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新たな世界でニューライフ  作者: 黒夜叉
第二章 亡霊だらけの冥界
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第二章幕間 『勝利の宴』

 ファントの街に聳え立つ漆黒の城。何者も寄せ付けぬ黒き城の内部では、少年少女や騎士らが賑やかに団欒していた。

 大広間のような会場では豪華な料理が並べられ、皆、談笑しながらそれらを食べていた。

 どこかのホテルで行われているかのような豪華なパーティー。何を祝しているかは当然あれだ。

 このようなパーティーをその日中に開けたのもオッセル率いる漆黒の城のメイドのお陰だろう。


「予想通りっちゃ予想通りなんだけども…………」


 豪勢な食事と共に楽し気に話している皆を目の当たりにし、ユーキは言葉を濁す。


「どうかしたか? ユーキ殿。お主のご要望通りの饗だと思うが……不服か?」


「いや予想はしてた。けどな……この服装場違い感が否めねえ」


 屋敷で使用人として給仕の仕事をしている時は使用人用の服を着ているが、今回のファント訪問は通常の服でいいと言われた為、今は転移してきた時の服だ。

 騎士の隊服がパーティー会場の大部分を占める中、ただの私服であるユーキは浮いてる感が否めないのだ。

 シロは普段通りのメイド服。シルヴァとセルピアは異世界系の服装な為、特に違和感がない。

 この場に自分がいていいのかという不安が募ってくる。


「なんだそんなことか。心配せんでも大丈夫だぞ。この場はユーキ殿の為に設けられた節もある。お主が心配する程周りは気にしてない……はずだ」


「不穏感匂わすなよ! 主役の一人だからといって浮くのが言い訳じゃないんだけどな。こんなことなら制服持ってくるんだった……」


 今の不安を解決する為の方法である使用人用の制服を持ってこなかったことを後悔し、頭を抱えるユーキ。

 それを横目に苦笑を浮かべるセルピア。


「ユーキどうしたの? 頑張ったんだから、めいいっぱい楽しまなきゃ!」


 私事で苦しむユーキの下に取り皿いっぱいに盛り付けを施したシルヴァが歩いてくる。

 初日の昼食や屋敷での経験だがシルヴァは案外よく食べる。そのくせ、見た感じ太ることはない。

 みんなが理想の体質らしく、食べることに関しては特に悩むことはないらしい。


「ああ、俺も楽しむよ。こんな機会なかなかないからな。シルヴァは何取ってきたんだ?」


「私はお肉とかお野菜とか色々取ってきた。お肉を食べたらちゃんとお野菜も食べなきゃいけないし」


 バランスよく盛り付けられた皿を自慢気に見せてくるシルヴァ。

 見た感じちゃんと盛り付けられており、なおかつそれを無邪気な子供が褒めてほしいかのように見せてくるので、ご要望通りにユーキは褒めようとする。


「ちゃんと考えて……」


 だがそれを阻む親の声。いや猫の声。実際には精霊の声だが。


「ルアを褒めるのはいいけどちゃんと見てからいいなよ」


「ちゃんと見るって……特に問題ないだろ。強いて言うなら野菜の方が多いし」


 ラックの助言でもう一度シルヴァの取り皿を見つめ直すユーキ。だが、これといって問題点は見つからず、逆に更なる長所が見える。


「そうよ、ラック。この盛り付けに問題はないわ!」


「ルア、これ何周目?」


「ギクッ!」


 ユーキの流れに乗って胸を張るシルヴァ。

 それに呆れたのかラックはため息を一つ。そして、端的な言葉で口を開く。

 たった数文字を受けて、固まると共に効果音を漏らすシルヴァ。


「“ギクッ!”っていつのリアクションだよ。で何となくラックの言いたいことが分かったけども。何周目なんだシルヴァ?」


 硬直したシルヴァにため息混じりのツッコミに似た何かを送るユーキ。そして、ラックに加勢する。


「……何回目って別に二、三回目くらいよ!」


「あれ? さっき始まったばっかなのに二、三回目なのは置いといて、これだったら別にいいのでは?」


「普通に食べてればね。一回目と二回目は肉ばっかだったんだよ」


「……それはヤバいな」


