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新たな世界でニューライフ  作者: 黒夜叉
第二章 亡霊だらけの冥界
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第二章18 『魔剣の真価』

 漆黒の城上空に浮かぶ大火球。冥府から帰ってきたばかりのユーキは状況が飲み込めず、ただただ絶句する。

 一方、傍らのセルピアはそんな彼とは違い、太陽を見ても冷静沈着を崩さなかった。

 傍から見ればどちらも沈黙を続けている、と様子が同じだが、内心とは外見から案外読み取りやすいものでユーキの方が見るからに焦っている。


「ユーキ、ちょっとユーキってば!」


 半ば放心状態であったユーキにシロが呼びかける。そして直ぐに声では無理と判断し、即座に実力行使にシフトチェンジ。

 シロはユーキの左頬に弱めのビンタ。唐突に放たれたそれに体勢を崩すユーキ。

 セルピアは太陽よりもこちらの方に驚きの眼差しを向けていた。


「あっ、ごめん! ちょっと力入れすぎたかも!」


「痛えな! 急に何すんだよ!」


「急にじゃない! ちゃんと呼びかけたよ!」


「呼びかけたって何をだよ!? 今から殴りますよってか?」


 ユーキは叩かれた左頬を押さえながら不平も混じえたツッコミを入れる。

 正確に言うと「叩く」だがユーキの体感的には殴られたと思ったのだろう。


「えっ、なんかボーとしてたから“ユーキ”って名前呼んだだけだけど?」


 ユーキのツッコミにシロは頭を傾げて答える。シロはユーキを叩いたことをなんとも思っていない様子だった。それが更にユーキを苛立たせる。


 ふとこの状況にユーキは既視感を覚える。記憶を辿ってみると思ったより最近だった。

 起きてくるのが遅く、その結果一人朝食を摂る羽目となったファント出発前の朝だ。その時はユーキにも非があった。いやユーキにしかなかっただろう。

 しかし今回はシロにしか非がない。ユーキはただ燃え盛る太陽を見て絶句していただけだ。


 自分に非がないことを再確認すると余計に腹がたってくる。この際、器が小さいなどの苦情は受け付けない。

 ユーキがもう一度、口を開く。


「ボーとしてた俺も悪い…いや悪くねえ! 理由も分からず殴られた俺の身にも――」


 最後に威勢よく言葉を放とうとするユーキだったが横から声に遮られる。


「お主ら今の状況分かっておるか?」


 落胆のため息から始まったセルピアの言葉。勢い良く言い放とうとしていたユーキは止められてなんとももどかしい気分になる。

 セルピアの問いかけにシロは頷き、言葉を繋ぐ。


「そうそう、今はそんなこと言ってる場合じゃないんだからね!」


 先程のもどかしさも相まってシロが繋いだ言葉はユーキの癪に障る。


「シロ、お前どの口で言ってんだ? 俺を――」


 ユーキがシロに言い返そうとするとまたも遮られる。今度はセルピアの咳払い。流石のユーキも観念したのか深くため息をつく。


(これ以上言い争ってもどうせセルピアの邪魔が入るか……。なら早いとこ忘れよ…と思ったけど無理だな。忘れた頃にやり返そ)


 深いため息の中自分の怒りを隠す選択を取るユーキ。この一件が終わった後、覚えていたらやり返そうと決意する。

 だが、この計画は呆気なく仕返しの対象に伝わるのだった。


「だそうだぞシロ殿? どうする、と私から話題を振ってしまうと先程から止めていた意味がなくなるので勝手に言ってくれ」


「じゃあ教えんなよ!? 早くしないといけないんだろ?」


「別に大丈夫だよ、セルピア様。ユーキ程度にシロがやられる訳ないし」


「うむ。それもそうだな。さて、あれをどうするか」


 シロとセルピアの間でユーキの力量が卑下され、それを認められ、結果ユーキの仕返しは話す必要がないと完結してしまう。

 男として黙っておけないユーキだったがここで口を開いてしまうとまた話が長くなり、加えて一対二と劣勢に立たされているユーキが傷付くのは目に見えていたので言葉を飲み込む。

