第二章幕間 『任務はただいままで』
「昨夜の宴の後にこれは……質素だな」
「それは言い直した結果か?」
卓上に並べられた朝食を見て、言葉を零すユーキ。濁らせた結果、少し選んだ言葉を出す。
ユーキの前に出される朝食は基本パン食だったユーキにとっては豪勢な方に入るが、昨晩のパーティーと比べてしまっては見劣りしてしまう。
しかし、その質素さはオッセルの判断の結果であった。
「今朝は少量でよいと判断しました。昨晩は皆様よく召し上がっておられましたから」
「確かに昨日のあれはかなりのカロリーか。俺もそういうとこちゃんと考えないとな」
オッセルの計らいによるものだったと知って、頷くユーキ。頷きながら口に朝食を運ぶ。
「そういえばオッセルさん。さっきはありがとうございます」
「大浴場のことですね。あの程度のこと、なんなりとお申し付けください」
「ユーキも朝風呂入ってきたの?」
オッセルの受け答えに反応したシルヴァ。
ユーキはその一単語に疑問符を浮かべる。
「も?」
「私も入ったのよ。ついさっき」
そう言われてみればシルヴァの髪が若干濡れているように見える。
だが、そんなことはどうでもよかった。今重点を置くべき場所はそこではない。
「ということは二人は大浴場でばったり、の可能性もあった訳か」
ユーキの頭の中にあったことと同じことをセルピアが言葉にする。
シルヴァはそれにより、今の発言の重きを置く部分に気付く。
城の大浴場は屋敷とは違い、時間交代などではなく二十四時間男女兼用。無論、湯の入れ替えなどは行われているだろうが、お風呂でばったりの可能性は大いにあった。
その状況を即座に察知したユーキはもう既に心そこに在らずだった。
「ユーキ、大丈夫? なんでそんなに、ぼけーってしてるの?」
「今のユーキ殿の頭の中凄いぞ。……色々と巡っておる」
「そんなになの!? ……ユーキの妄想力凄いね」
心配するシルヴァ。ユーキの脳内に引くセルピア。セルピアの報告を聞いて引くシロ。
三者三様、二人はほぼ同じだが、その反応を目にユーキが硬直から解放される。
「別に俺、変な妄想とかしてねえからな!? まずそんな状況になったらあいつが止めに入るだろ?」
シロの疑いの目を晴らすユーキ。セルピアは見ている為、どうにもできないが、せめてシロの疑いだけでも晴らす。
そして、ユーキの被害にあったシルヴァへの弁明も兼ねている。
ユーキの言ったあいつ。シルヴァにとっての、いや自身にとっての不都合があれば、どんな時であっても姿を現すだろう。
そんなシルヴァ専用のボディーガードがいれば、大浴場でのユーキとの接触も未然に防がれるだろう。
精霊の勘はよく当たるとラック自身も言っていた。
「……止めそうね。いや、ラックなら……」
ユーキに同意したシルヴァだが、最後に口篭る。その続きを心を読んだセルピアが語る。
「ラックならユーキ殿を吹き飛ばすだろうな」
「なんでだよ!?」
ユーキの激しいツッコミ。思いを短く叫ぶツッコミが一番心が籠っている。
元から入浴していた自分がなぜ被害を被らなければならないのか。シルヴァの為とはいえ不条理を了承できるはずがない。
「だって……ね?」
シルヴァもこの通り、フォローすらできていない。元々得意ではないシルヴァだが、これのフォローなどセルピアでさえできないだろう。
ラックの親バカぶりにはため息をつくしかない。この台詞ももう何度目だろうか。
そう思いながら嘆くユーキだった。
朝食終了後、身支度をするユーキ。と言っても持ち物は斜め掛けのバッグのみ。後は冥宮で手に入れた五神剣の一つ、魔剣レゾナンス。
さっと帰る準備をし、部屋を後にする。
部屋を出た後、念の為、隣の部屋をノックする。
「はーい。ちょっと待って」
