけるとシロが答えた。シロの返答には余計な考察などが入っていた為、ユーキは突き放すようなツッコミを入れる。


 一方、観客席側の話題の当事者であるシオンがインフェルノに向かい、口を開く。


「インフェルノ様は徒手なんですか?見た感じ何も持っていないように見えますけど?」

「言ってしまえばそうだ。一つ違うとすれば爪があることだな」


 シオンの疑問に走り出すインフェルノ。走りながら問いの答えを伝える。含み笑いで威圧をかけながら。


 インフェルノが炎で自らの手に鉤爪を形成する。魔装と似た要領だが、魔法とはまた異なる炎。

 炎の鉤爪が形成されたインフェルノの両手。その片方、右腕がシオンに牙を剥く。

 シオンは黒棒の両端を持ち、指の間にはまるように防ぐ。そして黒棒の位置を固定したままインフェルノを蹴り上げる。

 シオンのそれはインフェルノが下がったことにより不発に終わり、黒棒を軸に一回転しただけで終わる。何気に凄い身体能力を見せたシオンは棒の真ん中辺りを握る。


「見た目に反して力あるんだな。それにさっきの身のこなし。ただの人間じゃないな。シオン」

「やっぱり分かってしまいますか。ですが答え合わせはまた後ほど。少しお待ちください」


 先程のインフェルノのようにシオンも含み笑いで返す。そしてインフェルノに向かい走り出す。棒を自身の頭上で回しながら走るシオンはインフェルノの前で棒を構える。

 左足を前に右足を後ろにして下半身に力を込め、掴む位置を少しずらした両手で棒を後ろへ振りかぶる。

 インフェルノは体の前で腕をクロスし、次にくるはずである攻撃に備える。


「魔創!」


 棒を極限まで振りかぶったシオンはそこで叫ぶ。すると、炎が棒の先端に刃を形成し、ただの黒棒が炎刃の鎌となった。

 力を込めて振られたそれはインフェルノの腕を斬り裂く。打撃を予想し防いでいたインフェルノの両腕には大きな傷がつく。

 鎌を振り切ったシオンは柄を掴んでいた左手を離し、鎌を上まで持ってくる。そして左手で掴み直し、鎌を振り翳す。

 インフェルノは自身を狙う鎌に横から打撃を与える。炎刃は折れることなく軌道のみがずれ、地に刺さる。

 力を込めた一撃が外れたことでクールタイムができてしまったシオン。そこにインフェルノが蹴りを入れる。

 思いの外鎌が深く刺さっていた為、シオンだけが飛ぶ。


 地に倒れたシオンに向かい、インフェルノが駆ける。下に向け、鉤爪を刺し込むインフェルノ。シオンは跳ね起き、それを避け、後ろ蹴りする。

 片手で即座に防御したインフェルノにシオンは飛び蹴り。そして着地と同時に姿勢を低くしローキック。足下を崩されたインフェルノは体勢を崩し、手を突く。シオンは最後に腹に重い蹴りを食らわせる。

 インフェルノは後方に飛び、地を転がる。それを背にシオンは突き刺さった鎌の柄を握り、引き抜く。


「これはどうだ?見た感じシオンの勝ちみたいだけど……」

「インフェルノはこの程度じゃ負けねえよ。まあ見とけユーキ。直ぐに分かる」


 ユーキが不安を残したように言う。急なシオンの猛攻に驚いているからだ。それを隴が否定する。信じるというよりもそれが普通だと思っているような澄み切った瞳で。


 シオンが鎌を地に擦りながらインフェルノの下に歩く。鈍い金属音が無音の平原に響き渡る。このラウンドが終わるまでのカウントダウンを告げるように。

 倒れたインフェルノの傍に立つシオンは鎌を振り翳す。その瞬間、二人の間に炎が現れる。それは一直線にシオンへ向かい、直撃する。

 後ろにたじろぐシオンを前にインフェルノが立ち上がる。


「急にギア上げてきたなと思ったけど、やっぱり重いな」


 蹴られた箇所を擦りながら言うインフェルノ。彼女は手に炎を再点火する。

 インフェルノの鉤爪が再びシオンを狙う。シオンも先程と同じような対処をする。しかし結果は違った。


「万物の鉤爪」


 鎌の柄で鉤爪を防いだシオンだったが、当たると同時に柄が真っ二つに割れた。柄が割れたことに驚いたシオンだが、本能的に体が動き、後方に跳ぶ。

 それと同時に鎌の炎刃が形を変え、両刃の剣へと姿を変える。


「魔創」


 炎刃がなかった方の柄も炎を纏い、次第に両刃の剣へと変わる。驚きながらした行動にしては冷静さがあった。


 観客側は『万物の鉤爪』という現象に対し質問する者とそれに答える者がいた。


「なんださっきの?当たった瞬間に割れたみたいな感じで」

「万物の鉤爪と聞こえたね。加護よりも異能に近い感じがしたけれど。どうなんだい?デウス」

「オウルクスからの質問か。それに俺とはな。万物の鉤爪ってのはこの世の理を変える鉤爪のこと。簡単に言えば何でも直せないように破壊できる力だ」

「つまりあの棒は直せないってことですね」

「えっ、あれってロアノス様から貰ってたような気がするんだけど……。大丈夫かな?」


『万物の鉤爪』の説明を聞き、別の意味で大丈夫か心配するシロ。

 戦闘中のシオンは破壊された棒を柄にし、双剣を構える。


「鎌だけじゃなく双剣も使えるのか。中々に厄介な相手だな」

「メイドたる者、どんな場合においても万全に戦えるようにしなければいけませんから。武器の一つや二つ操れるようにしなければ」


 家事だけではなく戦闘面においても万能メイドのシオンに観客側のユーキは感嘆の声を漏らす。


 双剣を手にしたシオンがインフェルノに対して言葉を続ける。


「インフェルノ様、この戦い本気でやらなければならないのですよね?」

「ああ。できればそうしてほしいな。交流戦なのだし」

「それなら覚悟して下さいね。これが先程のお答えです」


 シオンが口を閉じると周囲の温度が熱気を帯びだす。ジリジリとした熱がシオンを包むこみ、近付くだけで喉が水を欲する。

 シオンが空を仰ぐと額に白き一角が顕れる。シオンの持つ紺色の髪との色のコントラストは息を飲む美しさだった。

 荒い息を吐きながら、双剣を構えるシオン。それに対峙したインフェルノは防御ではなく攻撃の姿勢をとる。


「鬼か……。ならばあの力も頷ける」

「この力は制御が効かないので早めにお願いします」


 シオンがインフェルノに右手を振り翳す。今までとは段違いのスピードに避けるだけで精一杯のインフェルノ。

 後ろに避けたインフェルノは鉤爪をシオンに突き立てる。それはすんなりとシオンの腹に刺さる。

 刺突されたシオンはそのままインフェルノに向かい蹴りを入れる。その威力で鉤爪は抜け、腹の血は止まる。十数秒もすると傷の痕はそこにはなかった。


「妹が刺されちまったけど、姉様的にそれはどうなの?」

「鬼の治癒能力舐めちゃいけないよ。シロ程じゃないけどしーちゃんも治るの早いから。だから心配する所はそこじゃない」

「じゃあどこだよ?ていうか今回は質問してこないんだな、隴」


 観客側のユーキがいつもと展開が違う隴に疑問符を浮かべる。隴は首を傾げて答える。


「特に聞くことないしな。俺も鬼の血引いてるし。ついでに勇麗も」

「ついでって何よ!」

「急な新事実だが、もう驚くの疲れたし置いといて。つまりあの世界にも鬼がいたってことか?マジかよそれ!オカルト系信じてる俺からすれば嬉しすぎるんだが!」

「自分から話振っといて別の路線に持ってくのやめてくれないかな。このままだとしーちゃんの負けが確定してるのに」


 長年信じたことが事実だったと知り歓喜しているユーキにシロがため息混じりに言う。

 歓喜中だったユーキは最後の言葉に顔を顰める。


「どういうことだよ?シオンが負けるって」

「鬼が角を出す時は普通に力を出したい時や強い感情に押された時なんだけど、どの道強い感情の向く場所が必要なの。慣れれば大丈夫なんだけど、シロたち鬼化に慣れてないからさ、シロの場合、過去にちょっと当てはまるやつがあるから暴走まではしないんだけどしーちゃんの場合そういうのがないから暴走するかもしれないの。それでルートが耐えきれなくなってしーちゃんの負けって訳」

