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新たな世界でニューライフ  作者: 黒夜叉
第二章 亡霊だらけの冥界
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第二章終  『復活のR』

 ユーキ、シロ、シルヴァの三名の力によって脅威を退けたファント。全てが解決し、後は残党狩りが残るのみ。

 ユーキたち魔女撃退戦の功労者は戦いの疲れを残し、シロが帰ってくるまでの間、話している。


 話の話題となった猫型精霊、ラック。彼は大事が終わった後で陽気に起きる。ラックとしては出たくても出られなかったのだろうが、そこに他二人からの鋭いナイフが飛ぶ。


「ラック、やっと復帰しよったか。と言ってももう仕事は残党狩りしかないがな」


「そうだぞラック! 今日のMVPは俺だ。肝心な時にいないダメ猫に用はない!」


「二人とも目覚めてそうそうに酷い言い様だなー。僕じゃなきゃ周囲全部吹き飛ばしてるよ。もちろんルアだけは無事でね」


 セルピアとユーキのキツめの言葉――ユーキの方が鋭さが数段上だが――に毛繕いしながら答えるラック。

 こんな時でも傲慢さを忘れないラックだが、今回はいるべき時にいなかった為、シルヴァは庇えず、自分の頭を押さえてため息。


「ラックを庇ってあげたい気持ちはあるけど、今回は事が事だから……。二人にも謝ってあげて」


「仕方ないなー。可愛い娘の頼みなら断れないよ。――今回は僕の不注意で色欲の大罪人を逃がしてしまった。セルピアには特にないけど、ユーキにはお詫びにいいこと教えてあげるよ」