中からは落ち着いた様子の声が返ってくる。その可愛らしい声から待つこと数分。扉の向こう側から足音が響き、そして、扉が開く。
「ちょっとって言葉の意味知ってるか?」
「そんなに待たせてないでしょ!?」
扉が開くと同時にユーキが暗に不満を漏らす。シルヴァは扉を開いた直後に不満を言われ、それを否定する。
「そんなことはどうでもいいんだよ。早く下に急ごうぜ。あいつら待たせるのは怖い」
「確かにね。ユーキなら別にだけど」
薄ら笑みを浮かべるシルヴァ。ユーキの言ったことに同調し、部屋から出て直ぐに歩き出す。
「お前ら俺に当たり強くねえか!?」
その背中にユーキは不満を叫び、追いかける。
城前に着くと案の定、竜車が止まっており、客車の扉の前にはシロが立っていた。
竜車付近にはセルピアとオッセルが立っており、ユーキたちが降りてくるのを待っていた。
「ユーキ殿、遅かったのではないか? もしや、シルヴァ殿を待たしたりはしていないだろうな。女を待たせる男は……」
「待たせてねえよ! どっちかって言うと……やっぱ何でもねえ」
目が合って早々にユーキの寝坊を疑うセルピア。それを反射的に否定するユーキ。
そして、その流れのまま遅れた原因を口に出そうとしたが、楔がそれを喉元で引き止める。
ここでシルヴァのせいと口に出してしまうのは男らしくないのではないか。もっと言うと紳士的ではないのではないだろうか。
彼女に遅刻の全責任を押し付けてしまうのは少し気が引けてしまったユーキはすんでのところで言葉を飲み込み、会話を終了させる。
「ユーキ殿にしてはよくできたではないか。花丸をやろう」
「色々と世話になったから言い難いけど、煩い! ……もう俺は乗るからな」
折角言葉を飲み込んだユーキだが、それを煽るように褒めるセルピア。
それが少し頭に来たユーキは、前置きにセルピアへの感謝を伝え、一言不満を叫ぶ。
不満を叫び、満足したユーキは客車に向かって歩き出す。
ユーキが扉に着く前に、客車の扉をシロが開く。
「そんな別れ方でいいの?」
「……セルピアなら大丈夫だろ。言葉にしなくても伝わるんだからな。文字通り!」
ユーキの別れ方に心配の念を抱くシロ。それを聞き、ユーキはふっとため息を漏らす。
たった二日程の付き合いだったが、セルピアとの付き合い方は分かっているつもりのユーキ。
皆まで話すな、をできるセルピアに全てを語る必要はない。セルピアとの間には言葉は要らないのだ。
ユーキが客車の中に入ろうとする。その時、城の扉が音を立てて開く。
「ユーキ! まだ行ってないか!」
外へ出るや否やの第一声。急いできたことが分かる程レクトの髪は乱れていた。
「やっと来たか。もうこのまま来ないもんかと思ってたぞ」
ユーキは客車の扉に入りかけた足を戻す。扉から出てきたレクトはユーキの下まで更に走る。
ユーキはその姿に少し違和感を抱き、その正体に気付く。
普通なら横にいるはずの少女が見当たらないのだ。
「あれ? リネアは?」
「リネアは朝苦手だからな……。もしかしたら間に合わないかもな」
少し苦笑いを浮かべながら話すレクト。それに対し、朝が弱いと言っても程度があるだろ、という顔をするユーキ。
もう少しすれば日は真上に来るだろう。朝と呼べる時間はもうとうに過ぎている。
そんな時間まで寝ているのを朝が弱いの一言で片付けられるとは思えない。何か外的要因が存在すると疑うユーキ。
だが、その疑いは一度置いておく。聞くにしてもここには聞く相手がいない。
一つ目の疑問から目を逸らしたユーキ。なので、二つ目の疑問に目を向ける。
「じゃあなんでリネア呼んでこなかったんだよ?」
「兵舎は遠いからな。俺は城内に部屋があるからそっちに帰ったけど、リネアは兵舎に帰ったから」
「要するに面倒だったんだな。……酷いな」
レクトの説明を聞き、要約するユーキ。