 ラックから告げられた衝撃の事実。いくらシルヴァでもそんな食べ方はしないだろうと思っていたことが現実となった。

 ユーキはシルヴァを静かに視界に収める。そこには顔を真っ赤に染め上げているシルヴァがいた。


「食べたかったんだもん! 仕方ないでしょ!」


「食欲に従順なのはこの際どうでもいい。その行為、年頃の乙女的にどうなの?」


「ルア、体型維持も契約に入ってるの忘れた?」


「そんなのあんなら尚更じゃねえか!?」


 ラックの決めの一手に反省した様子のシルヴァ。肩を落としながらもちょびちょび、盛られたサラダを食べている。

 その光景に苦笑するしかないユーキだった。


「俺も取って来ようかな」


 バイキング形式に盛り付けられた品々の下に歩くユーキ。その様は短時間で仕上げられたとは思えない程、豪華だった。

 取り敢えず、シルヴァの様にはならぬようにバランス良く取っていくユーキ。元々そういうこと考える時もあり、すんなりメニューは決まる。


 あらかた取った後、辺りを見回すと近くにレクトを見つけたユーキ。視界に捉えるや否や、そちらに歩き出す。


「よう、レクト。怪我の具合はどうだ?」


「思ったより大丈夫だよ。騎士の体嘗めんな」


 ユーキが肩を叩きながらレクトの横に並ぶ。

 レクトは自分の胸を自慢気に叩きながら答える。その際少し痛がったのには目を瞑るユーキ。


「結局あの後どうなった?」


「あの後? ああ、残党狩りか」


 ユーキの問いかけの意味。それは大罪衆の残党狩りのことである。

 負傷中のレクトが気合いで城に帰った時、ファントにはある問題があった。

 あの時は帰る流れだったので話に出なかったが、あの時は残党狩りという仕事が残っていたのだ。

 それが話に出たのはかなり歩いた後。その時はもう他の騎士に任せようということで話は落ち着いたが、ユーキは結構気になっていた。


「特に問題なかったよ。まず数がそこまでだったらしい。基本、冥霊騎士団って団長の指揮下にあるから姫様が帰っても支障ないしな」


「それは良かった。残党狩りで死傷者増やしたら後味悪いしな。俺の理念に反する」


「なんだよそれ」


「終わりよければすべてよし! だ。結構真面だろ?」


 胸を張るユーキ。レクトは吐き捨てるように笑う。


「その反応は酷くね?」


「真面過ぎだ。そんな理念があるんなら残党狩りもやれよ」


「……確かに。今度からは肝に銘じて行動するよ」


 レクトの言葉に新たな発見を見つけるユーキ。そしてその忠告を胸を親指で示しながら刻む。


「そう言えばリネアは?」


「あっち」


 話を一段落終わらした為、話題変換をするユーキ。

 ユーキの問いにレクトが指を差す。そちらに視線を向けるとバイキングお楽しみ中のリネアがいた。


「もしかして、リネアってよく食べる?」


「どっちかって聞かれたら食べる方だって答えるけど。あの団長の子供だし」


 レクトが言った理由には即興で作ったものだったとしても頷ける程の説得力があった。

 実際にユーキは今凄い頷いている。


「それがどうした? って首振り過ぎだろ!」


 リネアの方に目をやりながら問いかけたレクトがユーキを見て驚く。

 日本に住んでいる者なら、赤べこか! とツッコむところ。レクトにとってはただ恐怖の光景だったのだろう。


「赤べこの真似。……シルヴァと似てるなってな。食欲が最大の美容ってか」


「何言ってるの? ユーキ」


「えっ? うぉ!? り、リネア!? 飯はもういいのか?」


 突如後ろに現れたリネアに不自然な驚きを見せるユーキ。その不自然極まりない滑稽な姿にレクトとリネアは笑う。

 そして一通り笑い終えた後に真面目な顔でリネアが口を開く。


「で、なんて言ってたの?」


 ――最初の“で”が物凄く怖かった。

 無言の圧とはこれのことだろう。時間にして僅か一秒程の間。その何もないはずの空白が全てを物語る。


「……なんも話してねえよ。強いて言うならリネアの盛り付け美味そうだなって……。な? レクト」


「あ、ああ。ちゃんと彩りとかも考えられてるし、料理とかも上手いもんな」


 特に隠すべきことではなかったのだが、女子に食欲旺盛が褒め言葉に該当しないと両者思い、互いに良い感じの方に話を逸らす。

