ついに俺は人間界を突破する
第4話
「ちょっと待って?」
俺は聞き逃したかもしれない情報を
細かく聞き逃さないためにも、聞き返した。
「何を待つのですか?」
アリエスが首を傾げる。
「いや、そういうことじゃなくてだな…アリエスたんが今言ったこと…もう一度言ってもらえる?」
「だから、私どもの城で暮らして…そこで生活してもらおうと言いましたけど。」
(えぇぇぇええええ!!)
「うそん…学校は?家族は?古川さんは?」
驚き過ぎた。そして縋り付くように言い返す。
「その辺は心配ありません。」
(えっへん、任せなさい)と言わんばかりに小さな胸を張る。
「私の能力で、アツキをもう1人作り出します。そのもう1人にここで生活してもらうのです。」
と、自信満々に豪語した。
「なるほど!それはいい考えだ!…なんてならねえよ!」
ノリツッコミを加える。
「え、何故ですか。いい考えではありませんか?」
「俺はこの人間界に居たいの!皆んなとも会えなくなるし、家族とも離れ離れになる。」
苦しい言い訳をする。
「あなたには友達がいるようには見えませんが?」
(グサッ)
「ホームシック&家族が友達ですか?」
(グサッ)
俺の心に2本くらい矢が刺さった。
図星すぎて何も言い返せず涙目になりながらベッドに横たわる。
「決まりですね。私が論破しました。」
ドヤ顔をこちらに向けてくる。
「ぐぬぬ…」
「わ、私の真似をしないでください!」
(何も言えねえ)
俺は高校2年生にして、ついにアリエスという謎の少女に誘拐されるのであった。
「では、もう準備とか大丈夫ですか?」
「服とか…生活用品は?」
「向こうで全て計らうので大丈夫ですよ。」
「じゃあ携帯と財布と…後は…」
「そんなもの、必要ありません。」
「えー、携帯ゲームとか動画とか見れないじゃん。あとコンビニとかでお菓子買いたいじゃん。」
「遊びに行くのではありませんよ。あと電波は飛んでいないので。それと、コンビニなどという食料調達庫などありません。」
「………何もできねぇ。あと食料調達庫って何だよ…」
小声で聞こえないように話した。
「じゃあゲートを開くので少し離れていてください。あともう1人のアツキも隅の方に寄せておいてください。」
「おい、人形扱いすんじゃねえよ。これからは人間界ではコイツが俺なんだぞ。」
そう言って、ちゃぶ台に正座する俺をタンスのある隅の方に寄せた。
(コイツ…動くんだろうな?)
そんな疑心を抱きながら、目線をアリエスに移した。
すると、アリエスは右手の人差し指で空間に文字とマークを書き始めた。
黄色く光るその文字は、俺が先程胸に当てられた光と同じような感じがした。
「ではアツキ…私の後ろに立ってください。」
右手を目の前の空間に当てながら、顔だけこちらに向ける。
「あ、あぁ。分かった。それで、アイツはちゃんと動くのか?目を開いたまま瞬きせずに、タンスに凭れてんだけど?」
「大丈夫です。5分後にオート機能で動くように設定してあります。」
(機械みたいだね!)
