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新たな世界でニューライフ  作者: 黒夜叉
第二章 亡霊だらけの冥界
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第二章13 『弾かれ耐えて走り出す』

 敵同士だとは思えないくらいの軽い空気が流れる城前。こんな空気感になったのは先程のユーキの問いかけもあっただろうが、一番はアスデスの戦いに対する姿勢だろう。

 これまで戦っていた雰囲気が一切なく、これから戦う素振りも一切見せない。

 これが余裕からなのか、実際にその気がないのかはこの先のユーキたちの行動で分かる。


「そちらの方たちは?」


 アスデスはシロとセルピアに右手を向け、問いかける。

 まるで日常会話のように自己紹介をしあっていることに違和感を持たざるを得ない。この空気が今の状況を忘れさせる。


「ユーキと同じロアノス邸でメイドをしてるシロです」


「この城の主、セルピア・ハーデウスだ」


 セルピアは短めに、シロは戦場の雰囲気がしない為か少し外面モードで言う。


「この城の主というと、確か異能持ちの方でしたよね? そうですか。あなたが。では――」


 アスデスの言葉から城の主は異能持ちということは隠されていることではなく、調べれば分かることらしい。

 アスデスが言葉を続けようとした時、少年の声がそれを妨げる。


「自己紹介タイムは終わっただろ? 先手は貰うぜ! 魔装!」


 腕に炎を纏わせ、腰に差すナイフを逆手で抜く。そして、一撃で仕留める為、横から首に右腕を振り翳す。


「ユーキ止まって! そんなことしたら――」


 シロが早まるユーキを止めようと声を上げるが、その声が届いたところでユーキに与える影響は僅かなもの。

 意識はシロの声に引っ張られたが、車は急には止まれないと言葉があるように勢いに乗った腕もまた止めれない。


「僕の考えですが戦いの場においても礼儀はあると思うんですよ。相手に先手を与えるのもその一つと考えています。ですが……」


 少し勢いの衰えたナイフがアスデスの喉元を狙う。だが、それが実際に届くことはなかった。

 理由はユーキの持つナイフとアスデスの喉元の間を隔てる透明な壁が現れたからだ。

 直径がナイフの刃渡り程の金色の縁がある透明な円形。円形があると分かるのは光が反射しているのが見えるからだ。


 ナイフが透明な壁と接触する。その瞬間、シロが止めた理由をユーキは理解する。

 接触したナイフとそれを握る腕がまず弾かれる。いや、跳ね返されるの方が適切かもしれない。次にその腕に引かれるようにユーキの足が地から離れる。

 当人の感覚としては跳ぶと言うより飛ぶの方が近い。


「うぐっ! うっ、あぅ、うぅ……」


 飛ばされたことによる浮遊感がユーキを襲う。現状に対する脳内での処理が追いつかないまま、ユーキは全身で着地。

 地に着いた後も勢いは余韻を残し、ユーキを回転させる。ある程度距離が離れ、砂埃が立つと共にユーキの回転は終わる。


「僕は戦いに来たのではありません。交渉に来たのです。大罪衆の要件は冥府への道を開くことです」


「ユーキ!」

「ユーキ殿!」


 先程と何ら姿勢が変わらないアスデス。ユーキが吹っ飛んでいったことなど知らないかのように。

 シロは直ぐにユーキの元へ駆け寄る。セルピアは動くことはせず、アスデスの方へ向き、口を開く。


「……そんな頼みなど聞く訳ないだろ。お主らのような輩を私の領土へ入れるなど。その上目的も言わぬ者など……通行を許す訳がない。まあ、目的はあれだろうがな」


「目的…ってな……んだよ……セルピア…もし……かして…魔剣…か……」


 城の庭園にうつ伏せで倒れるユーキ。ナイフは飛ばされる過程で手を離れ、ユーキより更に奥に落ちていた。