 ちなみに無実だったレクトはユーキのフォローの結果、共犯に。


「私騎士だよ? 隠し事とか無理だよ? でもまあ今回はそういうことにしといてあげる」


 両者結託の必死の抵抗によりリネアの慈悲が向けられる。

 心の中で「流石リネア様」と胸を撫で下ろすユーキとレクト。


「レクトは食べないの? ユーキもさっきから進んでないよ」


「どうせなら俺の分も取ってきてくれないか? 俺全身負傷だし」


「いいよ! 別に。これ持っといて」


 リネアは今取ってきた取り皿をレクトに渡し、もう一度バイキングへ向かう。

 ユーキはその様子を箸を進めながら見ていた。この国の食文化は見たところ和洋折衷であり、確りと箸も用意されている。

 和食好きのユーキとしては箸の方が食べやすく、即決でそちらを選んだ。


「じゃあな、レクト。食事美味しいから楽しめよ」


「知ってるよ。よく食べてるからな」


 レクトに別れを告げ、別の知り合いを探しに行くユーキ。別と言ってもシロ一択なんだが。ダンテは狙っていない。


「さっきからシロの姿が見えないんだよな。もっと鬼について聞きたかったんだけど」


 周りを見渡しながら呟くユーキ。思い返せばパーティーが始まってからシロの純白を見た記憶がない。


「ということで戻ってきました。セルピアさん」


「どういうことでだ!?」


 知人を目指してパーティーを巡っていたユーキだが、シロが見えない為、原点であるセルピアの場所まで戻ってきた。


「心読めよ」


「しないように努力しておるのだ!」


 先のユーキの不満をちゃんと考えているのだと分かる発言。でもそれを自ら破れというユーキ。


「で、シロ殿が見えぬから一周まわってここに来たと」


「そういうこと。読心もTPOに合わせりゃ楽だな」


 時間・場所・場合を考えればセルピアの能力も悪くないと感じるユーキ。

 セルピアは「お主がそんなこと言うか?」という目で呆れる。


「確かにこの場にはおらんな。少し待て」


 周りを見回した後、セルピアは瞳を紫光に染め上げる。久々だと感じる異能の光に魅入られるユーキ。


「厨房の手伝いをしてもらっておるようだな。しばらくすれば来るのではないか? 閉幕まで仕事とはいかんだろうし」


「そうだな。まあ、特に急用って訳じゃねえしいいや。こんなことに異能使わせて悪かったな」


「いや、よい。先の戦いで私は力になれんかった。こんなことで恩を少しでも返せるならいくらでも頼ってくれ」


 瞳に宿す紫光を消すセルピア。少し微笑みながら語る。


「じゃあ、いつか俺の手に負えないことがあったら頼りに来るよ。それまでその恩返しは保留ってことで」


 セルピアの微笑みに釣られ、ユーキも口元を綻ばす。


「恩返しに保留も何もあるか! だが私にできることなら全力で対応しよう」


 ユーキが最後に冗談混じりに言った言葉に少し声を上げるセルピア。そして、右手を前に出す。

 ユーキの体の前に出されたセルピアの右手。見て直ぐに握手を求めていることは分かったが、些か高さが不十分であった為、ユーキは少し腰を落として応じる。


「そんときゃよろしくな!」


「うむ」


 パーティーの最中、交わった両者の手。契約とは違う協力関係がここで結ばれた。



「もういい時間だな」


 パーティー会場の時計が十二時を迎えようとしていた。それを見つめながら、セルピアが呟く。


「そろそろお開きとしましょうか。これ以上、食事が出てくることはありませんし」


 セルピアの小さな呟きをキャッチしたのはその傍らに立つオッセルだった。

 彼女特有の存在感を放つ凛とした佇まい。そこにいないかの様な透明感も同時に放つ彼女。

 彼女の助言を受けて、セルピアは頷く。


「皆の者! よく聞け!」


 セルピアの一喝。ガヤガヤとした雰囲気の会場を駆け巡った声は皆の耳に届き、全員が談笑を止め、セルピアを見る。


「もう少しで一日が終わる。朝からご苦労だった。この場に来ることができなかった者たちの冥福を祈る。そして、命ある者。これを機に大罪衆の襲撃がアティアに増えるかもしれん。心しておいてくれ。それでは――閉幕!」


