第二章11 『静かな夜に荒れる朝』
レクトの返答を待たずに入室する二人。レクトが声に気付き顔をこちらへ向けた時にはもう扉を閉め、入室完了状態だった。
レクトの部屋は造りは客人用の部屋と変わりはしないが、置物などの装飾品があまりないので、質素に感じる。客人を想定していないのか椅子は一人分しかない。
仕方ないのでユーキはアルマを連れ、所有者の許可無くベッドに腰を下ろす。
「レクト、試合の結果はどうなったー」
「ユーキは団長より強いことが証明されたよ」
「勝ったのかよ! あれだけ嫌そうにしてて」
ユーキは後ろに手を付いてくつろぎ、天井に向かって言う。レクトは何も言ってこないので、くつろぐことに対して何も思ってないらしい。
レクトは脱力した様子で前に倒れる体を肘で支えていた。そのままの形で結果報告。結果的にユーキは騎士団より強いこととなった。
「じゃあ、俺は騎士団の誰よりも強いってことだよな?」
「俺が本気出したと思うか? 俺の実力はあの程度じゃない」
ユーキの言葉に否定を示すレクト。それが言い訳なのか事実なのか、後にそれが分かる時が来る。
「ただの言い訳だろ。なあ、団長さんと戦う前、何であんなに絶叫してたんだ? 戦う前は自信ありそうだったのに」
模擬戦前、レクトはダンテより強いかもしれないと言っていた。そのようなことを言ったレクトがユーキに怒りの叫びを向けた理由が分からなかった。
「団長と戦うと単純な剣術勝負になるから、疲れるんだよ。それにさ、本気出しにくいんだよ」
「団長に勝ったら気まずくなっちゃう的な?」
レクトとダンテの関係は会社で言うと部下と上司だ。部下が実力で上司を上回ってしまうと何かと思うところがあるのだろう。
ユーキの問いかけに手で一を表わすレクト。
「それもあるがもう一つ。ちょっとした昔話として聞いてくれ。俺、小さい頃に親亡くしててな。そこを隣に住んでる団長が引き取ってくれて、騎士団に入ることを勧めてくれたんだよ。それから姫様の計らいもあって城に住んでる。こんな感じで世話になってるからさ。恩人に対して本気出すの気が引けるだろ?」
ドラマなどでよくある話。だが、これは事実であり、当事者からすれば実体験。
相当感謝していることがレクトの話し方から伝わる。アルマにもそれが伝わったのか暇からの手遊びが止まる。
「口で話すのと実際手を出すのは違うってことか。まあ、分かるけどな」
小さな息を漏らして言うユーキ。場の空気が自然と暗くなるのを感じる。
レクトは自分が原因だと思い、明るめに口を開く。
「でもそのおかげで今の俺がある。両親が亡くなったのも、もう気にしてない。そこのお嬢さんより幼い時だったからな」
その声に未練は感じられなかった。
ユーキの身にこのような設定めいた不幸が振りかざされた場合を考えても立ち直れる気はしない。また、そんな事を考えたくもない。
「そうか。……ん? 俺も状況だけなら似てるか。血縁一切いないんだし」
この世界に来て一週間。遅すぎるが、改めて自分の状況を理解したユーキ。
「お兄さん! こっち向いて!」
突然、レクトの下辺りで発せられた声。その主はいつの間にか移動していたアルマだった。
また例の儀式。だが、今回は感じ方が違った。挨拶と言うより少女の慰めのように感じた。
「レクト、従ってやれ。アルマなりの優しさだろ」
「優しいな。アルマちゃんは」
アルマは満面の笑みで返す。それを見ただけでも相当癒されるだろう眩しい笑顔を。
レクトとアルマの視線が交わる。アルマはレクトの瞳一点を見つめる。レクトは少し気恥しい様子だった。
「はい! もういいよ!」
「ありがとう。アルマちゃん」
アルマの笑みに礼を言うレクト。時間は長いようで短かかった。
アルマはその後、ベッドの方に戻り、ゴロゴロしていた。度々、ユーキに当たるが謝ることは無いアルマ。だが、それを怒る程、ユーキの器は狭くない。