 そしてセルピアの言葉に促され、『あれ』を見る。上を向いたユーキは首を傾げ、目を細める。


「なんかあれでかくなってね?」


「ん? 言われてみるとそう思えなくもないな。……いや確実にそうだな」


 セルピアがユーキに同調する。元の視力がいいのか特に目を細めずに太陽を見る。

 二人が太陽の膨張に気付いた時、シロが口を開く。


「あっ確かに。あれ最初あんなに大きくなかったもん」


「なら早く気付けよ!? いや早く言えよ!?」


「膨張しているということはあれは魔法か? あれ程の膨大な魔法となると魔女のものか」


「えっあれ魔法なのか!? ならセルピアの異能で消せるんじゃ?」


 セルピアの発言を聞いてユーキが提案する。異能発動中の証である紫光が曇る。

 いまだ異能発動中の彼女の瞳には何が映っているのだろうかと唐突に気になったユーキ。


「どうしたセルピア? なんか変なもんでも見えたか?」


「いや何も見えていない。さっき異能の遠視ができないと言っただろう? その理由が分かったのだ。これはお主らには悪い報せだな」


「えっと……結論は予想できたわ。あの太陽消せないんだろ?」


 セルピアの雰囲気で何となく結果が理解できたユーキ。セルピアは静かに頷く。


「遠視ができなかった理由は恐らく大罪人が阻害してきたからだ。ただの阻害目的の結界であれば異能で突破できる。だが異能持ちである大罪人の結界であれば話は別だ。異能は持ち主の魔法や加護にも影響を及ぼす。意味が分かったか?」


「あの太陽は異能持ちの大罪人が詠唱した魔法だから異能では消せないってことだろ? いやちょっと違うような気がする…………阻害の結界も影響してるのか!」


 セルピアの説明で異能の強力さを再確認する。有するだけで強力無比の力を手に入れられる能力に更に別の力があると知れば驚くのも無理ないだろう。

 一度異能が使用できない理由を考えたユーキは自分の仮説に違和感を覚え、もう一度考え直した結果答えに辿り着く。


「ああそうだ。まあ結界の対象は私の異能だけらしいがな。ちなみにだ。あの太陽は単に異能の範囲外、かもしれん」


「まあ結局消す手段は考えないとってことだね!」


「消す消すと言っておるがまず住民の避難が最優先だな。ファントには私の異能は影響しないからな。早めに手を打っておかなければ――」


 セルピアが話の趣旨を現実問題に変える。と言うよりセルピアはこちらの方が心配だったのかもしれない。


(セルピア意外と優しいとこあるからな)