 ユーキは両腕を突き、立ち上がろうとする。だが、上体は上がることなく、ユーキは激痛と共に右側に倒れる。

 ユーキが倒れたのは回転による酔いとレクトに付けられた傷、この二つの影響もあったが一番大きな影響を与えたのは支えとした右腕に走る罅が入ったような痛みだった。


「うっ! 折れ…たのか……」


 倒れたことで仰向けになったユーキが右腕を押さえる。だが、その行動が更に腕を刺激する。


「ちょっと触るよ。…………折れるまではいってないみたいだけど、これは酷いね」


 シロがユーキの腕を触る。痛み具合から判断する為に少し腕を動かしたりした後、シロは険しい顔になる。

 ユーキは骨を折ったことがない。初めて感じる痛みにただ耐える。

 ユーキは右腕に左手を翳す。すると、全てではないが腕の痛みが動かせる程度に引く。


「あの勢いだと折れてると思ったんですけどね。シロさんのおかけですかね。それでセルピアさん。魔剣が冥府にあるということはどの道扉は開ける必要があるのではないでしょうか? ユーキさんの為に」


「目的って魔剣のことじゃないのか!?」


 自己治療をし、立ち上がるユーキが驚きの声を上げる。セルピアの顔色が曇り、ため息をつく。

 ユーキは腕を押さえながらナイフを取りに行く。腕を自由に動かせるという訳ではないが、切られた傷は塞がっていた。


「魔剣の在り処は明かされていなかったのだが、これで知られてしまった。ユーキ殿の失態だ。お主らの目的はシロ殿たちと同じで”あやつ”だろ? 私の許可なしにこの敷地に入ったように冥府にも行けば良いだろ」


 今回、ユーキたちがファントに来た理由と大罪衆の襲撃の理由が同じだと言うセルピア。そして、それを表す表現にユーキは首を傾げる。


「そんなことできる訳ないじゃないですか。ここの結界内に入るのも僕一人では無理だったんですから」


「結界……ユーキ殿! ここに来る時どうやって来た?」


 アスデスの言葉で何かに気付いた様子のセルピア。セルピアは丁度ナイフを拾う為に屈んでいたユーキに問いかける。


「脚に魔装して門跳び越えて来たけど……あっ! 確かここって結界を張ってたんじゃ……」


 セルピアの問いかけにユーキは振り向いて答える。そして、自分の行動に矛盾点があったことに気付く。


「セルピアさんのその反応、結界とは繋がってないようですね。一ついいことを教えてあげましょう。あの結界は外側からの衝撃などは余程の事がない限り通しません。しかし、その反面、内側からの衝撃には結界としての意味をなしません。これで分かりましたか?」


 アスデスが人差し指を上げ、淡々と話す。こんなことを話すのも彼に取っての礼儀なのだろう。

 ユーキが門を跳び越えられたのは結界が破壊されていたから。それを告げるアスデスの言葉は必然的にあることを決定付ける。


「つまり城内に内通者がいたということだな。誰か……と考える必要などないか」


 セルピアの中ではもう答えは見えているようだった。その答えはユーキやシロにも見えている。


「アルマ…だよな。こんだけ怪しいと疑うのを少し躊躇うぐらいだよ」


「確かにあんな小さな子がって考えたら疑う前に自分を疑っちゃうよね」


 ユーキとシロがアスデスの方へ歩いていく。理由はもちろん戦いを再開する為だ。

 アスデスに戦う気がなくともユーキたちの目的はファントや冥府を守ること。つまり、戦わない訳にはいかないのだ。

 ユーキはナイフを逆手で構え、シロは武器を手に持たず素手で構える。


「僕は戦う気などないんですけど、この場合相手になるのが礼儀というものですよね。あっ、言い忘れていました。僕の冥護みょうごについて教えていませんでしたね。反射と倍加です。先程ユーキさんを飛ばしたのは反射と倍加の複合使用です」