「じゃああの鬼化が解けない限りシオンは勝てない所か命が危ないんじゃ……もしもの場合はラックかオウルクス、お願いね」


 ルートが異常を起こせばそれは生命の危機である。それを予測し、二人の強者にお願いするシルヴァ。

 頼まれた二人は当然のように了承する。頼まれなかったユーキは少し残念そうな顔をするがそれに気付くのは誰もいなかった。


「高い治癒能力か……これは厄介だな。これじゃおれに勝ち目ないぞ」


 インフェルノの言葉には答えず、唸るシオン。そして雄叫びをあげ、インフェルノの方へ向かう。

 右手を横から振り翳し、そのまま舞うようにインフェルノへ炎刃を向ける。シオンの舞は徐々に速くなる。

 一手目の刃を防いだインフェルノだが、次第に切り傷が増えてくる。そして全身に傷が付く。

 やられっぱなしのインフェルノにまだ傷を付け続けるシオン。留まる所を知らないシオンのステップ。もう既に姿が増えるという錯覚が起きている。

 インフェルノはこのままでは駄目だと距離を置こうとするがそれも叶わない。その最中、シオンの異常に気付く。


(もしかしてシオン、意識がないのか?鬼化の影響で飛んだのか。ならば不味いのでは)


 シオンの自我を失った虚ろな目を見て現状の深刻さに気付いたインフェルノ。だが、行動を取れないインフェルノには対処法がない。

 その様子をオウルクスが察した。赤髪のイケメンは即座に観客側から姿を消し、戦闘に割って入る。


「すまないけど少しの間眠っていてくれ」


 暴走するシオンの目を片手で覆うオウルクス。その囁きに影響されたのかシオンの動きが止まる。

 気絶したシオンを抱えるオウルクス。その傍らでインフェルノが礼を言う。


「すまない。オウルクスだったか?助かった」

「困っている者を助けるのが僕の仕事だ。それは職務以外の時間でも変わらない。騎士としてあるべきことをしたまでだよ」


 二人が観客側に戻ってくる。オウルクスは抱えていたシオンをシロに預ける。


「手荒な真似はしてないはずだから。少し時間が経てば目が覚めるよ」

「ありがとうございます。オウルクス様」


 流石のシロでもオウルクス相手に普段の喋り方はできないようだ。いや妹を救ってもらったからかもしれないが。

 インフェルノは帰ってくるとデウスに対して口を開く。


「この場合負けたのはおれなのか?それとも引き分け?」

「さっきの話聞いてると、このままいけばシオンが倒れてたんだろ?それだったらインフェルノの勝ちでいいんじゃないか?」

「適当さ出てるな、デウス」


 審判デウスの判断により、勝者となったインフェルノ。それにため息混じりの脱力ツッコミを入れる隴。隴はそのままインフェルノに言葉を続ける。


「インフェルノよく頑張ったな。勝てると思ってたぞ。……ほらなユーキ。俺の言った通りだったろ?」

「確かに言った通りだったけども。お前って勇麗…さん?と付き合ってるんじゃなかったのかよ!?」

「俺はそのつもりだがこいつがな……」

「私はハーレム狙いなんです!」


 インフェルノと隴の距離感を見て疑問を持ったユーキ。それに顔を俯かせて答える隴とテンション高めで答える勇麗。


「なんだその彼女!?ハーレムを許してくれるなんて現代にいるんだな」

「ねえねえユーキ。はーれむ?ってどういう意味?さっきから聞いてて思ったんだけど……」

「シルヴァさん知らないの?なら教えて――」

「やめろ!?シルヴァを穢すな!」


 “ハーレム”という言葉に興味を持ったシルヴァが聞いてくる。それに答えようとした勇麗だったがユーキに止められる。


「そこの若者ども。時間押してんだ。どんどん進めるぞー」

「交流会で時間押してるってなんだよ!?なら用意しとけよ」


 早く進めたいデウスが何度目かの手を鳴らす行為。それにより次の挑戦者が前に出る。


「やっと私の出番だー!一体どれだけ待ったか」

「待ったって言ってもちゃんとした勝敗ついた試合ないけどね。だから見してあげるよ。決定的な敗北を」


 前に出てきた一人と一匹がそれぞれ一言ずつ喋る。そのまま少し離れた位置まで行く。


「ラック!そんなに本気出したらダメだからね!」

「クロさんは応援しないんですか?」

「今から彼女が頑張るんだぜ?声援の一つや二つ送っとけよ」

「…………会長!今まで楽しみにしてきたんだから思いっきり楽しむのだぞ!」

「はーい!クロくん。絶対勝つからね!」


 シルヴァは飼い主目線の応援。クロは隴と勇麗に押されて声援を送る。カルネはそれに遠くからでも分かる笑みで答える。


「ほー、クロとカルネがペアなのか」

「ああそうだが……なんだユーキもからかうのか!?」

「いや別にからかわねえよ。なぜそんな被害妄想が生まれる?」


 今までどんなからかいを受けてきたのか防衛反応を見せるクロ。ユーキは苦笑いしてクロの考えを否定する。


 ラックとカルネが少し離れたところで向かい合う。絵面的には今から戦う二人には見えない。


「君は勝てそうなのに負けるか圧倒的に負けるかどっちがいい?」

「どう負けるかなんて考えてない。私は勝つことだけを見てる」

「仕方ないなー。僕に女の子を痛めつける趣味はないんだけどね。彼氏君にも怒られそうだし」

「私にも動物虐待の趣味ないんだけど……。ラックくんって魔獣かなんか?」

「あんなものと一緒にされたくないね。僕は神聖なる精霊だよ」

「ふーん。じゃあ動物とは違うわけだ。ちょっとは気持ちが楽になった」


 ラックの種族を知り、少し足枷が外れたカルネ。見た目が猫であっても中身が違うならまだ戦えるらしい。

 戦い前の淡々とした雑談が終わるとラックがカルネに右掌を向ける。


「君に、観客に、圧倒的敗北を見してあげるよ。ルアに怒られない範囲でね」


 最後に可愛くウインクをした猫から風が吹き荒れる。単に風などと言い表せない強風。カルネの体は地から離れてしまう。

 カルネの体が浮くとラックは短い腕を上に向ける。すると風の向きは上へ変わり、ラックの姿が点になる高度まで上昇させられる。


「急過ぎない!?見た目と魔法のギャップ凄いんだけど!」


 天に送られてもまだ楽しそうなカルネ。命の危機は感じてないらしい。この程度の高さならいけるという考えがあるのだろう。


「まだ楽しそうだね!そんな君を見てたら僕も楽しくなってきたよ!本当はする気なかったけど、えいっ!」


 上へ向けた腕を下へ振り下ろすラック。ラックの腕が示すように今度は下降気流が生まれる。通常の速さで下降していたカルネの速度が急に上がる。

 下に叩きつけられる風と共にカルネが地へ落ちる。だが接地の瞬間、剣を一振り地に向け衝撃を和らげる。


「こんな魔法撃てるなんて楽しくなってきた!」

「楽しんでるところ悪いんだけど僕長丁場苦手なんだよね。だから飛ばすよ!」


 姿勢低めに着地したカルネは手についた土を払い、満面の笑みを浮かべる。

 それを受け、自身の後頭部に肉球を当てながら申し訳なさげに言うラック。最後に威勢良い言葉を残し、剣の間合いでは到底届かない場所まで浮かぶ。


「な、なんでそんな上に?」

「早く終わらせたいからねー。僕は高みの見物とさせてもらうよ」


 顔を上げてラックを捉えるカルネ。彼女に向かってラックは両掌を向ける。

 カルネが先に行動を起こし、ラックのいる高さまで跳ぶ。だがその跳躍はラックの周囲から吹く暴風に阻まれ、地に返される。

 地に着いてからもカルネの体は後ろにずるずると引いていく。カルネは何とか立ち上がるが姿勢は低めだ。


「この程度で終わるなんて思わないでよねー。まだまだいっくよー!」


 吹き荒れる暴風に耐えるカルネに向け楽しげに言うラック。

 暴風の中には突然無数の鋭く尖った空気の塊が生まれる。風中に生まれた塊がカルネを狙う。追い風により速さを増した塊は地に突き刺さっていく。

 カルネは受け流しはせず、暴風の中を何とか避ける。


「突くだけじゃ面白くないなー。そうだ!これも追加しよう!」


 ラックの制御なしに鋭い塊がカルネを狙う中、ラックの思いつきで更にギミックが増える。

 ラックが下に右腕を振り下ろすと無数の風の刃が風中に生まれる。それらもカルネを狙い、地上に降り注ぐ。

 風の塊だけで手一杯だったカルネは風の刃を弾いて防ぐ。極限の集中の中、ラックの位置まで跳ぶなどはできず、できてもこの風の中。届くとは到底思えない。


(どうすればこの風地獄から抜け出せる?無数に降り続ける風を避けるのも限界だし……。隙なんて以ての…あれ?)


