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願いの契約

第3話



俺は、ひとまずこの少女と一緒にマイホームまで帰ってきた。

(どうしよう。親にどうやっても説明がつけられない。)


小学生くらいの少女を21時ごろに、高校生が部屋に連れ込む事態…


これは完全に変態だ。


親には絶対言い訳はできない。


「アリエスたん…ちなみにここが俺の家なんだけど、君を連れ込むことに対して親に言い訳ができないんだ。どうする?」

猫の手も借りる思いで尋ねる。


「たん付けしないでください変態。」


『変態』という用語を家族から言われると思っていたが、まさかここで言われるとは思わなかった。


「あのね?俺の名前は亜月…言ったよね?」


「聞きましたよ、しっかり。でも変態は変態です。変態さん。」


(今日は不運の塊だ。)


そう思いつつ、俺は恐る恐る玄関を開けた。

自分の家なのに…泥棒が空き巣を狙うように…少女をついに家の中に連れ込んだ。


「亜月ー?帰ったのー?」

母だ。リビングからドア越しに聞こえる。


(び、びっくりさせんなよ!)

「あ、うん帰りました。」


敬語を使ってしまった。

怪しんでるだろうか。

ヒヤヒヤする。


「ご飯もお風呂も今日は大丈夫だから。」

もう必死に繕った。

ご飯とかはマルデナルドで食べたし

風呂は今日くらいは我慢だ。


それより今日、どう家族と会わないかに専念しなければならない。


足早に玄関を入って左側にある2階への階段を2人で駆け上がった。


(第一関門突破だ。)


そして次に階段を上りきった後、2階に誰もいないか確認する。


俺は不審者になりきった。


(2階には誰もいない)


「よし、アリエスたんダッシュだ!」

小声で後ろを振り向きながら言う。


「あれ?」


さっきまで後ろにいたはずのアリエスが居ない。


背筋が凍った。


(やばいやばいやばいやばいやばい)

そう思って階段を駆け下りる。


1階に1秒くらいで到着すると、リビングに入るドアを開けようとするアリエスが見えた。


(それはダメだってぇぇ)

嘆きの声を頭の中で叫びながら間一髪でアリエスがドアを開けるのを引き止めた。


「ねぇ、俺が必死なの分からない?」

冷や汗ダラダラ

息も少し荒い。


「離してください、変態。手が当たってるんです!」


「あっ…ごめっ」

俺はアリエスの発展途上の胸を大胆にも鷲掴んでいた。慌てて離して両手を挙げる。


アリエスは頬っぺたを赤らめていた。


すごくかわいい

(いやいやいや、そうじゃなくて…)


「早く俺の部屋に行くから、付いて来い!」


そう言って

そうして


ようやく俺たちは、マイホームの中でもマイルームに帰還することができた。


「もー何してんだよ。俺の必死さ伝わらなかった?」


「アツキの母親らしき人が居たと感じたので、契約したことを伝えようと…」


「ぜっんぜん伝えなくてもいい情報だね!むしろ契約とか言ったら、語弊を生むから!ダメ、ゼッタイ。」


非常に危なっかしかった。

もうヘトヘトだ。


分からないことだらけだし

走って疲れたし

少女を連れ込んでるし


(ついてねぇなあ)


俺はそう思いつつベットに倒れこんだ。

アリエスは真ん中のちゃぶ台にひょこっと正座した。

(星座だけにか?あはは)


つまらないことを考えてしまったが

誰にも聞こえてないようなので

俺の中で揉み消した。


「ねぇアリエスたん?」


「……なんですか?」


「中二病?」


「失敬な!!私は牡牛座の、黄道十二宮の1人アリエスです!」


顔を赤らめて、必死に言い返してくるところが途轍(とてつ)もなく可愛かった。


「お、おぅ。そうなんだ。じゃあさ、その証拠とか見せてよ。免許証見たいなやつ!」


「免許証なんてありません。ですが色々能力が使えますよ。」


「え?なになに?」


すると、正座しているアリエスの左側にモコモコと白い物体が現れどんどん大きくなる。


「うわぁぁぁあ」


俺が驚いているうちに、そのモコモコはアリエスと瓜二つ…というより全く同じ姿として出現した。


「え?何これ?マジック?」

現実を受け入れられず、どうにか有りそうなネタを出してきた。


「マジックではありません!能力です!」


(マジかよ。アニメとかでよくあるやつ?異世界からやってきました的なノリで能力バンバン使うやつ。)