ちょっとした罵倒を受けたレクトだが、見る限りダメージは受けてなく、顔色も変わっていない。
「まあ来るだろ。ユーキが出発時刻言ってたんだから多少の努力はするだろうし」
「その信頼はあんまし褒められたもんじゃねえな。もう一回言うけど面倒だからだろ?」
「要するに、な」
ユーキの言及に開き直った様子のレクト。最後を強調するように彼が言った後、扉が開く。
先程と同じように大きな音を立てて開く扉。その奥から姿を現したのは……
「見送りには間に合ったか。良かった良かった!」
「お前かよ!」
「お前かよ!」
「レクト! 団長に対してお前とはなんだ!」
扉の奥から現れたのは鎧を着用したガタイのいい男だった。
その姿を見た瞬間、男子二人は同じ言葉を口にする。男は二人の内の一人に対してのみ注意する。
「いや、レクトの心中も察してやれ。シルエットから違うやつが出てきたら思わず口に出ちまうよ」
「それでもだ! いついかなる時も立場が上の者に敬称は忘れてはならん!」
ユーキがダンテの気を抑えようとレクト側に付くが、ダンテの言い分には頷くしかない。その場にいる誰もがそうなるだろう。
「朝から元気ですね、団長。リネアとは大違いだ。まだ来てないし」
レクトが話を変える。自分が弱い立場になってしまったからだろう。
親がこれなら娘も朝が強いと思ったが、その部分も似なかったのだろう。恐らく、朝が苦手なのは母親側の遺伝だ。
「レクト。それは違うな」
ダンテがレクトの言葉を否定する。
何が違うのだろうか。元気なこと、リネアが朝が弱いこと、いやこれは事実だ。
レクトが何がですか? という顔をするとダンテが自身の後ろを示す。
ダンテが後方を示すとヒョイっとリネアが顔を出す。ダンテのガタイに隠れていたので、手品のように見えた。
「朝が弱くて悪かったね」
「起きてくれて良かったよ! もうこのまま帰っちゃいそうだったし」
「私は待つつもりだったんだけど……」
ダンテの前に出てきたレクトはやさぐれた様子。
現れたリネアに対しての言葉はユーキとシルヴァの性格の違いを表した。
ユーキはシルヴァからの痛い目に視線をずらし、上の方を向き、出来もしない口笛を吹く。
「リネアも来たし、もう出るか」
不格好な音色を奏でた後、ユーキが清々しい顔で言う。
普通なら「吹けてねえよ!」というツッコミが飛んできてもいいものだが、周囲の誰もが口笛に触れなかった為、自主的に演奏を止める。
「出るかどうかはユーキじゃなくてシロが決めることだからね」
ユーキの提案に肯定でも否定でもない反応を示すシロ。単に反抗したかっただけだろう。
「いやまあ……そうだけどな。俺は先入っとくわ。みんな見送りありがとな! また会う日まで」
ユーキはそう言うと、客車の中に入る。
「ユーキが入っちゃったので手短に。約二日間ありがとうございました。また会った時はよろしくお願いします」
ユーキに続き、感謝の意を伝えるシルヴァ。ユーキが早く帰りたいのかと思い、二言で終わらせる。
「ラックにもよろしく言っておいてくれ」
「はい!」
セルピアの言葉に応じたシルヴァは一度礼をし、客車に入る。
シルヴァが入ったのを見て、シロが扉を閉める。
「代表として言うことはシルヴァ様に言われちゃったけど、シロからも。屋敷の主が近々こちらへ出向くと思います。その日までは警戒を怠らないで下さい。今後ともよろしくお願いします」
シロが腰を折り、感謝などを述べる。そして、客車の前に座り、地竜の手綱を握る。
そして、竜車を走らせる。
「助けが必要な時は直ぐに言うのだぞ!」
走り出した竜車に向かって叫ぶセルピア。その後ろではオッセルが腰を折っており、レクトたちは手を振っている。
ユーキはそれらを窓から覗いており、せめて見えればと客車内で手を振る。