 上空に腕を組み佇むラック。カルネの避けようを見るのを楽しんでいるらしく、退屈はしてなさそうな顔だった。

 それと同じようにカルネも顔に笑みを浮かべていた。何かに気付いたような笑み。その笑みを浮かべながらカルネは跳躍する。


(よく見たら定期的に隙が生まれてる箇所がある。都合よく足場もあるし、ここは一気に攻める!)


 暴風の中に降り注ぐ別の風。それらを足場に華麗に跳び上がるカルネ。軽やかなステップでラックのいる高度を目指す。

 ラックの暴風はラックの後方から吹いており風の刃や塊もその辺りから出現していた。

 カルネはそれを辿っていきラックの後ろを取る。その状況に至ってもラックはまだ動じず腕を組んでいる。


「この勝負私がもらった!」

「君の思う圧倒的敗北ってなんだと思う?」

「えっ?」


 後ろを取ったカルネに質問を投げかけるラック。突然のことに疑問の声を漏らすカルネ。

 その一瞬、ラックが自身の後方に烈風を起こし、前方に吹く暴風が止む。鋭く吹いたその風に貫かれたカルネ。カルネの体からは力が抜け、落下する。

 力が抜けたカルネをそよ風の渦が優しく受け止める。ラックが下に降りてくると風は消え、カルネは地にぐったりと倒れる。


「僕の思う圧倒的敗北は勝ちを確信した時にその道が閉ざされること。相手に踊らされる気分は何とも言えない。恨むなら僕じゃなくて勝利を確信した君自身を恨むんだよ」


 倒れるカルネに言葉を残すラック。ここまでくると傲慢も別にいいかと思えるレベルである。

 カルネから離れるラックとは裏腹に駆け寄る者が一人。


「大丈夫か!会長!」


 直ぐ様駆け寄り、カルネを抱き抱えるクロ。その顔には焦燥が浮かんでいた。

 クロの揺すりで目を覚ましたカルネはそんな彼に少し虚ろな目で声をかける。


「……あれ?こんな時って、普通名前で呼ばない?」

「そんな冗談が言えるなら大丈夫そうだな。俺にあまり心配かけさせるなよ」


 カルネの問いかけにそう答えるクロだったが、顔からは焦燥は消え、安堵のため息をついていた。


「……次はクロくんの番でしょ?……次は私が心配させられる番だよ」

「そうだったな。だが心配はかけさせない。時間押してるんだから早く戻るぞ、カルネ」

「あっ…名前――」


 カルネが口を開こうとするとクロがカルネを抱き上げ、言葉を止める。俗に言うお姫様抱っこだ。


「……ちょっと、降ろして!ほら、ユーキくんたちもいるし」

「別に大丈夫だろ。それにこれ以外の方法が思いつかない。他にあるか?」

「…………ないね」


 改めてカルネの同意を取り、観客側に足を進めるクロ。

 ユーキと隴と勇麗は適当なノリでニヤニヤしており、シルヴァは「まあ」と純情な娘のように口に手を当てていた。実際そうなのだが。


「お前ら面倒だな。早く次の試合を始めよう」

「おおそうだな。クロみたいなやつがいると試合進行が楽だ。早速始めてくれ。白黒コンビ」


 デウスの声でシロとクロが前に出る。カルネは勇麗に託されている。シロが抱いていたシオンはシルヴァに託されている。


「これで五分五分、折り返し地点。そちら側にはうちのしーちゃんがやられてるから本気でいくよ!」

「あれをやられたと言うか?だがこちらも会長がやられてるからな。思う存分相手してやる」


 互いに大切な人が負けている同士火花を散らす。今まで通り観客側から距離を取る二人。

 観客側もいつも通り初見の見立てに入る。


「なあユーキ。クロとシロ、どっちが勝ちそうだ?」

「俺的にはシロ押したいんだけど、クロの実力も知らないしな。なんか特別な力とかないの?ほら何だっけ……特殊スキル!」

「クロの特殊スキルは破壊と再生。まあ余程のことがない限り使わないからシロが死ぬとかはないと思うし、安心しろ」

「なんか物騒な力だね。どっかで聞いた事あるような気がするけど」


 ユーキも隴の見立て会議に割り込むラック。自分の試合が終わったからか脱力しているのが見受けられる。


「まあどの道この試合は直ぐに終わんねえな。なんたってどっちも本気でやる理由がある訳だし」


 ユーキが一言でまとめて会議終了。皆の視線は遠くで向かい合うシロとクロにいく。


 シロは戦う前の準備運動として体を伸ばしたり、肩を回したりしている。

 それを見ているクロはシロの準備運動がある程度終わったところで問いかける。


「もう準備は終わったか?」

「うん、終わったよ。これはシロが不利だね。あなたは多分剣士だし」

「ていうことはシロは素手か。あれ?鬼の角は生やさないのか?」

「鬼は最終手段。最初から本気でいく訳ないでしょ」

「俺も最初から本気出すタイプじゃないからな。お互い次の段階がある訳だ」

「そういうこと。じゃあ始めよっか!魔装!」


 シロの宣言に応えるかのようにシロの両腕両脚に雷が纏う。その姿は鬼と言うよりも雷神であり、乱れた白髪がより一層凶悪さを増していた。

 クロは剣を抜き、前に佇むシロに向け、構える。相手の動きに目を凝らし、どんな些細なことにも反応する姿勢だ。


「いくよ!」


 動作前に宣言してから姿を消すシロ。雷から予想がついた通り、スピードが段違いであり、クロの目前に急に現れたシロは蹴りの姿勢をとった。

 クロは回避しようとしたが間に合わず、構えていた剣で蹴りを防ぐ。スピードに乗って繰り出された蹴りは防ぐだけでは威力を相殺できず、クロの体は後方に押される。


「ただの蹴りでこれだけ。結構キツいな。だが!」


 徒手より剣が有利なのは当然であり、自身が優勢なことは変わらない。それが分かっている為、クロは走り出す。

 クロは左から剣を振るう。シロはそれを右手で受け止める。

 シロは掴んだ剣ごとクロを力任せに吹き飛ばそうとした。だが横からきた蹴りによりシロは剣を離してしまう。


「雷でスピードが増したところで重さは変わらない。これならいける」


 勝利を確信したような笑みを浮かべるクロ。それにシロが殴りかかる。神速と比喩できる程の速度。またもクロは感覚で防ぐ。

 回避よりも防御する方が今の相手には通用すると考えての行動。否、回避するのも困難なのだが。


 殴った瞬間に少し硬直時間があるシロに剣を向けるクロ。それは思ったよりも簡単にシロに傷を付ける。

 斬られたシロはクロの後ろに回り込み、拳を向ける。

 クロはしゃがみ込み、拳を回避。そして足を斬りつける。


「痛っ」


 先程の傷よりも深く入ったようでシロの苦痛の声が漏れる。

 シロはクロと距離を取り、自分の両掌を見つめる。そして力強く握りしめ、クロの方に向き直す。


「ちょっと調整失敗したらごめんね」