 シルヴァの可愛いおねだりに負けたお父さんはユーキとセルピアに謝る。


「なぜ私にはないのだ!? ユーキ殿だけとは一体何を……あっ」


「昔馴染みなんだからなくてもいいでしょ。それと別に変なことは教えないよ。単にユーキは魔法関係に意欲があるからそっち方面でね」


「マジか! 魔法系でまだ更にあるなんて、俺得すぎる!」


 ラックのお詫びの内容を聞き、興奮するユーキ。声だけでもテンションが高まっているのが分かるのに動きも煩い為、煩いを通り越して鬱陶しい。

 その高まりまくったテンションが「そういえば」と急に静まる。周りから見ればこの情緒不安定さは恐怖だった。


「魔法で思い出した、て言っても忘れてた訳じゃないけどエアフォースって誰が考えたんだ? 特に名前」


「えっとねー。確か名前はエアだったと思うよ。作った時にエアが付けてくれた名前を気に入ったからそのまま貰ったんだよ。それより名前が気になるの? 珍しいね」


「いやエアが関係してるならどうでもいいわ。でも自分の名前付けるなんてちょっとどうかしてるな」


 ユーキがははは、と笑うとそれにつられ「確かに」と笑みをこぼす。


「いやラック。お前は確かにって笑ったら駄目だろ。気付いとけよ」


「僕にも分からないことの一つや二つあるさ。これがその一つだった、てだけ」


「そんなことに大事な一つ使うなよ」


 ユーキが呆れたように言う。またもや笑い声がその場に溢れる。

 笑いの余韻が残る中、シルヴァが「あっ!」と城の方を指差す。

 それに釣られ城の方を見ると、こちらに歩いてくる人影があった。誰か? など考える必要はない。この戦い一番の功労者だ。


「一人、敵の主力に向かった英雄の凱旋だ。丁重に饗さなければな」


「あれ? 俺饗されたっけ? 記憶にないんだけど」


「お主は対峙してないだろ。それに比べシロ殿は大罪人と対峙して隙まで作ったのだぞ。どちらが大変かなど一目瞭然だ」


「俺だって一応、太陽と対峙したからな!? 住民に被害なかったの俺のお陰だからな!?」


「そんなにごちゃごちゃ言ってると皆に距離取られるぞ」


 帰還したシロの話から随分遠ざかるユーキとセルピア。

 ユーキにきつく当たるセルピアにそれを訂正するユーキ。それに対して駄々をこねるなと言うセルピア。いつも同じような流れである。


「なんで二人で話盛り上がってるの! シロが帰ってきたんだから出迎えないと!」


「シルヴァ様、心配ありがとう! けど、ここは出迎えるには適当な場所じゃないと思う」


「……確かに」


 帰ってきたシロに話を戻すシルヴァ。それに感謝を述べるシロだが少し首を傾げる。

 それにシルヴァたちは頷くしかなかった。

 シロの言葉に納得させられたユーキ一向はその場を後にし、広場内の休憩所まで歩く。さほど距離はない為直ぐに着く。


「よっ! レクト。さっきぶりだな。調子はどうだ?」


「さっきぶりって分かってるんだったら言うなよ! ――うっ!」


「レクトも自分の体のこと分かってるんだから怒鳴らないの」


 出現そうそうレクトに絡むユーキ。それに過剰に反応するレクトの声が自身を傷付ける。そんな彼を叱るのは隣に座るリネアだった。


「…………その感じは無事成功したみたいだな。魔女撃退作戦」


「改めて聞くとダサいなその作戦名。いや、作戦がダサいのか? その例の作戦は俺とシロの活躍で終わったよ。……あっでも残党がまだいるかもだから早く体治して戦線復帰しろよ」


 レクトにサラッと撃退までの過程と今の状況を伝えるユーキ。それに「お前のせいだろ!」とツッコミそうになったレクトは先程の二の舞になると言葉を飲み込む。

 それに舌打ちで残念そうな反応をするユーキを隣に立つシルヴァが窘める。

 そのやり取りを横目にセルピアが口を開く。


「ユーキ殿たちはこの後はどうするのだ? まだファントに残るのか。それともロアノスの屋敷に戻るのか」


「なぜそこで俺を主格に出す。ロアノス邸代表は俺じゃなくてシロだろ。てことでシロどうすんだ?」


「答えないなら喋らないでよ。第一シロたちの目的は冥府にいるあの方の定期確認と壊されちゃったけど結界の整備点検。もともと今日帰る予定だったんだよね。結界の再構築もシロたちじゃどうしようもないしね。早く直したいなら今日帰ってもいいけど、どうする? ……欲を言うと早く帰りたいけど。しーちゃんに会いたいし」