「リネアとの付き合いってどれくらいなんだ? 幼馴染なんだろ?」
人並みの器を持つユーキは話のネタになればとレクトに問いかける。
レクトは考える間もなく答える。
「初めて会った日は覚えてないよ。というか赤ん坊の時なんて覚えてるはずがない。隣だったから家族ぐるみの付き合いだったんだよ」
レクトの答えを聞いて、最初は頷くユーキだったが、少し前の会話を思い出し、頷く首が止まる。
「隣ってダンテの逆の方だよな。それならリネアの家に引き取ってもらえば良かったじゃねえか」
真顔で言うユーキ。それを受けて笑ってしまうレクト。ユーキは意味が分からず、頭上にはてなを浮かべる。
「確かにそうだな! でもな、ユーキ。それは不可能なんだよ。団長とリネアは同じ家に住んでるからな」
「もしかして、ダンテの家族とリネアの家族がルームシェアしてたのか?」
「それが何かは理解できないけども、リネアと団長が親子なのを理解したくないのは理解できた」
少し考えれば前の段階で気付けていたが、あの二人が血縁関係にあるのを理解したくなかったユーキは無意識的にその答えから目を逸らしていた。
ダンテの顔が悪いという訳ではないが、子供がリネアになるとは想像しづらい。九割九分、母似だろう。
「嘘…だろ……あの二人が血縁関係者だったなんて。この世には不思議なことがあるな。俺には信じられない」
都市伝説のようなノリで言うユーキ。座った状態で肩の力が抜けるのを表現する。
レクトと回っているアルマはそれを見て笑みが零れる。
「勝敗やらなんやら知れたから帰るわ。また明日」
「本当にそれだけだったんだな。まあ、いいや。じゃあ」
「バイバーイ!」
話が一段落ついたので、部屋を出るユーキとアルマ。アルマの振りにレクトは小さく返す。
そのまま自身の記憶で部屋まで戻るユーキ。少しメモを使ったのはここだけの話。
「シルヴァ、起きてるかー」
アルマをシルヴァに返す為、扉をノックする。室内から応答する声と同時に扉が開く。
「おかえりなさい、ユーキ、アルマちゃん。レクトさんどうだったの?」
「ただいま、シルヴァ。疲れたけど勝ったってさ。ほい、アルマ返しにきたぞ」
「ただいま! お姉ちゃん!」
シルヴァの声に普通の反応を示すユーキとアルマ。
「ユーキ! アルマちゃんを物みたいな言い方しないの」
「他に言い方思い浮かばなかったんだから仕方ないだろ。じゃっ、後はよろしく」
ユーキの物言いにため息をつくシルヴァ。そんなシルヴァに言葉を残し、部屋に戻るユーキ。
部屋に戻ってもすることがないので、ユーキはベッドで仰向けになり、浅い睡眠に入る。
扉をノックする音で目が覚める。窓から差す光からオッセルからの夕飯のお呼びと思われる。
ユーキは体を起こし、扉を開く。そこには予想通りオッセルが立っていた。
「夕飯ですか?」
ユーキの問いかけに頷くオッセル。オッセルは体の向きを変え、足を進める。ユーキもそれの後に続く。
「さっきはありがとうございます。おかげで迷わずに行けました。あの早さでの仕事ってどうやってるんですか?」
無言で歩くのに一抹の気まずさを抱き、先程の感謝を述べるユーキ。自分が敬語で話していることに少し違和感を覚える。
「側近ですから」
「即答ですね!?」
オッセルの答えになっていない答えに間髪入れずにツッコミのようなものを入れるユーキ。敬語になっていても本能には逆らえなかったユーキ。
オッセルは後ろから見た感じ笑みの一つも零れていない。側近として笑わないのは分かっているが、それに少しショックを受けるユーキ。
「確かユーキ様も使用人でしたよね。今度機会があればお教えしましょう。側近としての在り方、その業を」
「付いていける気がしないんですけど……。でも、機会があればお願いします。ただその時はあの二人も一緒にお願いします」