「意外ととは何だ!」


「だから勝手に読むなよ! それに話してる途中とは器用だな!」


 ほんのちょっと思っただけで即座に反応してくるセルピアに驚くユーキ。異能常時発動中のセルピアの前では変なことを考えないと誓うユーキだった。


 話し合うべき問題から少し逸れてしまった二人を元の問題に引き戻したのはシロの次の発言だった。


「避難は考えなくてもいいよ。もうやってるはずだし」


「シロ、それマジか!? 先輩流石っす!」


 急に後輩口調になるユーキ。その急な食い付きにシロは機嫌良くなったようにも少し引き気味にも見えた。

 セルピアは完全に引いていた。


「ユーキ殿は置いておいて、気になることが少し。シロ殿よいか?」


 セルピアの問いかけにシロはコクリと頷く。


「まずどうやってそれ程の人民を移動させたのだ? この街にはかなりの数、人が住んでいたと思うが」


「それは簡単だよ! 太陽を見た騎士団のみんなが周りの民家に伝えていったんだって。それでファントの入口近くの広場に集めたらしいよ」


「そうか。二つ目はなぜここにシロ殿が残っておる? 集めた住民の護衛などはシロ殿が最適だろう?」


「それはね、ここに残る人をどうするか決めた結果、シロが残ることになったからだよ。一人になるならシロの方がいいってシルヴァ様と話し合って――」


 シロがセルピアの質問に答えるとユーキがある言葉に反応し、シロの言葉をかき消す。


「シルヴァ帰ってきたのか!」


「あ、うん。シルヴァ様を説得するのは疲れたよー。何言っても私が残るって聞かないから。最後はここに来た騎士と一緒に広場に向かってくれたけどね」


 ユーキの反射的な反応にまたも引き気味になるシロ。セルピアは苦笑いを浮かべていた。


「取り敢えず、広場に向かうとするか。戦力は一箇所に固めておいた方が楽だろうしな。それにユーキ殿は早くシルヴァ殿の安否を確認したいようだしな」


「別にそういう訳じゃねえよ。ただ待っとけって言ったのに……まあそうだな、行こう」


 セルピアの言葉に詰まったユーキは照れ隠しの為に少し咳き込み、先陣切って走り出す。

 シロとセルピアは急に走り出したユーキを追いかける。最初から飛ばしまくる三人は直ぐに門下を潜り抜け、街へ出る。


「とりあえず走りながら考えるとするか。あれの対処法を」


「対処法と言えば! ユーキの腰に刺してるやつ。それが魔剣?」


「ん? ああ。でも、魔剣っつうか片刃だから魔刀なんだよな。なんでか知ってるか? セルピア」


 シロの示した魔剣を鞘から抜き、見せながら言うユーキ。

 改めて持ってみても重量感のある魔刀もとい魔剣。ちゃんと力を入れていないと手から離れてしまいそうなそれを走りながら抜くというのは、前のユーキなら少々危なっかしい気がしたが、今のユーキは筋トレが効いているのか柄を握る右手がブレていない。

 セルピアが少し間を空けて答える。


「ユーキ殿がその形を望んだからではないか? それか前の使用者、つまり異界の英雄が刀の状態で使っていたかのどちらかだな。どの道お主が望んでいたことに変わりはないが」


