その3
遅くなりすみませんでした
悪魔は街を歩いていた。
あの後から歩いているため、大体三刻以上も宿を探していることになる。とりあえず、周囲を虱潰しに歩いているのだが迷子になった。自分が歩いているとが、北なのか、東なのか分からないのだ。もしかしたらくるくると回っているのかもしれない
道を聞いた男がたちの悪い奴だったみたいだ
人気が無くなったところで襲われたが退治した
しかし、道をもう一度聞くのを忘れてしまい好きに進んでいたのだが本格的に暗くなってきてしまい、困っている。
「はぁ、宿がない~ まだ疲れてないけど、逃げやすい宿じゃなくてゆっくりできる宿に泊まってみたいのに……… また、野宿になりそうだなぁ」
人に追われることが常だったので、入ってみたかったが逃げにくいという理由で泊まれなかった宿をさがしているのだが、見つからない
あの宿は、泊まらないのが惜しいほど僕の好みに合ったものだった
潰れてしまったのだろうか?
そんなはずは無い、ただの方向音痴だからだろう
自分でも自覚できるほどひどいのだ。しかし、この方向音痴のおかげで命が助かった事もあるので何とも言えないのだが………
まぁ、昔の話は置いておくとして、取りあえずおなかが空いた
さっき襲ってきた男[道を聞いたのとは別の]は結構お金を持っていたから、お金だけは無駄にある
しかし、お金はそのままでは食べられない………
「もう、いっそのこと外に出てみようかな~ いや~ でもな……… 」
この街は、出てしまったらきっと見つからないだろう。なぜか家だけはどこに行っても場所が分かるのだが、街や店などは全く分からなくなるのだ
現在は家もないので全く分からないのだが……… これで困ったことは無い
飽きっぽいのか、諦めが早いのか、一度踏ん切りがつけば気が済むのである
もちろん見つかることもあるが、大概が諦めた後なため余り意味が無いのだが
「うー もういいや~ とりあえず、食べ物を採りに外に出よ~とっ」
一言で言うと面倒臭くなったのだ。そもそも気が短くないので、諦めが早かった
ここで見つからなかったということは、縁がなかったのだろう
すぐに関心は食べ物に移った。今日まで、本当に家からの追手がいなくなったのか確かめたかったため、食事をあまり取れなかったのだ
ああ、今日は美味しいものが穫れるかと、雲一つ無い空を見上げた
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天使は夢を見ていた
その夢は、夢のようでもあり、誰かの記憶を覗いているような奇妙なものだった
その中で『彼女』は天使ではなかった。いや、この世界には在るはずの魔法が無く『何か』で動いている物を使っていた
母親と思われる人には見向きもせずに四角い物を操っている
しかし、この家には温かな空気が漂っていた それが当たり前になっているのだろう。
彼女の前に座った男性は少し眉を寄せたが、諦めたようなため息をついたきり紙を広げ読みはじめた。そして、軽く雑談をする。母親が色々と話しているだけだったが、二人とも確かに耳を傾けているのはわかった。その証拠に返事を時折かえす。
その空間は温かで天使は知らない。ただ家族とはこういうモノだと温かな気持ちが広がった
そして、天使はここにきて始めて悟った
この見えている風景はこの魂が経験したものであると
だから、天使は『下等天使』でありながら自我を持ち、この頭に響く命令に疑問を感じて刃向かえるのだと
魂が叫んだのだ。『そうじゃない』と。生きる目的を誤るなと
目を開けた天使、いや、紅陽 朱香は道を決めた
ただ諾々と運命に従うのではなく、自分の道を歩いていくと………
天使が決意を固めたその側で、気配を感じないモノが覗いていた。そのモノは、天使の決定に喜色を現し、その場を離れる
天使が背くのは神の命である。その事がどんな変化をもたらすのかそのモノは知っていた
この噂が流れ、暗闇の奥にいるモノの耳に入った時に始まる『狂乱の宴』。それは、この魔界をかき混ぜ、今までよりも楽しい事が始まる事を顕していた………
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暗闇と称すにふさわしいモノが拘束されてうごめいていた
『ああ、憎い。この世界その物が憎い。壊したい、跡形もなく無くしてしまいたい。ただそれだけが願うことであり、命すらかけられるものである… アアアアアー 』
人の形をした何かが、呻く。声ではなく音で暗い部屋に響かせる
ただ人ならば、気を狂わせたであろうほどの憎悪の塊
暗い部屋をより闇に染める
しかし、側でただ立っている男はその何かをつまらなそうに見ていた
黄金を延ばしたように煌めく長い髪、瞳は凍らせたような碧、服装も立派でまさに金を湯水のように使い作られたのだろうと推測できるほどに上質で細やかな所まで手を抜いていない事が、ありありと分かる物を着こなしている
この男はサトーナと呼ばれる高位の魔族である。自分の快楽を得ることしか考えず、同族殺しを犯し、それでもなお感情のままに動いた男
彼はこんな場所に来る男ではなかった。しかし下界に置いておけば、いつ何時暴れるのか予測がつかなかったのである。彼は殺すことを当たり前の感情として持っている。そのため『無意識の殺鬼』として畏れられた彼は、魔界に落とすしか仕方がなかったのである
もちろん、普通は処刑される。しかし、彼にかなうモノはいなかった為生きるのが難しいとされている魔界に降ろされたのだ
「彼女は、駄目ですね。呑まれてしまった。抑えられなかったのでしょう。彼女は望んで降りたわけではない。おそらく、家族にはめられたのでしょう。しかし実験は失敗……… ああ、楽しい」
彼はつまらなそうに呟くと『彼女』だったモノに火を投げた
あたりには、肉の焼ける匂いが充満している。しかし、男はその生々しさに軽く眉を寄せたきり反応をしなくなった。
おおかた、次の犠牲者のことでも考えているのだろう。彼の中で死は自分が与えるものなのだから………
そろそろ悪魔を魔界に降ろしたいのですが…(^^;)