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新たな世界でニューライフ  作者: 黒夜叉
第二章 亡霊だらけの冥界
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第二章6  『初勤務』

 庭園で少しシルヴァと話した後、シルヴァから体が汚れているとの指摘を受け、風呂に向かう。

 戦闘訓練での汗、庭園で寝転がって付いた土、これらで主に汚れていた。

 風呂へはなんも迷わず行けた。自部屋を介してだが、この道順だけは覚えてきた。

 風呂へ入ると誰もおらず、貸切状態だった。この広さに一人なのはまだ慣れない。慣れるのに時間がかかるだろう。

 風呂から出た後、脱衣場の扉を開けると朝と同じようにシロがいた。二度目だったが、また驚いた。


「なんで、またいるんだよ」


「しーちゃんからご飯が出来たから呼んできてってのとロアノス様から使用人用の部屋に変更だって」


 来客扱いから使用人扱いに変わったので部屋も変わるらしい。

 一度、来客用の部屋に荷物を取りに行き、その足でシロに新しい部屋に案内してもらった。その道中、今日のシオンとの訓練について話した。


「今日のしーちゃんとの訓練は楽しかった?」


「あれを楽しかったって言える程、俺の体力は無いよ。……まあ、嫌って訳じゃないけどな、俺の為だし」


「そっか。でも、そんなんじゃ明日からもっときついよ。これに加えて仕事もあるんだから」


 先輩からの忠告。凄い先輩を前に明日から付いていけるか心配になる後輩。


「しーちゃんに変なことしたら許さないからね!」


「そんな心配か? けど、大丈夫だよ。もし、俺が何かしたところであいつの力には負ける」


 ユーキが一本でも重いと感じた木剣をシオンは軽々と二本持っていた。襲ったところで返り討ちにあうのは目に見えている。

 そんな話をしていると先導するシロの足が止まった。部屋に到着した合図だ。

 どれ程部屋がランクダウンするかと思っていたが、その心配は杞憂だった。


「マジか……これ、部屋移動の意味あったか?」


「この屋敷の来客用の部屋は一応、広めに造られてるんだけど、あんまり違いはないんだよね」


 部屋の中を覗いても違うのは内装などのみ。他の点を見つけるのは高度な間違い探しのように難しい。

 ユーキは部屋に荷物を置き、シロと共に夕食に向かう。

 荷物と言ってもユーキの所持物は鞄だけなので辛くはなかった。だが、部屋が変わったことで道を覚え直す必要があるので、そこはロアノスを恨んだ。


「まあ、さっきはあんな感じで言ったけど、魔法、戦闘、使用人、明日から頑張ってね!」


「お前って俺のこと嫌ってたんじゃ? でも、まあ、よろしく頼むよ、シロ」


 部屋に行く途中の唯一の会話。

 シロがユーキのことを嫌っているのか、応援しているのか、その答えは分からないがこの言葉は素直に嬉しかった。


 部屋に入ると皆、席に着いていた。夕食は昨日と同じぐらいの時間に食卓に並んだ。

 昼食は魔法の件でいい気になれたが、夕食は違った。

 夕食の話題は戦闘訓練から始まった。シオンからの評価はユーキの予想通り、散々だったが、当事者からすれば仕方がなかった。


 夕食後、部屋に頑張って戻りベッドに倒れ込む。


「そう言えば、ラックに魔法教えてもらうのって一回きりだったけ? あの終わり方だと続きそうだったけど……ロアノスなら許してくれるか」


 もし、許してくれなくても押し通すつもりだ。魔法授業の方が楽しいのだから。

 体を伸ばし、睡眠の体勢に入ろうと思うユーキだったが、シオンとシルヴァから言われていたことを思い出した。体力づくり、素振りと字の練習。

 サボろうかとも思ったが、二人が自分のことを思っての課題なので、ため息をつき、それに励んだ。

 自主練終了後、もう一度睡眠体勢に入る。体を動かしたことで、先程より眠気が増していた。目を閉じると直ぐに眠りについた。


 ロアノス邸二日目。昨日の朝と同じように差し込んだ陽によって目が覚めるユーキ。

 今日からの使用人生活に少しため息をつく。自分で望んだことだとしてもため息をつくのは悪くないと思う。

 そんなことを思いながら体を起こす。そこになぜか人が二人。突然のことにユーキは掛け布団を手繰り寄せ、防御体勢。


「なんでいんだよ! いるなら声かけろよ!」


「使用人の朝は早いのです、ユーキくん」

「そうだよ! この時間にはもう準備始めなきゃ!」


「分かった。いる理由は解決した。でもな、それなら起こせよ!」


 朝、起きると目の前に美少女二人。夢見る男子高校生からすれば夢のような出来事だろう。だが、実際それにあってみると分かる。驚きの方が勝ることに。


「早く支度をして下さい! 準備が遅れます!」


「じゃあ、先に行っといてくれよ!」


「それだと場所分からないじゃん! ちゃんと考えて!」


 シロの正論に論破され、急かす二人に流されるまま支度をする。着替えもないので、ほとんどやることもないが。

 朝の準備と言えば朝食だろう。確かにそれが遅れれば普通ならば大失態だろう。だが、ここなら良いのでは? と思うが、ここまで焦る二人を見るとプライドが許さないのだろう。