 構えるユーキとシロの前でアスデスは無防備に能力説明。この不可解な行動を理解できない二人。


「何でそんなこと教える! 信じられる訳ないだろ!」


 ユーキがアスデスに問いかける。問いかけながらにも集中は切らさず、アスデスの動きに注意を置いている。

 アスデスが微笑みながら口を開く。


「戦いにおいての礼儀ですよ。僕はあなたたちの力量を聞かされています。この状況で戦い始めると情報的に僕が有利です。つまり、僕が自分自身のことについて開示することで平等となるのです」


「信じられねえ」


 アスデスの戯言のようにも聞こえる言葉にユーキが声を漏らす。だが、口から出た言葉とは裏腹に脳では理解できてしまう。

 実際、先程ユーキに起こった出来事の説明はついている。そして、ここまで礼儀に重点をおいた姿勢が何よりもの証拠となり、理解させられてしまう。


「シロ、こいつの言ってること信用できるか? 俺は嫌だけど理解できちまってる」


「シロも同じ。ユーキが来るまでちょっと戦ったけど、シロも弾かれた。それと攻撃の時、剥がされるから魔装はやめた方がいいよ」


 ユーキとシロがアスデスから目を離さず、口を開く。両者の意見は一致する。


「了解。じゃあ、いくぞ。間違って斬ったらごめん。魔装!」


「深くなかったら大丈夫。こっちも殴っちゃったらごめんね。魔装!」


「えっ!?」


 ユーキの言葉に応えるように脚が炎に包まれる。ユーキのもしもの為の保険に答えたシロは詠唱と共に駆ける。

 シロの体は雷光に包まれ、その場から姿を消す。雷光が線を描きアスデスの前で止まる。

 魔装を解き姿を現したシロとアスデスの間には円形の壁が出現する。今回は金色の縁はなかった。

 シロはそのまま壁を殴るが、飛んでいくことはなく、続けて拳を向け続ける。だが、どれも壁に阻まれ当たらない。

 シロに殴られ続けるアスデスの後ろにユーキは回り、首元を狙い一振り。だが、それも防がれ宙に浮くユーキは後ろに弾かれる。


「もしかして、さっきの雷ってシロが出したのか?」


 着地したユーキがアスデスを殴り続けるシロに問いかける。シロは腕を止め後ろに下がり、腕を回しながら答える。

 飛ばされていないだけでやはり衝撃は返ってきているようだった。


「あの雷見て助けに来てくれたんじゃないの? 助けが欲しくて目立つように上に上げてから落としたんだけど」


「俺はあれが新手の攻撃かと思って来たんだよ。まずシロが魔法使えること知らなかったし」


「言ってなかったっけ? 確かに屋敷内で魔法なんて使うことないもんね。ロアノス様いるし」


「相手を前に会話とは……。相手をしてる僕に対しての気持ちなんてそんなものですか」


 雷の発生原因とそれを起こした理由がシロの答えを聞き分かったユーキ。だが、そんなことよりも内心はシロが魔法を使えたことに驚いているユーキ。

 二人の会話に挟まれているアスデスはため息をつき、首を横に振りながら口を開く。


「なんだ? ヤキモチか? 男に妬かれても嬉しかねえぞ」


 ユーキの恋愛対象は男ではない。つまり、アスデスに嫉妬されたとしてもいい気はしない。これがもし女だったら……長くなるのでやめよう。

 ユーキは抜刀の構えでアスデスに近づく。そして、ある程度近づいて止まる。だが、その距離はユーキのナイフではギリギリ刃が届かない距離だった。


「その短剣ではこの距離は届かないと思いますよ?」


「俺も届くとは思っちゃいねえよ。だがな、今の俺がお前に一撃当てるにはこんな突拍子もないことするしかないんだよ。……魔創」


 アスデスに向け、抜刀するユーキ。その刃が届くことは有り得なかった。だが、ユーキの詠唱により、それが有り得ることとなった。

 刃の先端がアスデスに向く前にナイフの刀身が炎により伸びる。当たる寸前の出来事だった為、アスデスの反応が遅れる。ユーキの思惑は成功したのだった。


 魔法の扱い方その三。魔創。魔装との違う点は纏うのではなく創る点。本来の使い方では動物や武器そのものを模して形作るらしいが、今回は刀身の途中から炎が伸びる。


「流石にあの距離は間に合わなかったみたいだな。どうだ? 斬られた感想は?」


「やっぱり痛いですね。久々に斬られましたよ。ですが、今のは真っ当なやり方と言えるのでしょうか? 僕は自身の冥護を教えました。では、あなたはどうですか? 魔創が使えることを教えなかった。これが――」