「私はどっちでもいいけど……」


「僕はルアの意見第一だから。どっちでもいいよ」


 帰る日程の選択肢を他に尋ねるシロ。シロ自身は愛しの妹に早く会いたいらしく、申し訳なさ気に最後に付け加える。申し訳なさ気にだ。

 シルヴァとラックは即答で選択肢を放棄する。

 一方、それを聞いたユーキは少し唸ってから顔を上げる。


「世界の敵撃退したってことは宴的なやつ、あるんじゃないか? もしあるならそれに参加したいなーって」


 目をぱちくりさせながらセルピアに視線を送るユーキ。これは宴の有無関係なく催せという圧を送ってる意もある。

 だがその意はセルピアには伝わらず、と言うよりも元よりセルピアはユーキたちを饗すつもりがあったらしく今はユーキの瞬きを気味悪がっている。


「宴程の規模ではないが礼はしようと思っていた。が、その目はなんだ。饗す気も失せるぞ」


「はい今やめた! やめたから考え直してくれ! 俺結構楽しみにしてた節あるから!」


 せっかくの宴チャンスをみすみす逃してしまいそうになったユーキは直ぐに瞬きをやめ、姿勢をピンと正す。


「丁度いいぐらいのはないのか。……それでは城に戻ろうか。帰らぬことには宴など夢のまた夢だしな。レクトはどうする?」


「姫様まで冗談言わないでくださいよ。この怪我だとどう考えても無理でしょ」


「じゃあレクトは安静にね。私はセルピア様に付いていくから」


「レクト、いつからリネアが看てくれると錯覚していた? 今のお前なら気合いで治せるんじゃないか?」


 セルピアの言葉を冗談だと思い、軽く答えるレクト。だがそれが仇となってしまう。

 自ら不参加を表明したレクトを切り捨てたリネア。それを聞き、嘲笑いながらレクトを煽るユーキ。

 ユーキの煽りを受けたレクトは少し考えた後、決意を宿した瞳で立ち上がる。勢い良く立ち上がったことで体が悲鳴を上げその場に膝を突く。


「だ、大丈夫! レクト!」


 倒れ込むレクトに慌てて声をかけるリネア。その助けを手で制するレクト。

 レクトはベッドを支えにして、立ち上がり、そしてユーキの肩を借りる。


「レクト大丈夫なの?」


「大丈夫だ。さあ早く行きましょう、姫様」


「人の肩借りて仕切りやがって。まあいいや。セルピア早く戻ろうぜ。俺の足も完治してないし、座りたい」


 レクトに体重を預けられているユーキも先程の不注意の事故により足を怪我している。その為、早く戻りたい。ここで休めばいいなどは話の進行上面倒なので無視だ。

 レクトも城に戻ることを選び、六人プラス一匹が城への帰路につく。

 その帰路の中、ユーキが肩に体重をかけてくるレクトに小声で囁く。


「余計な見栄張らなければリネアの肩借りれたのに。そういうとこ残念だよなレクトって」


「煩い。男なんだから見栄ぐらい張ってもいいだろ」


「見栄張るタイミングが残念だっつってんだよ。張った結果こうなるんだったら張らない方がいいだろ」


「手出ちまったんだから仕方ないだろ。そう言えば足の怪我ってもしかして着地失敗したとかか」


「そうだよ。そしてその治療をシルヴァにやってもらったんだよ! ……自分で墓穴掘っちまった!?」


 城に向かう一向の後ろで小声でダメ出ししあっているユーキとレクト。それに反応する者が一人。


「後ろのお主ら何を話している? 反省会なら……」


「黙れセルピア!」

「ちょ、姫様!」


 急に話に入ってきたセルピアに無慈悲な声を上げる男子二人。特にユーキの罵声は避難を浴びるのだった。


 ユーキらが城へ向かっていくのとほぼ同時刻。閉ざされた冥府ないで目を覚ます者がいた。

 その者は黒基調のフードに身を包み、冥府の物陰に倒れ込んでいた。倒れた原因は単純に衝撃だった。


「色欲様の急な転送。打ち所が悪ければここで永眠していましたよ」


 頭を押さえながら立ち上がる男。その風貌と発言から大罪衆の人物だということが分かる。


「一人私がここに転送された理由――そんなもの考えなくても明白です! 目標を冥宮から連れ出すこと!」


 誰もいない物陰でいちいち大きく動く一人の男。街中でこのような大声を出せば近所迷惑で通報されるだろう。その前に不審者として通報されるだろうか。


 男は大罪衆内での階級はそこまで高くない。だがこれまでの職務を真っ当に行う姿勢を認められ、今回特別に任務を与えられたのだ。

 当の色欲の大罪人はユーキの煌焔により撤退を余儀なくされた為、この男は大罪人の最後の足掻きだった。大罪人において余儀なくという言葉は少し当てはまらないかもしれないが。