 厨房につく三人。朝食づくりを始める。

 先輩の指示で包丁を握らされ、キャベツのような物を渡されるユーキ。隣ではシロが別の物を切っていた。


「ユーキ、遅いね」


「仕方ねえだろ! 今日、入ったばっかの新人だよ!?」


 家でも趣味程度に料理をしていたユーキだが、家事のプロであるメイドには及ばない。

 シロは掃除が得意のようだが、そのシロにすら遅いと言われる。得意と言っていないだけで苦手ではないのだろう。


「間に合いましたね」

「間に合ったね」


 シオンとシロの発言から本当に危なかったことが分かる。

 あれから料理はノンストップで続き、途中でユーキは自分で足でまといと感じリタイア。自主的に片付けへと回った。


「そんな危なかったのか…ごめんな。先輩方」


「いえ、大丈夫ですよ、ユーキくん。後半は早くなっていきましたし」


 この言葉は後半、ユーキが参加しなくなり、ペースアップしたことを暗示している。

 人数が減ったことで早くなる。こんな反比例、あってもいい事なのだろうか。

 朝食完成後、三人で配膳した。時間は昨日より遅かったが、シロとシオンに聞くと許容範囲らしい。

 配膳後は席につき、食事を取る。


「ユーキ君の仕事ぶりはどうかな?」


「聞くの早くね!? まだ、朝だぞ?」


「この子たちならそれだけでも十分だろう。で、どうだい?」


「及第点、と言いたいですけど……」


 食事が始まって直ぐ、仕事ぶりの話題に。その早さに驚くユーキ。その評価は昨日の戦闘の評価より低いことは明白だった。

 シオンが先に口を開いたが、最後の間がユーキを責め立てる。

 続いて、シロの評価。


「しーちゃんと同意見だね。酷すぎる」


 シオンが言わなかった部分をキッパリと言う。事実なので何も言えないユーキはただ黙っている。


「ちなみにユーキはどれを作ったの?」


「聞かないでくれ」


 結果的に何も作っていないのでシルヴァの質問にも答えることができず、自身の無力さに苦しめられる。

 ユーキの反応にラックとエアが考察する。そして、同時に気付いたようにハッとする。


「もしかして、最初は少し手伝ったけど、途中で足でまといなことに気付いて――」

「片付けに専念した感じか。それに加えてそっちの方が早かったから余計にダメージ、かな?」


「エスパーかよ!? ……お前ら俺の傷抉って楽しいか? 一緒に虐めて楽しいか?」


 ラックとエアの合わせ技。最高のコンビネーションでユーキに起こった出来事、更には心情まで当て、傷を抉りに抉り出していく。


「ユーキ、なんか…ごめん……」


「シルヴァ、その感じで謝ると逆効果だぞ」


 シルヴァが謝るが、それもこの状況ではユーキに追加ダメージを与える矢にしかならない。


「ユーキ君を雇ったのはもしかしたら失敗だったかな? まあ、今後に期待だね」


「ああ、もう、そこは期待しててくれ。気持ちだけは先輩方追い越すぐらいで頑張るから」


 気持ちに実力が伴うとは言っていない。この言葉を言い換えれば気持ちだけは確かですだ。成長するかはまた別の話。

 ユーキの使用人としての話は終わらせたかったユーキはロアノスへお願いに入る。


「なあ、ロアノス。ラックとの魔法授業、今日からもやっていいか?」


 ラックは最後やる気っぽかったので意見を求めない。この状況でロアノスの許可さえ取れれば実行できる。


「……もとよりそのつもりだったけど、時間は短めだよ。業務があるのだし」


 無駄に駄々をこねる必要はなく、すんなりと許可が取れた。

 許可が取れたので見るからに喜んでいるユーキにロアノスは続けた。


「ただし、今日は今からじゃなく昼から。それが終わったらシオン、頼むよ」


 シオンはロアノスに首から上だけで了解を表した。

 後の諸注意はユーキには関係ない。魔法ができるだけで、その時点で目標は達成しているからだ。