「うるさい! シロのこと忘れてるでしょ!」


 ユーキは緊張感を持ちながらも口元を緩まし、挑発的な言動。アスデスは斬られた部分を押さえながら答える。感覚はただの人間らしい。

 斬られたアスデスは自身のポリシーに基づきユーキを問いただす。その言葉をシロが蹴りで物理的に終了させる。

 アスデスの体は蹴りの威力に身を任せ、軽く飛ぶ。ユーキにしか目が行ってなかった為、シロの蹴りは容赦なく横腹に入る。


「ナイス! シロ!」


 ユーキがシロに向かってサムズアップ。シロもそれに同じ動作で答える。


「後ろからとはなんと卑怯な……僕はあなた方を見誤っていたみたいです。あなた方の中には礼儀など存在していなかったのですね」


 失望の眼差しでアスデスは二人を見る。だが、そんな目はユーキたちに通用する訳もなく、ユーキは鼻で笑う。


「さっきから礼儀礼儀言ってるけどな、戦いにおいての礼儀は相手に本気を出すことだと思うぞ。相手が見てないから攻撃しないは俺の思う礼儀に反する」


「あなたのその言葉には頷けませんね。礼儀とは相手を思いやる行為です。その行為がどうなったら相手を後ろから蹴ることに繋がるのですか? この世界は礼儀を理解できない方が本当に多いですね」


「シロもメイドとして礼儀を理解してるつもりだけど、どっちが合ってるかだったらあっちだと思うよ」


 ユーキとアスデスの言葉がぶつかる。だが、正しいのは確実にアスデスだ。ユーキのものは自論であり、この際本当かどうかなど関係ない。


「シロが礼儀理解してるとは到底思わねえけど、考えなんて人それぞれなんだよ! 俺が言いたいのはそういうのを押し付けてくんなってこと。シロ、いくぞ!」


 ユーキの最後の掛け声のような言葉で二人は走り出す。ユーキは重心を下げて斬りつけ、シロは横蹴り。だが、それらは壁に阻まれる。

 衝撃も今まで通りに返ってくるが、どちらも足に力を入れ、飛ぶことを防ぐ。


 二人は弱めの攻撃を繰り返しアスデスに向け続ける。しかし、剣や拳、脚は全て壁に阻まれアスデスに届くことはない。


(弾かれるのを意識して弱くすれば当たらない。逆に勢いをつければさっきの二の舞になる。どうすれば……)


「ユーキ殿! 魔剣を使おう!」


 考えが行き詰まっていたユーキに救いの手を差し伸べるのはセルピアだった。

 セルピアはユーキに対して手招きをしている。シロに目をやるとゴーサインを出していた。

 ユーキはセルピアの元へ走っていく。


「いや、開いたらあいつも一緒に付いてくるんだろ? そこは一体どうすんだよ?」


「善処はするがそこはもう無視しろ。あやつらの目的はそう簡単なものではない。冥府に入れたところで連れ出せるかは別だ。それに比べ、お主の目的は魔剣を手に入れること。資格があれば難なくできる」