 クロに向かって走り出したシロ。攻撃の素振りはなくただ走ってきている。そしてクロにある程度近付いた地点で力強く踏み込む。

 今までとは変わった戦法に不穏を覚えながらも構えるクロ。

 シロは空中で拳の準備をする。

 普通ならここで回避の準備をするはずだが明らかに誘われているような気がして受け流す選択を取るクロ。


「こい。受けてやる」

「うーん……。予想通り」


 拳と剣がぶつかり合う瞬間、シロが急に姿勢を変える。拳の変わりに足が剣を受け止める。

 そしてシロは剣を足場に思い切り空へ跳躍する。


「あんまり魔法使わないから分かんないけど、こんな感じだったよね?ラール・ピュート!」


 クロの頭上から風属性の最上級魔法を放つシロ。両掌から放たれる一筋の雷光が一直線にクロに向かう。回避が間に合う速度でも間合いでもない。だが剣で防げる威力でもない。

 考える間さえなかったクロは剣を鞘に収める。諦めた訳ではない。では何の為か。


「右手も左手も、災禍の如く蘇ろ」


 囁くように唱えた謎の言葉。これが何なのか。なぜ剣を収めたのか。答えは次の瞬間に分かった。


 クロを包んだ雷光が消えた場所には右手を掲げたクロの姿があった。

 空へ跳んだシロは軽々着地し、クロの不穏な気配に距離を取り、構える。


「今の……それがさっき言ってた本気?」

「ああそうだ。一応教えてやる。破壊の右手と再生の左手だ。俺が本気を出したんだ。そっちも出したらどうだ?」

「シロはまだいいかな。まだ十分戦えそうだし」


 クロの提案を拒否するシロ。それを受けて少し考えるクロ。

 そして何か決まったのかシロの方向に向き直し、言い放つ。


「もしかしてさっきのはハッタリでシロも力のコントロール苦手か?さっきのシオンの二の舞になるのが怖いか。鬼もそこまで強くはないな」


 少し挑発気味のクロの言葉。鬼化させてスタミナ切れが目的なのか、単純に互いに本気を出し合うのが目的か。

 シロはため息ついて、構えた体を楽にする。そして開始前にもしていた準備運動を開始。

 先程よりも念入りにした準備運動の後、シロは少しクロとの距離を詰める。


「あなたの挑発乗ってあげる。ただし後悔するよ。しーちゃんを、シロを、鬼の力を嘗めたこと」


 シロは体から力を抜き、前傾姿勢となると周囲の空気が変わった。感覚的にも物理的にも。

 周囲の空気が帯電する。範囲は広く、観客たちにも電気が届く。

 観客の一人、未だ倒れたままのシオンの皮膚に電気が走る。その刺すような痛みに目を覚ますシオン。


「あっシオン。やっと目覚めた!今シロが戦ってるところよ」

「姉様が……。あ、あれが姉様ですか!?」

「ああそうだぞ。それがどうかしたのか?」

「あれ程の出力。一角で耐えられるでしょうか。姉様かなりの本気ですね」


 鬼だからこそ分かるものがあるのだろう。ユーキにはさっぱりだった。ユーキ以外は理解できているようだったが。


「確かにあれ程のマナ。本来のあの子ならいけても今のあの子には負担が大き過ぎる」

「じゃあ今回も止めないといけないの?」

「ちょ、ちょっと待て!耐えれる耐えれないって何の話してんだ?」

「ユーキも分かんねえのかよ」


 ユーキ陣営についていけていないユーキにツッコミを入れる隴。

 苦笑いで答えるしかないユーキは苦笑を浮かべる。

 そんなユーキの姿を見兼ねてラックが説明する。


「あの子が二角なのは確か知ってたよね?でも今は一つ封じて一角だ。ここまでは別に問題じゃない。問題は次。一角でも二角の威力を出そうと思えば出せるんだ」

「つまり一つ分のルートに二つ分のマナが耐えれるかってことか」

「ユーキ、用語が分かんない俺らにも伝わるようにしてくれ」

「えっとな……水量が蛇口の大きさを超えてんだよ」

「そういう事か」

「今ので分かったの隴!?」


 ユーキの理解し難い説明と隴の理解力の高さに驚く勇麗。

 取り敢えず危険だということが分かればこの場ではいい。


「今回もオウルクスに入ってもらわないといけないかもな」

「そうならないことを願っておくよ」


 オウルクスがユーキの言葉に少し苦笑いを浮かべ、答える。


 周囲の空気が変わった直後、空を仰ぐシロ。その額には何にも染まらぬ純粋な漆黒の一角が聳えていた。

 乱れた白髪に大きく見開かれた青眼。先程まで開いていた切り傷が閉じていた。青眼がクロを捉える。

 蛇に睨まれた蛙のようにクロの体から硬直する。刹那、クロは強い衝撃により後方へ吹き飛ばされていた。


「うぐっ!」


 瞬く間の所業。未だクロは場の状況が掴めていなかったを

 受け身も何も取らずにただ吹き飛ばされたクロは空中で何回転かしたものの何とか着地。そしてシロのいた方向に目をやるがそこに鬼の姿はなかった。

 周りを見渡すと一閃の雷光がクロを囲っていた。姿は捉えられず、尾を引く雷光のみ目に映る。


「早く来い!全て壊してやる」


 剣を抜かず、俯くクロ。全神経を集中させてシロを迎え撃つ気だ。

 雷光の円から一筋の光が伸びる。人間に捉えられるはずがない速度で伸びた光は中心に向かう。

 その動きに反応したようにクロが構える。そして光との接触の瞬間、前方に拳を突き出す。

 拳と接触した雷光は砕け散り、シロのクロの拳が交わる。


「直にお前は動けなくなる。早く降参しろ」

「誰が動けなくなるって?」


 拳が交わった結果は予想通り、シロの拳が粉砕する……はずだった。

 シロの腕の先にはきちんと握り拳が付いていた。


「今のは危なかったよ。でも段階があったから助かった」

「段階?」

「そう!先に内側を砕いてから外側に伝播していったんだよ。だから外側を破壊される前に内側を治せたから助かった」


 鬼、というよりもシロの治癒能力があってこそできる芸当。並の鬼ではこれ程のことはできない。


「とんだ化け物だな」


 少し皮肉じみたクロの発言。それにシロは笑って答える。


「だから言ったでしょ。鬼の力を嘗めるなって。――堕ちた鬼は強いんだから」


 凄まじい速度でクロを蹴り上げるシロ。クロは回避が間に合わず、腕を交差し防ぐが上空に飛ばされる。

 空では格好の的となってしまう為、クロは地上に注意を向ける。だが、既にシロの姿はそこになかった。


「一体どこに……上!」


 体を捻り上を向こうとすると上方から急な衝撃を受け、地に衝突する。

 砂埃の中、立ち上がるクロ。どこかから着地した音が聞こえた。


「あの位置からの踵落としでまだ立てるんだ。結構丈夫なんだね」

「伊達に鍛えてないからな。そろそろ終わりにしよう」

「そうだね。もうそろそろシロも限界近いと思うし」


 クロが声のする方向に構える。シロの攻撃を受けるつもりのようだ。