 その後は普通に食事が続いた。最初は落胆していたユーキも昼からが楽しみになり、落胆の色は消え、とても楽しそうだった。


 朝食後、ユーキはシロ、シオンと共に片付けを終わらせる。

 そして、使用人の業務に…と言いたいところだが、場所が分からなければ何も始まらないとなり、シオンの場所案内が始まる。

 ちなみにシロは別で掃除中。

 シオンは一番近い部屋から案内をしていった。


「まずは食堂です」「さっきまでいたからな」


「次はこの二部屋、シオンと姉様の部屋です」「一部屋開けて隣じゃん!? この一部屋が気になるけど」


「こちらが御手洗です」「態々、言う必要は……」


「こちらが開けてはいけない部屋です」「えっ!? ちょっ――」


「こちらがロアノス様の部屋です」「いや、それよりさっきの――」


「こちらがシルヴァ様の部屋、あちらがエア様の部屋です」「だから…それは気になってたわ」


「最後に大浴場です」「ここも言う必要あるか?」


「今すぐに教える物はこれぐらいですかね。ちなみに御手洗は他にもありますよ」


 次々と部屋を紹介していったシオン。ユーキもギリギリ付いていけた程だ。


「ほとんど住人の部屋だったけど……真ん中ぐらいの部屋の詳細頼む」


 早送りのように紹介していったので、ユーキに質問の間を与えなかった。

 その紹介の中で明らかに気になるものがあった。百人に聞いて百人が気になるだろう。その部屋とは


「ロアノス様の部屋ですか? 名前の通りですよ。もしかして、中も見たいんですか? では、許可を――」


「違ぇよ! その前だよ! 分かるだろ?」


「えっ…御手洗、ですか? あっ、もしかして行きたかったのですか? それなら、どうぞ」


 シオンの気遣いの目が心に刺さるが、その心遣いは今のユーキには意味がない。

 もう態と外しているようにしか思えない程逸らしていくシオン。その話題には触れてほしくないかのように。

 ユーキは呆れたようにため息をつき、その名を口にする。


「開けてはいけない部屋、あっただろ? ここに来て、天然キャラか? 違うだろ!」


 元からシオンには天然キャラの節があったので、この言葉はおかしいか? とも思ったが、シオン自身に天然の自覚はないのでそれでいいかと結論づける。

 ユーキの問いかけにあからさまに嫌な顔をするシオン。俯き、ため息をついてから例の部屋の前へ移動する。その途中、シオンが説明する。


「あの部屋は開けてはいけないんです。シオンや姉様でも入れません。入っていいのは、ロアノス様、ただ一人です。それに――」


「開けるなって言われて開けないやつがいるか? いや、いない。いるかもしれないけど、俺は開ける!」


 実際、日本にはユーキと同じ考え方が多いはずだ。開けるなと言われてもフリだとかなんとか言い、実行するはずだ、多分。まあ、少数派でもやるのだが。

 開けるな、と言ってもユーキが開けるのを分かっていたから嫌々、説明したのだろう。そこで説明してくれるのがシオンの優しさなのだが。

 部屋の前に二人は到着。ユーキは早速、扉のドアノブに手をかける。

 だが、触れたと同時に抵抗を受ける。そして、手には痛みが走る。


「痛っ!」


「だから、言ったじゃないですか。握ることすらできないって……いや、言ってませんでしたね。ユーキくんが急ぐから」


「ああ、そんな事言ってなかったよ! そして、重要なことなら無理にでも止めて言ってくれよ!」


 自分がシオンの忠告を受けずに実行したのにそこに非がないかのように言うユーキ。

 別にユーキも馬鹿ではないので、自分が悪いことは百も承知だが、多少なりともシオンにも非があると思い…いや、思いたいので責める。


「いえ、シオンは最初から止めましたよ」


「ああ、そうだな。俺が全面的に悪かった。で、この原因はあれか? 結界とかそんな感じのか?」


 目的は失敗したので両手を上げ謝り、話を普通路線に戻す。