レクトはそれに応えるかのように手を更に激しく振る。
ユーキは皆が見えなくなるまで手を振り続けた。皆に、ファントに別れを告げるように。
✤ ✤ ✤
少女が手綱を握る竜車が広大な平野にある街道を走っている。
地竜の地響きのみが辺りに響き渡り、他の音の存在を一切として許さない。
「なんかこの感覚久々だわ」
久々、と言っても二日ぶりだが、その二日があまりにも長かった。
行きの時点では考えてもいなかったような出来事がファントには待っていた。もちろん待っていてほしくはなかったのだが。
この感覚というのは一言で表すと不思議だ。あの巨大な体躯からここまで安定した走りを見せられるのは何とも不思議だ。
一応地竜という存在には慣れてきたが、なぜここまで客車内が安定しているのかは分からない。道が舗装されているとしてもここまでにはならないと思う。
「なあ。……って、寝てるし」
ユーキが疑問解決の為、シルヴァを頼ろうとして声をかける。だが、返事が返ってこなかった為、顔を上げるとすやすやと小さな吐息を漏らし、眠っていた。
ユーキが竜車の不思議に好奇心を向けている間にゆりかごに揺られ、眠ってしまったのだろう。
昨日はユーキが戦っている間、アルマを探す為に街中を駆け回っていたのだから無理もない。
シルヴァに聞けなかった為、他に聞ける人を探すユーキ。と言っても探しているのは精霊一択だ。だが、そちらも顕現してはいなかった。証拠にシルヴァの胸には翡翠色の光が灯っている。
疑問を解決する方法を見失ったユーキは深くため息をつく。
知りたいことは直ぐその場で知りたいと思うユーキにとってこの場はため息をつくのに値する。
「どうしたの? そんなため息ついちゃって。シルヴァ様とそんなに話したかったの?」
顔を俯かせるユーキの耳に声が届く。その声にハッとさせられ、ユーキは弾かれるように顔を上げる。
今この場にはユーキ、シルヴァ、ラックしかいないといつから錯覚していたのだろうか。もう一人いたではないか。
手綱を握る白髪の少女が。
「そういう訳じゃねえよ。なんでこんなに竜車は安定してんのかなって思ってさ」
「なんだそういうこと」
ユーキの俯いていた理由を聞き、安心した様子のシロ。気分が悪いとでも思っていたのだろうか。
「ユーキは加護って知ってるよね? あっ! 持ってたんだっけ!」
「説明してくれるのはありがたいけど、事故らないでくれよ」
自分と話しながら運転するシロに最悪の結末を危惧するユーキ。
自分の命が懸かっている為、注意を促すと「大丈夫大丈夫!」と安心できない陽気な答えが返ってきた。
ユーキはその答えに不安を募らせながらも大丈夫だと自分を落ち着かせる。自分だけならまだしもシルヴァがいるのだ。
ユーキはそう思うしかできなかった。
「で、ユーキは加護持ってるんだよね! なら簡単! その種族全員が持ってる加護みたいなものがあるんだよ」
「特性ってことか?」
「うん。種族特性って言うんだ。地竜の場合、搭乗者とかにも効果が及ぶから客車も安定してるって訳!」
種族特性。ユーキにとってそれは初めての聞く言葉だった。だが、その言葉をユーキはすんなりと理解できた。
理解できたのはユーキが加護を持っていたからだけではない。この世界に慣れ始めていたのが一番の理由だろう。一日前までは慣れないとと考えていたのにだ。
慣れない単語がすんなりと耳に通る事実に人間の適応能力恐ろしや、と一日の人間の成長に少し恐怖を覚えるユーキ。
「種族が持つ特性か……。ならさ、シロも持ってるのか?」
「シロ? ……シロも持ってるよ。あんまり声を大にして言いたくないけどね」
ユーキが気付いたことを口にする。何も考えずに口にしたが、発した後に軽率な行動だったと後悔した。
聞くからにシロの反応が悪くなった。言葉にもしていたが、それ以上に声色が踏み込んではいけない場所だと感じさせた。