 舞った砂埃が晴れ始める。お互いが姿を認識し、改めて向かい合う。


「ここはユーキみたいにやってみようかな」

「何でもいい。何が来ても破壊してやる。この右手で」

「魔装」


 完全に砂埃が晴れたのと同時にシロが駆ける。狙いはもちろん前方に構えるクロ。

 両腕を後ろに伸ばすシロ。その手には雷が纏われていた。足にも雷が纏われており、スピードは申し分ない。


「雷掌!」


 スピードに乗ったまま前に両掌を突き出すシロ。クロはそれを右手のみで受ける。当然のように雷は消える。

 だがその瞬間を待ってたかのようにシロが叫ぶ。


「再雷!」


 先程破壊された雷よりも更に高出力の雷が二人を包む。一瞬の内に辺りは雷光に覆われる。

 目が眩む程の光が消えるとそこには倒れ込んだクロがいた。シロの方は膝を突いていた。鬼化は解いたようで角は収められていた。


「ちょっと行ってくる。隴も来い」

「了解」


 その二人に駆け寄るユーキと隴。

 ユーキはシロに肩を貸そうとしたが、身長的に断念し、背負うことに。隴は気絶してるかの確認をしてから肩を貸す。


「姉様大丈夫ですか!?」

「クロくん大丈夫?」


 シロとクロが観客側に帰ってくるや否や安否確認を行うシオンとカルネ。


「しーちゃん心配しすぎ。いっつもそんな感じで来てくれたらいいのに」

「会長、俺は見ての通り大丈夫だ。だから安静に……うっ!」

「大丈夫!?クロくん」

「クロ、お前は大丈夫じゃないからな。カルネと仲良く安静にしとけ」

「姉様ももしかして……」


 クロの見栄を張ろうとした姿を見て、シロを疑うシオン。


「お、お姉ちゃんは大丈夫だってほんとに!」

「そ、そうだぞ!見た感じ俺が背負ってるからこっちの方が重症そうに見えるけど、外傷はないから無事だ!」

「それならいいのですが……」


 シロとユーキの必死の言い訳によりシオンの怒りは静まる。

 ユーキは背に乗るシロをシオンに渡し、その場に座り込む。隴はクロに肩を貸したまま腰を下ろす。


「次はえっと……勇麗とシルヴァだな。前へ出てくれ」


 試合進行にも慣れたのか、いいタイミングで次の試合のコールをするデウス。

 呼ばれた二人は立ち上がり、前へ出る。


「勇麗頑張れよ!ここ勝ったらこっち側の勝利確定だ!」

「勝利確定かは知らないけど頑張るよ!」

「人知れず勝利宣言すんなよ!?シルヴァも勝利目指して頑張れよ!」

「うん。ここで負けちゃったら私たちの負けだものね」

「俺の味方が勇麗さんしかいねえ!どうなってんだよラック!」


 自分の力量を信じてくれている人が味方側にいないことを嘆くユーキ。猫に助けを求めるがその選択が間違いだと気付いた時にはもう遅かった。


「君を信じる人なんている訳ないだろ。身の程を知った方がいいんじゃない?」

「なんで俺、猫に人間失格って言われてんの?」

「大丈夫だよユーキ。君に長所が沢山あることは僕が知っているよ」

「ありがとうオウルクス!って言いたいんだけど俺とお前って会ってそんなに経ってないんだよ」


 助け舟を出したオウルクスに頭を抱えるユーキ。その一連の流れを見て隴側の人物たちは仲がいいのか内心首を傾げた。


 流れのように観客たちから離れるシルヴァと勇麗。少し歩いた先で勇麗が止まったがシルヴァがもう少し、と更に離れる。


「どうして離れたんですか?」

「私の魔法、ラックみたいに広範囲だから。当たっちゃう可能性は少しでも減らしておきたいんです」

「優しいんですね」


 ちょっとした雑談を交わす二人。その背を見ながらユーキは隣に浮かぶラックに問いかける。


「ラック、さっき応援してなかったな。お前程の親バカがどしたの?」

「どうせ、本気でぶっ飛ばしちゃえ!とか言ったらなんか言うんでしょ?」

「そりゃそうだろ。本人前にしてぶっ飛ばすとか頭イカレてんのか!てか分かってんなら普通に頑張れって言えよ」

「そんなこと言わなくてもあの子には通じるよ。なんたって僕の娘なんだから」


 自慢などではなく普通に言うラック。ユーキは「やっぱ親バカか」と息を漏らす。


「そう言えばラック…さん?はなんも言ってなかったですね」

「単に恥ずかしいだけですよ。でも応援してることは伝わってます」

「いい関係ですね。それでは始めましょうか」


 勇麗が腰に差す短剣に手を翳す。するとある違和感を覚えたらしく、顔に不穏が表れる。


「勇麗さん、どうかしたんですか?」


 その様子を不思議に思いシルヴァが顔を伺い問いかける。

 問いかけられた勇麗は少し困ったような顔で答える。


「私普段は武器を二本使うんですけど、今一本しかなくて……」

「それはダメね。不公平なのはダメだと思う」

「そうですよね……。どうすれば……」


 剣が一本足らないことで勝負が始められない二人。その様子を観客側から見ていた隴が二人の事情に気付く。


「もしかして勇麗、剣一本しか持ってないんじゃ。デウス、短剣を一本作ってくれ」

「ちょっと時間かけるがいいか?」


 デウスの問いかけに隴が頷く。

 デウスは隴の了承を得ると腕を前に伸ばし、拳を開く。すると闇が現れ、徐々に形を成す。

 隴が闇の中で拳を握り、手を抜くと、短剣が握られていた。

 そして、その短剣を隴に渡す。


「勇麗!受け取れ!」


 デウスから短剣を受け取った隴は勇麗に向かって叫び、右手に持った短剣を投げる。

 隴の手から離れた短剣は綺麗に弧を描き、勇麗の手に収まる。


「隴ナイス!それとデウスさんも!」


 短剣を受け取った勇麗は観客側の二人に礼を叫び、改めて双剣を構える。


「改めて始めましょうか、シルヴァさん」

「そうですね!」


 先手を取った勇麗はジグザグと距離を詰める。そして順手で持った右手の短剣で切りかかる。

 シルヴァは体の前に風の渦を作り、それを防ぐ。

 一度刃を防がれた勇麗。だが後退はせず、刃を振るい続ける。シルヴァも自身の周りに風を生み出し、それらを防ぎ続ける。

 どちらも引かぬ攻防戦。

 何も変化のない光景。そこに変化を与えようと勇麗が一旦後退する。


「守ってばっかじゃ何も変わらないよ!」

「勇麗さんが激しいから……。でもそうですね。早く終わらせなきゃですからね」


 シルヴァは胸の前で手を合わせる。すると風が勇麗の方へ吹き荒れる。


「少し手荒にいくから!」


 ラック程ではないが風が吹き荒れる。勇麗の髪が乱れ狂い、体が後方に押される。

 吹き荒れる風の中、別の軌道の風が吹く。それを勇麗は避け続ける。


(このままじゃ攻められない。いつか当たるだろうし持久戦は避けたい。……でもここから打開する方法なんてあれしか…………)