「私の能力は『フリース・オーダー』というものです。様々な物体や生き物を作り出すことができます。あと自分自身を作ればその中を移動したりできます。」


「ん?」

またもやアホヅラになってしまった。


挙げ句の果て俺が発した言葉は…


「そんなバナナ!」


「今時はそんなギャグみたいなものが流行っているのですか?それともあなたがとっさに考えたギャグですか?もし後者なら芸人はやめたほうがいいですよ。」


「酷い言われようだな!あとこれは俺が考えたわけじゃねえし、芸人にもなりたいと思ってねぇよ!」


物の原理とか法則とか…今までそういうことで説明がつけられできたこの世界。


それが、目の前で覆されてしまった。

原理とか法則とか超越した能力を、アリエスは持っていた。


「まさか…本当の…本物なのか?」

目を丸くして身を乗り出す。


「だから、先程からそうだと言ってるじゃないですか!ちなみに蛇模様のような模様をつけたのも私ですよ。」


「あぁ、なんかーえりちゃんだの、なんだの言ってたな。」


「えりちゃんではありません!追加価値(エンチャント)です!」


「それそれ、びっくりしたよ。急に胸を中心に身体中に、あの赤い蛇みたいな模様が張り巡らされていくんだから。股間の部分とか大変だったんだからね!」


「卑猥です。近寄らないでください。」


「近寄ってませんー。で!あれもアリエスたんの能力なの?」


「はい、この細い白羊毛(はくようもう)と呼ばれるものを、アツキの心臓に送り込み、全身に張り巡らせました。その名の通り、追加価値…つまり、自分の持てるポテンシャルに、大幅なアシストを加えるものです。視力、聴力、体力、筋力、防御力、判断力、etc…これらを大幅にアシストしたということです。猿以下らしいですが、分かりました?」


「ああ、なるほどねー。よく分かったよ。ってか俺は猿以下じゃねぇー」


「なので、体には負担がかかるので、明日には筋肉痛が来るかもしれません。」


俺のツッコミは華麗に(かわ)された。


「それにしても、お前が来て…俺に願いを聞いて…それでもって俺と契約したのはどういう目的なんだ?」


「私も、こんな卑猥で変態な人とは契約したくありませんでした。しかし、あなたには明確な『願い』があって、それに人並み以上に強く…むしろ私が会ってきた中で1番強いものを感じました。だから、仕方がなくあなたと契約したんです。誤解しないでください。」


「誤解も何も…俺を褒めてんのか(けな)してんのか分かんねぇな!」


「私が人間界に来た理由は2つあります。」


(ほら、ままスルーだよ。俺のメンタルも少しずつエグられてるわ)


「1つ目は、『願い』をもつ人間と星霊とがパートナーとして見つけること。もう1つは私の願いを叶える為…です。」

最後は少し寂しそうに答えるのが分かった。


俺は、アリエスの『願い』を聞こうと思ったが、寂しそうに話したことで、触れないほうが良いと思った。


「わざわざ人間とパートナーになる必要なんてあるの?」

少々質問攻め過ぎると思ったが、分からないことだらけなのでどんどん聞く。


「星霊は、人間が創り出した架空で想像的で創造的なものです。人間が『そこにある』と創造していなければ成り立たない存在。それ故人間の力が必要…という訳です。人間と契約していなければ能力は弱いですし、むしろほとんど使えません。」


「そうなんだ、でも願いを叶えるって言ってたけど、そんなウマイ話…ないでしょ?」


「いいえ、2ヶ月後?くらいに星霊祭があります。そこでは、何でも願いを叶えてくれる…それはそれは不思議な『果実』…が優勝者に与えられます。私たち星霊と人間は、その果実を求めて戦い、『願い』をかけて戦います。」


「2ヶ月後…か。しかも願いを叶えられる果実…」

俺は下を向いて自分の両の手のひらを見つめる。


俺は長年不運と戦ってきた

物心がついたときから不運と向き合ってきた

あらゆる人の不運を総なめにした俺…


そんな不運とおさらばできるかもしれない格好のチャンス。


「俺は!幸せになりたい!幸せになって、幸せを味わいたい。」


俺は思わず立ち上がってアリエスに向かって叫んでいた。


「あなたには強い想いがあります。一緒に『願いを叶える果実』を手にしましょう。」


初めてアリエスがワクワクした顔になった。

クールで滅多に表情を変えず、毒舌非道な口調だが、違う一面を見て俺はまた一段階惹かれた。


「んで、それはそうとして。これからどーするの?」


「これからは私どもの城で暮らしてもらおうと考えてます。」






「ん?」




こうして俺とアリエスの『願い』を叶えるための物語が幕を開けた。











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