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序章

http://www.minna-no.jp/で投稿した作品の転載です。


2020年ごろの日本、

日本は新エネルギーである高子力エネルギーにより経済発展を遂げる。

対テロ特殊課のカザマは旧友のセンドウと再会する。

テロリストとなったセンドウがカザマに立ちはだかる。

センドウの目的は?

果たして二人の決着は?


キャラクター紹介

カザマ・・・・元塹壕部隊隊員。1985年生まれ。男。

センドウ・・・元塹壕部隊でのカザマの戦友。1983年生まれ。男。

原尻・・・・・対テロ特殊課のカザマの同僚。



2020年、冬、東京湾

東京湾にそそり立つ鉄骨の大きな塔が見えてきた。まるで天まで届くようにそびえる塔が、バベルの塔と呼ばれる発電所である。発電所からヘリに向けてミサイルが発射された。カザマはヘリから飛び降り、カザマの頭上でヘリが爆音をあげて吹き飛んだ。炎上したヘリが発電所内に墜落し、煙が丁度いい隠れ蓑になった。姿勢を低くして、敵の気配をうかがう。どうやら、生き残りはカザマだけだった。

不意にカザマは後ろに気配を感じた。素早く銃を向けようとしたカザマの銃を、一瞬早く弾丸が撃ち落とした。もう一丁の銃を抜こうとしたカザマの肩と膝をテロリストは素早く打ち抜いた。気が付いたらカザマは膝をついていた。銃口はカザマの眉間を捉えていた。テロリストは落ち着いた声で、話し始めた。

「こういう事を誰かがやらないと、何も変わらない。でも、もしかしたら、何も変わらないかもしれない。俺はこんな茶番をすることしか思いつかなかったが、後悔は無いよ。」

テロリストはカザマの目を見つめていた。

「後は頼んだよ」

テロリストは自分の頭を撃ち抜いた。銃声と共にテロリストは糸の切れた操り人形のように倒れた。赤い血が流れ出て、広がっていく。テロリストは死んでしまった。カザマはあっけにとられて、しばらく痛みを忘れていた。カザマの応援に駆け付けたヘリコプターが、騒々しい音とともに向かってきていた。

カザマはひざまずいて、もうすでに息のないテロリストをそっと抱きかかえた。カザマの目から大粒の涙があふれた。カザマは声にならないような声で目を真っ赤にしながら叫んだ。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・。」

死んだテロリストの前で跪いて廃人のようにうなだれるカザマを見て、応援に駆け付けたヘリの隊員はその光景にあっけにとられていた。



事の起こりは、2015年までさかのぼる。

 








 私が神に対して持っているイメージは、神自身ではなく、神に対するイメージでしかない。私が持っている自由、幸せ、愛のイメージも、私の持っているイメージに過ぎないのだとしたら、それらを求めている私はなんと滑稽なのでしょう。(作者)


2015年、塹壕事件という、自衛隊の内乱騒動があった。

慢性的な人材不足に嘆いていた国連軍は多国籍の外国人部隊を組織した。”新しい軍隊”と呼ばれたこの部隊には、ヨーロッパ、アジア、アメリカ、全世界から入隊するものがいた。人種、国籍という区別はこの”新しい軍隊”には存在しなかった。

 人手不足に嘆いていたのは、日本の自衛隊も同じであった。少子化と高齢化による人手不足と隊員の高齢化は軍隊といえども避けられないことであった。士官学校時代に米国、欧州に留学経験のあった浅田一成少将は、いち早くこの”新しい軍隊”を取り入れた。

 自衛隊内部には、武士道や大和魂を理解しない外国人は自衛隊を分裂させると主張し快く思わない者達もいた。浅田少将はこの”新しい軍隊”のために士官学校を設立した。


 この士官学校の入り口の鉄の扉の梁には白い石版があり、それには金色で

『体を殺したしても、その後何もできない者共を恐れてはならない』と彫られていた。


 この士官学校は、山を切り崩した塹壕に作られたため、”新しい軍隊”は別名を塹壕部隊と呼ばれることとなった。この士官学校の教育方針は人海戦術を避け、少数精鋭で常に最前線で戦う、ということをモットーとしていた。新しい軍隊は、その殆どが外国人であったが、数名の日本人もいた。非公式ではあるものの、イラク、アフガニスタン、サラエボなど各地に派遣され、戦果を上げていた。このことは、金は出すが人は出さない、という同盟国からの日本への批判を回避するのに役立った。また、自衛隊内部でも実弾による実戦経験を積んでいる部隊として、注目されつつあった。同時に外国人部隊が自衛隊内部で勢力を拡大していると批判もあった。