オッセルからの思いがけない提案に戸惑いを見せるユーキだったが最終的には受け入れる。だが、ただでは行かず先輩方を道連れにしようとするユーキ。
「二人というのはシロ様とシオン様でしょうか? あの方たちはメイドとしての技量は十分です。私の教えられることは微々たるものです」
オッセルの問いにユーキが答える。返答を受けたオッセルは先輩方には教えれるものはないと言う。
このオッセルにそこまで言わせる存在がすぐ側にいたことに驚くユーキ。
「ユーキ様、付きましたよ。皆様先に座っております」
オッセルが到着を告げる。ユーキも何となくだが道を覚えていたので、着いたことには気付いていた。
オッセルが扉を開く。そこにはラック以外の来客者とセルピアが座っている。ラックがいないのは気まぐれだろうと推測するユーキ。後はユーキが座ればコンプリートという状況。
ユーキは待たせていると思い、急いで座る。ユーキが座ったことで食事が始まる。
顔を会わせていない時間は短かったが、シロと会うのは久しぶりと感じるユーキ。夕食は見た目、味などとても良く、この時間を楽しく過ごした。
夕食後はオッセル案内の元、大浴場まで行き、入浴するユーキ。大浴場も屋敷と肩を並べるレベル。
入浴後は自身の記憶で部屋に戻れるとユーキはオッセルの案内を断る。迷うことなく部屋に着き、習慣化された体力作りなどを終わらせ、ベッドで横になる。ふと、ある疑問が湧き出る。
(シロは手伝いしてたとして、シルヴァとアルマが席に着いていたのに何で俺は二人に呼ばれてなかったんだ? オッセルさんに呼ばれたんだ?)
冷静に考えてみると、シルヴァたちに置いて行かれた事実が明確になった。だが、この疑問は意識と共に深い眠りの中に沈んでいった。
✤ ✤ ✤
ここはシルヴァの部屋。シルヴァとアルマが寝る準備を始めている。ラックは机の上に座っている。
「アルマちゃん、もう寝よっか。明かり消して眠れる?」
「あたし、真っ暗でも怖くないよ!」
アルマが安定の笑みで答える。ラックの目には仲の良い姉妹のように見える。
「じゃあ、おやすみ、ラック、アルマちゃん」
「お姉ちゃん、猫ちゃん、おやすみ!」
「ルア、お嬢ちゃん、おやすみ」
同じベッドに横になる二人に優しい眼差しを向けるラック。その精霊の言葉を最後に明かりが消える。明かりが消えた部屋の中で視界の支えとなるのは微かな月明かりのみ。
少女たちが寝静まった頃、その闇の中を精霊が浮き上がり、窓に近づく。
「今日は眠れないな」
空に浮かぶ月を眺めて、浮かぶ精霊はポツリと呟く。窓付近に浮く精霊は次に娘の元に近付き、そっと触れる。その瞬間、ある違和感に触れる手を遠ざける。
(なんだ、この呪いとは似て非なるもの。触れているだけで気分が害される。まだそこまで複雑じゃないにしろこれ以上だと僕の手に負えたかどうか……)
精霊はもう一度、娘に触れる。そして、娘にかけられた呪いでも魔術でもない”何か”を解く作業に入る。
「普段しないことしたからかな? すごい眠いな。だけど、この程度なら僕に取ってはそれぐらいが丁度いいかな」
一人であっても慢心を忘れない。自分が強いことを自覚することで無駄に相手を傷つけない。これは強者故の理念。ストッパーの役割を果たす。
独り言としての傲慢発言。それを聞く者も言葉を返す者もいないと思っての言葉。
だが、この場に於いて、その考えはタブーであり、フラグとなる。そして、立ったフラグは回収されるが世の末。
「流石、元六大精霊様。私程度の力じゃ物足りないかしら」
言葉を返す一つの声。突然現れる気配。突如現れるその姿に流石の慢心を理念とする精霊も焦りを見せる。
「誰だ、お前」
完全に敵意を剥き出しにする精霊。臨戦態勢に入ったからか、それとも焦りからか、言葉遣いが荒くなる。