 セルピアの言葉で目的はものではなく生き物であることが確定する。セルピアは言葉を続ける。


「あやつを倒すにも魔剣を手に入れるのは必須だ。つまり、どの道行かなければいけないのだ」


「セルピアがまさかゴリ押ししかないと言うとは。まあ、俺もそれしかないような気がしてたけど。善処はどんな感じだ? シロとセルピアでか?」


 セルピアの考えにユーキは賛成。作戦の話を続ける。

 ユーキの問いかけにセルピアは首を横に振る。ユーキはそれに少し顔を歪める。


「シロ殿に頑張ってもらう。私はお主の補助だな。まず、ユーキ殿があちら側に行ったところで迷うだけだろ?」


「ガイドって訳か。確かに目立つとしてもどんなのか分かんねえからな」


「それではシロ殿にも伝えてきてくれ。私が動いたら門に向かって走り出せ。最速で頼むぞ」


「ああ、分かった」


 シロが殴り、アスデスが防ぐ。その攻防の最中、セルピアの話を聞いたユーキが帰還する。


「俺途中で抜けるからさ、その間引きつけ役頼む。セルピアも俺と一緒に行く」


 二人の戦いに参加したユーキがアスデスに剣を振る。シロはそれに口を開くことはなくただ頷く。


「冥府の扉を開く気になってくれたんですか? それはありがたいですね。では、早速行きましょう」


「勝手に話に入ってくるな! お前はシロが行かせねえよ! 俺が帰ってくるまでそこで待ってな。……シロ、負けるなよ」


「シロが負けると思う? 早く帰ってこないと見せ場無くなっちゃうよ?」


 シロが歯を見せて笑う。ユーキはそれを見て安堵のため息。

 いくら自分より強いと思っていても少女一人に任せるのは気が引ける行為。その思いをシロの笑顔が打ち消してくれた。

 一度瞬きをし、気を引き締めるユーキ。その目がセルピアの姿が消えたことを捉える。門の方へ顔を向けるとそこにはセルピアの姿があった。


「良いとこだけ持っていったらごめんな。魔装!」


 ユーキの脚が雷を纏う。炎より雷の方が速い気がするので、変えてみた。

 ユーキの足が動き出す。回転は回を増す度速くなり、即座にトップスピードに乗る。


「ユーキ殿! 開くぞ!」


 セルピアが走るユーキに向かって言う。その瞬間、色のなかった瞳が紫色に灯る。

 門が開く。その向こう側は先程までの町とはまた違った雰囲気だった。


 ユーキの体が門をくぐろうとした時、目の前の光が不自然に屈折する。


「敵前逃亡は僕の理論に反しますね。せめて僕を倒してから行ってくれませんか?」


 トップスピードのユーキを阻むのは先程ユーキの骨を折りかけた反射する壁。今回は金色の縁付きだ。

 この速度でぶつかるとどれ程の衝撃が返ってくるのかが分からない。四肢がもげる映像が頭の中で過ぎる。だが、足は悲しくも止まってくれない。


「ユーキ殿! そのまま進め!」


「これは逃亡なんかじゃない!」


 セルピアの声と共に指を鳴らす音が聞こえる。壁がその音に砕かれたように光の屈折が元に戻る。

 シロはアスデスに向かい、蹴りを入れようとするが、防がれるのは目に見えている。軌道を二度、三度変え、アスデスに当てる。

 アスデスは飛ばされるがままに飛んでいく。


 ユーキの体が門をくぐる。セルピアがそれを確認し、ユーキの後を追う。


「シロ殿! 後は任せた!」


 セルピアがシロの方へ向かって叫ぶ。シロはメイド服の裾を持ち、丁寧に腰を折る。

 それを見たセルピアの瞳は色を失い、また灰色に戻る。それと同時に門が閉まる。


「行ってしまいましたね。ここまで蹴られたりするのは本当に久しぶりですよ」


 雰囲気が少し変わるアスデス。振る舞いが変わった訳ではなく、声に若干の怒りを感じる。

 だが、雰囲気が変わったのはこちらだけではなかった。


「やっと、二人きりになれた。ユーキとかがいたら危ないからね。……存分に暴れられる」


 憎悪に満ちた笑顔を浮かべる白髪の少女。その目に映るのは礼儀主義の男ではなく、あの日立ち尽くしていた鬼の少女だった。

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