 男は冥宮のある方へ歩いていく。もちろん土地勘などなく勘だ。だがここはこの男の真面目さが評価されたのか運良く正しい道を行けた。

 正しい道を行ければ後は一本道。冥府の端に冥宮がある為、天地がひっくり返らない限り着かないことはない。


「色欲様から直接承ったこの命。必ずやこの私が! ノクラが遂行してみせましょう!」


 空に宣言する男、ノクラ。だがその宣言先である大罪人はもうこの街にいない。何とも悲しい男だった。

 しばらく歩きようやく冥宮に到着した。外観は何の変哲もないただの石の箱。入口すら見つからない。

 ノクラは周りを手探りで弄る。だがいくら探して入口どころか何らかの穴すら見つからない。

 思ってもいなかった壁に時間を食うノクラ。数分壁を弄っていると壁に突如入口が現れる。大人一人通れる程の入口だ。

 知らない内にスイッチを押したのか、それともノクラの執念が実を結んだか、後者の方がおあとがよろしいのでここは後者としておこう。


 冥宮はその構造の特異性から入ることすら危険とされている。冥宮自体に意思があるとされ、入る人物により構造が組み変わる。

 その特異性が吉と出れば、ユーキのように瞬時に目的地に辿り着ける。だが凶と出れば、生涯冥宮暮らしとなってしまう。


「さあ中に入りましょう。そして目的を早急に達成しましょう!」


 一人で意気込むノクラ。彼は冥宮に足を踏み入れた。

 冥宮の中は外界からの日が入らず、壁も天井も床も全て石造り。申し訳なさ気に付けられた少量の明かりも視界を全て照らすには足りない。

 壁伝いに部屋を探すノクラ。取り敢えず部屋を探す。

 しばらく歩き、ノクラはとある部屋を見つける。入口は木造の扉で中の様子は一切伺えない。


「ここが例の部屋? 冥宮内に隔離される人間など他に存在するはずがない。つまりここに人間がいればそれが目的の者。一体誰がいるのか」


 扉の奥にいるかもしれない人物に聞こえないように声を潜めての独り言。その声は反響せず、直ぐに消える。

 大罪人に命を与えられた彼でさえ、今回の襲撃の目的は知らされていない。正確には誰が目的かは知らされていない。

 誰がいるか分からないという恐怖がノクラを包む。

 鼓動さえも耳障りに感じる緊張感の中、彼は扉の取っ手に手を伸ばす。


 古びた木製扉特有の重みが手に伝わる。扉は軋みながら、音を立てながら重々しく開く。

 部屋内は明かりがなく、まさに一寸先は闇。だが圧倒的な存在感がそこにはあった。

 見えないがそこには何かがいる。それを確信できる程の存在感が感じられた。


「……誰か、いますか? いたら返事を」


 闇に返答を求めながら、足を踏み入れるノクラ。冥宮に入る時とは段違いの恐怖だった。

 その恐怖を闇から帰ってきた答えがいっそう煽る。


「……いで」


「だ、誰ですか? な、なんと言いましたか? もう一度」


 恐怖に飲まれながらも声の主との距離を詰めるノクラ。与えられた命に応える為、鉛のように重い足を進めていく。


「……いで……ないで」


「落ち着いて下さい。私は色欲様の命でこちらに来ました」


 ノクラが近付く程、声の主が取り乱しているのが声から伝わる。だがノクラは歩みを止めない。

 開いた扉がなぜか閉まっているがそれを気付ける程の心理状態ではなかった。

 暗闇の為、ノクラの方向感覚はもう既になくなっているが、声が近くなることから自分との距離が確実に近くなっていることが分かる。


「……!? やめて! やめろ! 出てくるな! こないで!」


「えっ!?」


 声の主が明らかに取り乱す。がちゃがちゃと金属のぶつかり合う音が部屋に反響する。

 突然の音に驚くノクラ。歩みを止めなかった彼が後ずさる。

 そして次の一言がノクラに影響を与えた。


「消えて!」


 金属音の中、はっきりと聞こえたその言葉。これがノクラの聞く最後の言葉だった。

 刹那、彼は声の主の前から、この部屋から、世界から消えたのだった。


「ま、まただ。久々に抵抗されたから、枷が緩んじゃってたんだ。多分、あの人は……君のせいだぞ」


(言いがかりも大概にしろよ。異能を使ったのは俺じゃない。俺もお前みたいなのについちまったの後悔してんだからお互い様だろ?)


「僕もこんな力いらなかった。人に迷惑しかかけられない力なんて」


(じゃあ俺がいいように使ってやるから体渡せよ)


「僕のせいで被害を増やしてたまるものか。だからここにいるのに……」


大罪衆のファント襲撃の目的である少年は鎖に繋がれたまま一息、ため息をつくのだった。

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