 浅田少将の死後、反対派の圧力により士官学校は没収、部隊は解体されることとなった。しかし、今後の不満因子を残さないために、何より自分達の手を汚さずに塹壕部隊を消すために、激戦区のアフガニスタンに留まらせた。

 意図的に塹壕部隊をタリバンの支配地区内の山岳地帯で孤立させた。数日に及ぶ攻防により二百名いた塹壕部隊は半数になり最後には三十名ほどが生き残った。ちょうどそのころ、アメリカがアフガニスタンからの全軍の引き上げを決定し、前線部隊であった塹壕部隊にも引き上げ命令が下った。一個小隊の人数にまで減少した部隊はその隊員の殆どが、外国人だったということもあり、解散させられることとなった。

 前線に部隊を留まらせ、多大な損害を被ったとして当時の自衛隊のアフガン駐留司令官が査問された以外は、反対派に何のお咎めも無かった。これが後に言う塹壕事件である。

 アフガンの首都カブールの中心街から、アメリカ軍がいなくなった後、コカ・コーラとマクドナルドやケンタッキー・フライドチキンの看板が街にあふれるのに時間はかからなかった。緑色の軍服を着たアフガン人が、ロシア製のマシンガンを背負って、コカ・コーラを飲んでいる。兵士が飲み終えたガラスのボトルを投げ捨てると裸足の子供達がそれに群がる。ケンタッキー・フライドチキンのカーネルおじさんのマネキンが笑っていた。


 塹壕部隊の解散で職を失った二人の日本人の若者がカブールの自衛隊基地の自室で荷物の整理をしている。カザマとセンドウである。二人共、訓練の成果とアフガンの日差しで体格がしっかりして健康的に日焼けをしている。カザマは黒髪の角刈り頭でスポーツマンを絵に描いた様な若者だった。一方のセンドウは短めの茶髪ではあるが、どこか育ちの良い気品が感じ取れた。

カザマは大きめのカバンに荷物を投げ込みながら、センドウと自分達の身の振り方については話し合った。

「俺はとりあえず日本に戻る。せっかくクビになったから、しばらくはのんびりするさ。センドウ、お前はこれからどうする?」

「俺はしばらく旅に出て世界を見て回るよ。ここはヨーロッパから近いし、日本に真っ直ぐに帰るなんてもったいないよ。身の振り方についてはその後に考えても遅く無いからね。」

カザマは、「何をするかなんて、そんなのお前の自由だろ。好きにしたらいいんだ。」と答えた。彼にとって友人にそのようにアドバイスをすることは、正しいことのように思えた。

だがセンドウはカザマのアドバイスを聞くと、少し悲しい顔をして笑った。

「自由にしろと言うのは、正しいよ。でも自由を自分のやりたいようにやると解釈するのは少し乱暴じゃないか。例えば、二人の男女がいて自由に恋をして、自由に結婚して、子供を授かって、二人がもう愛し合わなくなって自由の内に離婚する。よく聞く話だよな。自由は自分勝手という意味じゃないさ。僕は旅をしながらそういうことを考えたいのさ。」

 カザマとセンドウはその晩遅くまで話した後、明け方基地を後にした。カザマはセンドウと別れた後、手を振ってにこやかに歩いて行くセンドウの後ろ姿を羨ましく見つめていた。



 日本に戻ったカザマは、塹壕部隊のときの給料を受け取った。25歳のカザマにとって大金だった。誰もいない部屋の中で、時計の針の音だけが聞こえている。彼は部屋にひとつしかないテーブルに札束をピラミッドのように積み上げて、それを眺めている。今はもう存在しない塹壕部隊での年月を数えてみた。片手では足りないが、両手では余るぐらいの年数だった。

 彼の目の前には、新車のフェラーリが買えるほどの札束があった。彼はその一枚を手に取り、ライターで火をつけた。何ともいえないおかしさが、こみ上げてきた。火と煙を眺めて、その中で燃える福沢諭吉を眺めた瞬間、頭の中に死んだ戦友の顔が浮かんできた。

 すぐに彼は、抱えきれないほどの数のワインを買って飲んで、飲んで飲みまくった。飲んでは吐いて、吐いては飲んでの繰り返しだった。しかし、ふとした瞬間に倒れている空になったビンを見ると、倒れて動かなくなった友人達の姿にかぶって見えた。赤いワインを口に入れたとたん、口の中に血のにおいのような、鉄の味がした。彼は、口の中にワインを含んだまま、洗面所に行き吐き出して何度も口をゆすいだ。洗面所にある鏡に自分の姿が映っている。部屋に戻ると、ベットの白いシーツに赤いワインがこぼれていて、野戦病院の血まみれのベットのように見えた。カザマは浴びるように酒を飲んだ。

