決勝戦
アリエスの時間移動により、俺は記憶に残るはずもなくただ黙々と神崎の殴打に応戦する。そこに突如現れるアリエスの影。
その影は、神崎の左からの蹴りを躱し、黒く大きなハンマーのような鈍器でブチ抜いた。
激しく吹き飛ばされた神崎は、勢い余って壁に激突する。
(あとから聞いた話だが、既に神崎にやられた分身に、後から時間移動して攻撃を躱し、殴れたと言っていた。)
アリエスの分身が受け持つことになったタウロスは、地面にワープホールを作り出し、そこに右腕を突っ込む。
突っ込まれた右腕は何処にあるのか分からない。
「下だぁ!!」
俺の怒号は場内全域に響き渡る。
俺が気づいたのは、アリエスの左足元。グルグルとワープホールが出現したかと思えば、タウロスの右腕が出現し、アリエスをワープホールへと誘う。
考える暇もなく、俺は地面に右腕を突っ込む巨体…タウロスへと猛ダッシュしていた。
「ぐはっ…」
突如死角から鈍い音と共に右脇腹に激痛が走る。
「目ぇ離してんじゃねぇぞ、コラ!」
声の主は神崎である。アリエスの一発を受けて尚、鎧には傷が見当たらない。
「クソッ、邪魔すんじゃねぇ!!」
そう吐き捨てて、俺は20体ほどの分身を生成する。
「まぁたその能力かよ。見飽きたぜ。」
そう神崎は言って、自前の斧を生成する。
銀色の光沢に、重そうな重厚感のある先端部分、さらには神崎はそれを軽々と振り回す。
一振り一振りが風を巻き起こし、砂埃が立ち込める。「行くぜぇ!!」
という神崎の掛け声と共に、神崎を囲むようにして生成した分身に対して一振りで消し飛ばす。分身を消すには、即死クラスでないと倒せない。それをこの一振りでやってのけたのだ。
「甘いよ、神崎。」自分にしか聞こえない程度の小声。俺は、分身に移動した。
しかも、空中に生成しておいた分身に。
神崎が攻撃を開始した直後に、生成した空中の分身に入れ替わっていた。
見る見るうちに急降下。
右手に力をかき集める。
神崎が斧を振り切った直後…
俺は右手の拳に集めたピンチパンチを抉り抜く。右の拳にはバキバキとした感触が残り、激しく地面に叩きつけられた後の光景を見ると意外なものだった。
ピンチパンチによる衝撃波と
空中からの位置エネルギー
極め付けは、アリエスが鈍器で打ち抜いた時に投与した#負荷価値__チャージメント__#の相乗効果により、神崎の纏っていた黒い鎧は
早くも粉々に粉砕されていた。
一方、アリエスサイド
引きずり込まれたアリエスは、長い暗黒空間のような黒い空間を引っ張られると直ぐに、地上へと引き出された。
タウロスは約5メートル程の体格に対して、アリエスは150センチ程度のいたいけな少女である。そんなアリエスが足を取られ、宙吊り状態でぶら下げられる状態となった。
到底メイド服なので、スカートは重力方向へと捲れ上がる。なんとかアリエスは恥じらいながら、両手で見えないように抑え…
予想通りといえば予想通りなのだろう。
宙吊りにされたアリエスは、タウロスの残りの左腕による殴打を受ける。
圧倒的で一方的。
5メートルの巨人が中学生か小学生か判断できないくらいのか弱い少女を蹂躙する。
見ている観客もそれに耐え切れず目をそらしてしまうほどであった。
「ホンットに学習能力が無いんですね。」
声の聞こえる方向はタウロスの頭の遥か上。
白い髪のショートボブを風で揺らしながら勇ましく降下する。
慌ててタウロスが分身と化したアリエスを右手から離し本体の居る空中へと攻撃対象を移し、狙いを定める。
「ホームラン頂きます!!」
空中に居たアリエスは突如として消滅。
いつの間にか既出したタウロスの足元に居るアリエスは、大きく鈍器を振りかぶって、タウロスのどデカイ股間めがけて振り抜いた。
(下ネタじゃねぇかよ!!)なんて突っ込めるわけもなく、タウロスはその巨体を支えきれず地面に大きな地響きを残して失神する。
ニコッと笑顔を見せたアリエスのその笑顔は、男にとって終焉を意味するものであった。
「な…なんで…お前ら…」
圧倒的力を見せつけていた過去の神崎とタウロス。その力の前になす術のなかった俺たち。
しかし、これまでの努力や経験、そしてアリエスと俺との絆がここまでの力を生み出した。
「さっきの言葉、俺がそっくりそのまま返してやるよ。」
膝をついて小さくなった神崎の背中に俺は言う。
「お前こそ、よくもまぁそんな能力でここまでこれたもんだよ。」
分身に翻弄される両者は既に敗北の二文字が目に見えていた。
「クソッ…クソッ…クソッ…クソックソッ…俺がテメェらなんかに負けるわけねぇ!!俺が…俺が俺が勝つんだよ!!」
目が充血し赤く染まる瞳。
周囲に散らばった鎧が震え始める。
どこかに消え去った黒くて禍々しいオーラがまた炎の様にメラメラと天に昇る。
異様で異質なものを見ている様だ。
自尊心の塊だった神崎は、憎悪の塊と勝利への執着心のみを目標とする化け物と化す。
壊れた鎧は、グネグネと身体に縛り付き、中身の神崎を閉じ込めるかの様だ。
顔の半分を覆っていた骨は、骨の形を変えて頭に食い込む。半分しかない骸骨の骨は、心なしか不気味な笑顔を見せている様だ。
思わず俺たちは2歩3歩と後ずさりする。
この世で全く見たことも無い生物の様だ。
刹那
瞬きすらも許されない、時間というには些かの疑問の残る様な…そんな時間とも呼べないほどの時間
変貌した神崎は俺をめがけて斧を振り抜いた。




