見知らぬお城でマイライフ
第5話
「しっかし、すげーなぁここ。」
俺は口をポカーンと開けながら広々と続く廊下をアリエスと横並びで歩く。
左側の壁には、いくつもの絵画がずっと飾られており、右側の窓には高そうな花やカーテンなどが施されている。
廊下一面は白が基調として、薄い黄色のカーペットが凄く際立つ。
俺は、こんな豪華で優雅な建物には入ったことがなくて、廊下のどの部分を歩こうか迷った。
途中、階段を降りたり右折したりしてようやく目的地に着いた。
「この部屋に入ってください。」
アリエスがそう告げて、俺を部屋に入る様合図した。
「あぁ、分かった。」
そう言って、高級そうなドアをゆっくりと開ける。
「お、お邪魔しまぁす。」
恐る恐る開けると、そこには3人の知らない人物がテーブルを囲んでいた。
長方形で大きな机。ドアを開けた右手側の3つの席に既に、とある3人が立って居た。
「おかえりなさいませ、ご主人様。」
(ん?何かセリフと声がおかしいぞ?)
俺が何故戸惑ったのか…
部屋には3人居て、その1番奥には小柄で茶髪のポニーテールの女の子がいる。真ん中にもこれまた小柄で赤っぽいツインテールの少女がいる。
しかし、この2人が今『ご主人様』とは言っていない…と思う。
1番手前に立つ長身のすらっとした体型のジジイが居る。ちょび髭を生やし、髪の毛は銀髪だ。
(俺は多分、今このジジイに『おかえりなさいませ、ご主人様』と言われたことに、ようやく理解が追いついた。)
ジジイにご主人様って言われた…
「こういうのはメイド服を着たロリ少女が、迎えるときに言う言葉だよね!特に君!」
ドアを開けた後、後ろからひょっこり現れたメイド服の少女…アリエスの事だ。
「気持ち悪いことを言わないでください。それより、この3人はこのお城の中の執事と使用人ですよ。仲良くしてあげてください。」
「えぇえええ」
驚きと感嘆と…様々な感情が入り混じった声が漏れた。
「アリエス様、今日もまた随分と可愛らしい。舐めてしまいたいくらいですなぁ。」
「ダル爺、クビにしていいですか?」
「あぁそれだけはご勘弁を。アリエス様を拝めなくなってしまいます。」
(このクソジジイ…さてはエロジジイだな?)
「失敬失敬!ご主人様にお見苦しいところを見せてしまい申し訳有りませんね。」
「あ、うん、いえ…」
俺は突然の爺さんからのフリに口ごもってしまった。
「申し遅れましたね。私はダールと申します。アリエス様からはダル爺と呼ばれております。よろしくお願いしますね、ご主人様。」
笑顔で『ご主人様』と言って返してくる。
「よ、よろしくお願いします。ってか…ご主人様って呼び方…しっくりこないんで、アツキって呼んでもらっていいですか?」
いろんな意味でしっくりこないので、訂正してもらうことにする。
「これはこれは、失礼しました。ではアツキ様…よろしくお願いします。」
そう言ったのを確認して、ようやく開けっぱなしのドアを閉めて1番手前の椅子まで移動した。
「ウチはハマルだ!厚着君、よろしくな!」
ダル爺に続いて、1番左のポニテの少女が元気よく自己紹介してくれた。
「あのー…厚着ではないんですけど…」
初めて、とんでもない名前の間違われ様に少し涙目になりながら返す。
「あ!すまんすまん!アツイ…?アツシ…?だっけ?」
「アツキですぅ。」
「あ!そうそうアツキくん!よろしくね!」
(テヘペロ)と言わんばかりに表情が満面の笑みだ。
(俺の名前はどんな間違われ様何だよ…)
「アツキ様…私はメザルティムと申します。皆様からはメザルと呼ばれております。何卒よろしくお願いします。」
(何という純情清楚!薄い青色のツインテールの髪…そして何という謙虚な心!エロ爺とハマルちゃんとは全然違う!)
「あ、うん、よろしくね。」
そう言って全員席に着いた。
「で、何をしにここに来たの?」
「今日から、あなたを星霊祭までに強化の手伝いをしてくれる人たちですよ。」
「え?俺…ここで生活するだけじゃないの?」
旅行感覚で来た何気ない異世界旅行は
ここで早くも打ち切りを余儀なくされた。
「何を言っているのですか?この3人はお城での仕事も、能力も凄く高いのですよ。覚悟していてください。」
「…まじかよ…ついてねぇなあ」
「おほほほ、アツキ様…私が手取り足取り教えて差し上げますので、ご安心を。」
ニンマリとダル爺が答える。
「語弊を生む様なことは言わないで。」
必死に俺は返答した。
「よし!そうと決まったらウチが相手してやるよ!庭に集合だぁ!」
「血の気の多い少女め。」
急にハマルが立ち上がって、俺の制服のカッターシャツの襟足をぐいぐいと引っ張る。
(オエッ…しぬ…死んじゃう…)
そしてようやく自己紹介タイムは終了した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「よし!準備はいいかぁ?」
青い空!
白い雲!
緑の芝生が覆い尽くす庭!
血の気の多い少女!
(なんでなん?)
思わず関西弁でため息がでる。
「それより、ハマルちゃん!そんなタキシード姿で大丈夫なの?君だったら、ジャージに短パンが似合うと思うんだけど!」
「うっせー、来ないんならこっちからいくぜ?」
「うわぁ、待った待った!!」
刹那…
俺は青い空だけが視界に入っていた。
(ぐはっ)
左頬と背中に激痛が走る。
「痛ってぇ」
「何だよ、男なのに情けねぇなぁ。」
嘘だろ?
何が起きたのか全く分からなかった。
先ほどアリエスから付加価値をかけてもらった筈だ。
遅く見えるんじゃないのか?
「何をしてるのよ。早く立ちなさい。」
芝生に大の字で横たわる俺の真横にアリエスが寄ってきた。
「あの…水色なんですね。」
「何がですか?」
「パンツ。」
「ヒヤッ」
とっさにメイド服のスカート部分を両手で抑え込む。
とんでもなくかわいい。
「ふざけないでください!」
と横腹を蹴飛ばされた。
「ハマルが速すぎるからですよ。前は人間が相手だったので、遅く見えたかもしれませんが、相手も追加価値は使えます。」
「そう…だったのか…」
そう納得して、痛々しくも体を起こす。
ハマルの方を見てみると、右手が凄いことになっていた。
金の甲冑?だろうか。金色に輝く鉄のような鎧が右の拳で眩く光っていた。
その右腕は黄色いオーラの様な…メラメラとしたものが腕を纏っている。
「う、嘘だろ?何だよアレぇぇえ」
俺の驚きの咆哮が青空に響き渡った。