 ドアノブを握る時に痛みが走った。字面だけ見ると冬によくある静電気だが、時期で考えるとそれはありえない。なら、結界系な何かだろう。

 余談だが、ユーキは静電気が溜まりやすい体質らしく、十分間隔程で起こってたぐらいで金属製の物に触れるのが、一時期恐怖だった。


「ええ、そうです。ロアノス様以外を寄せつけない結界です。ユーキくんのような人が興味本位で立ち入らないようにする結界です」


「ああ、俺みたいな好奇心旺盛なやつは入るだろうな。そんな好奇心旺盛な俺の話は置いといて、そんな大層なもん使うって、この奥、何がいんの?」


 自分を美化した言葉でまとめたユーキ。そんな自分を置いておき、話を部屋に戻す。

 結界と言えばユーキの中では何かを封じ込めたり、何かが侵入してこないようにする為のもの。つまり、この結界もそれに当てはまるはずだ。


「いえ、何もいません。…と、言っても、ユーキくんは結界の意味は分かっているようなので言います。いますよ。何かは言いませんが」


「いや、そこまで教え――」


 ユーキの予想は当たっていた。だが、何かまでの詳細は話してくれなかった。教えて更に、ユーキの興味が増したら駄目だと考えたからだろう。

 ユーキが更なる情報を求めようとする声をシオンが遮った。


「もう、行きますよ! 部屋案内だけで今日の仕事、終わらせたくないですし」


 なら、最初からそんな興味を惹きまくるような部屋、案内するなよ。と思ったが、もし、それをユーキが知らず、この部屋の扉を開こうとしたら、無駄に痛みを負うはめになる。

 それを防ぐ為に案内したのだろう。シオンの気遣い虚しく、その無駄な痛みを先程負ってしまったのだが。

 シオンの少し心配混じる言葉にユーキは「はーい」と返事し、先行くシオンの後に続く。

 その後は、シロと合流し、昼まで屋敷の仕事に没頭した。


 昼食後、待ちに待ったあの時間がやってきた。

 ユーキは先生方が授業入りする前に庭園待機。ここからどれ程待ち遠しかったかが分かる。

 待ってから数十分、シルヴァとラックの姿が見えた。

 シルヴァがユーキの元に来て最初に謝罪。


「ごめん、ユーキ、待った? 別に忘れてたって訳じゃないんだけど……その…ね?」


「ね? じゃねえよ! なんでこんなに…忘れてたのか。俺はこんなにも楽しみにしてるというのに……」


「君が楽しみにしてるとか、僕には関係ないよ。僕は教えてほしいって言われたから教えてるだけ。それで魔装からだっけ?」


 少し言い方が酷いと感じたが、ラックにとってユーキとは会って二日程のよそ者だ。シルヴァが教えてと言えば乗り気になるだろうがユーキだとその程度だろう。

 まあ、仲が悪いと言う訳でもなく、信頼はされていると思うが……。


「ああ、そうだったよ。確か魔法を操って纏わせるんだっけ?」


「そうだよー。魔装は手から纏わせていくのがやりやすいね。手にはルートの出口が多いから。まずは魔法を勢い良く放つんじゃなくて自分に纏わせよう。」


 まずはの時点で魔装完成しているような気がしたが、ラックの言う通り右手を前に出す。

 そして、昨日のように火の魔法を放つが今回は絞り出すイメージでやってみる。その魔法を右手に纏わせる。


「……こんな感じか? 案外、イメージ通りいくもんだな」


「おお、ユーキ、凄い! って、私、昨日からずっと褒めてる気がする」


 確かに昨日からシルヴァには褒められっぱなしだ。ユーキもそれに昨日から気を良くしているから分かる。

 結果はシルヴァの反応から見ての通り一発成功。

 ユーキの成功を見て、ラックが少し不格好な右手を上げて言う。


「第一段階は突破だね。次は第二段階、そのまま動かしてみよう!」


 途中でラックの手の不格好さが上がる。


「ラック、もしかしてそれ、第二段階の二か? だとしたら、全く出来てないぞ。考えてやっと気付くレベル」


 手が不格好だったのはできもしない形を手で表そうとしたからだった。