「ユーキ。そんなに心配しなくても大丈夫! 鬼だってことはシロから言ったんだし」
中々返ってこない言葉を不思議に思ったシロが明るく言う。
「いや俺が悪い。鬼だってことを隠してたんだからな。そこで気付くべきだった」
明るく向かってきた言葉を暗く返すユーキ。
誰だって心の中に土足で踏み入られるのに対して嫌悪を示すのは当然だ。ユーキも身をもって知っている。
「本当に大丈夫だって! それで鬼の特性はね、森で優位に立てるってやつ」
「優位に立てる?」
ユーキがシロの言葉を復唱し、首を傾げる。
「鬼族は元々力とかが強いんだけど、森の中だと更に強くなるの。だから【森の王】とか呼ばれてるね」
「鬼族って凄いんだな!? 森だったらあれより強くなるんだろ」
ユーキが畏怖しながら言った言葉にシロが頷く。前方に付いた窓からその様子が伺える。
鬼の強さ。それは先の戦いでも伺えた通りの圧倒的な力だ。ユーキもその強大さをシオンとの訓練で身に刻んでいる。
不完全だったとしても、強化前の状態に手も足も出なかった。今戦ってやっと互角になるだろう。
しかし、それも本来の鬼ではない。これをまだ伸びしろがあると思える程、ユーキは自分に自信がなかった。
「シロとしてはユーキの異能の方が驚いたけどね。そっちも教えてよ!」
種族特性についてあらかた喋ったシロ。今度はシロが話題を上げた。
だが、ユーキは首を横に振る。
「異能については屋敷でな。言うなら大勢に一発でだ!」
「そっちの方がいいね。なら、あと少しだし、窓の外でも眺めてて」
「そうするよ。この辺景色変わんねえから面白くないけどな」
話題がなくなった二人。ユーキはシロの提案に乗り、窓の外をボーと眺める。先程までただの平野だったが、今は木々が増え、森の中だった。
こういう場所だと鬼は強くなるのだろう。
そんなことを思っている間に屋敷に着いた。
ファントの城と比べても見劣りしない屋敷。庭園などを合わせれば、こちらの方が敷地は広いだろう。
「これ、ファントの城見た時も言ったような気がするな」
似たような感想を思ったことを人知れず口にするユーキ。
そうこうする間に客車の扉が開く。ユーキは隣に眠るシルヴァを揺さぶる。
「おーい。起きろー。着いたぞー」
今までシルヴァに起こされたことはあるが、自分が起こしたことはないなと思いながら、声をかけるユーキ。
それでも起きない為、ユーキは揺さぶる手を速くする。
「……ぅうん? ……むにゃんにゃ? あと一時間……」
「長いわ!? そこは五分だろ! 五分でも許さねえけど!」
予想以上に寝起きが悪いシルヴァ。意識が朦朧としている発言に片っ端からツッコむユーキ。
シルヴァの意識がそれとなくはっきりしてきたのはこれから五分後だった。
五分間、思いっ切り叫んだユーキは明日の朝まで喉に痛みを帯びたのはここだけの話。
「取り敢えず、書斎に向かえばいいよな?」
「それでいいと思うよ。ロアノス様いるだろうし」
竜車から降りたユーキはシロに問う。返ってきた答えは肯定だった。
ユーキはまだ少し呆けているシルヴァを連れ、ロアノスの書斎を目指す。
シロは竜車を戻してからこちらへ向かうそうだ。
たった二日では道は忘れず、ユーキは迷うことなく書斎に到着。到着したユーキはノックせずに書斎の扉を開く。
そこには椅子に座る長髪の男がいた。二日ぶりのご主人様だ。
「確認なしで入ってきたか。いや、今言うべき言葉はこれではないね。――おかえり。シルヴァ君にユーキ君」
「ただいま。使用人としてなら、ただいま戻りました、か」
最初は友人感覚で返事をするユーキ。だが、自分が使用人だったことを思い出し言い直す。
ここまでやってやっと帰還だ。ユーキの初任務はこれにて無事に終わった。