 拡声器なしの威勢ある声。国の安泰を危惧する言葉は妙に信憑性を帯びており、近い未来、実際に起こるかもしれないと感じる。


 セルピアの閉幕の一言を皮切りに一つ、また一つと机に皿が置かれる音が響く。

 そして、騎士たちは会場を後にする。


 ユーキは中盤辺りに皿を置き、周りの流れに合わせ、会場を出る。その途中でレクトとリネアの二人に合流し、隣合って歩く。


「パーティーって急に終わるんだな。実際のやつ行ったことないから分かんないけどこれが普通?」


 急に幕を閉じたパーティーに対する疑問を合流した二人に問いかけるユーキ。

 その問いに顔を見合わせた二人。アイコンタクトでもしているのだろうか。

 そして、リネアがユーキの問いに答える。


「いつもこんな感じだけど、閉幕の合図はあったよ」


「そんなもんどこに?」


 リネアから返ってきた答えを聞き、さっきまでの会場を思い返す。だが、閉幕の合図らしきものは見つからない。

 少し考える猶予を上げた二人だったが、返答がなかった為、レクトが口を開く。


「食事が減ってたろ? 一応それが合図になってたんだよ」


「確かに減ってたな。て言うより増えなくなったの方が正しいけどな」


 レクトの表現を正しながら頷くユーキ。

 外へ出る為の流れに乗り、ユーキたちはやっと会場から出る。


 最初はシルヴァと合流しようと考えていたユーキだが、人の波が大きすぎてそのままレクトたちと出ることになった。

 なので、部屋から出た後に合流しようと考えたが、会場の外も流れが強く、そのまま自部屋に帰る運びとなった。


「じゃあな、ユーキ。また明日」


「それじゃあユーキ。おやすみ!」


「二人ともおやすみ。多分明日の昼までには帰るだろうからまたその時まで」


 流れの強制がなくなった辺りでユーキはレクトたちに手を振る。二人もそれに応えて振り返す。

 会場外でもシルヴァには会えなかったが部屋が隣なので運が良ければ会えるだろうと部屋へ向かった。

 結果はユーキの予想を裏切り、出会えずに終わった。


 ユーキが部屋に入ってから数分後。部屋の扉がノックされた。


「はいはーい」


 ベッドに寝転がっていたユーキはその重い体を起こし、適当に返事をする。

 だが、体はノックした者を待たせぬようにと早歩きで扉に向かう。


「こんな時間に誰だってん……シルヴァか」


 扉を開けるとそこには先程置いてきてしまった金髪の少女がいた。


「こんな夜分にごめんなさい! て言っても特に用がある訳でもないんだけど」


 扉が開くと同時に手を前であたふたさせながら謝罪するシルヴァが見える。

 用がないならなぜ来た? と首を傾げるユーキ。

 首を傾げたユーキに釣られシルヴァも首を傾げたが、直ぐに理由が分かり、またもあたふた。


「さっきは探したけど見つからなくてね! それでおやすみも言えなかったし! ……だから!」


「単におやすみって言いに来ただけね。ならなんでそんなに挙動不審な訳?」


 一度疑問は消えたが、また更に疑問が増えるユーキ。今度はシルヴァの動きに対する疑問だった。

 常日頃から不審者扱いを受けているユーキから見ても心配になる程、今のシルヴァはあたふたしている。腕が四本に見える程だ。


「だってもう深夜だし……。それに今のユーキ凄い疲れてるように見えるし……」


「俺は夜型だから大丈夫だよ。疲れてんのは事実だけど。でもシルヴァの相手できない程じゃないよ」


「ほら。やっぱり疲れてるじゃない! だったら手短に。ユーキまた明日ね。おやすみ」


 ユーキの疲れてる宣言により早口になるシルヴァ。顔の近くで小さく手を振る。

 ユーキはその何気ない仕草に胸を撃たれる。それが疲れてるからなのか元からシルヴァに魅入られていたからか。それは今のユーキには分からない。


「どうしたの? ユーキ?」


「あ、ご、ごめん!」


 ユーキからすれば魅入られた時間はほんのちょっとだったが、実際は長くシルヴァが顔を伺う。


「やっぱり疲れてるんでしょ? 早く寝て明日に備えなきゃ。シオンたち心配させちゃうわよ」


「それとこれとは話が違くてだな。今のはちょっとした不可抗力って言うか何と言うか……。まあ、おやすみ。また明日な!」


 シルヴァの勘違いにより先程のシルヴァの様な挙動不審になるユーキ。

 シルヴァもまた先程のユーキのように首を傾げる。


「なーんか釈然としないんだけど……。改めておやすみ、ユーキ」


 二度目の仕草。可愛さは先程と同じだが、なんとかユーキは耐え、手を振り返す。

 そして、シルヴァが部屋に戻ったのを見送ると自分も部屋に戻る。


「今日はよく眠れそうだな。あっ。明日朝風呂だ」


 ベッドに向かう途中で明日早起きをしなければいけないことに気付くユーキ。

 そのまま床につき、深い海の中に自身の意識を落としていった。

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