 勇麗を狙う風が増え、勇麗は双剣も使い防ぐ。だが手数で有利なシルヴァが次第に押す。


「勇麗さん、これで終わりです」


 シルヴァが勝利宣言をする。避ける間もない程の風が様々な軌道で勇麗を狙う。速度も全て異なる風。風の範囲外に出るにはもう遅すぎた。


「……仕方ない。やるしか!」

「?」


 無数の風刃が勇麗を襲う。シルヴァの勝利が確定したとその場の誰もが思った。隴以外は。


 風によって砂埃が巻き起こる。その中に人影が二つ。確定したと思われた未来が変わった。


「私も本気を出しますね」


 砂埃が晴れた野には額に禍々しく赤黒い角を三本生やした鬼が狂気を振りまきながらも悠然と立っていた。

 勇麗が短剣を両手に順手で構える。


「ここからが本番です」


 勇麗が予備動作なしで姿を消す。シルヴァは自身を中心とした暴風の渦を生み出す。そしてその中に風刃を巡らせる。


「その程度じゃ当たりませんよ」

「四方八方から!?」


 風の渦を中、前後左右から声が聞こえる。そして風を斬る音もまた然り。

 勇麗がどこにいるかの場所は図れず、今のシルヴァにはどうしようもなかった。

 どこから攻められるか分からない恐怖がシルヴァを飲む。どこから攻められるか分かったところでこれ程の速度、避けるどころか防ぐこともままならない。


 どこから来るか分からない恐怖の中、一つの音が鼓膜を震わせる。

 場所は後ろ、音的には何かを踏んだ音。未知への恐怖が極限の集中を目覚めさせたのだ。

 シルヴァは音のする方へ風の盾を発動させようとする。


「終わりです」


 終了を告げる鐘が耳元で囁いた。

 シルヴァが発動しようとしたそれは間に合わなかった。

 風が現れる前に勇麗の短剣がシルヴァへと届く。刃は無慈悲にもシルヴァを斬り裂き、シルヴァはその場に倒れる。それと同時に風のベールが解ける。

 外部からは何が起こっているか分からなかったようだがベールが解けたことで理解できたようだ。


「ルア!」


 倒れたシルヴァに駆け寄る、いや浮き寄るラック。シルヴァの傷口に手を翳す。すると傷が徐々に塞ぎ始める。

 ラックが応急処置をする傍ら、勇麗の角が額に収まる。今までの狂気的な雰囲気は消え、戦闘前の勇麗に戻っていた。


「勇麗よく頑張ったな。これでこっちの勝ちだ!」

「そんなこと言って負けちゃ駄目だよ。……ちょっと頑張りすぎちゃったから肩貸して」

「ああ、ゆっくり休め」


 脱力する勇麗に肩を貸した隴。そのまま観客側へと歩き出す。

 応急処置を終えたシルヴァに駆け寄るユーキ。


「シルヴァ大丈夫か?」

「……ちょっと痛い。ラックが傷塞いでくれたの?ありがと」

「応急だからね、ルア。あまり動いちゃ駄目だよ。それと――もう少し自分の体を大事にしてくれ」


 シルヴァに背を向けるラック。少し、いやかなり怒っている様子だった。


「ごめんねラック。心配かけちゃって。ユーキも」

「シルヴァ立てそうにないな。肩貸すよ」


 シルヴァに手を貸し、立たせた後、肩を貸すユーキ。シルヴァはユーキに体を預ける。

 観客側に歩いていったユーキは途中で隴の横に並ぶ。


「お前だから勝手に勝利宣言すんなよ」

「なんだ盗み聞きか?質悪いな」

「生憎、俺は耳が良くってね。聞きたくなくても入ってくんだよ」


 ウザったらしく隴に絡むユーキ。それを煽るように答える隴。


「次で最後だな。やられ方はもう考えたか?」

「絶対勝てない勝負でもそんなこと考えねえよ!」

「あまり叫ぶな。こいつらに響く」

「ああ言えばこう言うな……」


 最初は威勢よくつっかかったユーキだが、最終的にため息をつく。

 実際、隴が言っている通り自分の負けが目に見えている。特別な力を持っていると言ってもそれを使う術がない為どうしようもない。

 そういう意味も込め、ため息をつく。


 脱力した体に肩を貸している為、少し時間はかかったが観客側に戻ったユーキと隴。

 二人はそれぞれシルヴァと勇麗を地に下ろす。そして、前へ出る。


「最後は自分自身で出るか。期待してるぞ、隴、ユーキ」


 自身で決意し、前へ歩みを寄せた二人に期待の声を上げるデウス。

 隴とユーキが肩を並べ、観客側から距離を取ろうとすると、その背中に声が飛ぶ。


「ユーキ、ちょっとお待ち」


 ユーキの歩みを止める声。それは久々に口を開いた神もどきの声だった。


「どうしたエア?心決めた今の内に負けにいきたいんだけど」

「負け前提の君に朗報がある。ちょっとこっちに来な」


 ユーキに向かって小さく手招きするエア。小刻みな手招きに若干の怪しさを抱きながらも進行方向を変える。


「それでどうした?不正して勝っても嬉しかねえぞ?」

「私の勘なんだけどね。ここだと――本来に近い創造が使えるかもしれない」

「マジか!?」


 隠し事を話すかのように小さくなるエアが更に囁くように言った言葉。それの驚きにエアの配慮虚しくユーキは声を大にする。

 その声に反応する周囲。


「最後なんだイカサマとかは無しだぞ」


 周囲の意思を量ったか隴が口を開く。他も口には出さないがそういう目を向ける。


「そんな話はしてねえよ!なあエア?」

「ああしていない。強いて言うなら真の力覚醒の類だよ」

「覚醒?ユーキ。そんなのあったの?」


 イカサマ疑惑をかけられたユーキにエアがフォロー。そんな事実にシルヴァが首を傾げる。

 考えてみれば、もしそんな覚醒などがあるのなら先の戦いで使っていてほしかったなどと思うはずだ。と言うよりそんな顔をしている。


「あっちの世界では使えなくてな。てかできること今知った。で、どうすんだ?エア」

「世界の設定的にはできるはずだから。……後は何かしらの要因でいけるはず」


 ユーキからの問いに答えるエア。そして少し考えた後にユーキを連れ、距離を取る。

 引かれるがままのユーキは何をされるのかと怯えていた。


「そんな怯えなくても。多分引き金は私の許可。だから――我を最たる者とする異能。万物を顕現する力。その権限を汝に与えよう」


 かなり離れたエアはユーキの胸に右手を当てる。そして、異能を覚醒させる言葉を唱える。

 ユーキは初めての体験に怯えながらもその言葉を耳に残す。


「終わったのか?なんか変わった気しないけども」

「もしかしたら変化なしかも。今の適当に今考えたやつだし」

「それ大丈夫なのかよ!?」

「じゃあ試してみれば?なんか想像してみなよ」

「じゃあ……」


 ユーキが少し黙する。そして、何かを思いついたかのように腕を前に出す。


「顕現せよ!」


 ユーキがシルヴァたちには聞こえない程度で叫ぶ。前に突き出された手には剣が握られていた。

 一般的な鉄剣。何か特殊な力がある訳でもなく、その辺の武器屋で買えるただの剣。増えすぎて一斉売却されるあの剣だ。


「エアいる?」

「いらない」


 既に剣を持っている為、今出した剣は必要ない。隣にいるエアもいらないらしく、取り敢えず持っていくことにするユーキ。

 右手に握る鉄剣。目を引く様な能力がないのにも関わらず、無駄に重い。今まで良質な剣を握っていたのだと考えさせられる。


 ユーキたちは行きにかなり歩いたせいで帰りも結構歩く羽目になった。行きには無かった鉄剣のせいで余計に疲れを感じる。


「覚醒の儀式は終わったか?って何だその剣?どっから出した?」

「ユーキそんな剣いつ買ったの?お金持ってないのに」

「この剣は覚醒の確かめの結果だよ。って俺まだ無一文だったな!?」


 帰ると隴とシルヴァからの質問。もう少し飛んでくると思っていたので少しガッカリするユーキ。

 その割にはツッコミに威勢があり、久々に思い出された自分の状況を嘆く。


「覚醒って異能のことだったんだ。創造だっけ?」


 いつの間にやら目を覚ましていたシロが問う。覚醒のことを知っているということはユーキが歩く前から意識はあったのだろう。