声の主は女。女はベッドの近くにただ佇むだけ。敵意など一切見せない。感じるのは女の魅了される雰囲気のみ。
「私のことなんて気にすることないわ。あなたはもう直ぐこの舞台から退場するのだから」
全身を覆うほどのフードに身を包み、不敵な笑みを見せる女。シルエットしか見えず、フードの色を判別するには月明かりでは力不足。性別の判別も声が判断材料。
「どういうこと――うっ!」
言葉が物理的に止められる。口が塞がれた訳ではなく、マナ切れによる強制退場。いつかのユーキが比喩した永眠を予想してしまう。
消えかける体。現状に理解が追いつかない。女の魅力に引き込まれたのか、それとも、
「まさ…か……僕…に何か……した…か」
「あなた、そこの子守る為に長い時間実体を出してたでしょ? その時点でマナ消費がどんどん早くなっていた。そこに私が少し後押ししちゃえば姿を保つのは直ぐに不可能になってしまう。ってもう消えちゃったか」
精霊の姿はもうそこには無かった。だが、魔石の中でちゃんと聞いていた。
長い間マナを消費し続けると消費速度が上がることは魔法に精通する者なら誰でも知っている常識だ。
なので、今回ラックは昼食後、姿を現さず、マナをストックしていた。だが、想定外の外的要因により、ストックが尽きるのが早くなってしまった。
(これは相当やばい。だけど、僕はマナを使い過ぎたせいか当分実体は現せそうにないな。僕に魔関連で対抗できる者、一人しか思い浮かばない……。あれ? そういえば……やっぱり精霊の勘は良く当たる)
魔石の中で危機感を覚え、何かに気付くラック。その耳に扉を開く音が入る。女は用事を終えたのかシルヴァの部屋から出ていった。
真夜中の城内。通路に足音が響く。部屋から出てきた女は特に向かう場所もなく、ただ足を進める。
「大精霊はこれで退場。不安は他にもあるけど……一番はあの子がどこまで魅せるか、かな。さて、もうひと仕事」
心配するような声色ではなく、不安を抱く様子もない女。女は最後にため息をつく。
次の瞬間、なんの予備動作もなく女の姿が消える。
女が姿を消したことで当事者以外誰も知らない夜の物語が幕を閉じた。
✤ ✤ ✤
部屋に差す陽が朝が来たことを告げる。ユーキの胸は書庫での会話により高鳴っていた。それとは逆に外の様子は静か……ではなかった。
外はユーキの内より荒れていた。荒れる城内に意識は直ぐに浅瀬へ引かれる。そこにトドメの一撃。
「ユーキ! 起きて!」
扉が開く音と共にシルヴァの声が聞こえる。意識は浅いので、完全に聞き取れる。
「もう起きてる! それよりなんだこの騒ぎ!?」
シルヴァの慌てようと外の騒ぎに急いで体を起こし、問いかけるユーキ。シルヴァはそのままの勢いで言う。
「ファントに大罪衆が来たの! それに私が起きたらアルマちゃんがいなくて――」
「はっ!? ……取り敢えず急ごう! 話は走りながらだ!」
ユーキの反応がシルヴァの声を遮る。少し考え、戦線へ出ることを決意するユーキ。机の上に置いたナイフと木剣を腰に差し、部屋を出る。その決意からの動作が速すぎて、シルヴァは動くのが少し遅れる。
「街にはもう騎士団が行ってるんだよな? だったら俺はその助けに向かう」
城の外へ出る為走っている二人。シルヴァは頷いて答える。
レクトの言葉が本当だとしても、一応ユーキは勝ったのだ。戦力にはなれると考え、先程の決意を宣言する。
「さっき言いそびれたけど、ラックが起きないの。話しかけても出てこないし」
「こんな非常時に応答拒否かよ。大精霊様も困りもんだな。でも、あいつなら大丈夫だ」
ラックが出られない程の”何か”があるのは分かっていたが、ユーキは笑って流す。優先的に街を重要視したからだ。
シルヴァは冗談抜きで心配しているようだったが、ユーキの言葉で少し安堵したようだった。
「ところでシロは?」