「元から刀って訳じゃなく? 後からこうなったのか。てことは魔剣って形変わるのか?」


「能力においてもだが魔剣は他の五神剣と比べ、異質だからな。だからこそ使いこなせれば強力な武器となるのだ」


 セルピアが魔剣の特異性を主張する。明確に何がとは言わないが以前聞いた特徴だけでも異質なのは理解できる。

 所有者と他者を繋げる力。聞いただけではちゃんとした効果が分かりにくいこれの本質をユーキが知るのはもう少し後の話だった。


「……!? ユーキ殿、シロ殿。もしかするとあるかもしれんぞ。あの太陽を防ぐ方法が」


 セルピアによって思い出したように繋げられた言葉。それは今のユーキたちにとっては希望が見え始める言葉だった。


「あれを消す方法、思いついたのか!」


「方法と言うよりも可能性を見つけただけだがな。第一にあれを消すには異能を持っている必要がある。私以外のな」


 共に走るユーキとシロに向かい、右手で一を作って説明を始めたセルピア。


「でも、そんな簡単に異能持ちは見つからないし……」


 逆接から入ったシロは言葉のトーンと共に顔も下を向いていく。

 セルピアはそれを聞き、少し驚いたように言葉を発する。


「もしかしてシロ殿は知らんのか?」


 セルピアの問いにシロが「えっ」と声を漏らし、首を傾げる。


「この反応は……ユーキ殿なぜ言っておらん? 隠しておくことでもないだろ。身内なのだし」


「いや、別に隠してたとかそんなんじゃねえんだけど、言う必要もないなと思って」


「ほんとに何? セルピア様もユーキも勝手に話進めないで」


 シロを置いて話すユーキとセルピア。ここまでくれば容易に想像できそうだがシロは考える気はなく、二人からの答えを待つのだった。


「いや別に話は進まず足踏みしてるけどな。つまり――」


 ユーキがちょっとした訂正のツッコミを入れた後、シロが置いてかれた理由を言おうとすると声が遮られた。


「ユーキ殿も私と同じ異能を有する者だということだ」


「うわっ、俺の言いたいとこ、ジャストで持ってったな!?」


 被せてきたセルピアに引き気味の眼差しを向けるユーキ。セルピアは言葉なしで軽めに謝罪の意を伝える。


 セルピアに対し、機会がないから異能については言わなかったとさっき言っていたユーキだが、実を言うといい感じで言えるタイミングを伺って温めていたのだった。

 なので今、表面上で見せているよりも実際は悲しんでいる。


 ユーキの驚きと共にシロも別の意味、いや本来の意味で驚く。


「ほんとに!? 加護持ってるのはシルヴァ様から聞いてたけど、異能も持ってたなんて……でもそれじゃあ一つ目の条件の異能持ちってのは大丈夫ってことだよね!」


 うむ、とセルピアが頷く。そして指を二の形にして前に出し、説明の続きを始める。


「二つ目にあの魔法を消す力がいる。同じ威力をぶつけて相殺するなどではなく、消去する力だ。思いつくやつがおるだろ?」


「レクトだな。でもあいつは俺に伸されて、氷の中で眠ってるか、リネアに看病でもされてるぞ? それに一つ目の条件に当てはまってねえし」


 数時間前にした戦闘を思い出す。人生最初の実戦であり、初めて本気でぶつかった戦いでもあった。

 その戦闘のおかげでアスデスとも互角に渡りあえたとユーキは思っている。もちろんセルピアの援護あってのもの、とも分かっている。


「待て、話を最後まで聞かんか。私が言いたいのはこの二つの条件があれを止めるのに必要だということとどちらとも当てはまる人物がファントにいるということだ」


 セルピアに注意されたユーキと黙ってセルピアの話を聞いていたシロが首を傾げる。理由は簡単。何を言っているか分からないからだ。

 確かに異能を持つユーキ、魔法を吸収する加護を持つレクトがいることは分かる。だがそれがあの太陽を消すことには繋げられない。

 故に彼らは首を傾げるしかないのだ。


 首を仲良く傾げる二人にいい加減気付いてくれと言わんばかりのため息をつき、説明を続ける。


「ユーキ殿にはそろそろ気付いてほしかったが……。最初にも言った通りこれは可能性だ。だが賭けても良いと思っておる。ユーキ殿、魔剣の能力を覚えておるか?」


「確か、所有者と他者を繋げる力だったか? いまいちよく分かってないんだよな。繋げるが物理的になのか、何を繋げるのか、情報が少なすぎる」


 セルピアの魔剣の説明に少し愚痴を漏らすユーキ。情報量の少なさに台詞通り何も能力については掴めていない。こんなのかなという予想さえ立てていない。


「へぇー、魔剣ってそんな能力だったんだ。もしかして、その力を使って一つずつの条件を満たしてる二人を合わせるとか?」


「てことは俺とレクトにフュージョンしろって言ってんのか?」


 発言と共に、ユーキの脳内に両手の人差し指を合わせる自分とレクトが浮かび上がる。


「フュージョンも知らんし、その動きも知らんが言っておることが違うことは分かるな。だがシロ殿の言っておることは正解に近い。――魔剣の力を使えばレクトの力をユーキ殿に転写することができるはずだ、というのが私の考えだ」


「転写? つまりコピーってことか。確かにそれならあれを消せるけど、本当にできるのか? 俺、身体強化って聞いた時の落胆ぶり凄かったんだけど」


 ユーキのセルピアから魔剣の説明を聞いた時の残念感は本当に凄かった。

 ただの身体強化という予想の何段階も下の能力に肩を落としたのはこれからも絶対に忘れないだろうと思える程に鮮明に記憶に残っている。


「あれも原理は同じだ。魔剣が聖剣と共鳴し、身体強化という能力を転写したのだ。まあ、本物よりは劣化しているがな。これと同じようにレクトとも共鳴はできるはずだ。心配な点はどこまで劣化するかだ」


 セルピアの説明を受け、声を漏らしながら頷くユーキ。シロも同じように頷いている。


「セルピアの言う通りそこは不安だけど、ここでそんなこと言ってても無駄だし行くか。案ずるより産むが易し、だ」


 ユーキの言葉に途中までは頷く気だったようだが最後の言葉にはてなを浮かべる他二人。セルピアはシロと違い、少し間を置いて頷いた。

 ことわざが通じないことは分かっていたが、ユーキはそんなことは気にせず、前に向かって走っていくのだった。

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