「ああそうだ。俺の持つ異能が奇跡的に覚醒した。これでこっちは準備万端だ。早速始めよう」

「お前が止めてたんだろ。早く始めるぞ」


 ため息混じりに隴が言う。仕切り直そうとしたユーキは流れを消され、さっと隴に肩を並べる。

 そして、前へ歩みを進める。


「おいちょっと!」


 先に進んだユーキを追うように隴も足を動かした。

 今までで一番離れた位置で歩みを止めた二人。その理由としては今までで一番広範囲に影響を及ぼす戦いだと直感的に思ったからだ。

 文字通り最終決戦。両者が互いに背を向け、前へ進む。言葉なしでも通じあっていた。

 二人はある位置で同時に止まり、振り返る。


「最終戦だ。らしくいこうぜ。──【獣滅の鬼燐】蔵峰 隴」

「……名乗りか。じゃあ。──【創造の後継】クガ・ユーキ」


 互いに名乗る二人。正式な戦いの儀式。二人にとってこれは紛うことなき決闘だった。


「先手はくれてやるよ」

「……ありがたく貰うけど、後悔すんなよ!」


 隴から先手を貰い、走り出すユーキ。腰に差す魔剣は抜かず、右手に持つ鉄剣を走りながらに投げ飛ばす。

 ユーキの飛ばした鉄剣は狙いが悪く、隴の顔を掠める。

 隴はその鉄剣の柄を掴み、逆手に持ち替える。そして、飛んできた軌道に投げ返す。


「うおっ!」


 思いもよらぬ相手の行動に驚きの声を上げながら、咄嗟に抜いた魔剣で軌道を変える。

 魔剣を抜く為に一度足を止めたユーキ。鉄剣を防ぐ為に一度視界が魔剣で埋まる。それを振り切った時、別の剣で視界が埋まる。

 剣と言うよりは太刀という方が最適だろう。


「危ねっ!」


 剣を振り切った直後のユーキは魔剣を使えず、自身の右側に転がり込んで避ける。


「ラール・バーン!」


 そして、転がりながら炎の最上級魔法を詠唱するユーキ。

 転がった結果、隴の左側にしゃがみこむユーキ。その眼前に炎の鋭弾を出現させ、一直線に飛ばす。


 前の動作のせいであまり俊敏な動きができないと思われた隴。だが、隴は手に持つ太刀を地に突き刺し、柄を足場に空中へ回避する。

 その途中で己の太刀に炎を纏わせ、武器が取られることも回避する。


「今のは少し危なかったな」


 着地と共に口を開く隴。その顔には笑みが浮かんでいる。

 言葉とは逆の表情。それを見てユーキは引き気味に口を開く。


「……流石戦闘狂。慣れが凄いな。だけどな!」


 ユーキが威勢良く声を荒らげる。その叫びに呼ばれたように剣がユーキの周囲に現れる。


「それが創造か……。どうくる?」


「単純だよ」


 ユーキが短く言葉を発する。すると、剣が徐々に隴に向かって飛んでいく。

 最初はそこまで速くなかったものの速度は増していき、隴の元に達する時には避けるのが難しい程であった。

 隴はその場から一切動かない。そして、もう少しで当たるその時。隴が地面を踏み鳴らす。その音に導かれ、水縹色の炎が剣を覆う。

 揺れる氷のような炎。それが一面を覆う剣を更に上から覆い尽くす。そして、その炎が晴れた時、剣は全て凍っていた。

 地に氷の柱で繋がれ、投擲中の一コマを切り抜かれた剣。


「今のって炎……だよな?なのになんで……」

「俺の炎は絶対零度なんだよ」

「意味分かんねえよ!?」

「疑問はそれだけか? それじゃあ!」


 隴が氷の炎で獣を形成する。獣は現れるや否や、ユーキへ猛進する。

 ユーキは全身に炎を魔装し、魔剣を構える。構えた魔剣にも炎を纏わせ、獣に対し、大きく振るう。

 ユーキに一刀両断された獣は消えていく。


「疑問がどんどん浮かぶわ!なんだよ今の!?って……」


 神秘的に消えていく獣。その煌めきの後ろから走ってくる影をユーキは捉える。

 隴を捉えたユーキだが、それを抑えることはできず、

 隴は地に突き刺さる太刀を手に収める。

 そして、武器を再び手に入れた隴はユーキと距離を取る。


「ユーキの創造と同じ原理だよ」

「絶対違うだろ!」


 ユーキはツッコミながら想像できるありとあらゆる武器を創造し、隴の頭上に降らせる。

 隴は頭上に炎の膜を現し、降りかかる武具を全て気化させる。

 ユーキは武具の雨を降らせたまま、隴に向かって走り出す。

 その足には光を纏う。

 光を纏った足は速く、即座に隴の元に辿り着く。そして、その速度のまま隴に斬りかかる。


 ユーキの魔剣は当たったと思われた。だが、その斬撃が何かに弾かれる。

 隴は微動だにしていない。何に弾かれたか分からず、ユーキは距離を取る。

 取られた距離を隴は詰める。そして、斬りかかろうとする。ユーキは魔剣でそれを防ごうとする。

 だが、二つの剣が交わることはなく、眼前から隴の姿が消える。そして、ユーキの後ろに現れ、再度斬りかかる。


 突然出現した隴の攻撃をユーキは防げず、ユーキの魔装が剥がれる。


「ラール・ピュート!」


 剥がれた魔装をユーキは再構築し、後方に氷柱を生やす。

 隴は飛び、氷柱を回避。そして、ユーキの頭上に太刀を突き立てる。


 ユーキは宙にいる隴の周りに鉄剣を創造する。隴は鉄剣を防ぐ為、下に突き立てた太刀を防御に使用する。

 隴は鉄剣を全て防ぎ、着地。

 着地した隴にユーキは魔剣を振り翳す。隴は太刀でそれを防ぎ、思い切り押し返す。

 ユーキはそれに合わせ、太刀を足場にする。そして、後方に弾き飛ばされる。


「どうした?撤退か?」

「戦略的、な」


 ユーキは右手を伸ばし魔剣を地面に平行に持つ。そして、左手は刀身の先に添える。


「ラック!お前の力借りるぞ!」

「えっ?僕?」


 突然名前を呼ばれたラックは疑問符の連鎖。ユーキはそれに答えることなく、目を閉じ、ラックを脳内に浮かべる。

 猫の外見をした精霊を思い浮かべながらある単語をユーキは叫ぶ。


「レゾナンス!」


 ユーキの叫びに呼応するように魔剣に埋まる翡翠石が輝く。

 少し気分が悪くなるが一度目ではない為、倒れ込むことはない。ラックはどうか知らないが。

 共鳴を完了したユーキは隴に向き直り、口を開く。


「ここからが本番だ!」


 ユーキは開いた右手を隴に向ける。すると、炎や氷が空気中から現れる。


鬼獣きじゅうの身構、百鬼呪術きじゅじゅつ百獣神術じゅうしんじゅつ霹靂かみとき威吹鬼いぶき


 隴は飛んでくる氷炎に優しく斬りかかる。物体のないはずのそれらは斬り分けられる。

 ユーキは全身に光を纏い、剣に周囲のマナを纏わせる。

 青白く光る魔剣を隴に振り翳す。


「一鬼呪術七獣神術。喰断の刃」


 隴の太刀にユーキの魔剣が衝突する。刹那、魔剣が纏うマナが全て喰われる。

 マナによる付加がなくなった剣筋は易々と隴に防がれる。


 易々と防がれた危機感と一気に消えたマナによる悪寒でユーキは一旦距離を取る。

 隴は先程の技の反動により動けなかったが、ユーキの判断により功を奏した。


 隴はユーキの認識の外側に入り、ユーキに近付く。突如消えた隴を探す為にユーキは辺りをキョロキョロする。

 そして、ユーキは瞬く。目を開いた時、最初に目に入ったのは隴の顔面だった。


「えっ?」


 不意に現れた隴はユーキの額に軽くデコピン。その外見とは裏腹にユーキの全魔装が剥がれる。


 魔装が剥がれ、命の危険を感じたユーキは自分と隴との間に旋風を起こし、自分を後方に吹き飛ばす。

 隴も同じように後方へ吹き飛び、二人の間はかなり開く。


「ただのデコピンでそれって……化物かよ!?」

「かつての友人に化物ってのは酷くないか?」


 苦笑いを浮かべて答える隴。ただユーキにとっては命の危機まで感じた為、笑い事では済まない。


 ユーキは自身の周りに六属性の魔法を展開する。灼熱の青焔、絶対下の雹水、裂破の轟風、坤滅の石流、闇滅の紫光、光滅の暁闇。それら六つの想像上の魔法が螺旋を描き、隴に放たれる。