「それも言おうと思ってたの。ここのメイドさんに聞いたんだけど、大罪衆の襲撃って聞いた途端目の色変えて走っていったって」
「何でそんな……」
いつも真剣さが見えないシロがシオン関係以外で取り乱す姿を想像できないユーキ。
まさかこの街にシオンが! などの冗談を考えられる程ユーキに余裕はない。
城外へ出る扉が見える。ユーキは走る勢いをそのままに扉を開け、シルヴァがそれに続く。
「お主ら、やっと来たか」
城外に出るとセルピアが立っていた。恐らく来ることは異能により分かっていたのだろう。
「セルピア、何でこんな所で突っ立ってんだ? お前の街の危機だぞ!」
「そんな事分かっている。だが、私の力は街には及ばない。そもそも、街に出てしまった時点で私は常人と同程度の戦力となる。ならば、城の前で立っとる方が良いだろう?」
「城主が戦場に出るとはこれいかに」
セルピアの言い分も納得できたが、それなら司令塔として最上階にいればいいのにと思うユーキ。
「セルピアさん、アルマちゃんの居場所分かりますか?」
「アルマ殿か? ……なっ!? 城内にも敷地内にもおらんぞ!?」
セルピアが目を瞑る。そして、次に目を開けた時は驚きの顔をしていた。シルヴァは不安になる。
セルピアの見える範囲にいないということは、つまり戦場にいることを意味しているからだ。
「シルヴァはここに残れ。俺が探してくる」
「何で! 私も一緒に――」
「シルヴァに何かあったら俺がラックに怒られんだよ。そして、あの肉球が飛んでくる。……俺に任せろ」
シルヴァの言葉は微笑むユーキの冗談めいた言葉で遮られる。冗談の最後に猫の手を表現するユーキ。その手を元に戻し、シルヴァを安心させる言葉を言う。
真剣な眼差しで放たれた言葉は先程までとの温度差もあり、更に真剣みを増す。
「……うん、分かった。でも、怪我してきたら私の手が出るわよ」
「その約束はちょっと……」
シルヴァの忠告に目を泳がせるユーキ。シルヴァがその反応を見て、笑い出し、ユーキも笑う。
その光景を傍から見ていたセルピアが冷やかしを入れる。
「見せつけてくれるのー」
「うっせ! じゃあ、気をつけてな、シルヴァ、セルピア」
「それはこっちのセリフ。気をつけてね、ユーキ」
ユーキは頷き、街へ出る為、門へ向けて走り出す。ひとりでに門が開く。セルピアの力だ。ユーキは足を緩めることなく敷地内を出る。
襲撃が朝だったことが不幸中の幸い。ユーキの最悪の予想であった路上に死体が転がりまくる、は回避していた。もし、その予想が当たっていれば、道中吐き気を催し、戦いどころではない。大見得を切ったことになっていた。
だが、まくっていないだけで多少の死体はある。住民のもの、騎士のもの、黒基調のフードに身を包む死体、恐らく大罪教徒のもの。大罪教徒のものは他二つよりも多かった。
それらから目を背け、足を進めると、死体が増え始める。これは戦場の中心地に近いことを意味する。案の定、大罪衆と戦う騎士を見つける。
ユーキは進行方向をそちらに向ける。一瞬、ナイフの柄に手をかけるが人を殺めることに抵抗を感じ、反対側の木剣の柄に手をかける。
(覚悟…か。見た目ヤバくても中身は人なんだよ。そう簡単に殺せる覚悟は決まらないな)
ユーキは木剣を逆手に構え、騎士を相手にする大罪教徒を狙う。ある程度距離が縮まった辺りで跳び、うなじに重い一撃を加える。
騎士と大罪教徒は途中で攻撃に気付くがその時には時すでに遅し。大罪教徒の体勢が崩れ、そこに騎士がトドメを刺す。
それから目を逸らすユーキに騎士は感謝し、その場を後にする。
「うわぁああ!」
騎士が向かった先から叫び声が聞こえる。その次に何かが衝突する重い音が鼓膜を響かせる。
ユーキは音がする方へ向かう。
ユーキの視界に映ったのは壁にもたれ掛かる先程の騎士と見覚えのある後ろ姿。ライトグレーの髪の青年、レクトの後ろ姿だった。