 彼は麻薬に手を出そうと思った。しかし、注射針を見たとたんに、片足を失ってもがき苦しむ友人の顔がフラッシュバックのように出てきた。彼の最後の苦しみを和らげる為に打ったモルヒネのことが頭に浮かんできた。彼は川に注射器を投げ込んだ。

 カザマは気晴らしを求めて、街を彷徨った。「お兄さん、楽しいことあるよぉ。」彼は若い女性の声に引かれた。風俗店の看板には”イットコハム太郎”という人を小ばかにしたような名前が書いてあった。彼は一時の気晴らしになるかと思って風俗店に入った。しかし、ベッドに腰をかけ、少女が入ってくると、彼女の瞳の中に、アフガンで見た少女と同じ悲しみを見て興が冷めてしまった。カザマは料金だけを払って何もせずに、出て行った。

 カザマは赤ちょうちんが並んでいる飲み屋街を通り過ぎていく。店の看板がある通りから、駐車場の通りに入った。曲がり角で何かが足にかかり、カザマよろめいた。どこかの工事現場の鉄パイプでもおいてあるのかと思ったが、暗闇で目を凝らして見えたのは人の足だった。カプセルの詰まったビンを片手に、ぐったりと横たわっている人がいた。その周りには、同じように数人の人たちが、横たわっていた。はとのうめき声のような声で何かをつぶやいている。ぼろぼろの服の人もいたが、背広もいた。横たわっている男の一人が急に笑い出した。空笑いが、ケラケラと暗闇に吸い込まれていく。

「お母さん、僕一番になったんだよ。」

「いえいえ、それほどでもないです。今度の仕事は、皆の助けで出来たんです。」

「まぁ、私でいいのかしら。ほかにいい女性がいるんじゃなくって。」

男だけでなく女の声も聞こえてくる。皆、目がうつろで薬で酔っ払っているようだった。糸の断ち切られた操り人形のようだった。彼らのうわごとに共通していたのは、「幸せなんだ・・・。」という言葉だった。

 カザマは肩を叩かれて、振り向いた。背の曲がった老人が垂れ下がった眉を動かしながら、うやうやしく薬のカプセルを差し出してきた。差し出す手はアル中の患者のそれのように震えていた。

「あんたも、これをやりに来たのかい。いい夢が見れるよぉ。気晴らしになるよ。」

「虚しいだろ。」

「この合成麻薬は今飛ぶように売れてるよ。今の時代、気ばらし無しに生きて行ける奴なんていやしないよ。」

 その通りだと思ったが、死んでいるように横たわっている連中の仲間入りをする気にはなれなかった。カザマは、ため息をついてまた闇の中に消えていった。カザマはポケットに手を突っ込んだまま、夜の街をどこへ行くわけでもなくフラフラと歩いた。通りすがる人々の笑い声が聞こえる。その笑い声はただ虚しく聞こえた。

 夜風に吹かれて、落ち葉が円をかきながら吹き流されている。

 誰もいない公園のベンチに腰掛ける。じわじわと石のベンチのひんやりとした感じが伝わってくる。ただぼんやりと、暗闇を見つめていた。暗がりの中にぽつんと光が見えた。教会のイルミネーションだった。コンクリートで建てられた教会に人の姿は無かった。

 カザマは一時の寒さしのぎにと思って教会に入った。教会の中は薄暗く、木製の長椅子が規則的に並んでいた。コツコツと自分の歩く足音が聖堂に響くのが聞こえる。聖堂の中は沈黙と暗闇が支配していた。十字架に張り付けられたキリストの像が天井近くに掲げられライトで照らされている。

最前列の長椅子に座って足を組んで、カザマは十字架のキリストの像を見上げていた。

暗闇の中に、倒れていった戦友たちの顔が浮かんでは消え、消えては浮かんできた。死ぬ間際に「マリア様・・・。主よ・・・。」と言いながら死んでいったものもいた。ロザリオを手にして祈りながら息絶えたものもいた。参加した数人の葬式では、小さな娘を残していているのもいた。

 ライトアップされた十字架の下に『何事でも神の御心に適うことを、わたしたちが願うなら、神は聞きいれてくださる。』と書いてあった。

 その言葉を読んでいると、だんだんと腹の奥からなんとも言えない苛立ちがこみ上げてきた。喉の奥に何かがつかえている様だった。カザマは鼻で笑いポケットに手を突っ込んだまま立ち上がった。そして十字架に背を向け、振り返ることなく教会の外に出た。



 外は前より寒く、暗く、雪が降り始めた。彼は教会にもう一度入る気にならなかった。雪は雨になり、闇は深くなるばかりだった。カザマはアフガンで別れた友人のセンドウが懐かしくなった。


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