潔くツッコんだ。
そして空間に書かれた文字が
どんどん輝きを増してくる。
「星界の扉 此処に顕現せよ(開けゴマ)」
アリエスの力強い言葉とともに
より強い光が2人を包んだ。
そしてアリエスは光の中に現れた扉をスライドさせる。
「ん?何、そのセリフ。どっかで聞いたことあるんだけど?しかも扉って言ってんのにスライドドア式じゃねえか!!」
そんなツッコミと共に、体が吸い寄せられ引き込まれていった。
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時は少し遡る。
亜月が学校帰りにマルデナルドに寄るところまで戻る。
「神崎さーん、そろそろ帰りましょうよ。学校も閉まっちゃいますよ?」
神崎一…亜月のクラスメイト。
金髪で長身だが、ガタイも結構良いヤンキー。
「お前ら先に帰ってろ。」
神崎は下っ端の奴らを先に帰らせた。
「クッソ…禍々見のヤツ…マジでムカつく。ぶっ殺してやりてえ。」
そう言って神崎は、亜月の椅子や机に落書きしていた。
既にやる事が中学生のようだが、それでも気持ちだけは強かった。
(あーあ、マジで何でも支配できる力があったらいいのにな。俺の周りの奴ら、皆んな俺の奴隷にしてやりてぇ。)
そう思いながら1人、夕焼けで赤く染まった教室に仰向けで倒れこんだ。
気の強い性格で、負けず嫌い。
プライドと自尊心の塊。
そんな性格が彼の心を覆い尽くしていた。
突如
神崎が見上げていた教室の天井に黒い渦のような物が発生した。
「うっわ…え?なんだ…何なんだ?あれ。」
神崎は飛び起きて教室の後ろのドアの方まで見を引く。
渦は次第に黒く濃くなる。
「おい、何なんだよ!ックソ、ドアが開かねえ。何でだ!」
その場から逃げようとした神崎を止めるかのようにドアが開かなかった。
そして、黒い渦から白を主体として、途轍もなく大きな黒のマダラ模様の手だけが出てきた。
「貴様…貴様は力が欲しいか?」
野太く、そして黒い声が教室に響く。
「なんだ?お前!ふざけんな、ここ開けろ。」
必死にドアを開けようとする…が開かない。
「貴様は支配したいと願った。我はその願い…叶えてやらんことも無いぞ?」
「え?どういうことだ?」
「ここでは話は出来まい。此方へ来い。貴様に力を与えてやる。」
神崎は、それまでビビったような逃げ腰だった。しかし、力を与える…と言うワードから一変して強気になった。
「おめぇ、俺の『願い』を叶えてくれるのか?」
「あぁ、その為の力を与えてやる。だからこっちへ来い。」
そう、黒い声が言い放った後
神崎は黒い渦から生えている右腕に捕まれ
その場から…消えた。
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話はアツキに戻る。
「うぉ!なんだここ!!」
俺は気づくと見知らぬ天井に見知らぬ部屋の光景があった。
洋風な感じで、なんとも第一印象では『王子の寝起き』の様だ。
ワインレッドに金色の模様をデザインしたカーテンが窓に束ねてあり、白の薄いカーテンからは光が差し込んでいる。
左手にあるタンスや、その先のドアも…日本とは一風変わったデザインだ。
「まじかよ。まじで異世界転生しちまったのか?俺は。」
そう騒いでいると
ドアから2回コンコン…というノックがあった。
「あ、はーい。」
俺はこの部屋への客人らしき人を招いた。
「あら、やっと目が覚めたのね。変態。」
クールに毒舌を吐いてきたのはアリエスだった。
「お、お前か。んで、ここはどこだ?」
「お前とは何ですか。ちゃんと私にはアリエスと言う名前があってですね、、、」
「分かった。分かったから。それでアリエスたん、俺にもわかる様にこの状況説明してよ。」
「先程私がゲートを通ってきたじゃ無いですか。ここが星霊界ですよ。それでもってここが私のお城です。」
これまたクールなドヤ顔で胸を張っていた。
「あ、そうか!そういえばそうだったな!」
「アツキはゲートをくぐってから、丸一日寝てましたよ。」
「まじかよ、そんなに寝てたの?ってか今思い出したけど、門を開くときかっこいい呪文とか言うと思ったら『開けゴマ!』って何だよ!あとスライドドア式の門ってのはな!門とは言わねぇよ。」
「あなたは、本当に寝起きでもうるさいんですね。少しは静かにしていられないのですか?」
(さっきから言われすぎて、メンタルがズタボロになっているんだけど。)
「いろいろ話したいことがあるので、ついてきて下さい。」
そうして2人は部屋を後にした。