 シルヴァとユーキは笑い、ラックは「もう!」と言いた気に恥じらいを見せ、さっきまで不格好だった手をユーキに向けて広げる。

 これはなんの形かなど考える必要もなかった。ユーキ自身もこの形を数回やったことがあるからだ。

 ユーキに向かって、ラックの掌から風が吹き荒れる。威力はまあまあ、ユーキの体なら当たれば吹き飛ぶだろう。

 それが目に見えていたが、反射的に右手で防ごうと風に向ける。魔装された右手を。


「うわぁああー……あ、あれ? 飛んでない? なんでだ?」


 反射的に右手を上げたので、魔装されていたのは考えていなかった。

 だが、自分の右手を確認し気付く。


(俺の魔装が消えてる。集中を切らしたからって考えれるけど……この場合違うな)


「俺の魔装とラックの魔法が相殺した、って感じか」


「そういうことー。それを分からせるにはこれが一番でしょ?」


 絶対に違う。そんな事を考えてやってる訳が無い。もし、考えていたとしても魔装が消えていたらどうなっていたか……。考えるだけでも恐ろしい。


「でも、咄嗟に動かしたとしても魔装は消えなかった。――これがどういう事か分かる? 君は魔装を使いこなせてる。魔創は同じ感じだから、自分でやってもらうとして、僕から教えることはもう無いよ」


「えっ、今の卒業試験だったのか!? 早くない? 俺、まだ教えてほしいこといっぱいあるんだよ!」


 教えることはもう教えたと学園系のラストシーンのようなセリフを吐くラック。それに答えるようにユーキも同じように答える。


「あの……二人とも? なんか熱くなってる時に悪いけど、シオン来たわよ」


 屋敷の扉の方を指し、少し空気を読み、申し訳なさ気に言うシルヴァ。

 それに反応し、ユーキとラックはシルヴァが指す方を見る。そこにはシオンの姿があった。


「シルヴァ様、大精霊様、交代です。今からはシオンがお相手します」


 シオンの登場。これはあの時間を意味する。これ程に礼儀正しいシオンからは想像できないあのきつい時間の始まり。

 シオンが来たので、シルヴァたちは屋敷に戻る。

 シルヴァが早く始めれるようにと、優しさで早足気味で戻るが、ユーキにその意図は届かない。

 そんな早く帰らなくても、と思うユーキに関係なくシオンが始める。


「始めますよ、ユーキくん。昨日よりどれ程良くなったか楽しみにしていますね」


「シオン、こういうのはそんな短時間では良くならねえよ」


 一日で成長が見られるはずがない。

 そのユーキの考えの通り、結果は昨日と同じ、いや、昨日より酷かった。


「ユーキくん、動きが昨日より酷いです。どうしたんですか?」


「筋肉痛だよ! 朝は酷くなかったから気付かなかったけどな」


 動いたことで眠っていた痛みの目が覚める。

 それを知ってもなお、シオンの訓練のきつさが変わらない。

 ユーキは痛みを耐え、それに付いていくが元から酷かった動きが更に悪くなっていく。


「ユーキくん、今日はやめましょう。その痛みが更に酷くなると仕事にも支障がでます。なので、今日は休んで下さい」


「ごめんな、せっかく時間割いてもらってんのに……こっちの都合で終わらせちまって」


 またもシオンの優しさで訓練終了。

 それを情けなく思うユーキだが、シオンはそれを慰めるかのように言う。


「大丈夫ですよ。ユーキくんの本業は使用人です。それができなければ、元も子もありません。だから、良いんです」


 この体だとここでやめても仕事に集中できる気がしないと思った。

 だが、それをここで言ってしまうと、どうせできないなら、と訓練続行になるかもと思ったので言わなかった。

 シオンが屋敷に戻るのに続いてユーキも戻る。

 この日からの六日間、ユーキは使用人の業務にシオンとの戦闘訓練、魔法の自主トレに精を尽くした。

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