 隴はその六魔の光を一刀両断する。だが、その後ろから現れるユーキには対応できなかった。

 隴は炎で防ごうとするが、ユーキはそれを斬り消し、隴の体を斬り裂く。


 ユーキは隴の反撃を恐れ、追撃はせずにその場から距離を取る。

 だが、隴の速度には負けてしまった。

 ユーキはある程度距離を取ったと思い、後ろを振り返る。そこにあったのは隴の掌だった。

 咄嗟にユーキは全身に魔装を施す。先程の数倍、マナをかけた魔装だ。


 逃げることはせず、受けることを選んだユーキは顔を鷲掴みにされる。一瞬「えっ」という声が漏れたが、それも束の間。ユーキは地に打ち付けられる。

 ユーキが打ち付けられた地面は割れ、それがどれ程の威力だったかを知らしめる。

 この時点で魔装の六割が剥がれていたが、まだ意識があるユーキ。隴はそれを思いっ切り投げ飛ばす。

 ノーモーションでの大振りはユーキを遠く彼方へ吹き飛ばす。

 受け身なしで着地したユーキは残りの魔装を全部失い、立ち上がる。

 魔装ありでも反動はくるらしく、意識は朦朧としている。


「頭が……。ちゃんとしねえとな」


 ユーキは自身の頬を思いっ切り叩き、意識を正常に戻す。

 戦う意思をまだ残しているユーキ。ユーキは自分の方に近付いてくる隴に一つ、意見する。


「もういい加減……終わりにしようぜ」

「そうだな。もういい加減、な」


 歩いてくる隴もユーキの考えに賛成のようだ。ユーキの瞳には体を伸ばす隴が映る。最終への準備だろう。

 ユーキも体を伸ばそうとするが、先程の衝撃で思うように伸ばせない。

 碌に動かない体にため息をつき、右手を前方に向ける。


「光剣」


 ユーキの真上に光を纏った剣が顕現する。


付加エンチャント──増殖インクリース(プラス)不変コンスタント


 ユーキの真上にあった光剣が空一面に広がる。一つ一つが最初の剣を模倣しているかのように光を放っていた。


「これが全力だ。──神威!」


 ユーキの宣言と共に空を埋める光剣が動き出す。その速度は光の如く、一斉に隴を狙う。


「……それなら」


 隴は降り注ぐ光剣を避けながら炎で形成した剣を周囲の地一面に突き刺す。

 そして、突き刺した剣の柄を掴み、降り注ぐ光剣を防ぐ。

 光剣と接触した剣は崩れていく。剣が崩れれば、また剣を地から抜き、壊されていく。

 防ぎきれなかった光剣が隴の肉を抉る。だが、隴は歩みを止めず、一心不乱にユーキの下へ突き進む。

 止まらずに、ただ進み続けた隴。光剣を受けながらもユーキの下に辿り着く。


 自分の下まで辿り着いた隴に対し、ユーキは口を開く。


「来れると思ってたよ。だが……これが本当のラストだ」

「それはこっちのセリフだ」


 ユーキを挑発するように返す隴。そのまま剣を構える。


「零鬼呪術零獣神術 獣鬼神の炎紅」

「終焉なき創始」


 隴の剣が炎を纏う。その炎剣で隴は斬りかかる。

 ユーキの周囲のマナが膨れ上がり、その全てがユーキの剣に宿る。ユーキはそれを振り翳す。

 双方の技がぶつかり合う。周囲の地は抉れ、辺りは消えることなき光に包まれる。

 光が消えた時、そこには倒れる二人の少年があった。どちらの剣も手から離れており、文字通り戦闘不能。この時には既に魔剣の光は消えていた。


「だ、大丈夫!二人共!」


 真っ先に動き出した勇麗が慌てふためいた様子で声をかける。その後ろをラックに押されて動き出したシルヴァが追いかける。


「さっきのがかなり負担になったみたい。どちらも負担大きそうに見えたし」

「どうしよう。シルヴァさんそっち頼める?私は隴持つから」


 シルヴァにユーキを連れて帰れるか聞く勇麗。シルヴァは少し考えた後に「多分、無理だと……」と首を横に振る。

 勇麗がその反応に渋い顔をする。そして、応援を求めるように皆の方へ向く。すると、ある光景が目に入る。


「明らかに人足らないと思ったから来たよ!」

「それに合わせ、シオンも助太刀に参りました」


 勇麗の救いを求める気持ちが届いたのか、場を察したカルネとシオンが走ってきた。


「助かります!私一人でも不安だったので」

「よし、早く連れて帰ろう!」


 勇麗とカルネが気絶した隴を双方から支える。気絶した隴はガラクタのように重く、二人でも少し重く感じる。


「私が左側持つからシオンは右側持ってくれる?」

「別にシオン一人でも持てますがどうしましょうか?」


 シルヴァがシオンにお願いすると、予想外の返答が返ってきた。

 シルヴァはそれを聞き入れず、ユーキの左肩を支える。シオンはそれに合わせ、右肩を支える。

 ユーキの体も隴同様に重かったが、こちらはシオンがいた為、重く感じることはなかった。



「……うぅん、終わったのか?」

「ぐふっ!」


 先に目を覚ましたユーキ。目を覚ますと同時に腕を横に振る。それが横で気絶している隴にクリティカルヒット。


「な、何だ!?……って終わったのか」


 先に目を覚ましたのはユーキだったが、先に起き上がったのは隴。ユーキの振った腕が予想以上に入ったらしい。

 ユーキも立ち上がり、完全に意識が戻る。そこでデウスが司会に戻る。


「さあ、全試合終わったんだが、一応まとめるか。一試合目、引き分け。二試合目、勝者インフェルノ。三試合目、勝者ラック。四試合目、勝者シロ。五試合目、勝者勇麗。六試合目、引き分け。計六試合、どちらも二勝二敗二分け。つまり、あれだな。引き分けだ」


 司会のデウスが今までの戦績をまとめあげ、最後に結果を言う。

 結果は引き分け。これだけの長時間が全て水の泡と感じてしまうような結果だった。だが、当事者たちはそうではないらしい。


「まあ予想できてたよ。こういうのって大体同点で終わるのが暗黙の了解ってやつだし」

「メタイなユーキ。それは分かってても言ったら駄目なやつだ」

「まあいいんじゃない?私はシルヴァさんと戦えて楽しかったし」

「交流会?なら大成功だと私は思うの。私も楽しかったし」

「初めて戦うような強さの人……って言うより猫もいたしね!」

「僕はそんなにだったけど、ルアが楽しかったのなら」

「俺も本気を出せて楽しかった」

「シロはどちらかと言うと疲れたの方が強いけどね。それと強いて言うならしーちゃんを傷付けたのはちょっと……」

「姉様!これはそういうものです!シオンは久々に鬼化できたので良かったです。そのせいで迷惑をかけてしまいましたが」

「そう落ち込むな。結果としておれはほとんど無傷なのだし」

「そうだね。僕もするべきことをしたまでだから、君が気に病むことはない。僕としてはデウスとの決着をつけてみたかったんだけど」

「俺とお前じゃどっちも死なないんだから仕方ないだろ。俺を殺せる加護を手に入れてから来い」


 交流戦への各々の感想を述べた一同。一方で不満を述べているのが一人。


われは何を見せられていたのだ!この数時間、何をさせられていたのだ!」

「まあまあ、そうかっかしてると頭に血が上って血管ブチ切れるよ」

「今、われがキレてるのだ!」


 周囲はライヴァとエアの会話にはははと笑みを零すのだった。


「さて、交流戦も終わって交流会もいよいよ大詰めだ。そろそろお開きにするがいいか?」


 デウスの急なお開き宣言に皆が頷く。それを見たデウスがまた口を開く。


「最後に言い残すことはあるか?」


 デウスの言葉に代表してユーキが別れの挨拶を言う。


「今回の交流会、前半も後半も結果だけ見りゃ楽しかったはずだ。俺は実際楽しかったし。また会えるか分かんねえけど、そん時はまたよろしくな!」

「最後引き分けだったのは俺としては悔しいんだが、総合結果は満足いく結果だった。いい交流会だったし、また会った時はこっちもよろしくな」


 ユーキの挨拶に代表して答えたのは隴。二人は言葉を交わした後、握手を交わす。

 他の皆も手を振ったりして別れを伝えている。


「それじゃあ。これにて交流会──閉幕」


 閉幕の二文字と共に手を叩くデウス。その瞬間、辺りは光に包まれた。


 ▽ ▽

 眩い光に閉じた瞼を開くと、そこはいつもの生徒会室だった。

 謎の交流会に出発する前にいた場所に皆、戻ってきたのだった。


「なんか呆気なく終わったな」


 帰還直後に口を開いたのは隴。終わり方に関する感想をそれとなく呟く。


「湿っぽいのも嫌だろ?でだが、この後打ち上げ的なことするか?」


 デウスが呟きに返答後、皆に意見を求める。それに即座に反応したのはカルネだった。


「はいはーい!隴君のご飯で締めくくるのはどう?」

「それいいですね!結構長かったですし」


 カルネの意見が通る。隴も反対する意味がないので特に声は上げない。


「じゃあ買い物行ってくる。七人分でいいな」

「私も一緒に行くー!」


 人数を確認した後、生徒会室を後にする隴。それに付いていく勇麗。

 二人が発った後、生徒会室の扉がバタンっと大きな音を立てて閉まった。


 ▽ ▽

 眩い光が晴れる。そこは出発前にいた食堂だった。


「今さっきまでの全部夢って訳じゃ……んな訳ねえか。あんなリアルな夢やべえよ」

「ユーキ何言ってんの?さっきの戦いで頭でも打った?」


 帰還早々、夢オチを疑うユーキだが、それに対するシロの辛辣なコメントでその心配が無用だと気付く。


「そう言えばさっきの戦い、僕の力使ったでしょユーキ!急にでびっくりしたよー」

「共鳴したのは悪かったけど、その言い方だと大丈夫そうだな」

「いっそここで叩いてやろうか」


 ユーキの断言に似た言葉にえっへんと誇らしげな顔で胸を張るラック。

 ラックのドヤ顔は妙に腹立たしいところがあり、ついユーキの心の声が漏れてしまう。


「やめときなよユーキ。君の実力は認めるけど、大精霊様相手はちょっと無理があると思うよ。……それでは僕はこの辺で」


 オウルクスがユーキを言葉で制した後、王都へ戻ると口にする。


「オウルクス、もう帰っちゃうの?」

「はい。ここで話しているのも良いと思いますが、僕の本職は騎士なので。近頃は治安も悪いですし」

「そう。それならさようなら、オウルクス」


 シルヴァがオウルクスに小さく手を振る。それに合わせ、各々オウルクスに別れを告げ、オウルクスは屋敷を後にする。


 オウルクスが閉めた扉がまた開く。


「なんだオウルクス。忘れ物か……ってロアノスか」

「ユーキ君。屋敷の主もとい君の主人に残念そうな声をかけるのはいかがなものかな」


 ユーキの反応に苦笑いを浮かべる屋敷の主、ロアノス。そのままロアノスは苦笑を穏やかな笑みに変えて一言。


「交流会は楽しかったかい?」


 ロアノスの柔らかな声。それに代表してユーキが返答する。ロアノスと同じような笑みを浮かべて。


「ああ!楽しかったよ」


 異なる二つの異界が交わった交流会。両陣営が楽しかったと感想を残し、幕は閉じた。

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